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【推しの作家さま】「らんまん」長田育恵2023/07/28

【推しの作家さま】「らんまん」長田育恵

 ドラマになくてはならない存在である作家=脚本家を深掘りする、国内有数のドラマ専門サイト「TVガイドみんなドラマ」のコラム「推しの作家さま」。こちらをTVガイドWebでも展開! 今回は、NHKで放送中の連続テレビ小説「らんまん」の長田育恵氏を紹介。

才能を信じて進む万太郎を中心とした、完成度の高い群像劇「らんまん」

 長田氏は、数々の演劇賞を受賞し、演劇界ではすでに確固たるポジションを確立している人気の劇作家だ。ミュージカルから能楽まで幅広いジャンルの作劇を担い、自ら劇団てがみ座の主催を務める一方、近年では劇団四季の「ロボット・イン・ザ・ガーデン」(2020年)や、劇団民藝の「レストラン『ドイツ亭』」(22年)など、他劇団の話題作も手掛けている。本格的にテレビドラマを書き始めたのはそれほど前のことではないが、志賀直哉原作、本木雅弘主演の「流行感冒」(21年/NHK BS4K)や、詩森ろば氏と共作したシム・ウンギョン主演の「群青領域」(21年/NHK)、原田マハ氏原作、安藤サクラ主演の「旅屋おかえり」シリーズ(22年/NHK BSプレミアム)など、記憶に残るドラマをいくつも紡いでいる。

【推しの作家さま】「らんまん」長田育恵

 長田氏の執筆する朝ドラ「らんまん」が、日本の植物学の始祖といえる著名な植物学者・牧野富太郎の生涯をモデルにした物語だと聞いた時、「なるほど」と思う半面、少し意外でもあった。「なるほど」と思ったのは、長田氏はそれまでも、実在の人物をモチーフにした優れた戯曲をいくつも手掛けていたから。そして意外に感じた理由は、その時代設定だ。

 「らんまん」の物語は、幕末から明治を舞台としている。最近の連続テレビ小説は、3代で100年を描いた「カムカムエヴリバディ」(21年)を別にすれば、「おかえりモネ」(21年)や「舞いあがれ!」(22年)など現代を舞台にしたもの、もしくは「まんぷく」(18年)、「なつぞら」(19年)、「エール」(20年)など、戦争を挟みつつ昭和を描いたものが多かった。ところが今回の「らんまん」は、そのどちらでもない。

 長田氏の手掛ける一連の戯曲には、“戦争”というテーマが大きく横たわっていて、それが大きな特徴となっている。また、長田脚本による映像化作品では、困難や矛盾に満ちた“今”に翻弄(ほんろう)されながら生きる市井の人々の心象風景が、ドラマの大きな魅力になっていた。どちらも長田氏の大きな強みであり、とても朝ドラ向きであるにもかかわらず、両方封印して挑むのか、と少し驚いたのだ。

【推しの作家さま】「らんまん」長田育恵

 ここまでドラマを見続けてきた方ならもちろんお分かりのように、「らんまん」の中には長田氏の強みが十二分に生かされている。さまざまな抑圧やしきたりの中で、登場人物全員が、自らの存在を問い未来を見つめ、ウェルビーイングを求めて生きる姿は、感動的ですらある。特に天狗(てんぐ)こと坂本龍馬(ディーン・フジオカ)やジョン万次郎(宇崎竜童)、自由民権運動の早川逸馬(宮野真守)らに背中を押され、自らの「草花が好き」という才能を信じて突き進む万太郎(神木隆之介)の姿には胸を打たれる。加えて、万太郎が、先達たちだけではなく、十徳長屋の人々や研究室の学生など多くの市井の人々から学び成長していく姿も、今作の大きな特徴だ。万太郎を中心とした群像劇としての完成度の高さにも、長田氏の卓越した手腕を感じる。

【推しの作家さま】「らんまん」長田育恵
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寿恵子や綾、まつを通して、女性の自立と多様な生き方を応援

 そしてもう一つ特筆すべきは、長田氏が「らんまん」に込めた、女性の自立と多様な生き方に対する力強いエールだろう。特にヒロイン・寿恵子(浜辺美波)のまとう自由な空気というか、夫に付き従い陰で支える…といった押しつけがましさを感じさせない嫌みのなさは、浜辺の好演もあるが、まさに長田氏の狙った部分であろう。

 寿恵子以外でも万太郎の姉・綾(佐久間由衣)、寿恵子の母・まつ(牧瀬里穂)、高遠の妻・弥江(梅舟惟永)、田邊教授の妻・聡子(中田青渚)、そして長屋の女性全員が、それぞれの立場で自分らしく生きることを求め、ドラマも彼女たちを応援している。特に、まつが寿恵子に語る「男の人のためにあんたがいるんじゃないの」や「自分の機嫌は自分で取ること」といったセリフには、声高なアジテーションにはない、生活に根ざしたリアリティーがあり、見事である。

 連続テレビ小説は、女性主人公の一代記が多く放送されているが、「カムカムエヴリバディ」や「らんまん」を見ていると、こうした時代に裏打ちされた群像劇こそが、多様な女性の共感を得る近道なのかもしれない、とも思う。万太郎のロマンの追い方も、とても現代風だ。これだけやりたい放題なのに、自分勝手な傲慢(ごうまん)さを全く感じさせない。これは今の時代、非常に重要な要素だろう。“永遠の少年”である神木の力もあるが、やはり脚本の功績が大きいと思う。特に、寿恵子が夢見る夫を支える“苦労”をともに夢をかなえるための“推し活”と位置づける視点は、朝ドラ史上画期的なものだろう。

【推しの作家さま】「らんまん」長田育恵

 さあ、物語は後半戦へ。万太郎と寿恵子の冒険は、ここからが本番だ。決して順風満帆ではない万太郎たちの旅だが、長田氏の筆は2人の道を最後まで明るく照らしてくれるはず。ワクワクしながら見守ることにしよう。

【番組情報】

連続テレビ小説「らんまん」 
NHK総合 
月~土曜 午前8:00~8:15ほか(土曜は1週間の振り返り) 
NHK BSプレミアム・NHK BS4K 
月~金曜 午前7:30~7:45ほか



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