【「A-LIFE」伊東歌詞太郎SPインタビュー後編】周囲が変わってもブレない軸、そして生涯をかけて果たしたい“目標”とは2023/06/26
DMM TVにて独占配信中の「A-LIFE」。“Anime song・Animation・Artist=A-LIFE”をテーマに、MCの冨田明宏さん・菅原りこさんが、ゲストの声優・アニソンアーティストとしての人生をひもときながら、スタジオライブを届ける音楽番組の第4回ゲストには、シンガーソングライターとして多岐にわたって活動している伊東歌詞太郎さんが登場。
TVガイドwebでは収録直後の伊東さんに実施したインタビューを前・後編にわたってお届け。前編に続く今回は、ライブパートで披露した3曲の制作秘話、さらに生涯をかけて果たしたいと掲げる伊東さんの“長期的な目標”について伺った。
前編インタビューでは、「自分が好きだから」という、音楽活動の根底にある伊東さんの思いが見えてきたが、番組のライブパートで歌唱した3曲は、すべてアニメのタイアップ楽曲となっている。自身の楽曲がアニメに関わることついては、どんなことを思っているのだろうか。
「アニメのタイアップをいただいたら、絶対にアニメ原作を見ます。でも、『こういう世界で、作者の人がこういうことを伝えたい』という作品の核と、伊東歌詞太郎という存在の間を取ったらいいのかというと、そうしてしまうと、作品にも今までの伊東歌詞太郎にも失礼になってしまうと思うんです。だから、“完全に一致するところ”をまずは見つけないといけないと思っています。自分以外の人が歌ってもその作品に花を添えられたらそれはすごくいい曲だし、伊東歌詞太郎としてもアニメのタイアップ関係なく、ライブとかで歌って『あ、歌詞太郎の曲だ』と思ってもらえたらすごくうれしい。そうやって楽曲を作っていかないと、どちらにも失礼になってしまうという考えは、信念としてはずっと持っています」。
そんな信念を持つ中で、ライブパートで歌唱した三つの楽曲にはそれぞれ強い思い入れを持っているという。まずはTVアニメ「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」(AT-Xほか)のオープニングテーマとなった「サイレントマイノリティー」。
「『サイレントマイノリティー』は、人権というものをどう捉えるかという楽曲で。人権って、大多数で権利を主張できる“ノイジーマジョリティー”、少数だからこそ権利を主張できる“ノイジーマイノリティー”、声を上げられないけど、大多数だから救われている“サイレントマジョリティー”、そして“サイレントマイノリティー”の四つに大別できますよね。その中で、『“サイレントマイノリティー”の人たちってどうなの?』という思いがずっとあって。これは、自分が小学1年生の時から6年間ひどいいじめを受けていて、その時に『大人には頼れない』と感じて、理由を言わずに親に『中学受験をしたい』と言ったんです。そこから頑張って勉強して合格した後、卒業式まで自分は黙っていたんですよ。『黙っている』ということが果たして良かったのか、何が正解だったのかは分からないけど、今も生きていて自分の意見を言えずにただ耐え忍んでいる人たちって絶対にいて、『このままだったらその人たちに一生スポットが当たらないじゃん』という思いがあるんですよ。だから音楽で『伊東歌詞太郎もかつてそうだったから、あなたたちの気持ちも分かる。“黙っている”という戦い方も立派に戦っているんだよ』と、肯定したい思いで作ったのが『サイレントマイノリティー』です」。
続く2曲目は「猫猫日和」。アニメ『夜は猫といっしょ』(TOKYO MXほか)シーズン1に続いての2度目のタイアップとなったが、この楽曲については「うれしくて思い入れが深い」という。
「シーズン1で『ひなたの国』という楽曲を作らせてもらったんですけど、あの曲は自分が飼っていた2匹のネコのうちの1匹が死んでしまった直後に出来上がった曲だったんです。言うなれば死んでしまったネコが主人公で、でもうちのネコはすごくいい意味で、ネコらしくないネコなんですよ(笑)。気まぐれでもないし、ネコなのに人間の都合を考えて生きてくれていて、毎日感動するんです。『猫猫日和』は最初もう1匹のネコのことを書いていたのですが、一般的なネコじゃないなと思ってしまって。アニメの制作チームからも『今回はもっと一般的なネコを書いてくれ』と言われて、『確かにな』とも思っていたんです。そこから、昔、家庭教師をやっていた時にいろいろな家でイヌやネコに合って、保護猫の活動をやっていた時もいろいろなネコにも合って、『一般的なネコってこうだよな』と思い出して書かせてもらいました。元々キュルZ先生の漫画も見ていたので、話が来た時はすごくうれしくて思い入れが深い曲ですね」。
そして、3曲目は新曲「ヰタ・フィロソフィカ」。7月よりスタートのアニメ「わたしの幸せな結婚」(TOKYO MXほか)のエンディング主題歌となっているが、この楽曲制作には“ある本”の存在が大きく関わっていることを明かしてくれた。
「主人公の2人が望まない結婚をする物語で、不器用な2人がだんだん『あれ、よくない?』となっていくんですけど、お話をもらった時にエーリヒ・フロムの『愛するということ』という哲学書を読んでいて。そこには『愛するとは技術なんだ』と書いてあるんですよ。意味が分からないじゃないですか(笑)。だけど読み解いていくと、昔は自分の相手は決められていたから、ほかと比較しないんですね。日本だったら明治時代や大正時代の、かつて歴史が浅かった頃は結婚相手を家柄が決めていた。比較をしないから『あ、私はこの人と一生を添い遂げるんだ』と、今まで培ってきた教養や人格という“技術で愛する”ということができていたんです。でも今は“自由恋愛”というものが、お見合いや家柄の結婚よりも上位であるという価値観で生きているじゃないですか。『すてきな恋愛をして結ばれて結婚をするのは最高に幸せだよね。お見合いなんてかわいそうだ』という価値観でいることが大いなる間違いだとフロムは言っているんです。『自由恋愛という次元の低い恋愛しているやつらのせいで世の中はおかしくなっている』みたいな、結構きついことを言っていて(笑)。そこで生きていると、世の中はこれから狂っていくという警鐘を鳴らしている本でもあるんです」。
哲学書という意外な存在が隠れていたことにも驚きだったが、楽曲制作をするにあたって、「フロムの言葉が大きく支えてくれた」と話を続ける。
「自分としては、それを読んだからこそ、確実に引き出しの一つにはなったんです。すごく感銘を受けて、『わた婚』(わたしの幸せな結婚)という作品のテーマにも一致していると思って、2時間以内に出来上がった曲ですね。あの本を読んでいなかったら全然違うことを描いたと思います。『愛は技術』と言われて『そうか』と思いますよね。自分がそうやって生きられるかは別ですけど、『未熟な人間に愛を語る資格はない。成熟した人格じゃなければ相手を愛するという技術は身につかない』とまで書いてあって、ちょっと考えさせられますよね。だから、すごくタイミングが良かったです! 人生って、その時に必要なものがちょうど来るなと思いました」。
今でも活動の軸になっている動画投稿。今では動画配信をするのが当たり前になってきていると感じることも多いが、近年のネット活動や配信の変化について伊東さんはこんなことを考えていた。
「サブスクリプションというものが一つの大きな柱になっている変化は感じるんですけど、これって賛否あるような感じでニュースを出したりするじゃないですか。僕はそれが間違っていると思っていて。『サブスクリプションをやって利益が減りました。おかしいです』というアーティストもレーベルもいるんですけど、それって今までのように『音楽というものにもうけを出さなければいけない』という構造で活動してきたものが、今の時代に合わなくなってきているだけなのではないかと思っていて。今までお金を出して買わなければいけなかったものが、多くの人に気軽に聴いてもらえるようになったことって、アーティストにとっては非常にいいことではないかと僕は思っているんです」。
サブスクリプションの普及にも、時代の変化にも動じない伊東さん。自身の活動のベースとなっている動画投稿についても周囲の変化を少しずつ感じているという。
「動画投稿に限っていうと、広告を見れば無料で聴いたり見れたりするじゃないですか。それって以前だったら、『無料で聴かせるなんて言語道断!』くらいのことだったけど、『今は無料で聴いてもらうことが入り口としては非常にいいと思う』という考え方の人も一時期に比べたらかなり増えてきましたね。動画投稿というものへの変化はそれぐらいしか感じていないです。むしろ、音楽が好きという人たちは全く減っていないなと感じています」。
身の回りで変わっていることもあれば、自身の軸など変わらないものがあることがインタビューを通して見えてきたが、そんな伊東さんの今後の目標を最後に聞いてみた。
「中期的な目標と、生涯をかけた長期的な目標があるんですけど、中期的な目標は、『日本武道館をフルキャパシティーで埋められるアーティストになりたい』。長期的な目標は、やっぱり『歌がうまくなりたい』です。これから先の活動って、歌がうまくならないと話にならないですから(笑)。80歳で今日と同じように歌が歌えるかというと、今までそうやっている人は世界で1人もいないと思うんです。だから、『死ぬまでずっとこの歌を歌っていく』ということができるように、どうやって自分の体を作っていくかは生涯の目標で、今はそこに向かって歩いているのかなと感じています」。
長期的な目標は、誰も挑戦したことがない、言わば“前人未到の挑戦”となる。そのことにも伊東さんは真剣なまなざしで自身が掲げる思いをぶつけてくれた。
「これってすごくおかしな話で、昔からその話をすると笑われたりもしたんです。『誰もできていないじゃん』『誰もできていないんだから、人類の限界だ』みたいに笑われるんですけど、『今まで誰もできていないからって、僕ができないということにはならなくない?』と昔からずっと思っているので。たばこを吸わなかったり、お酒をあまり飲まなかったりと、日々をどうやって生きていくかは大事なことだと思っています。でもラーメンとかは食べます(笑)。自分としては、そういう目標を生涯の中の一つの目標として掲げて生きていこうと思っています」
【プロフィール】
伊東歌詞太郎(いとう かしたろう)
人気動画プラットフォームで投稿を開始後、オリジナル曲制作にも注力しシンガーソングライターとして開花。「一意専心」(2013年)、「二律背反」(15年)、「二天一流」(17年)のアルバム3枚をリリース。シンガーソングライターとしてのさらなる進化を追求するべく、21年7月にはビクターエンタテインメント/コネクストーンレーベルから再メジャーデビュー。22年2月には初のベストアルバム「三千世界」をリリース。アルバムは4作連続でオリコンのTOP10入りを継続している。18年には初の小説「家庭教室」、20年には初のエッセー「僕たちに似合う世界」も出版。ほかにも楽曲提供プロデュース、声優業、文筆業、DJ・パーソナリティーなどマルチな才能を発揮している。
【番組情報】
「A-LIFE」
6月24日(土)午後11:00よりDMM TVにて
#04 伊東歌詞太郎、井口裕香 配信開始
https://tv.dmm.com/vod/detail/?season=cmj47cv0vh4p54x1ere9p6x0m&spot=true
【配信中】
#01 内田真礼、鈴木みのり
#02 JUNNA、Morfonica
#03 奥井雅美、Machico
取材・文/平川秋胡(テレビ朝日担当) 撮影/蓮尾美智子
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