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【推しの作家さま】「夕暮れに、手をつなぐ」北川悦吏子2023/02/07

【推しの作家さま】「夕暮れに、手をつなぐ」北川悦吏子

 ドラマになくてはならない存在である作家=脚本家を深掘りする、完全無料&安心の会員制コミュニティーサービス「TVガイドみんなドラマ」のコラム「推しの作家さま」。こちらをTVガイドWebでも展開! 絶賛放送中の冬ドラマから、TBS系連続ドラマ「夕暮れに、手をつなぐ」の北川悦吏子氏を紹介。

1990年代ヒットドラマの基盤を作った“恋愛ドラマの女王”北川悦吏子

 北川氏は、92年「素顔のままで」(フジテレビ系)のヒットで一躍その名をとどろかせ、その後も「あすなろ白書」(93年/フジテレビ系)、「愛していると言ってくれ」(95年/TBS系)、「ロングバケーション」(96年/フジテレビ系)、「ビューティフルライフ」(2000年/TBS系)、「オレンジデイズ」(04年/TBS系)など時代を代表するドラマを次々と手掛けた、まさに平成ドラマの黄金期を代表する脚本家。彼女の存在が当時のドラマシーンに与えた影響は計り知れず、さらに彼女の作ったスタイルが、90年代のヒットドラマのスタンダードになったと言っても差し支えないほど。テレビドラマ70年の歴史を語る上でも、かかすことのできない重要な作家の1人である。

 北川脚本の最も大きな魅力といえば、なんと言っても、そのライブ感あふれるセリフのダイナミズム。時に激しく、時に切なく、生き生きと語られる言葉たちは時代を正しく反映して、見る者の心に届いた。さらに、そんなセリフの掛け合いのリアリティーは、俳優たちの演技や演出にも影響を与え、最終的に日本のドラマ全体のテンポ感をも変えていった。もちろんそれは時代の要請であり、北川氏1人がもたらした変化ではないにせよ、彼女の功績の大きさは疑うべくもないのだ。

【推しの作家さま】「夕暮れに、手をつなぐ」北川悦吏子

天真らんまんなヒロイン・空豆は“120%の北川ヒロイン”!

 そしてもう一つ、北川氏の描くドラマの大きな特徴が、チャーミングでエネルギッシュなヒロインの存在。女性の社会進出やバブル景気もあいまって、90年代にはポジティブでパワフルな女性主人公が多く描かれたが、彼女の描く女性キャラクターの天真らんまんさというのだろうか、ある意味恐れを知らない真っすぐさ、素直さは、非常に特徴的だ。時に強引とも思える行動力で周囲を巻き込む一方、繊細で傷つきやすい一面もある。ハンデを抱えているケースも多いが、根っこのところに深い自己肯定感があって、自ら立ち直る強さも持っている。個性的であるがゆえに、見る人によって好き嫌いが分かれることがあるのも、北川ヒロインのポイントかもしれない。

 「夕暮れに、手をつなぐ」でもそのキャラクターは健在。というよりも、これほどあからさまなのは久しぶりのような気が…。広瀬すず演じる浅葱空豆は、もう“120%の北川ヒロイン”。北川氏オリジナル(?)の九州弁も実に効果的で、見ていてちょっとうれしくなったほど。そして、空豆の破天荒な渦に巻き込まれていく、海野音(永瀬廉)の穏やかなたたずまいもまた、往年の北川作品の香りを思い起こさせて、ファンを喜ばせてくれている。

【推しの作家さま】「夕暮れに、手をつなぐ」北川悦吏子

 そんな2人が偶然出会い、恋が始まる(たぶん。今のところまだけんかばっかりしているが)。まさに絵に描いたようなボーイミーツガールストーリー。2人を取り巻くキャラクターも実に多彩で楽しい。[Alexandros]の川上洋平がいい味を出しているほか、櫻井海音、田辺桃子、伊原六花、松本若菜、まっすー(増田貴久)&だーりお(内田理央)のズビダバ、そして、夏木マリと、みんな一癖ありそうだし。そこここでヤキモキさせてくれそうな、そんなところも実に楽しみだ。
  
 誤解してほしくないのは、往年の人気作を思い出させてくれることが重要なのではないということ。北川氏をはじめとする多くの脚本家や演出家、俳優たちによって生み出された90年代の日本のテレビドラマのスタイルは、世界のどこにもない独特なもの。日本で独自の発展を遂げ、一時は世界では通用しないと言われながら、今では世界中で注目を集めている70〜80年代のシティーポップと同じだ。事実、「夕暮れに、手をつなぐ」で初めて北川氏のドラマを見た人でも、面白いと感じた人がたくさんいる。それはいわば、“北川スタイル”とでも言うべき枠組みの持つ強さ。どこかから借りてきた枠組みではなく、スタイルを生み出した張本人による、純正オリジナルなのだ。

【推しの作家さま】「夕暮れに、手をつなぐ」北川悦吏子

過去、現在、恋、夢…空豆と音の未来は!?

 とはいえ、時は23年。北川氏も、かつてのやり方をなぞるつもりはないだろう。今作は、“北川悦吏子青春ラブストーリーの総決算”とも言われているが、キャリアを重ねた彼女があらためてこの世代の恋物語に向き合うからには、おそらく今の若者たちに対する強い思いが込められているはず。

 一つはモノづくりについて。音楽がこのドラマの大きなポイントであることは間違いないが、インターネットで世界と瞬時につながれる今だからこそ、音楽に限らず、自分が思いを込めて何かを作ること、真摯(しんし)に何かを伝えようとすることが難しくなっている。北川氏の中には、そんな問題意識があるように感じる。嵐の吹き荒れるネット空間に立ち向かい、それでも何かを生み出そうとする若者たちに向けた彼女のメッセージも、テーマになってくるのではないだろうか。永瀬演じる音が、さまざまな出会いの中で自分の夢にどう向かい合っていくのか、注目したいところだ。

 そして、空豆と音の人生の行方はもちろん、恋の行方も気になる。さまざまなライバルも登場しているだけあって、例えば2人が結ばれてそれですべてハッピーエンドとはいかない気が…。彼らが出会った意味や、その心のつながりは、もう少し長いスパンで語られるべき物語なのかもしれない。空豆と音の夢の行方や、過去と未来をつなぐ2人の人生の行方にまで影響を与えるような…。年齢と経験を経た北川氏の到達した青春の答えを教えてくれるような、そんな結末に期待。

 23年の今、30年のキャリアを経て新たに取り組む青春ラブストーリーだからこそ表現しうる、北川氏のメッセージに耳を傾けたい。

【番組情報】

「夕暮れに、手をつなぐ」 
TBS系 
火曜 午後10:00~10:57



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