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堤幸彦が明かす「ノッキンオン・ロックドドア」を“質の高いミステリー”にするためのこだわり、そこに掛け合わさる松村北斗&西畑大吾の“真面目さ”とは2023/09/01

堤幸彦が明かす「ノッキンオン・ロックドドア」を“質の高いミステリー”にするためのこだわり、そこに掛け合わさる松村北斗&西畑大吾の“真面目さ”とは

――撮影をしていて、「すごい」と感じたシーンはありましたか?

「これから放送になる第6話は、薬子ちゃんのたった一言の謎めいたワードから、倒理たちが大きな事件を推理していくというお話が探偵事務所の中で繰り広げられるのですが、『それは雑談なのか、リアルな事件なのか』というのが数十分の間で盛り上がっていくストーリーなんです。原作でも『これ面白いな』と最初から目をつけていて、プロデューサーの皆さまに『この回をやるんだったら僕が撮ります』と立候補していたぐらいなので(笑)、撮ることができてとても幸せでした。ただ、これって実は舞台のような会話劇で、言ってはみたものの演じる方はとても難しいはずなんです。何かものを使ったりするならうまいこと進んでいくのですが、会話だけで醸し出して表現していくのはなかなか難しい。それを松村くんは1日で撮り終えて見事にやってのけたから、もう『お見事!』としか言えないですね。びっくりしました。話が進んでいる裏でも、氷雨くんは“ある事件”を目の前で監視するのですが、監視しつつスマホでその会話劇に参入して、それに対してリアクションしながら想像だけで自分なりの推理に入っていく。これも、あたかもスマホの電波のみでつながった二つのシーンが同時に進んでいくのでなかなか難しいのですが、とても面白く作ることができました」

――これまで手掛けられてきた「トリック」や「SPEC」などでは“バディ”が大きな鍵を握っていたかと思います。今回の「ノキドア」ではバディという部分で大事にされていることはありますか?

「キャラの違いですね。キャラの違う2人が物理的にも精神的にも旅をすること、そしてその中で成長し、ある時は関係が逆転したり、ある時はボケとツッコミが反転するという、そういう自由度があるキャラ作りができると面白い。今回ははっきりと“HOW”と“WHY”と分かれていますが、時々“HOW”専門の倒理のところに“WHY”専門の氷雨が踏み込んできたり、その逆があったりと、変化と反転があるのが面白くて、これはキャラ作りの醍醐味(だいごみ)なんだろうなと思いますね。それを思いつかれた原作はやはり素晴らしいと思いますし、原作にはない、倒理と氷雨の過去にまでさかのぼってキャラ作りをされた浜田先生の洞察力は見事です。そこまで書かれているから、リーディングでも成立するドラマという気がします。これ以外の作品においてもバディものは数多くやってきましたが、今回は同性のバディという新しい面白さを発見できたと思います」

――今回、松村さんと西畑さんのバディを実際に撮ってみて、魅力的に感じたところを教えてください。

「粗暴な倒理があまり空気を読まず机に足を乗っけたり、人が死んでいるのに『ケッ、こんな事件面白くねえよ』と言ってしまうのを、常識的な氷雨が『足を乗せない!』『言い方!』とツッコむ。そのボケとツッコミはやっていても本当に面白かったですね。だんだんと色彩が変わってくるのですが、皆さんがご覧になって『あ、少しずつ変わってきているな』と思ってもらうのがいいと思います。詳しくは言えませんが、最後には『そういうことだったのか』と分かるような大どんでん返しがあるので、そこまで楽しんでもらえたらうれしいです。僕らのようなドラマや映画を作っている人間にしてみると、『キャラ作りってこうなんだよな』とふに落ちる設定になっていますし、『とにかく楽しみたい』というお客さまからすると、最初に設定したキャラが少し発展して、変化して、さらにその意味が分かるという意味では、とてもいい作りになってるのではないかと思います」

――バディという視点以外に、全体の撮影を通して印象に残っているポイントはありますか?

「今回、僕は3種類の作品作りをさせていただきました。一つは、“キャラクター紹介、ドラマの始まり、物語の始まり”という意味での第1話。非常に基本的なミステリーの作りをしっかりと作ることができて、久しぶりの感覚でした。昔、日本テレビの土曜9時でずっとそういった基本的なミステリーをたくさんやらせていただいて、そこからいろいろな変化球をもっていろいろな種類のドラマを作り上げてきた中で、60代でもう一度原点に戻らせていただいた。そういう意味では、自分でも『俺、まだできるじゃん』と思わせてくれるような第1話でしたね。第2話以降も、ある時は軽妙に、ある時はしっかりと原理主義的に、と後輩たちがドラマを引き継いでくれたから、第6話で私自身が会話のみで成立するミステリーという、ちょっとした変化球に挑戦することができました。実は(第6話は)すごく短時間で撮っていまして。テレビドラマを作る上で短時間というのは、ある種一つの価値だと思っています。『短い時間で面白いものを撮るのはプロの仕事だ』と思っていて、そういう意味では内容の面でも作りの面でも、自信を持って挑戦することができてとても面白かったです。それから、最終回も実は短い30分の読み切りではあるのですが、それまでにまき散らした謎や、倒理、氷雨、糸切美影(早乙女太一)、穿地の4人の過去との対話や決着みたいなものが次々と出てきます。それが、第1話を作った時とは全く異質のドラマを作っているような、そんなストーリーになっています。そこに参加できたこと、『ノキドア』の中で3種類の作品を作れたことはすごく光栄ですし、こんな初老のおじいちゃんが、最も暑いと言われた夏に半分もうろうとしながらこの作品を作ることができたのは、一生の思い出になりましたね」

――「短い時間でいいものを作るのがプロ」という考えは、ご自身の中でも大事にされているのでしょうか?

「私はテレビ局員でもありませんしフリーランスの者ですから、とにかく望まれた以上のクオリティーを、望まれた以下の時間で作るのが使命だと思っています。もちろん、それはこのドラマに限らずいろいろな表現の中で必要なことなのですが、この回においては、そういうスピーディーさがキャラクターたちに何かいい勢いをつけるのではないかと思っていて、両者の作りの思いのようなものがきちんとリンクしていたなと。その分、俳優さんたちには暑い中、ある種のプレッシャー感もある中で頑張っていただいたので、とにかく頭が下がる思いです。スタッフの皆さんも、最近は若くて元気なスタッフさんが頑張っているので、皆さんがこれをステップに、またいろいろな作品に羽ばたいてもらえるといいなと願っています」

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