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野村萬斎「あっという間にいなくなるので、ひっくり返りそうになりました」。「どうする家康」今川義元がまさかの討ち死に2023/01/08

野村萬斎「あっという間にいなくなるので、ひっくり返りそうになりました」。「どうする家康」今川義元がまさかの討ち死に

 1月8日から始まった大河ドラマ「どうする家康」(NHK総合ほか)。松平元康(後の家康)を演じる松本潤さんと瀬名(有村架純)の初々しいかくれんぼでほのぼのとする場面もありましたが、後半は「桶狭間の戦い」が描かれ、ここが戦乱の世であることがしっかり示されました。そして、家康が父のように尊敬する今川義元(野村萬斎)がまさかの戦死! タイトル通り、元康は「どうする」の局面に立たされます。

 今回は、第1回で討ち死にしてしまった今川義元を演じた野村萬斎さんに、第1回のさまざまなシーンを振り返っていただきました。

――第1回で義元が討ち死にするとは想像もしていなかったので、驚きました!

「そうですよね。あっという間にいなくなるので、私もひっくり返りそうになりました。『え、これでおしまい?』ってちょっとびっくりしましたね(笑)」

――義元の嫡男・氏真(溝端淳平)と元康の戦いで、手を抜いた元康に怒るシーンが父親代わりでなく、まさに父親だと感じました。あの時の義元をどのような気持ちで演じられましたか?

「芸を相伝する時に、間違ったことを野放しにしていると芸に現れるのと同じで、間違ったことがまかり通っていけば間違った道になると言っているのだろうと思いました。わが子にとって不利でも正しいことを説くところは、非常に共感できます。やはり一つの道を説くことが義元のキーワードのような気がしますね。剣の試合で不正をすることは、相手にとって最大の非礼であると人の道として説く。そういう意味では、人格者としての厳しさがあります。私とは程遠い人間ですけどね(笑)。とても格好よく描かれていますが、それをどういうふうに視聴者が受け取ってくれるかが楽しみでもあります」

野村萬斎「あっという間にいなくなるので、ひっくり返りそうになりました」。「どうする家康」今川義元がまさかの討ち死に

――義元は元康にとって父なのか、父代わりなのか、それとも師弟の師なのか、どのような立場なのでしょうか?

「父子関係よりも師弟関係に重きがあるのかなと。そうでないと、わが子にあんなに厳しくできない気がします。国を治める人間として、目指す道がはっきりしているのではないでしょうか。嫡男である氏真に今川の家督を継がせて元康がうまく支えてくれることを望んでいたから、わが子には非常に厳しく、支えてほしい元康にはちゃんと教育をして支えてやってほしいということが彼の願いだったのでしょうが、残念ながら歴史的にはそうならなかったところが一つのドラマですね」

――義元が元康に黄金の甲冑(かっちゅう)を与えるシーンがありましたが、どのように撮影されたのでしょうか?

「あのシーンが私のファーストシーンでした。石川数正を演じる松重(豊)さんたち徳川家臣団がたくさんいらして、ちょっと緊張しました(笑)。あれは面白いシーンですね。義元は、明らかに戦場で敵から見て目立つものを着せているわけですよ。そういう意味では義元も二枚舌ですよね。でももしかしたら、一つの試練を与えて、それをかいくぐって生き残れる人物になってほしいという思いがあったのかもしれません。それはいい解釈かもしれないけれど(笑)。みんな最初は『おお、すごい』と感心しているのに、最終的には『これ、もしかしてすごく目立つんじゃない!?』というリアクションになっていて面白くオチがつくようで、さも素晴らしいもののように紹介した覚えがあります」

――黄金の甲冑以外に驚いたことはありましたか?

「ちょっと意外だったのは衣装です。甲冑姿は、武力の人ではないので聖なる人というイメージか、白を基調としていました。逆に普段の格好が藍染めの非常に渋いものでした。最初、もう少し色気のあるものを着たいと思っていたんですけどね(笑)。衣装は紫と藍染めの2種類ありましたが、結局藍染めだけになりました。なぜかというと、義元が禅という思想に非常に傾倒していたためです。普段からきびやかにするお公家文化ではなく、逆に京にいたからこそ質実剛健な禅という、当時の思想の一つにまい進した。いわゆるお歯黒を塗っている公家と真逆の、質素で、シンプル・イズ・ザ・ベストというキャラクターになったことは、新鮮で腹をくくれた部分がありました」

野村萬斎「あっという間にいなくなるので、ひっくり返りそうになりました」。「どうする家康」今川義元がまさかの討ち死に

――「桶狭間の戦い」の前に沓掛城で義元が舞いを舞うシーンが見事でしたが、どんな思いで演じられたのでしょうか?

「雅楽を元にしたものを少しずつアレンジして、能楽に引き寄せて一つの歌謡と舞にしました。今時風に言えば、非常に呪術的に感じるシーンになっています。義元の舞で士気を高め、われわれには神が味方しているんだと感じさせるシーンです。ただ、そういうシーンは大体セリフがないので、役者に任せられることが多いんです。だから、その舞が後にどういう影響を与えるかを逆算して演じました。今回はみんなの士気が上がるように、とにかく大きさとスケール感を出すということを試みました。これは野村萬斎でなければできない一つのジャンルだと考えています」

――今回の撮影を通して、あらためて大河ドラマらしさを感じた部分を教えてください。

「いろいろな芸能のシーンは、大河ドラマならではですね。芸能考証もきちんとされていて。また、剣術のシーンは、松本くんと溝端くんが非常に真剣にやっていて、格好よかったです」

――萬斎さんが台本を読まれた段階で気になったキャラクターはいらっしゃいますか?

「元康を取り囲む人たちが非常に魅力的です。いつも一緒で、それはそれで大変だとも思いましたが(笑)。大河ドラマや時代劇になると撮影の時間もかかりますからね。それに家臣はセリフがあってもなくても、そばにいなくてはいけない。でもその分、団結力をすごく感じましたし、松本くんをはじめ、皆仲良くやっている雰囲気がよくて、これは期待が持てると感じました」

野村萬斎「あっという間にいなくなるので、ひっくり返りそうになりました」。「どうする家康」今川義元がまさかの討ち死に

――放送を見た人に伝えたいことはありますか?

「第1話で死んでしまうのですが、見た人たちに『えっ?』と驚かれることしか頭になくて。『もう死んだの?』みたいな(笑)。『もう退場?』とか『早い』と思われるのではないでしょうか」

――最後に「もう退場?」と思ってる視聴者に対してメッセージお願いします!

「早く死んだ分、彼の死にざまよりも義元が理想として掲げた王道と覇道の違いに、スポットが当たるんじゃないでしょうか。そういう役回りが今回の今川義元で、脚本も戦を描くということ以上に、どのように平和な国家に推移していくかに重きがあると思います。もちろん戦国ものですから、戦のシーンや群雄割拠のそれぞれのキャラクターが立たなきゃいけないんですが、家康が幕府を作っていく一つのプロセスにスポットを当てる時に、『今川義元の力だったんだな』という印象が残ってもらえるとうれしいです。いよいよ江戸幕府が始まる時に、もう1回出てくるといいなと思っています(笑)」

――ありがとうございました!

野村萬斎「あっという間にいなくなるので、ひっくり返りそうになりました」。「どうする家康」今川義元がまさかの討ち死に

【プロフィール】

野村萬斎(のむら まんさい)
1966年4月5日生まれ。東京都出身。狂言師。狂言以外でも、ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。2003年より、「にほんごであそぼ」(NHK Eテレ)のレギュラー出演を務める。また、23年1月26日には、東京・文京シビックホールで行われる「野村万作・萬斎・裕基 狂言三代の夕べ」、3月には世田谷パブリックシアターにて上演される「ハムレット」の公演などが控えている。

【番組情報】

大河ドラマ「どうする家康」
NHK総合 
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
日曜 午後6:00~6:45

NHK担当/K・H



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