【「A-LIFE」伊東歌詞太郎SPインタビュー前編】「今思えばよかった」と語れる失敗とすべてに通じる“愛”、多岐にわたる活動の裏側に迫る2023/06/25
DMM TVにて独占配信中の「A-LIFE」。“Anime song・Animation・Artist=A-LIFE”をテーマに、MCの冨田明宏さん・菅原りこさんが、思い出の曲と最新曲からゲストの声優・アニソンアーティストとしての人生をひもとくとともに、思い入れの深い楽曲&最新楽曲のスタジオライブを届ける音楽番組だ。
これまで内田真礼さんやJUNNAさん、Machicoさんなど多彩なゲストを迎えてきた「A-LIFE」だが、6月24日より第4回の配信がスタートした。ゲストは井口裕香さん、そしてシンガーソングライターの伊東歌詞太郎さん。メディアには顔を出さずに活動している伊東さんだが、その活動は多岐にわたる。その裏側で伊東さんがどんな思いを抱えているのか、最新回の見どころの一つとなるだろう。
今回、TVガイドwebでは収録直後の伊東さんを直撃。そのインタビューを前・後編の2回にわたってお届けする。前編となるここでは、収録とともにこれまでのアーティスト人生を振り返ってもらった。
収録を終えた率直な感想をまず伺うと、「実はそこまで長時間だったと感じていなくて(笑)」と意外な答えが返ってきた。さらに、「なんなら、もっと歌ってもいいかなと本気で思ってしまうくらいです」と笑顔を見せる。
「毎日歌を歌っているから、歌うことは自分の生活の中の食事みたいなものなんですよね。食事で緊張することってないじゃないですか。さすがに3年ぐらい食事をしないで食事するとなったら『ちゃんと食えるかな』と不安になると思うんですけど、そういう感覚で歌というものを捉えて生きていかないとダメなんじゃないかと思うんです。だから、『もっとたくさん歌ってくれよ!』と言われても全然大丈夫というか(笑)」。
ゲストの人生を楽曲とともに深堀りするトークパートと、思い出の楽曲と最新楽曲を歌唱するライブパートの2部構成によって出来上がっている「A-LIFE」。その深掘りが最大の魅力だと感じるとともに、自身のアーティスト人生を振り返る機会はなかなかないのではと感じるが、伊東さんも「確かに、なかなかないですね!」とうなずく。
「以前、KADOKAWAから自分のエッセー本を出させてもらった時も全く同じことを考えたんです。あの時も自分の半生を強制的に振り返るような作業だったんですけど、すごく“笑える失敗”をしてきた人生だなと思っていて、その失敗もいいなと思うんです。例えば、『1億円もうけちゃったんだよ』という話があったとして、幸せな人は余裕があるから拍手をしてもらえると思うけど、失恋したり離婚した直後の人に同じ話をしたら、本当に嫌だと思うんです。だけど、失敗したエピソードってどんな状況の老若男女に話しても笑ってもらえると思うんですよね。だから、失敗というのは、テレビとかこういう取材で話して面白いと思ってもらえるネタがたくさんあると感じているので、たくさん失敗をしてきた自分だけど、『今はそれでよかったかな』みたいな気持ちになりました」。
“失敗”という一見マイナスのイメージがあるワードに対してもポジティブな考えを持つ伊東さん。これまでの活動で一番生かされた失敗について聞いてみると、すぐさまこんな答えが返ってきた。
「それでいうと、バンド活動じゃないですかね。伊東歌詞太郎をやる前にやっていたバンドが、何回やってもお客さんが増えなくて。何かやり方を変えないといけないけど、『いや、次から1人ずつ増えていくんじゃないか?』みたいな感じでやっていって、でも実際はお客さんが増えず、メンバーの仲も悪くなって、解散をして。それってすごい失敗じゃないですか。何年も自分の神経を注いできたバンドがなくなるって、一見無駄に見えるけど、そこで得たものってめちゃくちゃ大きくて。『うわ、あれだけ“頑張る”って言っていたバンドが解散してる(笑)』って笑えるけど、その裏では実はものすごくいろいろなものを学んでいたので、“バンドの解散”というのは一番生かされた失敗なんじゃないかと思います」。
さらに、失敗してきたことは自身の強さにもつながっていると言葉を紡ぐ。
「さっきの話にもちょっとつながってくるんですけど、こんなに自分が失敗してきたのはなぜかというと、頭が悪いからなんです。頭のいい人はリスクを先に考えられるんですよ。例えば、『バンドをやってみよう』となった時に、『いや、バンドってこれくらいコストかかって、リスクもあって、親も悲しむだろう』と考えることもできますよね。でも自分はばかだから、そういったことを考えないで『バンドをやりたい』と始めて、そこからいろいろな失敗をしながらバンドを組んで、その後もまたいろいろな失敗していて。そういう経験ができるところは“ばかの強さ”だなと思うんです」。
さまざまな経験を得ることができたという紆余(うよ)曲折のバンド時代を経て、伊東さんは“動画投稿”というスタイルにたどり着いたが、ライブ活動と違って顔の見えない相手に音楽を届けることに、恐怖や抵抗といったものはなかったのだろうか。
「バンドが解散した後に、自分なりに『自分の音楽をどうやって広めていこうか?』と考えた時に、飲食店に掛け合ってライブをさせてもらったり、路上ライブをやってみたり、自治体に行ってお祭りとかで歌わせてもらったり。ライブハウス以外の場所で、どうやって自分の音楽を“強制的に”ほかの人に聞いてもらうかと、わらをもつかみたい思いでやったことの一つが動画投稿だったんです。『お客さんが見えないから怖い』とか、そういうことは一切考えていなかったです。なんでもやるという中の一つでした」。
必死にもがいた中で見つけた一つの答え。話を聞いていると、音楽に対する熱意があふれていることを感じ取れるが、そんな伊東さんはいつ頃からアーティストを目指し始めたのか。「よく聞かれる」というこの質問、実は伊東さんも答えに頭を抱えているようだ。
「これがですね、物心ついた時から『ボーカリストとして生きていく』となぜか定まっていたんですよ。やばいですよね(笑)。『誰かに憧れた』とか『こうだからこう』というきっかけがなくて、何回聞かれても答えられないんですよ。本当に分からない。理想とする人もいないんです。僕は、“憧れ”というものは足かせになってしまうと思うんです。仮に今憧れている人がいたとしても、その業界に行ってプロになった時に、絶対にその人と戦っていかなければいけない。そういう思いは持っていないといけないと思っています」。
独自の考えを持つ伊東さんだが、その活動内容は多岐にわたる。楽曲制作や楽曲提供、さらには執筆活動とさまざまな活動の中で、すべての活動を通してどんなことを大切にしているのか。すると「やっぱり、愛ですね」とキッパリ。
「どんな仕事をしていようが、どういう生き方していようが、やっていて楽しいと思うのが間違いなく愛です。楽しいって愛だと思うんですよ。自分は音楽を愛しているから音楽をやっていて楽しいし、友達とご飯を食べる時も『こいつ好きだ』って思うから友達なのであって。そうやって生きていかないと、人生って満たされていかないんですよ。『この人とつながっていた方が自分にとって得だから』という損得で人間関係を選んでいるとキツいと思いますよ。僕の活動に限らず、愛というものを基準にすべてを捉えていかないとキツいです」。
多くの活動をしていれば、愛を感じる瞬間もそれだけ増えるはず。これまで一番愛を感じた瞬間はどんな時なのだろうか。
「自分としては音楽というものを心の底から愛しているんですけど、その音楽というものに振り向いてもらっているかどうかという実感はまだないんですよ。でも、愛を持ってずっと音楽をやっていくと、前よりも音楽という存在が自分に向いてくれている瞬間がちょっとずつ増えてきたという喜びはあるんですね。だから、愛というものは音楽に対してずっと常に考えているけど、愛されているよりは自分が愛していくことを感じながら生きていると思いますね」。
近年では、SNSでファンの反応もすぐに見られるようになった。そういった声について、伊東さんらしい答えが返ってきた。
「これは少し難しい話になるんですけど、お客さんの反応に対しては『ありがとうございます』と、それ以上でもそれ以下でもあってはいけないというか。自分は音楽に救われてきた人間だから、かつては、自分の作る音楽で人を感動させたり、人の人生を救っていきたいという思いは確かにあったんです。だけどそれは大きな間違いで。音楽は人を救うために存在しているわけでもないし、人を感動させるために存在しているわけでもなく、音楽に触れた側がその音楽に『感動した』『救われた』と思っているんですよ。だから、お客さんを感動させるためではなく、自分が好きだから音楽をやっている。音楽をやっている時点で、自分の愛はものすごく満たされているのに、その音楽を聴いて『感動しました!』って言ってもらえることって予想だにしないことで、『そんなうれしい感想をくれるの? まじかよ!』という気持ちなんです。“感想”というのは、自分でも考えていなかった喜びの一つという感じです」。
感想や反応に対する斬新な角度からの考え方、聞けば聞くほど「なるほど」と考えさせられるが、「自分の音楽とそれに対する感想は、完全に切り離されている世界なんです」と続ける。
「自分の音楽に救われた人がいたり、それがきっかけで結婚したりしたら、それはすごくうれしいんですよ。でもそこを目指してやっているとなると、『自分の音楽で反応がもらえなかったら、お前は音楽をやめるのか? じゃあ音楽って手段じゃん』と、うそをついている感じになってしまう気がして。『だったら、音楽じゃなくてほかの手段で感謝された方がいいんじゃないの?』と思ってしまうんです」。
明日公開の後編では、ライブパートで披露した三つの楽曲についての制作秘話をお届けする。さらに、近年の“動画投稿”に対しての、伊東さんの考えや生涯をかけてかなえたい目標についてのお話も。お見逃しなく。
【プロフィール】
伊東歌詞太郎(いとう かしたろう)
人気動画プラットフォームで投稿を開始後、オリジナル曲制作にも注力しシンガーソングライターとして開花。「一意専心」(2013年)、「二律背反」(15年)、「二天一流」(17年)のアルバム3枚をリリース。シンガーソングライターとしてのさらなる進化を追求するべく、21年7月にはビクターエンタテインメント/コネクストーンレーベルから再メジャーデビュー。22年2月には初のベストアルバム「三千世界」をリリース。アルバムは4作連続でオリコンのTOP10入りを継続している。18年には初の小説「家庭教室」、20年には初のエッセー「僕たちに似合う世界」も出版。ほかにも楽曲提供プロデュース、声優業、文筆業、DJ・パーソナリティーなどマルチな才能を発揮している。
【番組情報】
「A-LIFE」
6月24日(土)午後11:00よりDMM TVにて
#04 伊東歌詞太郎、井口裕香 配信開始
https://tv.dmm.com/vod/detail/?season=cmj47cv0vh4p54x1ere9p6x0m&spot=true
【配信中】
#01 内田真礼、鈴木みのり
#02 JUNNA、Morfonica
#03 奥井雅美、Machico
取材・文/平川秋胡(テレビ朝日担当) 撮影/蓮尾美智子
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