【推しの作家さま】「春は短し恋せよ男子。」政池洋佑2023/06/13
ドラマになくてはならない存在である作家=脚本家を深掘りする、完全無料&安心の会員制コミュニティーサービス「TVガイドみんなドラマ」のコラム「推しの作家さま」。こちらをTVガイドWebでも展開! 今回は、日本テレビで放送中の連続ドラマ「春は短し恋せよ男子。」の政池洋佑氏を紹介。
政池脚本の魅力は、原作のエッセンスをつかみ取る的確さ
とにかく、その活躍が目覚ましい。今年の春に放送、配信のドラマだけでも「春は短し恋せよ男子。」のほかに、テレビ東京の「ゲキカラドウ2」や「シガテラ」、Paraviの「俺の美女化が止まらない!?」「クロちゃんずラブ」など、執筆作品がめじろ押し。ここ数年、深夜ドラマを中心に注目を集めている政池氏だが、深夜ドラマファン以外にもその名を知らしめた作品といえば、何と言っても2022年の劇場映画「ハケンアニメ!」だろう。同作で、第46回日本アカデミー賞の優秀脚本賞も受賞した。
「ハケンアニメ!」は、アニメ業界を舞台にした血湧き肉躍る青春熱血ストーリー。辻村深月氏による原作はすでに圧倒的だが、映画版はさらに熱い。プロデューサー、新人監督、アニメーターの3人の視点からアンソロジー形式で描かれていた原作を、映画版では実になめらかに一つの時間軸の群像劇へと再構築している。その鮮やかさは、原作者の辻村氏をして「小説もこうすればよかったな」と言わしめたほどだ。何より、膨大な原作を2時間余の映画に収めるために、そこそこ手を入れているにもかかわらず、原作の世界観がいささかも揺らいでいないのがすごい。むしろ、高い次元に昇華させているようにすら見える。この原作のエッセンスをつかみ取る的確さ、構成力の巧みさは、テレビドラマにおいても政池脚本の大きな魅力となっている。
放送中の「春は短し恋せよ男子。」(以下「はるだん」)でも、その魅力は顕著だ。ほぼ原作通りのストーリーながら、男子4人の青春ドラマになっている。恋や愛に全然関心がなくて無邪気にふざけ合っている時の関係性もきちんと描かれ、なおかつそれをキープしたまま一人一人が恋に目覚めていく過程も、とても心地よい。その後の展開のヒントが第1回に全部詰まっていたあたりも、再見する楽しみに配慮されていてなんとも心憎い。
それにしても、主人公たちを演じる岩﨑大昇、那須雄登、藤井直樹、金指一世の4人のハマり具合は、ちょっと奇跡的だ。設定は概ね原作通りなのに、彼らに当てて作られたキャラクターなのか、と思うくらい。4人の優れた表現力の賜物と言ってもいいだろう。主人公たちが胸に秘める恋はみな個性的で、それゆえ悩みも異なるが、どの悩みにも彼らなりの切実さがある。もちろん原作の力ではあるが、それ以上に、ドラマならではのリアリティーを感じる。まさに、ドラマの中でキャラクターが生きている。
「はるだん」はまさに“キャラクターが生きている”作品
“キャラクターが生きている”ことを一言で説明するのは難しいが、例えば、何ということもないドラマのセリフが頭から離れないことがあるのではないだろうか。登場人物が口にすることで言葉がキラキラと輝き、特別な価値を持ち始めるような…。今回の「はるだん」でいえば、志倉刀磨(金指)が日高太陽(岩﨑)に事あるごとに言う「おまえ、ほんとにバカだな〜」というセリフの愛情あふれる感じなどだ。やはりこれは、キャラクターと彼らの関係性に、独自の魅力があるからではないだろうか。もちろん脚本家1人ではなく、俳優や演出家とのコラボレーションでこそ成立することだが、ベースとなるのは、やはり脚本家の力だろう。
こうしたキャラクターを作る力、立たせる力は、ドラマの脚本家にとって最も重要な要素の一つだ。テレビドラマは「この後どうなるんだろう」「どんな結末なんだろう」と、ストーリーの面白さで語られることが多いが、実はキャラクターが生きているかどうかが、連続ドラマを見る最大の魅力なのだ。
「はるだん」では、政池氏のキャラクター力が遺憾なく発揮されている。心の声が聞ける太陽、寝起きの悪いイケメン皆月青(那須)はもちろん、心優しい織田偉人(藤井)や優等生の刀磨は、ドラマになったことで原作コミックより明らかに大きく魅力的なキャラクターになっている。橘柊(永瀬莉子)やリカチこと真壁梨香(香音)、皆月紅(鈴木ゆうか)などの女性も生き生きと輝いている。そもそも女性群が、折に触れ芯を食った発言をして物語を進めているのが「はるだん」の特徴。ドラマの結末とは別に、今後の彼らをずっと見ていたいような気持ちになる。これこそキャラクターが生きている証拠だ。
太陽が柊にどんどん引かれていく気持ちの動きを軸としながら、刀磨とリカチのイチャラブ(杉山も格好よかった)、偉人の紅への恋心などを順に描き、最後はいよいよ青のターン。いろいろと伏線も回収されてきそうで、楽しみは尽きない。でもちょっと終わってほしくないような気も。極端な話、キャラクターができてしまえばドラマはいつまででも続けられるのだから…。
ちなみに、政池氏には、各年代で青春ドラマの傑作を手掛けた名脚本家・鎌田敏夫氏に似た資質を感じる。原作のドラマ化に力を発揮している政池氏だが、ここはぜひオリジナルドラマ、特にオーソドックスな青春ドラマやホームドラマを見てみたい。
【番組情報】
「春は短し恋せよ男子。」
日本テレビほか
月曜 深夜0:59~1:29
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