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「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】2023/05/02

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

 5月10日~14日に神奈川・横浜赤レンガ倉庫1号館ホール、5月25日、26日に京都府立文化芸術会館ホールにて、コントライブ「やってみたいことがあるのだけれど」を開催する男性ブランコ

 2021年に「キングオブコント」で準優勝となり、さらに22年、「M-1グランプリ」のファイナリストとして“音符を運ぶ”というネタで爆笑をかっさらった2人。昨年「キングオブコント」優勝を目標に2月から8月まで毎月開催した単独ライブは、全公演が即完。12月には東京・池袋のサンシャイン水族館を舞台にコントを紡ぎ、その独創性のある世界観には多くの感激の声が寄せられた。

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

「今の僕らにしかできないことをやりたいなって」。

 躍進を続ける中で、変わったこと、変わらないこと。過去最大規模の単独ライブを前に、浦井のりひろさん、平井まさあきさんの“今”にフォーカスを当てたロングインタビュー。

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

――5月に開催されるコントライブ「やってみたいことがあるのだけれど」は、お二人の単独ライブとしては過去最多の公演数、動員数になると思います。この規模での開催を決めた理由を教えてください。

平井 「男性ブランコとして全国ツアーを目標に掲げているんですけど、今回が初めての横浜と京都の2都市公演になります。厳密に言うと、昨年3月に『変身東京ウミウシ』と『変身大阪ウミウシ』というコントライブで、東京と大阪の2都市に行かせていただいたんです。ただ、その時はそれぞれ1公演だったので、気持ち的には省いていて。全国ツアーとして7、8都市を回るのはちょっとまだ怖いなということで、2都市から始めようと。これがちゃんと埋まったら、徐々に増やしていけたらいいなと考えています」

――大きな挑戦を決めて、今はどんな心境ですか?(取材は4月中旬に実施)

平井 「まだ完全にはできていないので、実感が湧かないというか。もうヤバいんですけどね、1カ月後なんで。なんとか成功させたいですね。いいものをお届けしたいです」

浦井 「長いことやると、ネタの中身だったりが変化していくんだろうなって。何公演もやるというのはやったことがないので、楽しみな部分はありますね。もちろん初回でね、ちゃんとベストなものができるようにはするんですけど。でも京都の最終公演が、横浜の1公演目から最終的にどれだけ変わるかが楽しみです」

平井 「理想は毎公演、その時のベストを出したいですよね」

浦井 「それはもちろん」

――今回のライブのコンセプトは、すぐ決まったのですか?

平井 「そうですね。人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか。皆さんも、人生ってそういうもんだと思うんですけど。正直僕は、去年『キングオブコント』の準々決勝で落ちると思わなかったし、なんだったら『M-1』で決勝いくと思わなかったんです」

浦井 「本当に、予想とは全然違って」

平井 「うん。もちろん『M-1』も決勝にいくつもりで臨んではいたけれども、まさかこっち落ちて、こっちいくとは、って。やっぱりそういうことも経て、今の男性ブランコが形成されているというのは大いにあると思うんです。今回のライブは、この現状の、今の男性ブランコを楽しんでもらえる内容になっていると思います。今の僕らにしかできないことをやりたいなって」

浦井 「コンセプトが決まったのは早かったですね。『こんな感じでやろう』みたいなことは早いうちから平井から聞いていたので、『そういうことなのね、今回は』『はい、分かりました』と。今の僕らの状況にある程度即したものというか、おそらく、『キングオブコント』で決勝進出する前の、以前の僕らではやらなかっただろうなという思いはあります。ある程度変化したからこそ、出てきたコンセプトかなと思いますね」

やらざるを得ない状況に追い込まれ「度胸がつきました」

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

――昨年は2月から8月まで毎月単独ライブを開催するなど、本当にたくさんの単独ライブを実施されましたが、特に印象深い公演はありますか?

浦井 「最初に行ったのが2月に開催した『ヘッジホッグホッジグッヘ』というライブだったんですけど、∞ホールでやる単独ライブが7、8カ月ぶりだったんです。それが、2021年、前回∞ホールでやった単独とはお客さんの規模が全然違って。お客さんがめっちゃ来てくださってすごくうれしかったし、びっくりしたのを覚えてますね。『こんなに変わるんだ』って驚きました。その前はなんとか満席くらいの規模だったのが、∞ホールではもうチケットが取りにくいみたいなことも言っていただいたりして。ありがたいなとも思いましたし、『わー、ちょっと頑張らないと』って」

平井 「あんなにお客さんが来てくれたの、初めてでしたね。僕は、3月末に大阪で開催した『変身大阪ウミウシ』と、4月の『しょんぼりサーベルタイガー学園前』が、3週間くらいしか空いてなかったのがマジでしんどかったです」

浦井 「月1とはいえ、月終わりと月初めになってしまって。その単独が終わったと思ったら、もう次の単独の2、3週間前とかで、『ひぇ~~~!』ってなってました。しかも4月の『しょんぼりサーベルタイガー学園前』は、本番当日に宮崎で営業のお仕事もあったんです。朝一で宮崎に行って、10分くらいネタして、飛び出して東京帰ってきて、夜は単独ライブ」

平井 「飛び込みで単独ライブやりました(笑)」

浦井 「その時が一番ヒリヒリしました」

平井 「『ヤバいヤバい!!』って(笑)。やっぱりちょっと準備したいもんね。少し時間も置いて、心身ともに整えつつ、練習もしたいし」

浦井 「その宮崎の営業が、くまだまさしさん、ハリウッドザコシショウさん、ひょっこりはんと、僕らだったんですよ(笑)。僕ら以外はそろってるんですよ、クセ強ピン芸人というか」

平井 「『僕らでいいんか?』って(笑)」

浦井 「『僕らで大丈夫?』『どういう人選なの、これ?』って思ったり(笑)。それはめっちゃ覚えてますね」

平井 「あったなぁ~(笑)。あの期間を経て、全部新ネタで毎月単独ライブをやるってこんなに大変なんだっていうのを、痛いほど実感しました。だからもうたぶん、やらないと思います(笑)。だってそれやって、結果もついてこなかったし…(苦笑)」

浦井 「まぁね、やってみて分かったというかね」

平井 「うん、やってみて分かったことよね。でも、やってみて良かったなと思うことが僕の中であって。これは下手したら悪い方に裏返ってしまう可能性もあるんですけど、結構舞台に慣れたんですよ。荒行じゃないですけど、新ネタでもうろ覚えでも『やるしかない』って。うろ覚えでも出られるようになりました(笑)」

浦井 「最初、それこそ2月、3月はしっかりした台本で平井が上げてくれて、セリフ通りにガッチリやるというか。それが4月、5月、6月になってくるとどうしても無理が出てきて、なんかもうコンセプトだけみたいな」

平井 「『こんな感じで!』って(笑)」

浦井 「オチだけ決めて、『あとは対応してくれたら』みたいになりましたね。台本の比率が下がって、個人の裁量が増えたんです。単独が終わった後も、新ネタやるってなるとそういうネタが結構増えてきて」

平井 「『こんな感じでやるから、こんな感じで来て』って(笑)」

浦井 「それをやる度胸がつきましたね。それまでは勇気がなかったんですよ。決まったセリフをやるしかできなかったんですけど、もうやらざるを得ない状況に追い込まれたことで、セリフというガイドを失った状態でどうやってゴールまで――オチまでいくかを試すことができたのもいい経験になりました」

平井 「でも、そっちの方が結構、爆発的なボケやツッコミが生まれるんだっていう学びもありました。完全にセリフ通りにやるのももちろんいいですけど、外れたところでやるのも楽しいなとか、ここでこんなにウケたりするんだな、とか」

浦井 「本人のキャラクターと地続きになるのかなって。しっかりセリフを固めた場合、自分とは全く違う、他人を演じることになるんですよ。それもやっててめっちゃ面白いんですけど、セリフがないと、ある程度本人に近くなるというか」

平井 「割と漫才に近い形になるのかもしれないですね」

――昨年の「キングオブコント」の準々決勝で披露したネタは、毎月の単独ライブで手応えがあったネタだったのですか?

浦井 「いやこれがね、やってないんですよね…。(単独ライブで手応えがあったネタは)その次、準決勝でやりたかったんですよ」

平井 「そうなんですよねー…」

浦井 「準々決勝は通過したいからと思って、だいぶ昔のネタをアレンジしたものをやって」

平井 「これなら間違いないだろうと」

浦井 「当時、僕らの中では手堅いだろうと思うネタをして。これならいけるんじゃないかなっていうネタだったんですけど、それがちょっとハマらず。今思えば、寄席向きだったかなぁ」

平井 「今思ったらな。その時はでも、『これでいこう!』ってなったけどなぁ」

浦井 「準決勝のことを考えちゃってたんですよね」

平井 「これだったら通るだろうっていう。ちょっと甘い考えだったのかもしれないですね。いけるんじゃないかなと思っちゃいましたね」

――ネットで結果を知った時、私も本当に驚きました。

平井 「去年は、『(優勝するには)今年しかない』と思っていたのもあって。2021年に初決勝で準優勝になったので、『次の年がチャンスだ』という思いがありました。前回準優勝だったので今年は優勝候補だとも言われている中、その気負いもどこかあったし、ここで優勝を逃したらちょっとここから苦しくなってくるんじゃないかな、とか」

浦井 「空気階段も3年かかってるんで。初めての決勝では『誰だこいつら』っていう見られ方になって、それがかせでもあり、プラスにもなるんですけど」

平井 「ハードルは低くなると思います。決勝常連組の戦い方と初出場組の戦い方は、やっぱり違うんでしょうね」

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

――先ほど「(コントが)漫才に近い形になる」というお話もありましたが、昨年の「M-1」はお二人の活躍を語る上で欠かせない、大きな出来事だったのではないかと思います。

浦井 「そうですね」

平井 「だいぶ大きい出来事だと思います」

――「M-1」以降の心境や環境の変化について、お聞かせいただけますでしょうか。

平井 「純粋に、いろんなお仕事が増えました。『キングオブコント』でグッと変わったんですけど、それがもう一段変わった感じがしますね」

浦井 「増え幅で言うと『キングオブコント』に出た後の方が多いというか。ゼロの状態から一気にお仕事をいただけるようになったんですけど、去年の『M-1』後は、お仕事の中身が変化したかなと思います」

平井 「そうやね。ロケが増えたりしたかな」

浦井 「ただ、やっぱり『M-1』の方がみんな見てる。身内や遠い親戚も『M-1見たよ』って言ってくれて」

平井 「そうね」

浦井 「やっぱりみんな『M-1』は見てるなって。影響力が大きいです」

平井 「普段本当に顔とかさされないんですけど、去年の『M-1』以降は、電車でおっちゃんから『M-1見ましたよ』って声をかけられたりとか。特に、大阪はむちゃくちゃ言われます。普通に歩いてたら『音符やん!』『え? 音符?』『うそやん! 音符や!』って、高校生のカップルが早足で駆け寄って来たり(笑)。大阪ヤバいよな」

浦井 「大阪はもう、本当に」

平井 「『キングオブコント』以降は、正直ゼロくらいでした。全くなかったんですけど、言ってもらえるようになったのは『M-1』からですね」

「優勝は諦めたくない」

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

――今のお二人にとって、「キングオブコント」と「M-1」はそれぞれどういう存在でしょうか。

平井 「なんかね、『キングオブコント』に関しては正直もう、去年の大気負いがあるので、今年は『いいネタができたら、それをやろう』くらいの感じです。もちろん、出ますけどね」

浦井 「……優勝したいですね、キングオブコント。『キングオブコント』は出ないといけない大会で、『M-1』は、まだ憧れというか。『キングオブコント』は、『コント師としては、優勝しないとな』っていう捉え方です。荷物背負ってるのは『キングオブコント』の方ですね」

平井 「そうやなー。優勝…しないといけないもんなー…」

浦井 「そんな感じで言わんでも(笑)。別にね、(優勝できなかったとしても)それでやっていけるならいいんですけど、それはどうなんだろうなと。頑張ったけど優勝できなかったねっていう人生もあるとは思うんですけど。優勝は諦めたくないなと思いますね」

平井 「そうね。ただ、決勝出たら分かるんですけど、もうめちゃくちゃ運なんですよ。本当に、もうその日の運なんです。みんなおもろいから。順番もだし、その日のお客さんもだし、なんなら天気とかにもよるかもしれない。審査員さんがその日食べたものとか、気温、湿度、本当にそういうものが積み重なって得られるものだと思うんです」

浦井 「個人がやれることをやったとしても、優勝できるかどうかは、その先にある要素がだいぶ大きいんですよ」

平井 「そうなんですよね。ただ、優勝を待つ準備のところは、仕上げていきたいよな」

浦井 「そうですね。あとは運だけ、という状態までは持っていって」

平井 「『これが不十分だったから負けたんだな』じゃなくて、パフォーマンスなり、ネタなり、内容なりは、『もう優勝できるところまで持っていきました、あとはお願いします』という状態にはしないといけないなと思っていますね」

――昨年の「キングオブコント」決勝は、ご覧になりましたか。

浦井・平井 「見ました」

――優勝したビスケットブラザーズさんは、同期ですよね。

浦井 「僕はすぐ『おめでとう』ってLINEしました」

――平井さんは、今もコロコロチキチキペッパーズさんに「おめでとう」と言えていないとおっしゃっていましたが…。

平井 「コロチキにはまだ言ってないです。もしかしたらビスブラには言っちゃったかもしれない(笑)。『言ってない』って言いたいですけど、もしかしたら『おめでとう!』『すげーな!』って言ったかもしれないなぁ。ただ、コロチキには明確に言ってない(笑)」

浦井 「コロチキの時は時期がね。その頃とは自分たちの状況も変わってるし」

平井 「コロチキの時は悔しすぎたんよ、ホンマに。(机をバンバンたたきながら)『お前ら別にネタじゃないやん!』『優勝せんでも売れるやん!!』みたいな。決勝出てる時点でネタおもろいのは確定したから、優勝せずとももう大丈夫ですよ、っていうコンビやのに、『優勝まで持っていく!?』っていう」

浦井 「それはキャラないやつに置いといてよ、って(笑)」

 インタビュー後編はこちら:https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-2186824

「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】
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「人生って、思い描いていたようには進まないじゃないですか」。「優勝は諦めたくない」男性ブランコの“今”【ロングインタビュー前編】

【プロフィール】

男性ブランコ(だんせいぶらんこ)
浦井のりひろ(1987年12月3日生まれ、京都府京都市伏見区出身)と、平井まさあき(1987年8月1日生まれ、兵庫県豊岡市出身)が別々の演劇サークルで出会い、その後ともに大阪NSC33期生として入学。2011年、コンビ結成。16年より、活動拠点を大阪から東京に。「キングオブコント2021」準優勝、「M-1グランプリ2022」決勝進出。23年5月10日~14日に神奈川・横浜赤レンガ倉庫1号館ホール、5月25日、26日に京都府立文化芸術会館ホールにて、全11公演のコントライブ「やってみたいことがあるのだけれど」を開催。オンラインチケットが発売予定。

【公演情報】

男性ブランコのコントライブ「やってみたいことがあるのだけれど」

■横浜公演
会場:横浜赤レンガ倉庫1号館 3階ホール(〒231-0001 神奈川県横浜市中区新港1-1-1)
5月10日(水)①18:30開場/19:00開演
5月11日(木)②13:00開場/13:30開演 ③18:30開場/19:00開演
5月12日(金)④18:30開場/19:00開演
5月13日(土)⑤13:00開場/13:30開演 ⑥18:30開場/19:00開演
5月14日(日)⑦13:00開場/13:30開演

■京都公演
会場:京都府立文化芸術会館(〒602-0858 京都市上京区寺町通広小路下ル東桜町1番地)
5月25日(木)①13:00開場/13:30開演 ②18:30開場/19:00開演
5月26日(金)③12:00開場/12:30開演 ④17:30開場/18:00開演

※公演収録映像のアーカイブ配信となる、オンラインチケットを販売予定

取材・文/宮下毬菜 撮影/尾崎篤志



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