F.HERO「Brightは僕の恩人なんです。“必ず恩返しをする”と約束しています」――来日スペシャルインタビュー2023/08/17
2022年5月にLDH JAPANとパートナーシップ契約を締結したタイの音楽レーベル「High Cloud Entertainment」の創業者であり、タイの音楽業界を牽引するラッパー・F.HEROが、7月中旬に来日。7月21~23日、さいたまスーパーアリーナで開催された「BATTLE OF TOKYO ~CODE OF Jr.EXILE~」にゲスト出演し、会場を大いに沸かせた。
今回実現した対面取材では、“兄弟”と呼ぶタイ俳優たちとのコラボレーションの裏側や、アジアの音楽の可能性について語ったF.HERO。穏やかな語調とユーモア、そして多方面への敬意に、彼の懐の深さを感じた。
――撮影では、すてきな表情を見せてくださりありがとうございました。
「これはもしかして原宿スタイルでしょうか? こういう雰囲気で撮影するのは初めてで緊張していたんですけど、スタッフの皆さんからたくさん『かわいい』と声をかけていただいて、テンションが上がっちゃって(笑)。とても楽しい撮影でした」
――撮影ではドーナツを召し上がっていただきましたが、日本に来た時に必ず食べるものはありますか?
「うな重と、セブンイレブンのお弁当と、吉野家の牛丼です。それから、一蘭のラーメン! 僕は体が大きいのですが、狭いところに囲まれるのが好きなんです(笑)。顔が見えるか見えないか、少しだけカーテンを開けてラーメンが提供されるドキドキや、ミステリアス感が好きです」
――ゲストとして出演された「BATTLE OF TOKYO 〜CODE OF Jr.EXILE」はいかがでしたか?
「まず、とても感動的でした。何万人という方が見に来てくれる、タイでは経験できないような規模の大きな公演でしたし、日本のファンの皆さんはすごくエネルギッシュなんです。“推し”のグッズを持っていたり、うちわを持っていたり。旗や手を振って、一緒に盛り上がって、会場が一つになるのを感じました」
――マイク1本で観客の心をつかむF.HEROさんが、ステージに立つ時に心がけていることは?
「そんなふうに言っていただき、とても光栄です。僕は、お客さんが一緒に楽しんでくれることを願って、心の内から出てくるものを大事にしています。皆さんに音楽を届けたい、楽しさを届けたい、それだけを心がけています」
――音楽は言語の壁を超えると、リスナーであるわれわれは感じています。届ける側=作り手であるF.HEROさんはどうお考えですか?
「音楽において、言語の壁はもともとありません。BLACKPINKやBTSが、韓国語の楽曲をアメリカのBillboardチャートにのせたように、言葉の壁を壊したのが音楽です。そして、一緒に音楽を作る人たちとは心が通じ合うので、言葉が段々通じるようになります。それは言語ではなく、“音楽の言葉”。そこには決め事も、正解も不正解もありません。音楽が好きだという同じ志を持った者同士の、“音楽の言葉”でやりとりをしていると思いますね」
――人気のタイ人俳優・アーティストとも数多くコラボレーションされています。そのうちの1人であるGulf(Kanawut Traipipattanapong)さんは、同時期に来日されましたね。
「(タイドラマガイド「D」Vol.6、Bright&Winがバックカバーを飾った『週刊TVガイド』をパラパラとめくって、優しく写真をなでながら)みんな、僕のブラザーです。Gulfも本当に性格がいい、とってもかわいい弟。カメラの前でも裏でも、あのままなんです。Gulfとは『一緒に音楽を作りたいね』『Gulfはどんな曲を作りたいの?』と話して、彼がラップとヒップホップが好きだということで曲(「WHY YOU SO SERIOUS」)を作りました。ただGulfは俳優として活躍しているので、当時の彼がアーティストとしてやっていくには、正直なところたくさんの練習が必要だったんです。しかし、それを本人がしっかりと理解していて、作詞・作曲の時も一度も弱音を吐かなかった。さらに『ほかの人よりも練習に時間がかかるから』と、ダンス練習もボイストレーニングもとても一生懸命でした。彼は本当に真面目な、頑張り屋さんです」
――さかのぼって2021年には、Bright(Vachirawit Chivaaree)さんともコラボレーションされました。以降も、ステージでたびたび共演されています。
「Brightは、とてもスマートにアーティストという仕事と向き合っています。一つ、僕にとって感動的だったエピソードがあるんです。去年、タイのラジャマンガラスタジアムで野外音楽フェスがあったんですが(『OCTOPOP 2022』)、集まったのは音楽が好きな人ばかり。そこに、Brightは勇気を振り絞って参加して、初めて自分のファン以外の前で歌いました。彼は、自分のセーフゾーンから一歩踏み出したんです。Brightはそこからいろいろなフェスに参加しているんですけど、ステージが終わった後には毎回、改善点を自分で考えて、僕に話してくれます。今年4月、僕がBrightをゲストに呼んだ『Rolling Loud Thailand』もそうでした。ヒップホップのフェスですから、観客の多くはBrightを知らないし、Brightも自分を知らない人が見に来る場所だと分かった上で、ステージに上がったんです。彼は本当によくやりました。僕はBrightの勇気に感動したし、尊敬しています。『Rolling Loud』に出演したほかのアーティストからも認められたと、僕は感じました」
――Brightさんは音楽に対して純粋な方ですね。
「はい。Brightは、もっともっといい音楽を作りたい、いいアーティストになりたいと頑張っていますし、1人のアーティストとしてすごく楽しみです。実はBrightは、僕の恩人なんです。僕は約3年前に『High Cloud Entertainment』という会社を立ち上げたんですが、そこから初めてリリースした曲が『Sad Movie』、Brightとのコラボ曲でした。無名の新しい会社ですから、最初のリリースとして何か大きなことがしたくても、当時はあまりお金がなかった。なんとBrightは、ほぼノーギャランティーで出演してくれたんです。BrightとGMMの皆さんの支えがなければ、この曲はありません。その時、僕は、Brightと約束をしました。『必ず恩返しをする』という約束です。日本の昔話にもあるかもしれませんが、タイではそれを“ライオンとネズミ”に例えます。僕はいつかBrightに恩返しをする、小さい小さいネズミです」
――お二人のすてきな関係が伝わります。そして、F.HERO & Nene郑乃馨feat. WIN METAWINによる「VACAY」も楽しみです。
「Winとは、MV撮影までお会いする時間がなくて。なので、BrightとGulfと話している時に、『どんな方なの?』と2人に聞いたんです。Brightは『Winは頭のいい子だよ』とよく言っていました。『賢いし、ビジネスにも詳しいから、ぜひWinといろいろ話してみて』って。だから僕は『Winは賢くて頭のいい子なんだろうな』と漠然と思っていたんです。だけどMV撮影が終わった後、『つまらないものですが…とってもおいしいので、ぜひ食べてください』って、Winが大きなドリアンをくれたんです。その時、僕の中で『あぁ~、君もかわいい弟だなぁ』って、Winのイメージがガラリと変わりました(笑)。(ドリアンを持ったWinとの写真を誇らしげに見せてくれながら)まだ食べずに凍らせているんです。“Winからもらったドリアン”って、オークションに出してみようかな。『食べられなくても、抱き枕にいかがですか?』なんて…もちろんジョークですよ!(笑)」
「中田ヤスタカさんにお会いしたいです! ぜひご連絡をください!!」
――F.HERO x MILLI Ft. Changbin of Stray Kidsの「Mirror Mirror」のように、アジアの若い才能とのコラボレーションの輪も広がっていますね。
「ヒップホップは本当に言語の壁がない、心で通じ合うものなんです。『Mirror Mirror』がいろんな国へと広がっていることを、MILLIさんとChangbinさん、そしてJYPの皆さんに感謝しています。4月には日本のラッパー、JP THE WAVYさんとコラボをしました。日本にも才能豊かなラッパーがたくさんいらっしゃるので、これから日本や韓国、東南アジアの皆さんと何かお仕事ができたら、世界規模のいい曲を作れるんじゃないかと思っています」
――今注目している、一緒に音楽を楽しんでみたいと思う日本のアーティストはいますか?
「たくさんいます。Awich、¥ellow Bucks、そしてFANTASTICS from EXILE TRIBE、THE RAMPAGE from EXILE TRIBE、BALLISTIK BOYZ、そしてBE:FIRSTも。若いのに才能があって、素晴らしいと思います。そして中田ヤスタカさん、m-flo、Perfumeも、いつかご一緒してみたい! この記事に『F.HEROが中田さんにお会いしたいと言っているので、こちらに連絡をお願いします』と大きく書いて、僕の個人の連絡先を載せてくれませんか?(笑)。ぜひご連絡をください! ああ、それからmillennium paradeも! 大好きなんです!! 『F.HEROが会いたがっています』と、くれぐれもお伝えください」
――あははは! 承知しました(笑)。では最後に、F.HEROさんの夢を教えてください。
「仕事の面でいうと、東南アジア、東アジアの才能豊かなアーティストとさらにつながって、アジアが一つになる音楽を作っていきたいです。アジアには、たくさんの才能あるアーティストがまだまだ眠っています。僕が彼らをサポートして、その存在を世界に広めることが大きな夢です。プライベートの夢は、何もしないこと(笑)。座って、植物や景色を眺める、それが一番幸せな瞬間です。僕のヒーローは“ぐでたま”なんですけど、ぐでたまって本当にすごいんですよ。やる気が出ないことを隠さず、そのままでいられるんですから。僕もそうなりたいです。(日本語で)ぐでたま、最高!!」
取材・文/新亜希子 撮影/蓮尾美智子 通訳/Sijutha Navawongse
取材協力/テレビ朝日
【プロフィール】
F.HERO(えふひーろー)
1982年9月22日生まれ、タイ・チェンライ出身。「HIGH CLOUD ENTERTAINMENT」の創業者。自身はタイで抜群の知名度を誇るラッパーであり、数多くのアーティストを手掛ける音楽プロデューサーとしても活躍。作詞・作曲・制作した曲は、タイの主要音楽チャート1位獲得の常連。ミュージックビデオ再生回数1億回を超えるヒット曲を連発している(総再生数15億PV超え)。BrightやGulfをはじめ、国内の俳優・アーティストと積極的にコラボレーション活動をしながら、海外でも活躍しており、グローバルアーティストとのコラボ実績も多数。2019年にはBABYMETALの横浜アリーナでのライブにも出演し、今年5月にはBABYMETALのアジアツアー「METAL GALAXY WORLD TOUR」のバンコク公演で約4年ぶりの共演を果たした。
公式X(Twitter) https://twitter.com/FHERO4REAL
公式YouTube https://www.youtube.com/c/HighCloudEntertainment
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