ブロードウェイ・ミュージカルの映画版「ハミルトン」がDisney+で配信!2020/07/09
全米で記録的に大ヒットし、文化的、社会的現象となったブロードウェイ・ミュージカル「ハミルトン(HAMILTON)」。トニー賞11部門、ピューリッツァー賞、グラミー賞などを受賞した傑作だ。アメリカの建国の父たちのストーリーを、ヒップホップなどの音楽で語るこの舞台をそのまま捉えた映画「ハミルトン」が、7月3日からDisney+(ディズニープラス)で世界同時に配信された。
配信を記念して、作詞、作曲、脚本を手掛け、主役のアレクサンダー・ハミルトンを演じたリン=マニュエル・ミランダと、舞台と映画、両方の監督を務めたトーマス・ケイル、そして主要キャストたちが集まり、今作について語ってくれた。
── 予定では、今作は2021年に劇場公開されるはずでした。今、なぜ配信することにしたのか、その理由を教えてください。
リン=マニュエル・ミランダ(アレクサンダー・ハミルトン役) 「週に8回、このショーをやっている間に僕ら全員に起きたことは、これまで全く経験したことがないことだった。そして、かなり初めに気付いたことが二つあった。まず、もしショーを若い人たちに見に来てもらうことができなければ、無価値だということ。それで、チケットが再販市場ですごい高額になっていても学生たちが見に来られるように、EduHam Experienceという体験プログラムを作ったんだ。また、リチャード・ロジャース劇場で1回に見られるのは1300人と限られた人数だ。それで、ショーの1年目の契約が切れてキャストたちが入れ変わり始める前に、この素晴らしいカンパニーを記録できるように頑張ったんだ。キャストたちが去り始める前の週に撮影することができたんだよ。自分たちに舞台と映画の両方をやれる余力があったことが信じられないんだけどね。そのおかげで、舞台を見ることができない今、このショーの、“スナップショット”という贈り物を手にできたんだ。僕はそのことを本当にありがたく思っているよ」
── トーマスに聞きます。もともと舞台のために作られたこの作品を映画にするために、どういうことをしたんですか?
トーマス・ケイル 「まず、舞台上のみんなや、ショーを作った人たちを信頼することだった。題材がよければ、それを称えて表現しようとするのに適切な形態を見つけられるからだ。また、劇場では(席によって)観客が見る地点がかなり違うから、視聴者に“同じ席”で見てもらうことが重要だった。僕らは、日曜日のマチネーと、火曜日の夜、ライブパフォーマンスを通しで撮影した。そして、日曜日の夜と、月曜日丸1日、火曜日の朝にステージで、ショーの中に入り込める違う方法で撮影した。僕の目標は、カンパニー全員によって、本質的に、美しく作られたショーを称えることだった。これは、舞台上でみんながストーリーを語るショーなんだ。そして、ショーのフィジカル(肉体的)言語は、ストーリーテリングのとても大きな部分だ。映画の中で、クローズアップは観客に親密さを与えてくれる。でもそれはまた、全体像を見るのを妨げることにもなりうる。だから、映画を作っている間ずっと、“僕らは劇場にいるんだ”ということを決して忘れないようにするにはどうすればいいか、よく話し合ったよ。このカンパニーは、何かを週に8回上演するというのがどういうことか、そのスピリットを表している。3日間撮影したけど、彼らはそこに行き着くために、何百、何千というパフォーマンスを、週に6日、週に8回のショーをやってきたんだ。どのようにしてこの時点を撮って、それを提示し、保存し、記録しようとするのか。それが、僕の責任だった。劇場に見に行くのがとても大変だというハードルを下げて、もっと多くの人々に今作を見てもらえるようにするためにね」
── 本作が配信されることで、これまでのすべてのツアーで見た観客よりも、ずっと多くの人々が見ることになりますが、最もエキサイティングなことは何ですか?
ジャスミン・セファス・ジョーンズ(ペギー・スカイラー/マリア・レイノルズ役) 「ショーの後、11歳くらいの小さな女の子が私のところにやって来て、『あなたは、私みたいに見えるわ』って言ったの。自分みたいに見える人をステージ上で見られて、とてもうれしかったって感じだった。その時、私はこのショーが見る人にどれほど強い影響を与えるかに気付いたのよ。それから、人生で1度もヒップホップを聴いたことがない、アリゾナ州から来た年配の女性がいたの。彼女は、これからはヒップホップを聴いてみようと心に決めて、帰っていったのよ(笑)。このショーは多くの人々のさまざまな道を開かせるの。また、今、世界ではあまりにいろんなことが起きていて、多くの若者たちが、一体何が起きているか理解できていないように感じる。だから、素晴らしいキャストが出演し、美しく書かれたこの作品を見ることは、多くの若者たちをインスパイアーし、慰めることになるでしょう。そして、何かを書いたり、考えたり、投票したり、友だちと一緒に革命を始めるためのインスピレーションになるといいなと思うわ。私は、みんなが見てくれることを誇りに思っているの」
── 歴史的人物を演じるということで、リサーチをして“ミニ歴史家”になったことと思います。演じたキャラクターについて、何か知ってほしいことはありますか?
ダヴィード・ディグス(ラファイエット侯爵/トーマス・ジェファーソン役) 「『ハミルトン』は、いろんな多くのことへの入門になるんだ。ヒップホップ好きでなければ、ヒップホップへの入門になる。もしミュージカルに夢中でなければ、ミュージカルへの入門に、また歴史への入門になる。少なくとも僕がファンとの交流で気付いたことは、これらの素晴らしい人々についてもっと学びたいと思うことだよ。もしトーマス・ジェファーソンに魅了されたら、彼についてもっと本を読んだりする。そしたら『あいつはひどいやつだったんだ』と思ったりする。そして、そのことについて話し合うことができる。それが、このショーについて僕が大好きなことの一つなんだ」
レスリー・オドム・Jr(アーロン・バー役) 「バーについてのさまざまな本をいろいろな人が楽屋に持って来てくれて、僕はすべてを読んだよ。それでこんなふうに演じようと考えたりしたけど、結局のところ、リン=マニュエル・ミランダの作り上げたバーを演じているわけだからね。このストーリーに出てくるバーを知るのに必要なものは、すべてそろっていた。僕は、このヴィラン(悪役)に感情移入してもらえればと思った。好感度のコンテストで勝つことはできないけど、観客に彼を理解してもらえるようにはできると思ったんだ」
── なぜ「ハミルトン」は、これほど多くの人たちの共感を呼んだのだと思いますか?
トーマス・ケイル監督 「それは、見る人によって違うと思う。この題材を形にするのに協力した監督、制作者としての仕事は、著者の強い欲求が、ステージ上で最も明確で、ダイナミックな形で表現できるようにすることなんだ。もしそれができれば、観客は、それぞれが全く違う経験をすることになる。僕がやりたいことは、正直に、誠実に何かを語るということだ。それは、各自にとって違うことを意味している。また、2016年に見たのと、今見るのでは、全く違うように感じるかもしれない。世界が変わったからかもしれないし、その人が変わったからかもしれない。同じ絵を見ても、前に見た時と違って、新しい絵のように感じるかもしれないのと同じことだよ」
── アレクサンダー・ハミルトンのストーリーは、世界中の観客にとっても重要なものだと思いますか?
リン=マニュエル・ミランダ 「そう願っているよ。『レ・ミゼラブル』はフランス語で書かれたけど、世界中の観客の共感を呼ぶのと同じようにね。革命は普遍的なんだ。与えられた人生で何をするかというストーリーも、願わくば、普遍的だ。僕はこの話を何度もしているんだけど、日本の『屋根の上のヴァイオリン弾き』のオープニングナイトに、観客が制作チームのところにやって来て言ったんだ。『すみません。あなたたちはこのショーに関わっているんですか? この舞台はアメリカでオープンしたと聞きました。なぜそんなことが可能なんでしょうか? これはすごく日本的ですよ」と。だから、僕らが願っているのは、もし僕らが十分な特異性を持って語っていれば、それは生まれた国を越えて、人々の共感を得るだろうということだよ」
さまざまな人種の役者たちの演技、ヒップホップやR&B、ジャズ、伝統的なブロードウェイの音楽とジャンルが混ざりあった音楽、振り付け、美術とすべてが素晴らしい「ハミルトン」。今はもう見られないオリジナルキャストの舞台を、配信で何度でも楽しむことができる。
【作品情報】
「ハミルトン(HAMILTON)」
Disney+
配信中
※配信直後は英語音声のみ。後日、日本語字幕版を配信予定
取材・文/吉川優子
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