世古口凌が「探偵ロマンス」で魅せた美しく妖しい踊り子・お百。演じる上で心掛けたこととは?2023/02/04
“知られざる江戸川乱歩誕生秘話”が描かれたドラマ「探偵ロマンス」(NHK総合)の第3話で、事件の真相を追っていた平井太郎(後の江戸川乱歩・濱田岳)と白井三郎(草刈正雄)。三郎は街にあふれる落書きの背後に怪盗の存在があることを突き止めます。一方、太郎は深刻な様子で下宿を訪ねて来たお百(世古口凌)が世の中に絶望していることを知るも、自分の言葉ではお百を救うことができず落胆します。やがて、後工田寿太郎(近藤芳正)殺害予告の日になり、お百が彼の命を狙ったことが明らかになったのです。
今回は、お百を演じた世古口凌さんにインタビュー! お百の人物像や美しい舞にまつわるエピソードなどを伺いました。
――出演が決定した時はどんなお気持ちでしたか?
「NHKさんに出られることは俳優人生の中でもすごく大きいことで、うれしい気持ちが強かったです。僕が昨年出ていたスーパー戦隊シリーズ『機界戦隊ゼンカイジャー』(テレビ朝日系)を演出の大嶋(慧介)さんが見てくださっていて、声をかけていただけたと聞いて、そんなところからつながることがあるんだとびっくりしました」
――男性でも女性でもないお百は難役ですが、オファーが来た時はどのように感じられましたか。
「すごく難しい役だけど、プレッシャーよりも『この役をやらせてもらえるんだ』とありがたく、期待値の方が大きかったです。最近はジェンダーに悩みを抱えている方の作品が増えているので、それを見て勉強して、撮影前にはジェンダーについてご指導を受ける機会があり、先生に伺ったんですが、いろんな方がいらっしゃって、一概には言えないんです。だからこそ、お百はいろんな作り方ができるのですが、そこが難しいところでもありました」
――ジェンダーについて学んだことで心に残ったことはありますか?
「自分の性別が男性にも女性にもはっきり当てはまらない人をXジェンダーというのですが、その中にも本当にたくさんの種類があるんです。それが細分化されていて、お百に近いジェンダーを調べたらピッタリ当てはまるものがなくて、結局正解が分からなかったんです。だから、お百はお百として考えて生きていくしかないのかなと。人間は男性と女性の2種類ではなく無限にあるものとしてお百を演じようとしましたが、難しいですね」
――お百はどんな人物だと捉えていますか。
「戦っていないように見えますが、人一倍苦しんで戦って生きている子です。自分が人にどう見られているかについて必死に考えていて、時代と戦っている。生きる葛藤を抱えている人物だと思っています」
――ご自身と似ている部分と違うところを教えてください。
「近い部分で言うと、ちょっと闇を抱えてしまうところかな?(笑)。ひねくれているわけではないんですけど、周りの意見や自分への評価に『分かってるよ』と思ってしまう点は共通しているかもしれません。違う点は、お百は見た目を気にしているけど、僕は自分のことを気にしていないところ。そこは明らかに違いますね」
――演じるにあたって心掛けたことを教えてください。
「お百の美しい踊り子という部分をとにかくしっかり作っていくことを心掛けました。まず見た目が美しくないと話にならないので、体形維持は常に考えていましたね」
――美しい見た目や体形を維持するために、どんなことをされましたか?
「脂っこいものをあまり食べないようにしていました。ラーメンやハンバーガーが好きなのですが、それも控えて、野菜中心の生活にして。撮影期間はソフトドリンクも飲みすぎないように気を付けていましたね。とにかく太らないようにと、ランニングやトレーニングもして、スタイルを保てるように心掛けていました」
――お百ならではの言葉遣いについてはいかがでしょう?
「あまり男性っぽいしゃべり方はしないようにしていました。普段の生活の中で女性の話し方やしぐさを研究して、それを取り入れました」
――女性っぽいしぐさをする時に、どんなことが難しかったですか?
「座り方と歩き方が難しかったです。基本的に体つきや骨格が違いますし、男性特有の歩き方と女性の美しい歩き方が全然違うので苦労しました。それに、ヒールを履くのも初めてだったので、最初は慣れなくて女性は大変だなとしみじみ感じました。しかも、ずっと履いていると痛いし…。普段からヒールを履かれている方は強靭(きょうじん)ですよね」
――人々を魅了していくお百の小悪魔的な魅力を出すためにしたことはありますか?
「人と対面する時に一歩引いて、相手のことを少し探ってから話すように気を付けていました。そこが蠱惑(こわく)的に見られていたらうれしいし、一歩引くことの美しさが伝わっていたらいいなと思います」
――お百といえばステージでの舞がすてきでしたが、演じていていかがでしたか?
「舞を舞うこと自体も初めてだったので、最初はその感覚をつかむことが大変でした。その後、ヒールを履いて舞ってみたら、足が滑ってしまって。滑らずにバランスをとれるようになるまで、何度も足が引っ掛かりました。足が思うように動かなかったり、気付かぬところで滑ってこけてしまうこともあって、最初の大きな壁でしたね」
――練習期間はどれくらいあったんですか?
「練習期間は大体1週間程度です」
――1週間であんなにすてきな踊りに仕上げられるなんてすごいですね!
「いやいや。踊れることはうれしかったんですが、しっかり見せたい気持ちが強かったので、『時間ないよ、どうしよう』と本当に焦りました。最後まで時間をかけて臨みました」
――振り付けでは、どんなところに一番気を付けましたか?
「最初はヒールを履かないで練習したんですが、その時点で猫背気味になったり、男性としての立ち方になってしまっていたので、そこから直してもらいました。ゼロからスタートして、徐々に練習を積み重ねてヒールを履き、衣装を実際に着て練習をすると、また全然違う問題が出てきてしまって。足が滑るだけではなく、衣装のヒラヒラしている部分が踊っている時に奇麗に収まってくれないとか、スカートを使って色っぽく妖艶に見せたいけど、角度の調整に時間がかかるということがありました。細かい部分もたくさん練習したので、すごく思い出深いです」
――第2話と第3話の舞は同じでしたが、異なっているように見えました。
「第2話は、正面から見たお百という踊り子の美しさを届けたかったので、そこを第一優先で考えました。舞台に出た時に、衣装がフワフワ、ヒラヒラと揺れる角度や、首筋がしっかり見えるように舞を見せる気持ちで踊っていました。第3話は物語が進んで、見せるというよりは心で表現しています。多少格好よく、美しく見せようという気持ちはあるももの、お百の気持ちや感情の流れを自分の体で表現しようと心掛けました」
――なるほど! そこに注目して、もう1回見ようと思います。ほかに、舞で視聴者に見てもらいたいポイントはありますか?
「踊り手の方がたくさん出てきて、みんなで踊るシーンですね。観劇したお客さんを魅了する舞台となっていたらうれしいですし、さらに『探偵ロマンス』のよさがあのシーンで伝わったらもっとうれしいです」
――今作では、そうそうたる方々と共演されましたが、撮影はいかがでしたか?
「映画やドラマが好きでこの業界に入っていて、視聴者として見ていたので最初はテンションが上がりました。特に岳さんは僕が好きな映画にも出ていらっしゃるので、気持ちを抑えて撮影していました。しっかり向き合いたいし、お百として太郎との関係性を築かなくてはいけないので、そこはどっしり構えて、戦ってやるぞ、負けないぞという気持ちで撮影に挑みました」
――太郎を演じた濱田さんとのシーンで、印象深かった場面はありますか?
「太郎の部屋でお百が自分の思いを告白するシーンは忘れられない大事なシーンです。人に対して自分の気持ちを正直に伝えることができる環境ではなかったお百が、太郎に心を開いて自分の思いを伝えられたことは、すごく大きいことでした。結果はあまりいい方向にいかなかったんですが、印象的でしたね」
――お百は、浅香航大さんが演じるラッパに自分の思いが伝わらないもどかしさを感じていましたね。
「お百はラッパにお金を生み出す存在として見られているのは分かっているけど、自分の気持ちも少しはくんでほしい。そこがラッパには伝わらなくて。もしかしたら分かってくれるかもしれないと期待するけど、そこに愛がないのがしんどいなと。ラッパの言葉や態度が、お百にとっては一つ一つが胸に刺さるからこそ、考えちゃってつらくなるんですよね」
――そして、住良木平吉との対話がとても怪しい雰囲気で気になりました。演じる尾上菊之助さんとはどんな話をしましたか?
「本番が始まったら、パシッと決めようという意識がありました。撮影をしていない時間は、菊之助さんが優しくいろいろ教えてくださって。菊之助さんは僕が緊張していることに気付かれたのか、コミュニケーションを積極的に取ってくださったので、すごく助けられました」
――歌舞伎で女形を演じている菊之助さんから、奇麗に見えるしぐさなどのアドバイスもあったのでしょうか?
「しぐさなどの話をすることはなく、失礼ながらプライベートな質問を繰り広げちゃって(笑)。『服にこだわりを持たれているんですか』と聞いたら、『昔はいろいろ着てきたけど、最近はジャージーだね』と。それを聞いて、僕も早くジャージーを着こなせるようになりたいと思いました」
――お百の「自分を表す言葉がない」というセリフが印象的でしたが、もし現代に生きていたら、お百は自由に生きられたと思いますか?
「『探偵ロマンス』は100年前の設定なので、その時よりも進歩していると思います。考え方も多種多様で、いろんなセクシャリティーがあっていいという風潮になってきているので、昔よりは生きやすい時代になっているんじゃないでしょうか。SNSで自分の好きなことを発言できるし、賛同してくれる方もいるだろうから、お百がうまくSNSを使いこなせたら、幸せな環境なのかなと思います」
――第3話の最後の方で、自分の声で歌うシーンと後工田に銃を向けるシーンがありましたが、どんな気持ちで演じていましたか。
「自分の生き方をなぜみんな分かってくれないんだろうと思っていたところに、太郎と出会って期待してしまう。分かってくれる人がいるのかもしれないと舞い上がってしまうけれど、期待しすぎたと落胆するんです。太郎が最後の希望だったけれど、結局自分のことは自分でなんとかするしかないという思いに陥って物語が進んでいって。お百としては心が死んでいる手前という気持ちで演じていました」
――そういうお百を演じることは、大変でしたか?
「次の撮影に移る瞬間も、その気持ちをずっと維持したまま取り組んでいたのでつらかったし、すごく大変でしたが、やりがいはありました」
――今作を経て、役者として次のステップへの手応えを得られましたか?
「第一線で活躍されている俳優さんやベテランの方がいる現場は初めてだったので、その立ち振る舞いや撮影が始まった瞬間の表情、気の使い方を勉強させてもらいました。カットがかかるまでとカットがかかった後の表情が違うところも、とても格好よくて。自分もこういう俳優さんになれるように頑張っていきたいです」
――もしパート2があってお百が出てきたら、やりたいことはありますか?
「釈放されたらいいんですけど、出てこられるのかな? もしパート2があるとしたら、どんな立ち振る舞いをするのか分からないですが、またオペラ館の舞台で踊りたいです」
――ありがとうございました!
【番組情報】
土曜ドラマ「探偵ロマンス」
NHK総合
土曜 午後10:00~10:49
NHK担当/K・H
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