北川景子、「どうする家康」のお市は岡田准一の威厳と威圧感のある信長を意識。松本潤とのエピソードも2023/08/06
第30回(8月6日放送)の大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合ほか)で、命からがら伊賀を越えて浜松に帰還した徳川家康(松本潤)は、その後、関東の雄・北条氏政(駿河太郎)との一戦に臨むことになります。一方、清須会議で織田家の実権を握ろうとした羽柴秀吉(ムロツヨシ)を苦々しく思っていたお市(北川景子)が柴田勝家(吉原光夫)と結婚。やがて、秀吉と勝家は対立し、賤ヶ岳で戦に。柴田勢は秀吉の調略により劣勢を極め、家康に援軍を要請しますが、望みはかなわず、勝家とお市は自害しました。
今回はお市を演じる北川景子さんから、お市の人物像や兄・信長(岡田准一)に対する気持ちや援軍を出さなかった家康への思い、家康を演じる松本さんをはじめとする方々との撮影エピソードなどを伺いました!
――お市をどんな女性だと捉えて演じてきましたか?
「お市は要所要所で出てくるので、久しぶりに姿を見せたと思ったら、10年もの月日がたっている役ではありましたが、印象深く、思い入れの強い役になりました。撮影が始まる前はお市をどのように演じようかといろいろ考えました。お市はすごく強くて、誇り高く、岡田さんが演じられた兄・信長に対する敬意や尊敬、畏怖を抱いていて、もし自分が男であれば、兄のように戦に出たいという強さや勇ましさもある。一方で、自分が女性として生まれてきたことも理解し、わきまえていて、女性として織田家のためにできることや、与えられた役割は何なのかを常に考えながら生きてきた人。そして、1回目と2回目の婚姻では全然立場が異なり、その時々で実家と嫁ぎ先との間で自分がどう立ち回るべきなのかと、頭を回転させ続けて、常に自分の命をどこで使うのか、人生の終わり方も考えていた賢さを持った女性だと思って演じていました」
――母親としての側面もありましたよね。
「3人の娘を持つ母親という意味では、親しみのあるキャラクターとして見ていただけたんじゃないかと思っています。戦国時代なので、もちろん戦い続きだけれど、娘たちの前では母親の顔があり、日常の幸せがほんのわずかな時間でもあったんじゃないかと想像しながら演じていて。飛び飛びの出演でしたが、やり終えてホッとしていますし、1人の女性の人生を演じ終えることができてよかったです」
――松本さんが演じる家康の魅力を教えてください。
「松本さんが演じる家康は、視聴者に近く、共感してもらえるキャラクターになっているところが一番の魅力。家臣の前で見せる人間らしい弱々しいところや心配性の部分を、気を付けてしっかり表現されていたのかなと。特に前半はそういうふうに演じられていたおかげで、共感して応援したくなるキャラクターでした。後半に入ってからの家康は、築山殿(瀬名/有村架純)を失うなどつらい思いをして、少し違ったフェーズに入っています。厳しさや、ある意味、割り切りが見え隠れするお芝居に変わっていて、どんなつらい思いをしてきたのか視聴者も見てきているから、きっと共感してもらえるんじゃないでしょうか。松本さんご自身は、本当に現場をよく見ていらっしゃいます。共演者だけじゃなく、スタッフの動きやカメラ、照明の位置など、かなり細部までずっと見ているんです。『もうちょっとこっちに立った方が奇麗に光が当たるんじゃない?』とそっと言いに来てくれるなど、ジェントルなところがあるんです」
――松本さんと雑談をされることはあったのでしょうか?
「大河ドラマの撮影の時はスモークをたいていることが多い上に、芝居中にまばたきを我慢することがあって、目が乾くんです。だから、本番前と後に目薬をさしていたら『相当、目、悪いね。この環境、そんなに目乾く?』『大丈夫? ドライアイの手術、教えようか?』と、とても親身になってくださって。私がいつも着物から目薬を出していたのを見ていて心配だったんでしょうね。松本さん的に気になっていたようで、空調やスモークを減らしてくれようとするくらいの配慮がありました。だから、『本番前の癖なので大丈夫です』とお伝えして。主演なのに他人の目まで気にしてくださって。それ以来、殿(松本)の前では目薬をささないようにしていました(笑)」
――では、兄・信長を演じた岡田さんの印象はいかがでしたか?
「私は信長の妹役だったので、常に岡田さんのことを意識しながらやっていたんですが、一緒のシーンは最初の方だけで、意外と多くはなかったんです。ただ、初めてお会いした時に、台本よりもさらに威厳と威圧感のある信長に作ってこられたのを見て驚いて。こういう兄だったらお市をもっと強そうにしなきゃと触発されて、想定していたお芝居よりももっと強く男勝りな感じにグイッと上げました。岡田さんが作り上げたお芝居には、台本だけでは想像できないたくさんの骨や肉が付け加えられていて、こんなに深く役作りをされる方なんだととても驚いたのを覚えています」
――そうなんですね。
「ほかにも、お市がなぎなたを使うシーンでは、構え方や、ほかの人がセリフを言っている時にどういう立ち方をしたらもっと武士っぽく見えるかを教えてくださいました。もちろんアクションの先生もいらっしゃいますが、岡田さんもアドバイスをしてくださって。それがふに落ちるアドバイスばかりで、アクションもお芝居も極めていらっしゃるし、すごい先輩だなと感じました」
――第19回(5月21日放送)で、お市が秀吉にビンタをする場面がありました。あのシーンはどのように演じようと考えていましたか?
「お市の登場自体も、ムロさんと会うのも久しぶりでした。以前、秀吉に会った時は、信長たちにペコペコと頭を下げてへりくだった振る舞いをしていたのに、久しぶりに会ったら偉そうな感じになっていたことに時間の流れを感じました。そして、今までの関係性で、お市は秀吉に『触るな』とビンタをするけれど、娘を連れていかれることに対しては逆らえず従うしかない悔しさがありました。毅然とした態度でいたい気持ちと、秀吉に(娘たちを)任せることになってしまうのではないかという不安に加えて、もっとうまく立ち回ることはできなかったんだろうかなど、あの短いシーンで全部表現しなくてはいけなかったので、とても難しかったです。そういえば、あのシーンで、お市は初めてしっかり秀吉と顔を合わせたんじゃないでしょうか。秀吉はお市を見ていただろうけど、頭を下げて控えていることが多かったから、お市は秀吉を見てもいない。だけどこの時、面と向かって見られて、軽んじてはいけない相手だったんだと初めてゾッとして、これは放っておくと危ないと実感し、心がざわざわしたシーンでもありました」
――実際にビンタをした時はいかがでしたか?
「顔をたたくのは好きじゃなくて。しかもムロさんのことが大好きなので、たたきたい気持ちもなかったんですが、台本に書いてあるし、ムロさんや監督からも思いっきりやってくださいと言われたんです。でも、お市の気持ちになると、今まであんなに控えていたのに、何を軽々しく触ろうとしているんだといういまいましさはあるけれど、好きじゃないから、しっかり触りたくない。だから、たたくというより振り払う気持ちでやったのですが、放送を見たら『パチン』とすごくいい音が入っていて(笑)。『そんなにたたいていないけど』と思っていたけれど、視聴者から『もっとやれ』という声もあったので、『もっとやればよかったのか』と後々思いました。しかし、演じている時はハエを払うような感じで、『私とあなたは格が違うのよ』というのが表現できたらと思っていました」
――第28回(7月23日放送)で堺で家康と出会ったお市は、家康に何を伝えたかったんだと思いますか?
「おそらく、お市は一言言いに行ったんです。家康の心が兄から離れていっているけれど、兄は家康がいつか戻ってくると信じている。そういう兄の思いにどうして気付いてあげないのか、誰のおかげでここまでやって来れたのか忘れているんじゃないのと、くぎを刺す気持ちがあったんじゃないかと。2人の思いがすれ違っていることがお市は気になっていて、兄は手出ししないって言っているんだからと、家康をいさめたい気持ちで会いに行ったのではないかと想像していました」
――お市は信長をすごく大事に思っていたと。
「そうですね。恨んでいると言っているけど、心底恨んではいないんですよね。やはり血縁で唯一の肉親ですし。『誰からも愛されないし、お山のてっぺんで1人ぼっちでかわいそう』などと言っているけど、それはきょうだいだからこその言葉。暴走する性格だけど、兄にとって親友は家康1人だけだから頼むよという気持ちもあったと思います」
――第30回の賤ケ岳の戦いで家康が援軍を出してくれなかったことに対して、お市はどう感じていたと思われますか?
「台本上は信じていて、権六(柴田勝家)も信じて待っていますという手紙を書いていましたが、戦国時代に結婚も2回して、いろんな経験をしてきたお市なので、来てくれたらもちろんうれしいけれど、助けたいと思っていても身動きがとれないなどいろいろあることも分かっていて、そこまで信じていなかったと思っています。だから、もし来てくれなかった時のために、どういうふうに死ぬか、どういう選択をするかを同時進行で考えていたんじゃないかなと。幼い時に家康と約束をしましたが、子どもの時に話していたことですし、娘の茶々(白鳥玉季)が言っていることも本当によく分かるけど、あの人だったら来てくれるかもと、ほんの少しの期待があっただけかと」
――お市は最期、自害を遂げますが、どのように気持ちを作りましたか。
「お市は最初から負けたら死のうと思っていたんじゃないかと。娘たちには生きてもらいたいけど、落城は一度でいい。浅井長政(大貫勇輔)との時は、幼い子どもたちを託されたので死ななかったけれど、今回は茶々が下の子たちを守ってくれるだろうという気持ち。子どもたちが心配しないように『後から行く』と言いながらも、秀吉の世話になるくらいだったら死んだ方がいい、ここが散り時だなと考えていたんじゃないかなと。この城と一緒に死にたいという気持ちがあったのかなと思っています」
――母としては複雑ですよね。
「子どもと別れるというのはとてもつらいし、断腸の思いだったでしょうが、ここで死ぬことで自分の誇りを突き付け、お市は立派な人だったなと思わせることが大事で。自分が死ぬ代わりに娘たちのことをくれぐれもよろしくお願いしますと、信用してもらうために差し出したのが自分の命だった。死ぬのは娘のため。娘たちに織田家の血を受け継ぐことを託すつもりで死ぬというか。けじめをつけるという意味で腹を決めたと思いますが、子どもたちが去っていく背中を見ているのはつらかったです。泣きそうでした」
――お市と一緒に自害をする柴田勝家役の吉原さんとの共演エピソードもお願いします!
「お市にとっては権六でしかないんですよね。結婚こそしていますが、権六と呼んでいて立場が変わらない状態で、信頼できる部下のような感覚。お市としては、最後まで一生懸命共に戦ってくれた人だから、この人を1人でいかせるわけにはいかないという心持ちだったんだろうと考えて演じていました。吉原さんとは話すタイミングがなくて、クランクアップの時に『実は吉原さんの奥さんに似ているって言われるんです』と打ち明けたら喜んでくださって、最後の日にとても盛り上がりました(笑)。たくさんお話できて楽しかったです」
――最初の夫を失い、2回目の夫と共に壮絶な最期を遂げることになったお市にとって、戦国とは何だったと思いますか?
「市を演じていてずっと大切にしていたのは、とにかく自分の家の存続が大事という思いを持っている女性だったところです。お市は女性として生まれたので実際に戦に出ることはできませんが、織田家の血統を少しでも後世に残していくという意味で、家系の存続を一番に考えていたと。そして、婚姻もほかの家との結び付きを強め、織田を大きくすることだと思っていた。戦には出られなかったけれど、自分の家に誇りを持って、置かれた立場で与えられた役割を全うしながら、命をかけて考えて、瞬時に判断して生きて戦う。1回しか使えないけれど、どこでどんな方法で命を落とすかということも重要だと考えていた。それは、ほかの家に対して恐怖を与えることができるかもしれないから。死ぬ瞬間まで誇り高く戦おうと決意していたのではないでしょうか」
――お市という役から影響を受けたことはありますか?
「家のために頭を使うことや、立ち振る舞い、結婚も含めてお市の仕事だったと思うんですが、働きながら子どもを育てるところは自分と重なる部分が多くて。子ども3人を立派に育てながら自分の仕事もちゃんとして、家のことを考えてすごいなと。私も働きながら子育てができそうだと思えたし、お市はこの時代にしては現代っぽくて。自分の考えや世界観を持っていて、自分の意思でしっかり動いて仕事も子育てもやっているんだろうと感じられるところが、共感してもらえるポイントだったんじゃないかと思います。役を演じながら、自分らしくやることがすごく大事かなと思ったので、言いたいことややりたいことを我慢せずに、できることを精いっぱいやろうと撮影するたびに勇気をもらえました」
――本作は北川さんにとってどんな経験になりましたか。
「初めて『西郷どん』(2018年)に出演した時に、大河ドラマは全国の人が見ていて影響力がある作品なんだと実感したんです。それから5、6年空いて今回このお話をいただいた時に、プレッシャーを感じていました。しかも、お市は大変人気があるキャラクターなので、発表された時にうまく演じ切ることができるのかと、始まる前は不安や心配の方が大きかったです。でも、いざ皆さんとの撮影が始まるとすごく楽しく、放送が始まるといろんな方から反響をいただいて励みになりましたし、やってよかったです。それに、時代劇を絶滅させたくない思いが普段からあって。大河ドラマだけではなくても、スペシャルドラマや映画などで時代劇がたくさん増えていってほしい、途絶えてほしくないなと。そういう意味でも時代劇に関われることはものすごくうれしかったです」
――ありがとうございました!
【番組情報】
大河ドラマ「どうする家康」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BS4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BSプレミアム
日曜 午後6:00~6:45
NHK担当/K・H
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