MIKIKOがこれまでの道のりを赤裸々に語る! 小さい頃はアピールが苦手だった。だからこそ、そんな子たちを輝かせてあげたいと思う気持ちが演出振付師につながったのかも…2023/09/20
各界のトップランナーたちが、“今こそ、共有したいこと”を語り尽くし、若き日の不安や挫折、そこからたどり着いた“ゆるぎない知性”とは何なのかを深掘りする「NHKアカデミア」(NHK Eテレ)のオンライン公開収録が行われ、演出振付家のMIKIKOさんが登壇。Perfumeをはじめとする多くのアーティストの振り付けや羽生結弦さんの東京ドーム公演、リオオリンピック閉会式・引き継ぎ式などの総合演出で知られるMIKIKOさんを講師に迎えた講座の模様は9月20日、27日に放送、ホームページにも動画が公開されます。
唯一無二とされる彼女の表現方法の根幹にあるのは「表面的な格好よさではなく、ムクムクとあふれ出す人間の底力をどう感じてもらうか」ということだそう。そんな“MIKIKO先生”の指導哲学と演出に対する美学を2時間たっぷり聞いた記者が独断と偏見で選んだ、「胸に響き、残ったエピソードトップ5」をMIKIKOさんの言葉をまるっと抜粋し、発表させていただきます。
■第5位「なんといっても、振付師になったきっかけが気になる!」
「振り付け自体を始めたのは19歳と早かったのですが、もともとダンス自体を始めるのは遅くて、高校生になってからでした。中学生の時にバトン部に入っていて、高校生になったら格好いいダンスがやりたいなと思って、ヒップホップダンス、バレエ、モダンバレエというのを同時に始めました。大学生になり、私は広島出身なのですが、広島の数少ないダンススタジオに通い始めました。そこでスタジオの方に『習いながら、教えることをやってみない?』と言われたのが初めのきっかけです。当時はちょうどアクターズスクール出身の安室(奈美恵)ちゃんやSPEEDなどがブームだったのですが、広島のアクターズスクールで先生をしながらダンスを習っている時に、のちのPerfumeが入ってきて出会いました。彼女たちは第1期生で、私も先生1年生という偶然の出会いでした」。
その後、ダンサーでも先生でもなく、振付師の道を進むことに。
「もちろんダンスは好きだし、1日あるすべてのレッスンを全部通うみたいな、めちゃくちゃ鼻息が荒い少女だったんですが、途中から自分自身が踊ることにワクワクするより、人が輝いてる姿を見る方がワクワクするなって気付き始めたんです! 最初は振り付けを作ることが苦手だったんですけど、何もない空間にちょっとしたアイデアを出すだけでガラッと空気が変わって見えるっていう魅力にどんどん取りつかれていきました。25歳の時に広島で“ドレスコード”という舞台を、その時一緒に切磋琢磨(せっさたくま)していた女性のダンサーを集めて一つの舞台を作り上げたんです。その舞台を終えた瞬間に、私はこれが向いている! この方が楽しい!と初めて‟興奮”というものを味わい、ここで自分が表に立つのをきっぱりやめて、演出や振り付けなど人の魅力を引き出す方に転向しようと決めました。私、元を返せば、アピールするのが苦手な子どもだったんです。なので見つけてほしいなって思っている人たちの本当の魅力や心の声を、何かにかぶせたり、隠したりしてなんとか引き出したくて、この仕事を始めたんだと思います」。
そんな必然とも偶然とも言える出来事がMIKIKOさんに訪れ、天職に出合うことになったというわけです。
■第4位「Perfumeの『Dream Fighter』の曲を丁寧に解説!」
「この曲は、夢に向かって進んでいく若者たちにエールを送る応援ソングとして有名な曲です。まず、振り付けするに当たって、歌詞の意味を意訳し、声の波形を体で取り、そのリズムを自分なりに拾っていくのですが、一番最初に考えたのは“この曲はどういう空間であるべきかな?”っていうことでした。このミュージックビデオはすごく暗くて無限空間に見えたと思うんですが、振り付けを作る時もそんなイメージが最初に浮かんだんです。ミュージックビデオの冒頭での『はるかこのさきまで』という歌詞は私的メソッドですが、天井をなくしていくような、この無限空間を体で1回表現しておいて、その次にどこに立って踊っているのかを振り付けで見せていくことにフォーカスしました。『(歌いながら)はるかこのさきまで~』は一番体の伸びるところで、天井を壊すような動きで天井を取っ払ってあげて、無限空間に到達するというイメージを表現しています。『最高を求めて』の1行目の歌詞なんですけど、最高は頂点を指すようにてっぺんを指します。次の『終わりのない旅をする』の歌詞は、さっき作った無限空間にいるので、なんとなく歩くふりをしているのですが、重力が感じられるような、感じられないような、膝のクッションを使った歩きをしています。この時に目線をあえて外す動きにしているのは、その世界が客観視されているイメージで作っているので、『終わりのない旅を~』の時はあえてカメラ目線にしていません。このように、完全に自分の中のルールで作っております(笑)」。
■第3位「振り付けの時に大事にしている“マイルール”」
「初めて曲を聴いた時の印象を忘れないようにしています。まるで空の中で踊っているようだったとか、暗いところで踊っていそうだったという印象を忘れないように振り付けることを、一番のテーマとして持っています。なので、どういう空間にいるのかを最初に考える。また、“未来”っていう歌詞の時に斜めを見ることで、そっちの方角が未来だよと設定することもできるので、目線で語ることはよく使いますね。それと、体を楽器として使う時には、単純な当て振りではなく、直訳するとダサくなるので、ギリギリダサくない紙一重のところを狙っています。なので、ギリギリまですごく分かりやすくするんだけど、自分にしか分からない気持ち、音取りだったり裏テーマがあることに自信を持って、振りを作っていっています! そして、振り付けができた最後の最終確認として、音をミュートにして必ず見ます。その時に、自分が一番最初に思い描いていた世界で踊ってるように見えるかっていうことと、音がしっかり可視化されていること、歌詞の意味が彩りとして見えてくるかっていうことを最終チェックとして、一番大事にしています」。
第2位「演出も手掛けるようになったいきさつ&MIKIKOならではの演出のポイント!」
「19歳の時に、アクターズスクールとダンススタジオに先生と生徒の2役をこなして通っている時に、発表会というものがありました。その発表会の振り付けを年に50曲くらい担当していた日々だったんですけど、発表会なのでセットがあるわけでもなく、とにかく四角い空間だけの中で色付けていかないといけなかったんです。その時にアイデアがふと出てきて、演出っていう部分を気にし始めました。振り付けだけではなく、何もない舞台に演出をプラスアルファすることでその空間が面白くなっていく、ということを実践しながら学んでいった感じでした。最終的に“ドレスコード”という舞台で1本、作品を作ったところから、演出家としての人生が始まりました」。
また、演出する際に意識していることについても明かします。
「演出する空間の広さによるんですけれども、一番気にしてるのはお客さんの目線の誘導をはっきり作ってあげること。お客さまが演者にどう集中してもらい、いかに違和感を抱かせないようにするかを意識しています。それは、あえて言うなら、間の取り方だったり、『この時間何の時間?』みたいなことを絶対に思わせないように。あるいは、余韻に浸りたいところはキャッチして浸れるような間を作るなど、そういうお客さんの体感としてどういうふうに感じてもらえるかを一番大事にしています。Perfumeの東京ドーム公演の広い空間での演出でいうと、一番は目線の誘導ですね。広い空間で、観客自体もセットの一部になってくるので、そういった時にPerfume3人しかいないことを感じさせないこと。逆に3人だけだったの?と感じさせることが大事だと思っています。物足りないことを絶対に思わせちゃ駄目っていうのと、3人だけでこの空間を支配していたんだって『ハッ』とさせる瞬間を作りたいなっていう。『ぐっ』と集中していたお客さんの目線が『わっ』て急に開けた瞬間に、3万人のお客さんがいたんだっていう気付きがあったりすることでその感動が生まれたりするので、その辺りは空間が広ければ広いほど考えながら演出しています!」。
第1位「オンライン観覧していた現役女子高生からの直球の質問――『私も高校生からダンスを始めました。MIKIKOさんの高校生活の努力を教えてください!』」
「初めは、高校生から踊りを始めるなんて無謀なことかもと思っていました。大概、バレエや舞踊のジャンルなどで言うと、子どもの時から始めて体を改造しながらやらないと無理な世界なので。でもその時から始めたからこそ、できることがあるだろうと信じて、できる限りのことをしました。高校の授業を受けて、放課後、ダンススタジオの夕方からのレッスンを3本取って、苦手なジャンルだろうとなんだろうと全部受けて、それを1週間全く休みなく毎日やっていました。それでも私はめちゃくちゃ体も硬いし、ダンスに向いている性格でもないなって思うこともあって。そんな中、毎日少しづつ体が変わるんです。それがうれしくって、努力をすれば変わるんだっていうことを知れて、そこからダンスだけじゃないことも頑張れるようになったんです。まさしく、そこが世界が変わった時です!」。
質問者の女子高校生は「ダンスを通して世界が変わったのは私も一緒だったので、そこに共通点があるのがすごくうれしいです。私も体が硬かったり、始めるのが遅かったりも心配だったので、まだまだできることがある!ってことを知れたので、すごいいい時間でした。これからも頑張ります!」と勇気をもらったようで、MIKIKOさんも「頑張って! 一緒に頑張りましょう!」とエールを送りました。
以上が筆者が心に残ったベスト5でしたが、魂あふれる“MIKIKOイズム”は伝わりましたか? ウイークポイントを逆手に取って原動力にし、夢へとつなげていったMIKIKOさんのエールが皆さまに伝わっていることと思います。最後にMIKIKOさんの皆さまへのメッセージで締めさせていただきます。
「いろいろなところに答えや情報があふれ、自分の感受性を鈍くするような出来事がいっぱい転がっている苦しい時代だからこそ、この番組を見ている皆さんには、感覚を目いっぱい研ぎ澄まし、自分にしかない表現や感情は何だろうと考えてほしいです。この番組が自分らしい生き方のヒントになるとうれしいです。私もすみずみまで体を使って、精いっぱい生きていきたいと思っているので、これからもぜひ生み出す表現を見届けてもらえるとありがたいです」。
【番組情報】
「NHKアカデミア」
NHK Eテレ
9月20日(前編)、9月27日(後編)
午後10:00~10:30
NHK担当 平野純子
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