Feature 特集

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!2023/07/22

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

 7月23日にNHK総合で放送する「NHKスペシャル ディープオーシャンII」では、世界で初めて深海でダイオウイカを撮影したNHK深海取材班が、新開発の8Kカメラで未知なるフロンティアへ挑んだ模様をお届けします。

 舞台はサウジアラビア・紅海で、世界一透明度が高い海といわれており、極彩色のサンゴ礁や未踏の深海世界が広がっているといいます。そんな紅海で昨年、サウジアラビア政府が世界初の深海調査を実施。最新の有人潜水艇を駆使した5カ月にも及ぶ大調査が行われました。そこに、外国のテレビとして唯一同行したのがNHK海洋取材班です。

 今回は、前代未聞の紅海調査に挑む研究者たちに密着し、神秘の海底景観と深海大探検に迫った「ディープオーシャンII 紅海 海底の魔境に挑む」を担当した制作統括の岩崎弘倫さん、ディレクターの溝渕貴裕さん、潜水カメラマンの高村幸平さんから、番組の見どころや潜水艇に乗った撮影での裏話などを聞いてきました!

――まずは、このシリーズの見どころをご紹介いただけますか。

岩崎 「2016年放送のシリーズIでは、“超深海にすむ魚を探す”などターゲットになるものがあったんですけれども、IIからは“深海の秘境”に挑戦しています。サウジアラビアの紅海は、地政学的理由や、政府、周辺国からの許可の関係で調査が難しい場所とされながらも、非常にユニークな深海の環境があり注目をされていた場所です。そこに、世界で初めての調査を行うということで密着したのが今回の作品になります」

――まだ誰も調査していなかった新しい場所で、非常に苦労も多かったと伺っております。高村さん、いかがでしたか?

高村 「メインで撮影を担当しました高村です。岩崎に『8Kで深海を撮りたい』と相談されたのは2019年で、そこから8Kで深海を撮影できる機材を丸2年かけて開発しました。開発期間もコロナの真っただ中だったので、打ち合わせでリモートを使うなど、ロケに行く前からも本当に大変でした。実際の撮影では、潜水艇の中の居住スペースがすごく狭くて、アクリルの厚さ分、外から見るよりも中はかなり圧迫感がありました。1回航海するのに8時間ぐらい身動きが取れない状態で、ずっと集中して撮影するというのが大変でしたね。想定外だったのが、紅海はほかの海と違って、深い海に行っても水温が全く下がらないこと。自分の撮影している足元に8Kの機材が置いてあるので、その熱が潜水艇の中に充満して汗をかきながらずっと撮影していました」

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

――8時間、長いですよね。溝渕さん、いかがでしたか。

溝渕 「長い時間、密閉空間にいなくてはならないので、体調管理が大変で、前々日ぐらいからみんな緊張していました。前日から食事に気を付けて、当日の朝もご飯や水を極力取らないようにして潜水艇に乗り込むんです。そうしたら、われわれの潜水艇の方は、高村さんも言っていた通り、カメラを積んでいるので40℃くらいでめちゃくちゃ暑くて、湿度もすごく高かったです。カメラを積んでいない方の潜水艇は20℃くらいだったらしいですけど。潜水艇に入るのはかなり負担が大きいので、ローテーション組んで乗っていました」

――撮影の交渉に3年くらいかかったそうですね。サウジアラビアの取材ならではの苦労はどのようなものでしたか?

岩崎 「サウジアラビアは少しずつ国を開く方向に変わってきていまして、実際2019年から観光ビザも出すようになってきてはいるんですけれども、19年から20年にかけてはコロナが始まったこともあり、なかなか日本から入国することすらできませんでした。さらに、深海を調査して撮影ということになると、観光以上にハードルが上がって、港に機材を持って入るのに足止めを食らうというようなことが何度もありました」

溝渕 「船の計画というものは細かくスケジュールを組むのですが、事前取材の際に、出発予定の朝8時に船長がいなくて、10時になっても来ないので『船長何しているの?』と聞いたら、『誰も分からない、神のみぞ知る』みたいな感じのことを言われて、結局、沿岸警備隊からの申請の許可が下りていなかったことが連日あり、スケジュール的にはいろいろ悩まされました。あとは、機材チェックですね。カメラの撮影機材とか含めると1.8トンくらいあって、スタッフ5、6人ぐらいで全部ハンドキャリーで持っていって、みんなで汗かきながら安全管理のためにエックス線を通したんです。何十個の荷物全部通した後、なぜか『もう1回通せ』みたいなことを言われて、理由を尋ねたのですが、何の交渉の余地もなく『いや、もう1回だ』と言われたこともありました。市井の人たちは本当に人が良かった一方、ロケというものにはあまり慣れていない、経験がないということもあって、管理や検査は非常に厳しかった印象があります」

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

――今回、映像として取材に来たメディアは日本だけだったのでしょうか?

岩崎 「外国の放送局として乗っていたのは、われわれのみですね。サウジアラビアの放送局であるサウジテレビは5カ月間の調査の中で、私たちが同行した合計2カ月半とは違う期間に乗ったと聞きました」

――潜水艇は揺れるんでしょうか?

高村 「水中はほとんど揺れないですね。最初につり下げられて、水の中にドボンと入っていくんですけど、そこが一番揺れるかなという感じで、入ってしまえば安定しています」

――今まで潜った海と紅海の違いをお聞かせください。

高村 「圧倒的に透明度が高い点と水温ですね。先ほども話が出たんですけども、一般的に海の深いところは本当に寒いぐらいなんですよね。温度がどんどん下がっていくんですが、今回は全く温度変化がなかったんです。一番下の深い所まで潜っても、21℃っていうのは本当に特殊な環境でした」

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

――紅海をテーマにするというのは、元々温めていた企画だったんでしょうか?

岩崎 「海洋を研究しているいろいろな研究者に聞いても、紅海は“手付かずのお宝”として挙げられるような場所なので、チャンスがあればぜひやりたいと思っていました」

――「ディープオーシャン」では、今回も久石譲さんのすてきな音楽が流れていましたね!

岩崎 「ダイオウイカの『NHKスペシャル』の時から久石さんに音楽を担当していただいているのですが、今回はテーマ曲を含めて7曲、新しく作っていただきました。久石さん自ら指揮をしてオーケストラで収録をされたそうです。海の中に潜ってしまうと国の違いが分からないので、今回は音楽で違いを出そうと、いろいろな民族楽器を使いながら、非常に異国情緒豊かな曲を作っていただきました。久石さんは本当にお忙しい中、担当していただきまして本当に感謝しております」

 紅海で研究者が最も注目するのは、不思議な海底湖「ブラインプール」。塩分濃度が高いため周囲の海水とは混ざることなく、まるで海底にもう一つの水面があるかのような神秘的な光景が広がっています。地球の内部から湧き出したブラインプールの水は酸素ゼロ。海の生き物にとって、誤って入ると命はないデスゾーンですが、30億年前の原始の海に近い環境なんです。もし生物が見つかれば、生命起源の解明につながる大発見に! 果たして、ブラインプールの中に生命は存在するのかが今回の注目ポイントです。

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

――ブラインプールというのは、紅海特有のものなんでしょうか?

岩崎 「これまでに3カ所知られていまして、世界中で40ほどあるといわれているんですが、その半分以上は紅海にあります」

――今回の放送では深さ700mの場所でイワシの大群に遭遇していましたよね。350m以下は光が入らなくてプランクトンもいない中で、どうやって暮らしているんでしょうか?

岩崎 「ハダカイワシ自体は、日周鉛直移動といって、夜になると海面近くまで上がってきて獲物を食べて、昼間はずっと海底深くまで降りるという往復の大移動を毎日のように繰り返しています。われわれは、その昼間の場面に遭遇したということになります。イワシが海の深くに降りてくる理由は、外敵の問題といわれています。イワシと違って、深海にいる小型のエビなどはマリンスノーなどを食べていて、上から降ってくるものに依存している生活といわれています」

――潜水艇で撮影する際の安全管理についても詳しくお伺いできますか。

岩崎 「当然なんですけれども安全は一番重要なことなので、常に留意しながら撮影を進めておりますし、撮影以外でも深海の調査する上で、研究者の方も含めて、安全は最優先の事項として取り組んでおります。船の安全認証をする第三者機関というのがありまして、設計段階から製造の過程、実際に出来上がった時にも検査をしています。その後も、定期的な検査をすることで安全認証を取得しています。今回、2隻の潜水艇を同時に使用していますが、これは非常に安全を担保する上で重要なことでありまして、もし1隻に何か不慮のことが起こった時にも、もう1隻が対応できるという安全の体制を確保しているということで取材に臨みました。安全をないがしろにはせずに、新しい科学研究や撮影も含めて進めていければと思っております」

――深海といえば暗くて怖いイメージを持たれる方もいらっしゃると思います。直接取材されて感じる深海の魅力を教えてください。

高村 「自分は、浅海40mくらいのところまでの撮影をしたことはあるのですが、何回も深海に行っているわけではないんです。今回100mを超えた深い海に潜って感じたのは、宇宙のようで、見たことない風景が広がっているんだなとすごく感動しました。それを見てもらいたいと思いながら撮影しました」

溝渕 「岩崎と一番最初にこの番組の話をした時に、最終的には生命の起源をたどりたいということを話し合いました。今、いろいろと世界が動いている中で、われわれ人間や生物に対しての根本的な問い、探求心のような知りたいという強い思いがみんなの中で醸成されていく場所として、深海があるんだなと強くひかれました。怖さとかではなく、やっぱり“知りたい”し、それを“人に知ってほしい”、それで何か人が変わるかもしれないし、何か感じるかもしれないという意味で“人を引きつけるような魅力”が深海にあると思っています」

岩崎 「よく言われる話ですが、地球の7割は海で、その90%以上が深海。要するに、地球上の生命圏の90.5%以上は深海だといわれているんです。なので、深海を知らないと地球を知ったことにはならないんだろうと、いつも思っています。取材を重ねるたびに感じるんですけど、深海の取材は壁が厚いといわれていて、本当にできることは少ないんですよね。やっぱり、アクセスが難しいですし、安全のこともありますが、“挑み続けなければいけないところ”だと研究者の方も感じていらっしゃると思うので、われわれも映像としてこれからもチャレンジしていきたいです」

――ありがとうございます!

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

 取材会に先立ち、出来上がった番組を試写で拝見させていただいたのですが、世界一透明度が高いといわれている真っ青で奇麗な海中の映像に、久石さんが制作された雄大な音楽が合わさっていて、昨今の猛暑が吹き飛ぶような美しい映像となっていました。また、潜水艇や8Kカメラも紹介されていて、日本の技術にも驚かされました。

 また、今回の放送に合わせて、7月23日深夜0:55から「ディープオーシャンシリーズ」を一挙再放送。さらに、午後7:30からの「ダーウィンが来た!」では、「お宝映像大公開! 深海生きものワールド」というテーマで、これまでの調査や取材で撮られた貴重なお宝映像を一挙公開、深海を大特集します! 皆さんも深海尽くしの週末を送ってみてはいかがでしょうか!

「NHKスペシャル ディープオーシャンII」世界一透明度が高い海、サウジアラビア・紅海の深海調査にNHK取材班が8Kカメラを持って挑む!

【番組情報】

NHKスペシャル「ディープオーシャンII 紅海 世界初!深海の魔境に挑む」
NHK総合
7月23日 午後9:00~9:49

NHK担当 kizuka



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.