「いだてん」四三の弟子・小松勝役の仲野太賀「強烈な縁にビックリ」2019/10/06
嘉納治五郎(役所広司)が亡くなり、東京オリンピック開催の雲行きが怪しくなってきたNHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」。9月29日(第34回)放送では、マラソンで東京オリンピックに出場することを夢見る金栗四三(中村勘九郎)の弟子の小松勝(仲野太賀)が、マラソン記録会で1位となり、スヤ(綾瀬はるか)から「若か頃の四三さんったい、いだてんの生まれ変わりばい!」と言われていましたが、彼もまた、四三のようにオリンピックに出場することはかなわないのでしょうか。そんな小松を演じている仲野太賀さんを直撃しました。
──「いだてん」に出演することが決まった時の思いと台本を読んでの感想を聞かせてください。
「制作発表されたその日から本当に出たくて、『いだてん』の関係者に会うことがあれば、『何が何でも出たいんです!』っていう熱量をぶつけまくっていました(笑)。どんな物語なのか、どんな役があるのか、いつ撮影があるのかを聞きまくったんですけど、ことごとく詳しいことは言えないと。まぁ素晴らしいくらいに口の堅いスタッフでしたね(笑)。だからオファーの話が来てもいないのに、スケジュールを開けて熱望していたんです。そしたら話が来たので本当にうれしかったです。こんなにも自分が望んで願ってかなったことは今までなかったと思います。『いだてん』は、中村勘九郎さんが演じる金栗四三さんと阿部サダヲさんが演じる田畑政治さんという主人公が2人いて、時代が二つに分かれている。僕が演じる小松勝は、それをつなぐ一つのきっかけというか、キーパーソンでとても重要な役だということは、台本を読んだ時に感じて、下手なことはできないなと思いました」
──「いだてん」に出たいとアピールされたとのことですが、どんなアピールをされたのでしょう?
「出たいというより、『いだてん』やるんですよねって。出たいとは絶対に言わないルールで、頭脳戦みたいな感じです。『いいですね、絶対いいと思うな』みたいな。『楽しみにしています』って。とは言え会話の終盤には言っちゃってましたけどね、『出たいです!!』って(笑)」
──なぜそこまで「いだてん」に出たかったのですか?
「大前提に宮藤官九郎さんのファンなので。僕の人生で一番最初に名前を覚えた脚本家さんですから。もちろん『あまちゃん』(2013年/NHK)も見ていました。そのチームで大河ドラマをやる。しかも題材はオリンピック。こんなの面白いに決まっている。これに尽きますね。『大変なことになるな、これは出なきゃ』という気持ちでした」
──以前、勝地涼さんが太賀さんと一緒に、中村勘九郎さんと中村七之助さんが出演されている「平成中村座」をご覧になった時に、2人で「いだてん」に出ることを誓い合ったと話されていたのですが、実現していかがでしょうか。
「その縁も信じられなくて。勝地さんと兄弟役で共演した時に、『太賀、行こうよ!』と平成中村座に誘っていただいて。見たことがなかったので見たいとなりました。その時によくよく考えたら、『勘九郎さん=“いだてん”だ。これは行かなきゃならない!』と思いました。そんな興奮を抱えながら見に行ったのを覚えています。その後、共演が決まって台本をいただいたら、勘九郎さんと美川役の勝地さんと僕の3人のシーンや七之助さんとご一緒するシーンがあって、強烈な縁だなとビックリしました」
──小松勝はマラソンランナーですが、トレーニングで苦労はありましたか?
「肉体作りという意味ではそこまで苦労はなかったです。マラソンランナーなのでそこまで体を大きくするということでもなかったですし。今回、マラソンを指導されていた金(哲彦)さんが走り方をすごく重要視されていました。歩幅やピッチ、上体の使い方を研究しながら、金栗四三さんのフォームを出発点として、弟子として進化していった形と言うか。2人の師弟感が出るようなフォームを金さんが考えてくださいました」
──小松にとって、四三はどんな存在だと思いますか?
「小松にとってはヒーローであり、心の父であり、師なんだと思います。実は、金栗さんがオリンピックに出た時の日本代表の日の丸のユニフォームを小松が自分で作って着ているっていう設定なんです。憧れだし、幸せだと思います。とはいえ、小松も憧れの先輩に指導してもらって浮かれているっていうやつでもないんです。最初は憧れだったと思うんですけど、指導されてビシビシ鍛えられていく中、同じランナーとして金栗先生にも負けたくないという気持ちが小松自身にもあって。四三さんと一緒に走るシーンがあるんですけど、先生に先に行かれたら、必死に追いかけて追い越して、そしたら先生が追い越して…。このせめぎ合いが小松と四三にとっての楽しみでもあり師弟の形みたいな気がします」
──四三と小松が東京の街並みを疾走するシーンはたくさんあるとのことでしたが、実際に撮影されていかがでしたか?
「金栗先生と一緒に走っているシーンはたくさんあるんですけど、街並みを走っていくたびに街の風景や情勢がどんどん変わっていくんです。オリンピックのムードが近くなってきたら街もにぎわっているし、今回、“戦争”というキーワードがあるんで、戦争が近づくにつれ兵隊さんが増えて、街の形はどんどん変わっていって。でも金栗さんと小松の中にあるものは変わってないはずなんですよ。ただひたすらオリンピックを目指す、オリンピックで金メダルを取る。そこは揺るぎない意志だと思います。もちろん戦争の景色は目には映っているけど、今までやってきたことや積み上げてきたことを思うと、絶対行くと信じる気持ちが強い気がしていて、それを表現できればなっていうふうに思っていました」
──小松の真っすぐな感じは、四三にも似ているということでしょうか?
「そうだと思っています。“第二のいだてん”じゃないですけど、それを感じるような昔の金栗さんを感じさせるような何かがあればいいなとは思っています」
──ご自身と小松の共通点はありますか?
「僕自身も小さい頃から俳優になりたいと思って、中学生の時に始めたんです。小松が金栗さんに憧れて、中学生の頃に弟子入りの門をたたいたことや、選手になるまでの成り立ちは近いのかもしれないですね。幼い頃から憧れていたものに自分がなっていく、近づいていくという成り立ちは似ているかもしれません」
──主演としての勘九郎さんの印象はいかがでしょうか?
「現場に来て思ったのは、勘九郎さんのホームが完璧にできているなという感じがしました。『いだてん』の現場で勘九郎さんがスタッフさんに家族みたいな感じで接している姿を見て、『これが大河ドラマの主演をやる人だ! かっこいいな』っていうふうに見ています。勘九郎さんが現場に入るだけで空気がふわって明るくなるんですよね。その存在感がすてきだなと。一番大変だと思うんですけど、僕みたいな俳優に対してもフラットに接してくださって、めちゃくちゃ優しいです」
──熊本弁で大変だったことはありますか?
「正直、手こずっている部分はありますね。でも方言指導の先生が真摯(しんし)に教えてくださるので、カットがかかるたびにすぐに先生の顔を見てっていうのを繰り返しています(笑)。それこそ勘九郎さんは方言指導なんていらないくらい完璧に熊本弁をマスターされているんですよ。僕は、アドリブでちょっと苦戦するんですよ。熊本弁の語彙(ごい)力がないので、アドリブとなった時に言葉が出なくなるんですよね。そしたら勘九郎さんが率先してアドリブをしてくださったりするので、そこについていっていることが多いです。とにかく勘九郎さんがリードしてくれますね。むちゃくちゃかっこいいです。教えてくださることもあります。勘九郎さんが言っていることをまねして、同じ言葉を復唱して、アドリブはやっています」
──10月6日放送(第38回)では、小松がりく(杉咲花)に思いを告げますが、そのシーンのエピソードを教えてください。
「オリンピックではなく、戦争が近づいてきて、東京に残る意味が小松にはないんです。熊本に帰った方がいいと金栗先生にも言われるけど、一つ心残りだったのがりくちゃんの存在で。小松は先生といない時は、りくちゃんとの生活時間がすごく多かったと思うんです。その景色を思い浮かべながら走っていたら、りくちゃんが後ろから現れて。きっとあの時、彼女のこと考えていたんですよね。そのタイミングで来たので、今思いを伝えないと、今つなぎ止めないと、という気持ちからああいう告白の形になったのだと思います。すごく大声を出して芝居したんですけど、無視されました(笑)。一度も振り向いてくれなかった、りくちゃん…。『りくちゃん、聞いてる? 待って、待って』って、そういうシーンなんで当然ですけど、ひとつも目が合わなかったです(笑)」
──同じく、第38回で増野(柄本佑)が小松に詰め寄るシーンがあるそうですが、柄本さんの雰囲気はいかがでしたか?
「僕がこんなこと言っていいのか分からないですけど、めちゃくちゃすばらしかったです。重たい雰囲気の中、小松が『自転車節』を歌いましょうといってなんとか明るく繕う。そこに入ってきたのが増野さんで。その瞬間、空気がバチンと変わって、本番に入った時はものすごい迫力でした。その迫力は『何だろう?』と考えると、子を思う父の姿というか。震災があって奥さんを亡くされて、相当大変な思いでりくちゃんを育てた、そのおやじの姿が目の前でバンって伝わって。そういうつもりじゃなかったんですけど、こっちも感情がどんどんあふれてきて、あのシーンは佑さんのすごみに一気に引っ張られましたね。どういうふうに出来上がっているかまだ分からないですけど、実感としてはとてもいいシーンになったんじゃないかなと思っています。あのシーンはなんか震えるものがありましたね。次の日、熱が出ましたから(笑)」
──今後、小松は三遊亭圓生(中村七之助)と孝蔵(森山未來)に出会うことになりますが、3人のシーンで楽しみにされていることはありますか?
「全部楽しみです。七之助さんや森山未來さんとご一緒できるのが楽しみですし、3人だけのぜいたくな空間で濃密だし。圓生と孝蔵と小松が一緒にいるのは後の話につながる歴史的瞬間じゃないですか。だから、理想はあります。3人でいる時に、小松がお酒飲んで酔っ払って今までにないくらいしゃべるシーンがあるんです。そこは小松の人となりが結構見えてくるシーンなのですが、そこで金栗さんを感じさせられたらなと。それが何なのかまだそこまでは僕もつかみきれてないんですけど、本番までに具体化して、雰囲気が漂えばいいなと思っています」
──これまで大河ドラマに何度も出演されていますが、久々の大河ドラマに出て、違いや自分の変化を感じたことはありましたか?
「今まで4、5回大河ドラマに出ているんですけど、憧れがあって。大河ドラマって発表があるじゃないですか。それで発表されるというのが憧れだったんです。今まで何回か出ているけど、役者としての知名度も低いですし、さらっと普通に登場して終わるという感じだったので、ずっと壇上に上がって出たいと思っていたんです。それこそ2年半前に『いだてん』の発表があった時に、『絶対これじゃん!』って(笑)。それもあって『いだてん』に出られるんだったら、そういう発表ができるような役者にならなきゃいけないなと。今回、それで正式に発表してもらえるという話を聞いて『よかった』と。今まで6年間、積み上げてきたものは間違っていなかったのかもしれないなと思いました。一つ夢がかないました。すごくマニアックな夢ですけどね(笑)」
──今回、一つ夢がかなったということですが、さらなる夢があったら教えてください。
「大河ドラマで発表されたいっていうマニアックな夢…(笑)。次は、金屏風の前ですね。スーツを着て。それは早いうちにやりたいですね。かっこいいじゃないですか。どちらかというと役衣装よりスーツがいいです。こんなこと言っているの、僕くらいしかいないと思いますけど(笑)」
──ありがとうございました! 太賀さんの「いだてん」に対する熱い思いがビシビシと伝わってきました。
10月6日の放送では、嘉納治五郎の死によってオリンピック組織委員会は求心力を失っていきます。また、日中戦争が長期化する中、1940年の東京オリンピック開催への反発は厳しさを増していくのです。追い詰められたIOC委員の副島(塚本晋也)は招致返上を提案しますが、嘉納に夢を託された田畑は激しく葛藤することに。一方、四三の弟子・小松勝はりくと結婚しますが、戦争が2人の将来に立ちはだかるのです。物語は戦争へと突入し、暗い時代へと進んでいきますが、小松とりくの恋物語は、温かい気持ちになれるに違いありません。
【番組情報】
大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」
NHK総合ほか 日曜 午後8:00~8:45
NHK BS4Kほか 日曜 午前9:00~9:45
NHK BSプレミアム 日曜 午後6:00~6:45
NHK担当 K・H
この記事をシェアする