最終回まで残りわずか、「らんまん」脚本・長田育恵に今後の展開を聞く!2023/09/15
NHK総合ほかで放送中の連続テレビ小説「らんまん」。本作は植物学者・牧野富太郎をモデルに、神木隆之介さん演じる槙野万太郎が、幕末から明治、大正、昭和と四つの激動の時代を植物学者としていちずに突き進んでいく、波瀾(はらん)万丈の人生を描いた物語です。
万太郎(神木)は自身の植物学を貫くために大学を辞職。時代は変わり関東大震災が起こり、東京の下町は焼け尽くされ、十徳長屋も被害を受けてしまう。万太郎たちは間一髪で持ち出した標本とともに寿恵子(浜辺美波)の店に避難する。すべての標本を救えず落ち込む万太郎だったが、焼き荒れた道端で見かけた「ムラサキカタバミ」に勇気づけられる。そして寿恵子もまた、大きな決断をする。
放送が佳境に入る中で行われた取材会で、脚本・長田育恵さんに最終回の展開や作品についてお話を伺いました。
まず初めに「チームの皆さんの思いを裏切らないものを紡ぐことができたと思っていますし、それを無事やり遂げられて自分自身が一番ホッとしています」と台本を書き上げ安堵(あんど)した様子を見せた長田さん。物語を振り返り「全部の話が好きで、どの人物にも愛着があって、俳優の方々にも愛情を注いでいただいていると感じています」と感謝しながら、「中でも演じていただいてうれしかったエピソードは、第30回で神木さんがアドリブで『ズギャン!』と言っていただいたシーンがとてもチャーミングで、それを受けて(竹雄を演じる)志尊淳さんも第86回で『ズギャン!』と言ってくださっていました。ここでときめきが起こったんだという私の思いをくみ取って、工夫を凝らしていただいたのはうれしかったです。ほかにも、第48回で寿恵子がダンスレッスンで筋トレを始めるシーンで、浜辺さんがアドリブで『寿恵子、トライ!』って言ってくださったんです。最終話まで寿恵子はトライの連続で、寿恵子自身のテーマにもなっています。それを浜辺さん自ら言ってくださって感動しました」と出演者が役に向き合う姿勢に感銘を受けたと言います。
そんな物語では「名前を呼ぶこと」を重要視していたそうで、「植物に対する名付けもそうですけど、竹雄と、結婚前夜の万太郎が主従関係を解消する時の2人で名前を呼び合うシーンや、(要潤演じる)田邊(彰久)さんの登場時に、万太郎へ『Mr.マキノ』と呼びかけましたが、心境の変化で呼び方が変わっていく部分などを大事にしていました」と明かします。
モデルの牧野富太郎さんと万太郎の違いについても言及し「草花を一生涯愛した主人公を広場に見立てて、その人物の元に集まる人たちの関係性やネットワーク、それぞれの人生が咲き誇るさまを描こうとしていますが、モデルの富太郎さんとは全く違う人物として万太郎を描いています。『らんまん』の万太郎は富太郎さんと比べると愛情深いが故に、弱さがあるキャラクターになっていて、寿恵子や子どもたちなど、草花以外にも大切なものがたくさんあり、増えれば増えるほど、彼の活動に矛盾が生まれます。家族への愛情が深まるほどに、家族を養うために普通に働いた方が精神的には楽かもしれません。でも寿恵子との結婚の時の約束として、日本のすべての植物を明らかにして、図鑑を完成させるという途方もない夢を掲げています。しかも万太郎は、生まれた時から体が弱くて死と隣り合わせで、自分の命にどのぐらいの時間が与えられているか分かりません。そんな中、新種が発見されるたびに数カ月単位の時間がかかるので、万太郎としてすべての時間を注いだとしても、夢を成し遂げられるのかという恐怖心があったと思っています。その弱さを抱えながらも寿恵子や送り出してくれたタキさん(松坂慶子)、自分を犠牲にしても送り出してくれた早川逸馬さん(宮野真守)など、いろいろな人の思いを胸に夢に向かっていく人物になっています」と違いを示します。
主人公・万太郎を演じる神木隆之介さんに関しては「神木さんは唯一無二の方だなと思います。とても難しい役を素晴らしいコントロールで演じ切っていただいています。裏表ない真っすぐな万太郎は神木さんでなければ成し遂げられないと痛感していて、神木さんの言葉の力もすごいんですけど、言葉にならない部分の演技力がすごく大きかったと思いました。特に大学を追放されて、田邊邸を訪れて田邊教授と決裂した後のシーンはとても難しかったと思いますが、神木さんがとても自然に表現してくれました。万太郎はらんまんな性格でもありますが、壮絶に孤高な主人公でもあり、だからこそつながり合ういとしさや切なさを誰よりも痛感していて、でも弱音を吐くことを許されない主人公。そのつらさを引き受ける代わりに、いとしいという思いを心の底から表現しているんです。それを神木さんが体現してくださったことをうれしく思います」と大絶賛。
続いてヒロイン・寿恵子を演じた浜辺美波さんについても「寿恵子についてはやっぱりヒーローだと感じます。大変な道を進む万太郎を導く太陽のようにすごくりりしく、『八犬士』のように『寿恵子、トライ』をずっと続けていき、生まれからしても武家の生まれで、お母さんは柳橋で頂点を極めた芸者で、その血を継いだ一人娘というスケールの大きいキャラクターです。その寿恵子が町人として生きながら街の暮らしになじみつつも、目指す場所が天井知らずになっています。そんなに勇敢で、悲壮感がない寿恵子を演じるのは浜辺さんしかいないと思います。寿恵子に悲壮感があったり、万太郎のために自分の人生を犠牲にするような精神状態になってしまうと、物語が見られなくなってしまいます。草花がありのまま咲き誇るかのように、自らが選んだ生を咲き誇っていく物語なので、自己実現のために万太郎というパートナーを選び、リミッターを外してどんどんトライを続けられる寿恵子のバイタリティーを表現できる浜辺さんは、最高の女優さんだと感じています」と強い思いを語ります。
また、物語の週タイトルについてお聞きすると「万太郎さんが植物図鑑を作る話なので、最終回の放送が終わった際に週タイトルを並べると、植物図鑑のようになっているといいなという思いがありました」とその意図を述べ、「植物学者の話ではあるんですけど、植物の発見に行く物語にしてしまうと、興味がない視聴者の皆さんが飽きてしまうのではないかなというのがありまして、植物と人間を結び付けていく構想が最初からありました。第1回の母親が好きな花だったバイカオウレンや、寿恵子さんの名前を冠したスエコザサなど、そのキャラクターを代表させる植物と人物との出会いを印象的に彩ることに植物を使っています。植物監修チームの皆さんと相談している中で、花の時期の問題で手に入らないものがあり、書き上げた台本をすべて書き直したものもありました」と苦労も。
さらに、世間の反応に関して「朝ドラが決まってからはプレッシャーを感じることが多く、たくさんのドラマへの視聴者の反応を少し感じていたので、恐怖心がありました」と率直な思いを打ち明けつつ、「脚本の執筆を続けていた時は、反応がとてもうれしく頑張らねばという思いも大きかったです。脚本を書いている時の私は、世間の好反応に影響を受けて物語が変わることはありませんが、応援してくださる声を聞くと本当にうれしく感じました。ネット上にいろいろな声がある中、すごい熱量を持って考察してくださっている方や、私が込めた思いをくみ取ってくださっている方、美術チームと連携して作った小道具などを細かく見てくださっている方がいてとても感動しています。中でも『明日もこの物語が楽しみだ』という声は、私が朝ドラを好きになった時の思いと同じだったので、私も物語を紡ぐ側になれたんだと実感しました」と反響が力になったと笑顔。
最終週の今後の展開と何歳まで描くのかについて質問すると「最終回には最初から決めていた仕掛けがありまして、その仕掛けを成立させるには万太郎が何歳でも構いませんでした。最終週は継承というキーワードがメインになっていて、実際に牧野富太郎さんが生涯をかけて集めた標本が40万点以上あるんですけど、これを資料として活用できる状態にしなければ標本が生きることにはなりませんでした。この牧野富太郎コレクションを活用できたことで、世界各国の貴重な標本と交換もできるようになりましたし、日本の植物分類学の基盤として、絶滅した品種も現在になってもたどることができるようになっているんです。万太郎が図鑑を作ると生涯頑張ることができたのも、すべてを後世に手渡すためでした。植物が花を咲かせた後に、種を残し、また次の世代が花を咲かせていきます。終盤の万太郎は、後の世にどういう種を残していくか、万太郎の生きざまを最後まで楽しみにしてください」と期待感を抱かせます。
最後に視聴者の皆さんへのメッセージをお願いすると「『らんまん』の物語は、槙野万太郎が生きとし生きるものすべてがありのままの特性を見つめて、愛し抜くというところを全編通して描いています。そのまなざしのもと、すべて登場人物が最後まで自分の冒険を続けていくことになると思います。万太郎と寿恵子、そして周りの登場人物たちそれぞれの冒険があと少し続くことになるので、その行方を楽しみに見守ってもらえたらと思います」と締めくくりました。
最終回まで残りわずか、万太郎と寿恵子の冒険はどこへ行くのか。まだまだ目が離せない連続テレビ小説「らんまん」をぜひご覧ください。
第121回 あらすじ
神社の森の植物を守るため、国が推し進める神社合祀(ごうし)令をどうにか食い止めたいと考えた万太郎は、大学を辞め、一植物学者として生きることを決意する。寿恵子、千歳(遠藤さくら)、百喜(松岡広大)ら家族もそんな万太郎を応援する。ある日、江口りん(安藤玉恵)は千歳にあるお願いをする。
【番組情報】
連続テレビ小説「らんまん」
NHK総合
月曜~土曜 午前8:00~8:15ほか ※土曜は一週間の振り返り
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
月曜~金曜 午前7:30~7:45ほか
NHK担当/S・A
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