塚地武雅が「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」で意志薄弱な漫画家役に!「一瞬、俺のこと?と思いました」2023/06/04
4月にNHK BSプレミアムで放送して注目を集めた「藤子・F・不二雄SF短編ドラマ」が、5月29日からNHK総合の「夜ドラ」枠で放送中! 5月29日から6月1日までは、鈴木福さんや又吉直樹さん、加藤茶さんに水上恒司さんなど、豪華キャストが藤子先生のSF短編漫画の実写化に花を添えました。6月5日からは、塚地武雅さん、青木柚さん、吹越満さん、金子大地さんが実写化に挑戦しています。
どの作品も見逃せませんが、今回は、6月5日放送の「昨日のおれは今日の敵」で主人公の漫画家を演じた塚地武雅さんを直撃! 藤子先生の大ファンでもある塚地さんが、作品への思いや先生に対する熱い気持ちを語ったインタビューを2回に分けてお届けします。
――まずは、オファーを受けた時の気持ちから教えてください!
「ちょっと上の世代の人は手塚治虫先生から入る感じでしたが、われわれの世代は、藤子先生の作品を必ずと言っていいほど読んでいて、幼い頃は漫画家になりたかったです。当時は、ほかにどんな作品があるんだろうと古本屋で藤子先生の作品を探すことが日課で、テレビ放送されていない作品を探すのが楽しみでした。『バケルくん』や『もじゃ公』『トビンソン漂流記』『まんが道』など、いろんな作品を見つけましたね。一度、藤子不二雄先生宛てに年賀状を送ったら返事が来たんです。全キャラクターが行進している絵が描かれていて、『あけましておめでとう。これからも応援よろしく』というコメントが書いてあったんですよ」
――すごいですね! そんな幼少期を過ごしたのであれば、今回のオファーはより一層、喜びが大きかったのでは?
「そうですね。何よりこの作品は、主人公と見た目が似ている自信がありました。ウィッグと衣装を用意してもらって、自前のひげを伸ばして。今回の短編集シリーズの主人公の中で一番似てるんちゃいますか(笑)」
――付けひげではないんですね!
「そうなんですよ。自分のひげで出たのも初めてじゃないかな。今までいろんな人から『藤子不二雄先生の漫画に出てきそうなルックスだよね』と言われていたし、芸人の中で『ドラえもん』を実写化するならというランキングで、1位になったこともあるんです。相方の鈴木(拓)がのび太みたいだし、困っている鈴木を俺が助けるというコンビの形がもう『ドラえもん』と構造が一緒ですもん(笑)」
――塚地さんが演じる「ドラえもん」も見てみたいです。今作は、締め切りに追われる漫画家がタイムスリップする物語です。台本を読んでいかがでしたか。
「原作は読んで知っていたのですが、台本には俺が演じる主人公の漫画家A、B、Cのセリフやト書きがあって、やはり面白いと思いました。その後、セリフを覚えるためにもう一度読み始めた時、ト書きで区切られているけど、ほぼ俺のセリフだと気付いて、『これは、至難の業やぞ』と。15分のドラマで撮影日数も少ないのに、ページ数とセリフ量の多さに驚きました」
――ほとんど一人芝居ですが、撮影はどのように行われたのでしょうか?
「基本的には朝から晩まで漫画家A、B、Cとしてひたすらしゃべるシーンを撮っていました。1人で3役を演じるので、漫画家Aの撮影が終わったら、漫画家Bの撮影、Bが終わったら漫画家Cを演じるの繰り返しで、『次は何やったっけ?』と混乱するので、撮影日前の夜はひたすら台本を読んでいました。覚えるのが本当に至難の業で、Aだけ覚えてもあかんし、Bだけ覚えてもあかん。AとBとCのやりとりも覚えなくてはいけないので、『無理や』と主人公と同じように途中で寝たら朝になっていて、現場で覚えることになったので、役作りはバッチリです(笑)。主人公と同じ気持ちで演じることができました」
――意志薄弱な主人公をどう思われましたか?
「一瞬、俺のこと?と思いました。お笑いライブに出ている頃は、毎月少なくともネタを2本作らなくちゃいけなくて、追われる作業だけどギリギリまで作らないですね。前々日から動き始めて、前日に完成することが主だったので、身につまされるものがあります。『エンタの神様』(日本テレビ系)に出ていた頃、芸歴5、6年目で、自信のあるネタのストックが20本くらいあったので毎週のように出してもらって、名誉なことやしたくさんの人に知ってもらえてうれしいと思っていたんですが、だんだん追いつかれ始めて、ネタを作ることになったんです。最初のうちは書いたネタを若手のライブに飛び入りゲストとして参加して、ウケなかった箇所を省いてブラッシュアップして『エンタの神様』の収録に臨んでいたのですが、そのライブに出る時間すらなくなって、後半は撮って出しのような形で、どこがウケるか分からないネタをオンエアされる状況でしたが、そんな時でも前日は寝ますから(笑)」
――寝たんですね(笑)。
「当時、ネタ作りのために、昔の昭和ながらの小説家みたいにホテルに缶詰にされて、午後8時、9時くらいにホテルに入って、深夜2時、3時までにはネタを仕上げなくちゃいけなかったんです。その間、鈴木は寝ているんですよ(笑)。ネタが出来上がったら鈴木とネタを合わせて、良くなったらディレクターに電話して。ディレクターが来たらカメラで撮って、それを持ち帰ってカット割りを決めて、リハーサルに間に合わせるという流れでした。でも、鈴木の寝ている寝息が隣の部屋から聞こえてくると、1時間くらい寝ていいよなと思ったので、主人公の気持ちはむちゃくちゃ分かります」
――ネタのアイデアが降りてこない時はどうされていたんですか?
「とにかく室内でもどこでも、何にも浮かばないとブツブツ言いながら歩きました」
――まさに主人公と同じですね! そのような経験があると、より今作に気持ちを投影できたのでは?
「そうですね。本当に自分のことのようですし、締め切りに追われてもの作りをしていたので、全く一緒の気持ちでした。もし俺がこの“少し不思議(SF)”を体験していたら、過去の自分に任せていましたね」
――原作と異なるドラマならではのオリジナルの要素はありますか?
「現代に置き換わっているところです。スマホや動画を見ているところが今っぽいです。細かい部分でも、こっちの方がいいと思ったところは現代っぽく変えています。現代に置き換えても通用する内容が先生の深みで、今見ても色あせない強さがあるから、直せるところは直しました」
――藤子先生の作品で好きなものを一つあげるとしたら、どの作品になりますか?
「『まんが道』です。藤子不二雄として、お二人で描いていた時代にどうやって漫画家になって作品を生み出していったのかを描いた、ある種の青春群像劇。それまで漫画と伝記は別々の作品として出すイメージでしたが、それが一緒になっていることが斬新だったし、作品を読んでいると先生たちのことにも興味を持ち始めるから、新鮮でした。それに、『トキワ荘』という存在。一流の漫画家が同じところに住んでいたことがドラマチックですし、自分たちのお話を描いてもこんなに面白いんだと思いました。加えて、A先生とF先生のタッグを組むスタイルも珍しかったし、その裏側を知れたのもよかったですね。当初は1人で漫画を描いていると思っていたのですが、ある時、A先生とF先生の絵のタッチの違いに気付くんですよ。そして内容もちょっと怖いものがA先生で、かわいらしいのがF先生だということにも気付き始める。先生たちのスタイルも含めて多くの驚きがありました」
――確かに、お二人で描かれていることを知った時は驚きました。
「そんな中、メジャーな作品をポップに描いているF先生が短編集を描かれて、今までのテイストの作品だと思って読み始めたら、ちょっと怖かったのがセンセーショナルで。今になれば、俺たちもお笑いをやる時に、ポップで万人が笑えるネタにするか、怖さが受けるひねりの効いたシュールなネタにするかと悩んだので、先生が短編集を描かれた気持ちは分かります。メジャーな作品とは異なる、描きたいものをちゃんと描いて、それをライフワークにしたところに先生の面白さがありますよね」
――藤子先生の作品は普遍的なメッセージがあるものが多いですよね。
「『東京リベンジャーズ』が生まれる前からこんな作品を描かれているんですから、すごいですよ。最近はタイムリープと言いますが、われわれの世代はタイムスリップと言いたい。古いと言われますが、普遍的だよと。『ドラえもん』でもタイムスリップしますしね。また、別の作品ですが、『流血鬼』も海外ドラマの『ウォーキング・デッド』みたいなことを何年も前にやっていたと思うと、先見の明とその深さにすごみを感じます」
――「流血鬼」の話が出ましたが、今シリーズで印象深かったのはどの作品ですか?
「ドラマで一番印象に残ったのは、『定年退食』です。加藤茶さんも井上順さんもベンガルさんも、人生が役にちゃんと出ていて。グループサウンズにハマった方が見ると、スパイダースとドリフターズが共演している深みもあるし、役者、コメディアン、音楽をやってきた方々ならではの格好よさがありました。自然な演技をされていて、あの年齢で魅せることができる諸先輩方は偉大だなと思ったし、ああなりたいです」
――もしタイムスリップをするとしたら、いつに戻りたいですか?
「コンビ始める前に戻って、もっとイケメンの相方と組む(笑)。最初、いろんな人に『塚地くんのキャラクターやったら、イケメンのツッコミの子が相方だったらすぐに売れる』と言われて、『変なやつと組んでしまった!』と(笑)。でも、日の目を浴びるようになっていくと、『どうだ、俺だっていけるんだぞ』と思えたので、そこはクリアしているな。となると、この世界に入った27年前の体重の56kgの頃に戻りたいかな」
――それはなぜですか?
「当時は鈴木と近い体重で見た目にあまり差がなくて、普通とよく言われていたんです。その後、太りだしてキャラが1個付いて、『おなか空いた』と言うだけでウケるありがたいフォルムを手にしましたが、その分モテなくて。最初の選抜で“モテる”というブロックがあって、太っている人と標準体重の人だったら、標準が勝ち上がるから、この時点で俺は1回戦敗退。脱サラしてこの世界に入ったんですけど、社会人の頃は気を付けて体も絞っていたんです。それがこの世界に入ってお金がない時代に、養成所の同級生のお米屋さんの息子から米をお裾分けしてもらって、ちょっと味付けしたチャーハンをおかずに白メシを食っていたんです。当時は肉を食べたら太ると言われていた時代だったから、メシを食う分にはええやろと思って食べていたらどんどん太って。それでウケ始めたから、完全に甘えちゃったけど、56kgをキープしていたらどうなっていたんだろうと思うんです」
――体重をキープしていたら、どうなっていたでしょう。
「今と同じように『はねるのトびら』(フジテレビ系)のレギュラーに選ばれていたのか、ドラマ『裸の大将』(フジテレビ系)の主役は回ってきていたのか、今回のドラマにキャスティングしてもらえていたのかと、気になるところではあります。もし体重を落としていたら、『裸の大将』のオファーも来なかっただろうな。今もちょっと太っている要素が入っているキャラクターにキャスティングしてもらえたりするし。でも、太っていなかったら、もっとストイックでとっつきにくい格好いい人になれていたかもしれない。スリーピースのスーツを着て、ロングヘアーでロックアーティストの方向だってあったかもしれない。中・高校生時代はミュージシャンに憧れていたし、特撮ヒーロー、ジャッキー・チェンのようなカンフーアクションスターにも憧れましたね。だから、タイムスリップができたら、養成所の入学前に戻って節制した生活をやり直したいです」
――先ほどから話題になっている相方の鈴木さんからは、今作について何か言われましたか?
「ないですね。彼は俺の作品を見てくれないので、今回も見ていないでしょう。見たら見たで俺が悩んでいた葛藤を知って、身につまされると思いますよ。ネタを考えている間、鈴木は隣で寝ていたので(笑)。深夜にホテルで考えていたら、しっかり寝て起きたであろう鈴木から内線がかかってきて『できた?』と言われるんです(笑)。絶対に作ってもらっている方が言っちゃ駄目なセリフじゃないですか。できたら言うよ。『できた?』『どれどれ?』じゃないんですよ(笑)」
――では、今作をお見せして…。
「『これはあの時の俺だから、ちょっと見といてくれ』と。それでも何も感じへんのちゃうかな。ライブ時代に稽古場に2人で泊まって、デスクで俺がずっとネタを書いている時も、下向きながら寝ているのに考えているふりをしていて、一番ひどいのはトイレに行って、2、30分帰ってけえへんのですよ。倒れているんじゃないかと心配して見に行って『大丈夫か?』と聞いたら、『大丈夫、大丈夫』と。なんか怪しいと思って上からのぞいたら、釣りの仕掛け作っていたんです(笑)。『俺が考えている間は、暇な時間ちゃう』と。まあ、隠れてやっているだけ偉いんですかね」
――微妙に気を使っていらした(笑)。
「ネタを書いている間に、ネタで使うネイビーのベーシックなエプロンを2枚買ってきてくれとお願いしたことがあって、約2時間後に帰ってきたら、釣りざおを持っていたんです。それ以外何も持っていないから『エプロンはどうした?』と尋ねたら、『あ、忘れた!』って。電車に乗っているうちに休憩時間だと思い込んだみたいで、自分の欲しかった釣りざおを買って帰ってきたこともありました(笑)」
――ドラマのタイトル「昨日のおれは今日の敵」と同じで、まさに敵ですね(笑)。
「“昨日の鈴木は一生の敵”です(笑)」
――話は戻るのですが、演じるにあたって、藤子先生ゆかりの地を巡られたそうですね。
「事前番組で藤子・F・ミュージアムに行きました。原画が展示されている場所では、修正ペンで原画を直して新たに書き足しているところがむちゃくちゃたくさんあったのを発見したんです。先生は天才的な人だから、一発本番の人だと思っていたんですけど、むちゃくちゃ直されていてストイックだなと。お話を聞いたら、雑誌と単行本でコマやセリフを変えて、いつまでたっても納得しないと。見れば見るほど直したくなって、浮かんだアイデアを入れたくなる人だったことが知れて、さらに好きになりました。感覚で描いたのではなく、何度も見て『違うな』となる。これはすごいことですし、雑誌に出たらもう完結。単行本はそのままと思うところを、最後の一言や構図、日の光の加減、上っていく階段の上の背景や風景を変えていたという話を聞いて、漫画界に大きく一石を投じたレジェンドだと強く感じました」
――塚地さんの創作意欲も触発されたのでしょうか?
「事務所のライブが月頭に6日間あって、初日でウケなかった箇所は直して、翌日試して、6日目には1本の完璧なネタが出来上がるという、細かく直す作業をしているんです。うちの相方はそれに付いてこられないから、うまくいった試しがなくて、テレビでちゃんと完成したネタを披露できたことが一度もないです。必ず間違えているんだ、あいつが(笑)。そうして修正していくところはリンクする部分ですね。ミュージアムを巡ったことで、先生は、内面の2面性をメジャーな作品と短編集で使い分けていて、これを合わせた時に先生なんだなとあらためて思いました。先生が短編集を描いていることを知らない人がまだたくさんいらっしゃるでしょうから、このドラマを介して原作の短編集にたどり着いてもらえたらうれしいです」
――ありがとうございました!
藤子先生やお笑いライブの思い出などを笑顔で楽しそうにお話してくださった塚地さん。明日はドラマ放送後に、今だから話せる撮影エピソードをお届けします!
あらすじ(6月5日放送)
ある漫画家(塚地)の仕事場。たった1人の助手(アベラヒデノブ)も彼の無計画ぶりに愛想を尽かし辞めてしまった。明日が締め切りだというのに原稿は全くの白紙状態。大好きなマージャンの誘惑もなんとか断り、机に向かおうとするが、隣の新婚夫婦(本多力、宮下かな子)の様子が気になって集中できない。1時間だけ!と思って寝たところ朝になってしまい、編集者(高橋努)が訪ねてきてピンチに。自分の愚かさに嫌気が差した漫画家がある行動に出ると…!?
【番組情報】
藤子・F・不二雄SF短編ドラマ
NHK総合
月曜~木曜 午後10:45~11:00ほか
NHK BSプレミアム
日曜 午後10:50~11:20
取材・文/K・H(NHK担当) 撮影/kizuka
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