塚地武雅が「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」で見せた細かいこだわり。「漫画のコマに合わせました」2023/06/05
4月にNHK BSプレミアムで放送して注目を集めた「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」が、5月29日からNHK総合の「夜ドラ」枠で放送中! 5月29日から6月1日までは、鈴木福さんや又吉直樹さん、加藤茶さんに水上恒司さんなど、豪華キャストが藤子先生のSF短編漫画の実写化に花を添えました。6月5日からは、塚地武雅さん、青木柚さん、吹越満さん、金子大地さんが実写化に挑戦しています。
前回に続き、6月5日放送の「昨日のおれは今日の敵」で主人公の漫画家を演じた塚地武雅さんのインタビュー後編をお届けします! 物語はある漫画家(塚地)が締め切りに追われるも、睡眠の誘惑に負けて寝てしまい、さらなるピンチに陥った時、タイムスリップして過去の自分に出会うストーリー。塚地さんは漫画家A、B、Cと1人で3役を演じたのですが、撮影の舞台裏はどのようなものだったのでしょうか?
――漫画家役は原作に忠実に演じられたのですか?
「台本に描かれていた漫画の扉絵を見た時に、絶対に主人公に似せたいと思いました。フォルムは近いのでこのまま生かし、なおかつ無精ひげがあるので、ひげを伸ばしました。その後のカツラ合わせでカツラを着けたらスタッフ陣から声が上がって、撮影に入った時にも『おお!』と言われて。そのまま出てきたと思ってもらえたことがうれしく、極力漫画にしたくて、ドラマですが漫画の口調を心掛けました。幼い頃、『ドラえもん』ののび太がなぜ『~かしら?』という語尾なんだろうと気になっていて、それが今回のセリフにもあったから、先生の独特な言い回しや品のある言葉遣いは意識しました。ただ、現代に置き換えているから、変な違和感が出ないようにさじ加減やバランスは考えました」
――では、どんなシーンが難しかったですか?
「基本的にはどれも楽しかったんですが、過去に戻って漫画家AとBが掛け合いして、会話のトーンがだんだん上がっていく場面があって、AとBの温度感をそろえる作業が難しかったです。僕が2人いれば合わせることができるけど、1人ですからね。編集のおかげもあって、過去の自分と出会っている面白さがオンエアで出ていて、『やったぞ』と手応えを感じました。最初、1人で出てきた時の風体が昭和チックで、ひげが生えていてカツラをかぶっていて『変だな』と思っている中、もう1人同じ人間が出てきて、最終的には『えー! 3人に!?』と驚かせることができていたらうれしいです。それに、ほかの短編集の作品に比べると、一番ポップな世界観で共感もむちゃくちゃあるだろうし。“少し不思議(SF)”が入ってきますが、違和感がないほのぼのとした終わり方で。漫画家本人たちは切羽詰まっていますけど、これで死ぬわけじゃないし、きっと3人で力を合わせて締め切りに間に合ったんだろうと思える内容になっていて。おそらく先生が締め切りギリギリでこのまま書いちゃえと思ったエピソードなのかなと思えるラフさもあって好きです」
――見た目以外にもこだわったところはありますか?
「漫画のコマの動きに合わせました。近寄っていく時の手や、漫画のコマの気持ちいい箇所を再現したくて。台本と漫画を照らし合わせてセリフを覚えるので労力は2倍。なかには自分の感覚でやりたい人もいるでしょうが、先生の作品が好きやし、先生の漫画で動きたい気持ちがあったから、そんなことせんでええのに合わせていました(笑)。昔から短編集を読んでいらっしゃる方やこれから気になって読む人に『そういえばあの時のコマの手、塚地が合わせに来てたな』と思ってもらえたらと。もしくは、後の考察で分かってもらえたらうれしいです。ぜひ皆さん、録画やNHKオンデマンドなどで見直すような見方をしてほしいです。それくらいこだわったので」
――テレビを見ながら、原作を開いて確認したいです!
「扉絵を再現したシーンを見るだけでも楽しいと思うんです。撮影の時は近い背景の絵にしてもらっていたけど、グリーンバックで撮影していたので、どうなるか分かっていなくて。だから、扉絵では右手は電話にかかっているのに、出来上がったものを見たら電話に右手がかかっていなくて、それが後悔。手もパーになっているけど、先生の絵では表か裏か分からないんです。片目をつぶる表情も合わせたんですよ。何人かそれに気付いていらっしゃる方がいて、『塚地、ちゃんと見てるな』というコメントもありました」
――そこまでこだわったんですね! では、監督やスタッフと相談して気をつけたところはありましたか?
「監督も含め、撮り方も皆さんが漫画を見て『この感じでいきたいです』とお話をされて、同意見なのでタッグを組んでやらせてもらいました。ただ、1役ではなく3役やることになるから、CGで合わせなくてもいけるようにと、相手役としてうちの事務所の後輩で僕と背格好が似ているやつを2人選んで、後ろ姿の時は彼らにいてもらったんです。それなのに、2人のうち1人が撮影に至るまでの期間中にダイエットしていたんですよ(笑)。当日、背格好が合えへんぞとなって、ほぼそいつは使われず、もう1人と僕でやることになりました。『顔は映らないけど、現場のことを学べるせっかくのチャンスをお前は痩せたことで失ったんやぞ』と言ったら、『すみません、ウオーキングにハマってしまいまして』と言っていました(笑)」
――そんなことがあったんですね(笑)。ほかにはどんなことがありましたか?
「みんな気付いているのかな? グルグル回りすぎてふわーっとなって時空を超えるシーンは、タイムスリップしているのにむちゃくちゃアナログなんです。実はラップを両端に持ってもらって、顔でちぎっているのをうまいことCG合成しているんです。ただ、顔のゆがみは本当にリアル。CG技術と手作りの部分が融合しているのも面白いです」
――塚地さん的にはやり残したことはないですか?
「もうちょっと漫画に寄せてもよかったという場面はいっぱいあります。座布団の下に潜り込んで『わーっ』と叫んだ後、座布団を外して『はっ!』と言っている時に、ウィッグがずれているから目に毛がかかって表情が見えにくくなっていたので、自毛ならそれはなかったのにという後悔はあります。もし時間をいただけたなら、あの長さまで髪を伸ばしてやりたかったです。それに、この主人公は僕より少し痩せているから、これに近いフォルムになるまで体重を落とすのも手だったなと。なるべく似せたい、寄せたいという気持ちはすごくありました。衣装も今回はオレンジチックなズボンでしたが、先生には聞けないにしても、関係各位に何色をイメージしていたと思いますかという取材から始めたかったかも。リサーチ不足が悔しいです(笑)」
――ありがとうございました!
【番組情報】
藤子・F・不二雄SF短編ドラマ
NHK総合
月曜~木曜 午後10:45~11:00ほか
NHK BSプレミアム
日曜 午後10:50~11:20
取材・文/K・H(NHK担当) 撮影/kizuka
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