Feature 特集

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も2023/01/28

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

 “知られざる江戸川乱歩誕生秘話”を描くドラマ「探偵ロマンス」(NHK総合)。第2話では、平井太郎(後の江戸川乱歩・濱田岳)と白井三郎(草刈正雄)が、画商・廻戸庄兵衛(原田龍二)を殺した真犯人捜しに挑みます。

 三郎は街にあふれる謎の落書きや一連の犯行予告状の背後にある怪盗の存在を確信していきますが、太郎は廻戸がパトロンだった踊り子・お百(世古口凌)に夢中に。そんな中、文通相手の村山隆子(石橋静河)とお百が同時に太郎の前に現れました。果たして太郎はどうなるのでしょうか。

 今回は、脚本を執筆した坪田文さんにインタビュー! 脚本執筆の際に心掛けたことやお気に入りのシーンなどを伺いました!

――江戸川乱歩の誕生秘話をドラマ化すると最初に聞いた時、どのように思われましたか?

「企画の概要に『若き日の乱歩は名探偵である。日本初の名探偵といわれる男に弟子入りを志願していた』という、『本当ですか!?』と思ってしまうような奇想天外なエピソードと、探偵活劇がやりたいという熱い思いだけがすごい熱量で書いてあり、『すごく大変な企画だぞ』と思いました。迷いもありましたが、オリジナルドラマを書いてみたかったし、作家が探偵に弟子入りを志願した後、大探偵小説を誕生させて大きな存在になっていくストーリーに魅力を感じたんです。もう一つは、活劇という言葉に引っかかって。日本のドラマではなかなかできないことでしょうし、こんなチャンスはもう二度とないだろうとハードルを越えるつもりで挑みました。後に、制作統括の櫻井(賢)さんや演出の安達もじりさんらも、『これは大変だぞ』と思っていたと聞いて(笑)。同じ思いで駆け抜けてきた感じです」

――これまで乱歩作品に触れたことはありましたか? また乱歩に対する思いを教えてください。

「乱歩先生は勉強すればするほど面白い方で尊敬しています。『黒蜥蜴(くろとかげ)』や『少年探偵団シリーズ』などの有名な作品を読んだことはありましたが、バシッとハマった世代ではなかったので、『私でいいのかな』と正直思っていました。でも、櫻井さんから『それがいい。今までにない乱歩を書いてほしい』という言葉をいただいたので、頑張ろうと。乱歩先生の人物像を描く際には、不思議な物語を書かれた方だから、心の内を探ることは難しいんじゃないかと心配していたのですが、『わが夢と真実』という乱歩先生のエッセーの存在が大きく、どれが真実でどれが遊び心なのか分からないけれど、とても面白いエピソードがたくさんあったので参考にしました。乱歩先生自身も自分のことをコラージュ記事にして残されている方なので、それと同じように断片的な情報をつなぎ合わせ、平井太郎というドラマの登場人物として再構築していったんです」

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

――作中で、「もっと知りたい」と太郎がよく言っていましたが、それはご自身の思いがあって入れられたのでしょうか?

「そうですね。執筆期間が短かったし、オリジナルということもあって、自分の感情もドラマの中に相当入ったと思います。暗中模索で作品をゼロから1にするために、もじりさんと同じく演出の大嶋慧介さんの力を借りながら、暗闇の中で見えた光をたぐっていく感じでした。それが正しいかどうかは分からないけど、みんなで信じて進んでいくんだと。『分からない。だから知りたいんだ』という思いがドラマには入っています」

――初めてのオリジナルドラマでミステリーを執筆されてみていかがでしたか?

「ミステリーを読むのは大好きなのですが、正直に言うと書くのは苦手なんです。でも、登場人物の心理的な部分を描くことで、ミステリーとして成り立つことを乱歩先生の作品から教えてもらったので、そこは意識しました。また、知り合いのミステリーを多く出している編集者に、ハウダニット(How done it?=どういう方法で犯行に及んだか)とホワイダニット(Why done it=なぜ犯行に及んだか)を考える2人が組むと良くなると聞いたので、証拠を意識して考える三郎と、動機を意識して推理する太郎にしました。全然違うことをやっている2人が合わさった時に、かみ合ってつながっていくのですが、これをミステリーファンの方が見たら、どう思われるのかは少し不安です」

――では、全4話で書くことについてはいかがでしょう?

「全5話で書いた経験はあったのですが、全4話は初めて。起承転結が4回で奇麗に収まるので、遊びやゆとりを入れづらく難しかったです。今回のドラマでは、すべてが明らかになっていない怪盗が怪盗になっていった過去、そして、これから先にどういう事件が起きるかという未来、物語はできているので続編ができたらうれしいですね」

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

――謎めいた人物が多く登場しますが、脚本を書く際にどんなことを心掛けたのでしょうか?

「『知りたい』と思える人物を構築することを心掛けました。例えば、森本(慎太郎)さんが演じた梅澤潤二は、新聞記者という鎧(よろい)を着ているから分かりやすいですが、普通に生きている人は、初対面ではどんな人か分かりにくいですよね。だからその人がどんな人物なのか、心の奥に何があるのか、きちんと書きたいと思った部分はあるかもしれません。『探偵ロマンス』は、太郎の目を通して見た世界を視聴者がもう一度見るという世界観で、太郎の目線で見るとどの人物も怪しく見えます。それは意識して書きました。作家が見た夢とうつつのはざまのような怪しい世界を体験してほしいんです。そのほか、濱田さんは早い段階で決まっていたので、脚本を書く前に濱田さんの声はたくさん聞きました。どういうリズムでしゃべったら、太郎が魅力的でかわいく見えるのかを意識したところはあります」

――謎めいた人物といえば、第2話で出てきたお百が気になりました。作り出す上で参考にした人物がいたのでしょうか?

「お百に関しては、実在の人物をモデルにしたわけではありません。これは、乱歩先生が学生の頃にすごくかわいい男の子と恋をしたけれど、清い関係でキスもしたことがなかったという『わが夢と真実』や史実に書いてあったことから着想しました」

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

――お百といえば、舞台で歌っていた歌がすてきでした。そして、上白石萌音さんがお百の陰歌役として登場したことも驚きました!

「私が歌詞を書いて、音楽担当の大橋(トリオ)さんがメロディーをつけてくださいました。実は第1話でもメロディーだけ流れていたんです。それも好きでしたね。陰歌については、お百はお百で歌をかぶせられて怒っているだろうけど、萌音ちゃん(影歌役)も怒っていると思うんですよね。『あいつ~!』って(笑)。誰かの怒りの裏にはまた別の誰かの怒りがあると思います」

――第2話では、“夢”という言葉が多く出てきますが、その意図を教えてください。乱歩の「うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと」という言葉を意識されたのでしょうか?

「おっしゃる通り、『よるの夢こそまこと』という言葉がヒントになりました。この物語は平井太郎という青年が、探偵小説家になるまでの話で、くすぶっていた時の話を書いている段階。作家になるために一筋の光を信じて歩んでいくのはものすごく難しいことです。その中で太郎はもがきますが、それは若者に限った話ではなく、情報や人の意思にまみれて生きている、現代の人々にも通じるところがあると思うので、“夢”を作品のキーワードとしてたくさん使いました。また、三郎と太郎の通じ合える部分も夢なんです。三郎は当初40代、50代の全盛期の格好いい探偵を考えていたのですが、太郎との対比を付けるためにも、おじいちゃんに変えたんです。自分に残された時間が少しずつ見えてきている老探偵と、悠久とも思える苦しい時間が目の前にある若い作家、その2人が通じ合えるものって、夢や希望なのかもしれないですよね。それが一筋の光かもしれない。夢という言葉の中にはいろんな意味を込めています」

――第1、2話と街で生きる人たちがすごく印象的でしたが、それは脚本にも書かれていたのでしょうか?

「太郎が街の人々と触れ合い、それを自分の物語とすることで責任が生じてくるのですが、それを言葉を使わずに表現する手段として、もじりさんが人々のまなざしを入れるアイデアをくださいました。脚本だと『鶏ガラみたいな遊女』と1行書かれただけの人が、映像になると変わってくる。幻想的な太郎の目を通して見る世界よりも、もう少し生っぽい感じがすごくよくて。あのアイデアはもじりさんがくださった光なんです。オンエアで見たら、さらにバッチリ伝わってきて。ドラマ作りは、いろんな人の力がどんどん加わることで物語が鮮明になっていくから本当に面白いなと。乱歩先生には悪いですが、小説家にはない喜びかなと(笑)」

――また、謎の落書きをする人たちも登場しますが、実際、大正時代にそんな人々がいたのでしょうか?

「落書きは資料で見せてもらいました。私が悩んでいたら、大嶋さんがいろんな資料を送ってくださって。その時に『ものすごく今の時代の空気感と似てるんだよ』と繰り返し言っていて。それを聞いて、このままいくと大正から昭和に移っていく流れを経験する可能性だって絶対ないとは言えないからこそ、その空気感をきちんと勉強しようと思いました。ただ私は勉強が苦手なので、子ども向けのものをまずは送ってくれて(笑)。そういう資料で勉強していく中で、落書きやスペイン風邪のアイデアが生まれました。マスクがあったことも最初聞いた時はびっくりしたんですよ。三郎は美丈夫なのですぐに見つかるはずなのに、『どうやって顔を隠していたんだ?』とずっと疑問だったんですが、スペイン風邪の流行でマスクが出てきたことを聞いて、『これだな』と思って。現代とここまでリンクしていると、なんだかちょっと気持ち悪いですよね」

――昭和のようにならないでほしいです。

「現代は、人の意志が可視化されて見やすく誘導しやすい時代なので、悪い方に誘導されないためにはどうしたらいいかも少し考えながら書きました。できれば光の方に向かいたいものですね」

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

――今作は楽しいアクションシーンも見どころの一つですが、執筆の際に心掛けたことを教えてください。

「太郎にはモデルがいるとはいえ、1個シーンを書かないとセリフが思い浮かばないので書いたのが、第1話の歓楽街にあるお茶屋の2階で、三郎と太郎が会ってやりとりをする場面でした。2人のやりとりが面白いドラマにしないといけないと思ってできたのが、窓から三郎が飛び出して、太郎が『なんてじじいだ!』と驚嘆するシーン。このドラマは『なんてじじいだ』を楽しむドラマなんです。ヒーローものと一緒で、『なんてじじいだ!』という場面は1話に1回出てくることが決まって、脚本を書き進めました。あのシーンは、もともとコミカルに書いていましたが、それをアクション監督が何倍にも膨らましてくださって、そこからさらにセリフの入れ方などを話し合って作っていったんです。また、第2話の三郎と太郎が廻戸邸に向かい、三郎が空中で何回転もした後ピス健をやっつける場面は、最初、妄想じゃなかったんですよ。現実で三郎がやっていたのですが、これをしたら今後、三郎は何でもありになって、怪盗を素手で殴り倒せばいいことになるので、妄想のシーンに変えさせてもらったんです。それを濱田さんと草刈さんが面白く演じてくださってとてもうれしいです」

――映像化したことによって、さらにお気に入りとなったシーンはありますか?

「ちょっと恥ずかしいですが、第1話のラスト付近の『あんたの小説が読んでみたいと思ったからだよ』という一連のシーンが、脚本を書いた時に想像していたよりもずっと面白くなっていてとても好きです。『なんてじじいだ!』というアクションを見せた三郎が、上半身を片方だけ出していて、草刈さんが意識してヨロヨロとした歩き方をされていることで、体を酷使したことが伝わってくる。体力があって、ものすごく強いところだけが格好いいわけではないことが存分に分かるので、すごく好きなんですよ。その後、『なんで探偵小説を読みたいって言ってくれたんですか?』と言った太郎に対して、ちょっと笑うんです。脚本にも恥ずかしさがあって笑っているように書いたのですが、笑ったことに対して『すまなかった』と若造の太郎に素直に謝れるキャラクターが書けたことも、めちゃくちゃうれしかったです。生きるのがしんどくて仕方がない時に、こんな人がそばにいてくれたらいいのに、という思いから三郎が生まれたのですが、そんな彼が太郎に言ったセリフは、夢に向かって脚本家をやっている自分に言ってくれているようにも感じました。執筆中は思ってもなかったことです。草刈さんのきちんと相手と対話しているお芝居と、濱田さんの少し子どもに返ったような気持ちが上ずっているお芝居もすてきで。さらに、その後の太郎が作家としての覚悟を見せるところは、第1話冒頭とは全然違ってグッと青年になっているんですよね。ほかにも、なぜ真正面から太郎を撮影しなかったんだろうと疑問だったのですが、オンエアを見て、太郎が初めて人にきちんと向き合ったことを目に光が入ったことで表現するために、あえて横から撮影したんだと気付きました。三郎がそんな太郎に気付いて探偵への扉を開いてくれることも全部伝わってきたし、このドラマを象徴するシーンなので、脚本家として好きなシーンです」

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

――三郎と太郎の関係性が伝わってくるすてきなシーンでした。

「個人的に好きなシーンは、第2話の『住良木(平吉)さんキスして』とお百がお願いすると、(尾上菊之助演じる)住良木さんが『ロマンスは本当に好きな人としかしちゃいけないんですよ』というシーン。画面を見て『ああっ! どうしよう!』と思わず言ってしまったくらい好きです(笑)。そして、森本さんの潤二。すごく難しいキャラクターで、深みを持って演じることはすごく大変だったと思うんです。第1話の導入部分で、太郎がどういう扱いをされている人物なのか分かるまでのおよそ10分は、森本さんの芝居で引っ張っているので、ものすごく感謝しています。森本さんとは別のドラマでご一緒したことがあって、また一緒に仕事をしたかったし、やってほしい役で出てもらえたこともすごくうれしかったです。そして、とにかく皆さんが褒めていらっしゃいますが、声がいいんです。今作は前半がしっとりした感じのドラマなので、そこにカラっと華やかな感じで入ってくださっていて。なかなかいない不思議な役者さんで、とても信頼しています」

「探偵ロマンス」でオリジナルドラマ初執筆、坪田文のお気に入りシーンとは? 「また一緒に仕事をしたかった」森本慎太郎への信頼も

――最後に第3話以降の見どころをお願いします!

「今作は乱歩先生が作ったコラージュを参考にして書かせていただいたこともありますが、このドラマは乱歩先生の世界観のコラージュでもあります。コラージュは整然と並んでいないけど美しくて興味がひかれるし、細部まで見ていくと発見がある。そういうコラージュのようなドラマなので、脳が真綿でギュッて締め付けられるような快感と、『なんてじじいだ!』と驚きながら見た後、もう一度、気になったところを自分の感性を信じて見てもらいたいです。脳でしびれて心で揺れる探偵活劇になっていますし、特に第4話はいろんな思いを込めて書いたセリフもたくさんあるので、最後まで見ていただけるとうれしいです」

――ありがとうございました! 最後まで楽しみにしています!

【番組情報】

土曜ドラマ「探偵ロマンス」
NHK総合 
土曜 午後10:00~10:49 

NHK担当/K・H



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.