野島伸司、「何曜日に生まれたの」に込めた“若者へのメッセージ”を明かす――「価値観を固めず、いろいろなことを受け入れてほしい」2023/09/09
――情報解禁時には「普段ドラマを見ない、漫画とかアニメ派の方にも見ていただきたい」ともコメントされていましたね。あの言葉にはどんな意図が組み込まれていたのでしょうか?
「コロナでうっ屈した閉塞感の中で、いつの時代でも人が求めているものは必ずあって、みんなが崩れる時に聖なる英雄が生まれやすい。大谷翔平さん、藤井聡太さんみたいな人が現れている中、そのころエンタメでは日本人のスターが生まれるべきだったのが、みんな韓流ドラマに行ってしまったんですね。日本がコロナにじゅうりんされた時にはやったエンタメは『鬼滅の刃』で、僕はただの物書きなので、その時に漫画やアニメの方にも挑戦してみようと思って、ここ数年はそっちでも脚本を書いています」
――コロナ禍で漫画やアニメといった別ジャンルの作品の脚本を手掛けられる機会が増えたかと思いますが、今あらためて感じるドラマ作品とアニメ・漫画作品の面白さの違いを教えてください。
「かなり真逆だと思います。実写ドラマを見る人とアニメファンは、価値観や精神性も真逆に近い。よくアニメファンや漫画ファンの方って、“厨二病”とやゆされることがあるじゃないですか。それ3三次元のドラマに持ち込むと、『実際そんなやついねえから』みたいな理解できないキャラクターがそろってしまうと思うんです。でも、2次元なら面白ければ、かわいければいいから、そういう意味で受け入れ口のエンタメリテラシーが全然違う。アニメファンの方は、エンタメ濃度が高いのは間違いないと思います」
――野島さんにとっても、コロナ禍で意識の変化はありましたか?
「そうですね。2次元の方で脚本を書いてみて、自分は元からそっちの精神性が強いのかもしれないと思いました。例えば、実写作品だとリアリティーを求めて不倫ものがはやったりしますが、2次元の世界では性的な裏切り行為は完全にNGなんです。ヒロインや主役足り得ない、そういう潔癖な精神性というのは2次元の方がはるかに高くて、それが自分の感覚ともフィットするなと感じて。今回、陣内孝則さん演じる黒目丈治が漫画家であったり、溝端くん演じる公文竜炎がラノベ作家というドラマの設定はこの感覚からきていて、2次元寄りの感覚を引きずりながら実写ドラマの脚本を書いて、この『何曜日に生まれたの』が出来上がりました」
――本編の中でも、一部のシーンが漫画っぽく描かれる演出もありますね。
「2次元のファンと3次元のファンというのはかなり違いがあって、2次元のファンの方は好きなものをどこまでも深く好きになる、趣味的要素もすごくかぶってくるんです。今では配信があるので、深夜帯も含めると膨大な数の作品が毎クール作られていて、ただ消化されてしまっているだけの感じもすごくあるんです。でも2次元のファンというのは、好きなアニメがあったらずっとそのアニメが好きでいる。そういういちず性というのは、『もっと広いところで多くの人に』みたいな感覚もあるかもしれませんが、僕みたいな作り手からすると、少数でも好きになってもらう方がうれしいです。配信としてどこかに残るのなら、自分たちの死後ももしかしたら見る人もいるかもしれないので、リアルタイムの視聴者に向けてこびずに、消化されないドラマ、消化されないソフトを作りたいと思っています」
――コロナ禍を経験した若い世代に向けて作品を作られたというお話もありましたが、若者のテレビ離れが近年は進んでいる中で、若い世代に伝えたいエンターテインメントの魅力を教えてください。
「全面には出していないのですが、今回僕なりに“価値観”というものを一つのテーマにしていて。価値観を固定すると、自分の好きなものしか面白くないと思ってしまうので、とにかく価値観を固定せずにいろいろなものを受け入れる。若い世代でも、『私らしく』『自分らしく』みたいな風潮がありますが、それは意外とわなで、受け入れられないものは拒否反応が出たりするので、なるべく『自分ではよく分からない』『自分らしさなんてまだないかも』と価値観を固定しないでいただきたいです。『自分らしく』と価値観を固めた方がメンタルとしては安定するのですが、それは違う意見や違うものが入りづらくなってしまう。自分が分からずメンタルは不安定になるかもしれないのですが、『価値観を固定しなければ、その分いろいろなことがまだ受け入れられるんだよ。だからまだ自分を固めないで』というメッセージをこの作品には込めています」
――ドラマもいよいよ後半戦に突入していきます。今後のドラマの見どころを教えてください。
「コロナ禍での若い世代というのは、一番アンテナが立っているのにその青春時代を制約されてしまった、そういう人たちに向けてこの作品を書いているので、そういった狭くて強い思いが派生して、他の人も見てくれればと思っています。物書きは一種のラブレターを書くみたいなものなので、結果としては明確にその対象者を狭くした方がソフトとしてはいいものができるのではないかと思っています」
【プロフィール】
野島伸司(のじま しんじ)
1963年3月4日生まれ。新潟県出身。88年、「時には母のない子のように」で第2回フジテレビ・ヤングシナリオ大賞を受賞。以降、「愛しあってるかい!」「101回目のプロポーズ」「プライド」(すべてフジテレビ系)、「高校教師」「アルジャーノンに花束を」(ともにTBS系)、「パパ活」(FOD)など多くのドラマ作品の脚本を手掛ける。また、2021年にはアニメ「ワンダーエッグ・プライオリティ」の原案・脚本を担当、現在連載中の漫画「シード・オブ・ライフ」(光文社)では原作を担当している。
【番組情報】
「何曜日に生まれたの」
テレビ朝日系
日曜 午後10:00〜10:54
※放送終了後、TVer、ABEMAで最新話を見逃し配信
※TELASA、U-NEXTでは全話見逃し配信
配信限定スピンオフドラマ「10年前の放課後」
TVer、ABEMAにて公開
「10年前の放課後~拳と拳の戦い~」
「10年前の放課後~私のこと、どう思ってる?~」
取材・文・撮影/平川秋胡(ABCテレビ担当)
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