「俺…頑張れない…!」。コント師・やさしいズが織りなす人間模様【ロングインタビュー前編】2022/11/16
何げない日常に少しの光が差すようなコントで、温かな笑いを巻き起こすお笑いコンビ・やさしいズ。東京NSC16期生の同期として出会った2人は、2011年にコンビを結成。18年、「キングオブコント」で初の決勝進出を果たした。
以降は、19、21、22年に準決勝進出。その結果に対し、ネタを作っているタイさんは「こんな年もあるよねって。今年はマネジャーの方がヘコんじゃって、喫煙所で僕が『大丈夫、大丈夫』って励ましたり(笑)」と、笑いも交えながら冷静に話し出す。
一方、ネタはもちろん、単独ライブのコンセプトでさえも「僕はノータッチです。フライヤーに載ってることしか知らないし、なんならお客さんより(知るのが)遅い時もある」と明かす佐伯元輝さんは、「毎年めちゃくちゃ悔しいです、ちゃんと。ちゃんと、最初と同じテンションで悔しい。今年もちょっと泣いた」と、まるで昨日のことのように悔しさをにじませる。さらに「タイももっと悔しがった方がいい。悔しがらないと」と相方をとがめる。
そんなやさしいズが、約3年半ぶりに3日間で計5公演の単独ライブを開催する。佐伯さんによれば、2人は「趣味も違うし、好きなものも違うし、マジで違う人間」。それぞれ、どんな思いを抱いているのか、話を聞いた。
「こんな俺たちを、見てくれてる人がいるんだ」
――11月25日~27日に、約3年半ぶりとなる単独ライブ「ネネネネリネネネネ」が開催されますね。開催を決めた理由や、どんな公演にしたいかを教えてください(取材は10月に実施)。
佐伯 「………」
タイ 「そうか、なんも佐伯はないもんな」
佐伯 「僕は知らないんで。実は皆さんと同じタイミングで知るんですよ~。なので、さぁ、タイに聞いてみましょう! なんでなんですか?」
タイ 「何かをやる時、決めるの僕なんですよ」
――ネタを書いているのがタイさんというのは知っていたのですが、「単独ライブをやる」と決める時も、佐伯さんはノータッチなんですか?
佐伯 「僕はノータッチです。基本、風のうわさで。なんならお客さんより(知るのが)遅い時もあります」
――そうなんですね。では、タイさんからお願いします。
タイ 「3年前に、コロナで単独ライブが中止になってしまって。その時に『もうコロナがなくなるまでやらなくていいや』って思ったんですけど、今回、吉本のライブ制作の方から『このハコをこの期間押さえたんで、単独ライブどうですか』って相談をいただいたんです。なんか、『こんな俺たちに単独やってって言ってくれる人がいるんだ』と思ったんですよね。『こんな俺たちを、見てくれてる人がいるんだ』って、うれしくて。それですぐに『やります』って返事しました」
――「コロナがなくなるまで単独ライブの開催はやめておこう」と思ったのはなぜですか?
タイ 「万が一、また中止になったりしたらしんどいなぁって。単独ライブって、2、3カ月前から準備するんですけど、3年前の時は、結構直前でコロナがはやってきて。その頃、まだ吉本のハコはやってたんですけど、その単独を行うのが恵比寿にある劇場で、外ハコだったんです。そしたら『やるか、やらないか、タイさんが決めてください』と。やりたい気持ちはもちろんあるけど、もしそこで何か起きてしまったら…って悩みながらジャッジをしたんですよね。それがすごくしんどかったんです」
――今回は3日間で5公演。佐伯さんは、どういう内容かはもうご存知なんですよね…?
佐伯 「知るわけないじゃないですかぁ~! 僕はフライヤーに載ってることしか知らないんで」
――毎回、単独ライブを行う時はこういう感じなんですか?
タイ 「毎回こういう感じです」
佐伯 「だから事前にこういう取材をしていただく時も、横でヘラヘラするしかないんで、記事見たら『(笑)』ばっかりなんです。俺が笑ってる時間がすごく長い(笑)」
――(笑)。タイさんの中では、いろいろと固まってきている段階ですか?
タイ 「結構全体が固まってきていて、ネタを書いているところです。まだ全部は言えないのですが、お客さんに楽しんでもらえるような仕掛けを作っていますね。全員ではないんですけど、ライブに来てくださったお客さんが次のコントに入れるような演出を考えています」
佐伯 「これは前回別の取材をしていただいた時に聞きました! すみません、皆さんより先に知っちゃってます(笑)。ただ、内容は知らないです!」
――コロナ前は毎年単独ライブを行っていたと拝見したのですが、その頃も、お二人はこういう立ち位置で進めていたのですか?
佐伯 「変わらないです」
タイ 「そうですね。ネタが全部できてから台本を渡すんで」
――ということは、えっと、佐伯さんはネタ作りには…。
タイ 「すごい言葉選んでる(笑)」
佐伯 「本当に言いたかったのは、『佐伯さんって何もしてないですよね』ですよね? 聞こえてきちゃった。そうです、僕何もしてないです」
――YouTubeの動画をいくつか拝見したのですが、周りの芸人の皆さんからも「佐伯さんは何もしていない」といじられているのを見ました。男性ブランコの浦井(のりひろ)さんも「怠惰」と言われていますが、以前インタビューさせていただいた時、平井(まさあき)さんが「浦井に意見をもらいながら完成させていく」とおっしゃっていたりもして…。
タイ 「佐伯は“浦井”特化型です」
佐伯 「怠惰のこと“浦井”って言うな?(笑)。ややこしくなるから」
タイ 「特化型の浦井です」
佐伯 「“怠惰”特化型な? ……怠惰特化型じゃねーわ!」
タイ 「どうしたの? 急に」
佐伯 「怠惰特化型って言われたらスゲームカついてきちゃった」
――佐伯さんとしては、今回の単独ライブはどういう意気込みですか?
佐伯 「健康。まずは健康! これ、みんなのテーマですよ。それこそ3年前に中止になった時も、みんなが健康だったらよかったじゃないですか?」
――世界中のみんなが、ですか?
佐伯 「みんな! 世界中が!! 世の中のみんなが健康だったらよかったじゃないですか。だから今回の単独ライブのテーマは『健康』です」
“天才尖り期”の佐伯さんは…
――これまでの単独ライブで、印象に残っている回はありますか?
タイ 「コンビ組んで3年目の時に、初めて単独をやった時はやっぱり緊張しましたね。渋谷の∞ホールだったんですけど、当時、同期の芸人でも単独をやる人は少なかったんです。でも同期がみんな来てくれたり、先輩が『みんな味方だから大丈夫』って声を掛けてくれたりして。なんか、本当にいい単独ライブだったんで、すごく覚えてます。あとは、2回目か3回目の単独で、10分くらいのネタで佐伯が1分過ぎたあたりから9分30秒まで飛ばしちゃって。で、そのまま1分半でネタが終わっちゃったんですよ。その時は『これが単独ライブだな。やっぱり生だよな』って思いました」
佐伯 「へぇ~。そんなのあったかなぁ? ちょっと忘れちゃったなぁ~」
タイ 「だから今回も久しぶりなんで、60分くらい巻いて終わるかもしれません(笑)」
佐伯 「Vだけ流れるんか?(笑)」
――結構、普段から多いんですか? その…。
タイ 「いいですよ、言って」
佐伯 「濁さないで! 濁されると逆に刺さる(笑)」
――結構、佐伯さんがネタを飛ばすことってあるんですか?
タイ 「年々なくなってきてはいますけど、多いですね。でも、飛ばしても気付かせないテクニックをつけてきてます。今年の『キングオブコント』の2日目もネタ飛ばしてるんですけど、たぶんお客さんにはバレてないと思います」
佐伯 「じゃあバラすなよ(笑)」
タイ 「僕は『こいつ今セリフ出てきてねえな』って顔見たら分かるんですけど(笑)」
――タイさんとしては、もうそこに憤ったりとかはないんですか?
タイ 「練習してたら別に仕方ないかなって。3、4年目の頃は天才尖り期だったんで、あんまり練習をしないっていう。それで飛ばしちゃうからその時は怒ってましたけど。やってくれ、って。練習して飛ばすならいいけど、やらずに飛ばすのだけは意味が分かんないとか言って、けんかしたことあります」
――佐伯さんは尖ってた自覚ってあるんですか?
佐伯・タイ 「ははははは!(笑)」
――「濁さないで」とおっしゃるので…(笑)。
佐伯 「今思えばの話ですけど、バリバリでしたね。よくないなと思います」
タイ 「5年目くらいまでずっとですね。本当に最近やっと、丸くなってる。2018年に『キングオブコント』の決勝いくまで尖ってたかもしれない(笑)。台本渡したら『面白くない』とか、ネタの中で例えば踊ったり、楽器を吹いてほしいって言うと『できない』とか、ありましたね。1回も受け入れてくれなかったんですけど、やっぱり天才は分かるんでしょうね」
佐伯 「天才って言えば俺が喜ぶと思うなよ?」
「タイももっと悔しがった方がいい。悔しがらないと」
――お二人は2018年に「キングオブコント」で初めて決勝に進出。以降、19、21、22年は準決勝まで勝ち進むという結果を残されていますが、そんな自身の状況に関しては、どのように感じていますか?
タイ 「2014年から毎年『キングオブコント』に出場して、14~17年は準決勝までいったんですよ。それで18年は決勝いけたんですけど、20年は準々決勝で負けて、準決勝にいけない年が久々に来たりして。で、21、22年は準決勝まで…という結果で。それで思うのは、結構いろんなパターンの準決勝を経験してきたなと。全然かなわない年も、ちょっと手応えがあった年も、いけると思っていけた年もあったりしたので、最近はもう、結果に対して『クソー!!』とかならないゾーンまで来ちゃって。いいのか悪いのか(笑)。今年はマネジャーの方がヘコんじゃって、喫煙所で僕が『大丈夫、大丈夫』って励ましたり(笑)。いいマネジャーです、本当に。僕としては、自分たちのできることをやったし、ウケてたし、自分たちとしてもいいネタをできたと思ったんで、『こんな年もあるよね』という気持ちでした」
佐伯 「……僕は毎年めちゃくちゃ悔しいです、ちゃんと。ちゃんと、最初と同じテンションで悔しい。今年もちょっと泣いた」
タイ 「すごいよ。ネタ飛ばしたのに悔しがれるって。天才ですよ」
佐伯 「タイももっと悔しがった方がいい。悔しがらないと。結果が発表された後、何人かで飲みに行ったでしょ? そこで後輩から『もっと悔しがった方がいい』って言われてますよ。僕はその日は1人で家に閉じこもってシクシク泣いてたけど」
タイ 「その日はそいつどいつの松本竹馬、男性ブランコの平井、うるとらブギーズの八木(崇)さんと飯食ったんですけど、みんな負けて。3人が悔しさを言葉にしている中、俺が『まぁまぁ』みたいな感じのこと言ったら、竹馬が『あんた心臓が機械でできてる。泣いた方がいいよ』って言われました」
佐伯 「やっぱりよくない、それ」
タイ 「うーん。でもたぶん、優勝してもやることは変わらないというか。コントを作っていくというのは変わらないと思うので」
――優勝は、したいですか。
タイ 「優勝したいですよ」
佐伯 「ヤバいって。このまま感情がないままだったら、もし優勝できて『優勝は、やさしいズ!!』って呼ばれても『まぁまぁまぁ』ってなるってことでしょ?」
タイ 「一番嫌われるチャンピオン(笑)」
佐伯 「最悪だよ!! 感情、出すようにしな? ちょっとずつ」
タイ 「元々あんまり感情を出す方じゃないっていうのと、空手やってたからですかね? 試合の時、喜ぶと怒られるんですよ。勝っても『よっしゃー!』ってやるのは相手に失礼だからやめなさいって。あとは、勝つために練習して努力してきたんだから、結果がついてくるのは当たり前でしょ、みたいな。そういうのを美徳として育ってきたからかもしれないです」
――隣で、佐伯さんが不満そうな表情をしています。
佐伯 「すごくよくない。よくないよ。お笑いにおいては、それは誰も期待してない。応援してた人も1回冷めるよ」
タイ 「それ、本当にあんのよ。例えば劇場のライブの1コーナーで『優勝は、やさしいズのタイ!!』ってなった時に、本当は『やったー!!』って喜んだ方がいいんだけど、『おう…』みたいな。一応『やったー!!』ってやっとくか、と思ってやってる時はある(笑)」
佐伯 「それギリギリよ? ∞のライブで、お客さんもタイがこういう人って分かってくれてるから成り立ってるだけ! トークでもみんなが『ちょっとちょっと!』って立ち上がっててもお前だけ座ってるし…。立って前出た方がいいから!」
――佐伯さんから見て、これまででタイさんが一番感情的になったのっていつだと思いますか?
佐伯 「それこそ『キングオブコント』決勝決まった時ですね。その時は準決勝に出たメンバーが全員集められて、そこで発表だったんです。決勝進出者だけが階段を登ってステージ上に行くという。その時はやっぱり泣いてましたよ、タイは」
タイ 「あの時は、『優勝した!!』って思ったんですよ。4年連続準決勝で負けてきて、ようやく決勝にいけることが発表された瞬間、『もう優勝だ』って。決勝では優勝するって思い込んでたんで、あれは優勝の涙ですね」
佐伯 「変だよ…」
タイ 「佐伯は佐伯で、『キングオブコント』って当時ファイナリストがオンエアまでシークレットだったので、翌日劇場の楽屋に行ったら、みんなが『おめでとう、よかったよ!!』ってすごい言ってくれたんです。そんな中『前フリのVで佐伯がすごい泣いてたけど、なんであんなに泣けるんだろう』ってみんなに言われてましたね。『あいつ何もしないのに、なんで泣けるんだ? 気持ちは分かるけど、何もしないのにちょっと泣きすぎじゃないか』って」
佐伯 「それ言ったやつあぶり出す。捕まえに行くぞ」
タイ 「ダンビラムーチョの原田(フニャオ)です」
佐伯 「あいつは絶対泣くじゃん。マジ同じタイプですよ」
――タイさんとしては、もっと佐伯さんにこれをしてほしい、みたいな気持ちってあるんですか?
タイ 「コンビ組みたての頃はありましたけど、もうなくなりましたね。ちゃんと言ってくれたんで」
――ちゃんと?
タイ 「2年くらい前に、今のマネジャーさんがついた時に3人で飲みに行ったんです。今後どうするかみたいなことをしゃべってたら、佐伯が泣きながら『俺…頑張れない…!』って言ったんです。『一生懸命頑張るっ…!』のテンションで『頑張れないっ…!』って言ったんで、本当にそうなんだって」
――これまでインタビューさせていただいて、佐伯さんが周りの人から「何もしない」と言われてご自身でも認めている一方で、すごく負けず嫌いだったり熱い闘志は伝わってくるのが…。
タイ 「不思議ですよね」
――はい。
佐伯 「『はい』じゃないのよ」
タイ 「僕もずっと不思議だと思ってるんですよ」
佐伯 「気持ちはあるんで。僕、感情特化型なんですよ。感情だけを持ってる人間なんで」
タイ 「ただのメンヘラじゃねーかよ(笑)」
インタビュー後編では、今年の「キングオブコント」チャンピオンとなったビスケットブラザーズをはじめとする、東京NSC16期生、大阪NSC33期生の同期との話や、憧れの存在についてお聞きしました。(後編はこちら:https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1870108/)
【プロフィール】
やさしいズ
佐伯元輝(1986年3月20日生まれ、富山県中新川郡出身)と、タイ(1985年6月26日生まれ、東京都江戸川区出身)が、ともに東京NSC16期生として入学。2011年、コンビ結成。「キングオブコント2018」決勝進出。22年11月25日~27日、東京・赤坂RED/THEATERにて、約3年半ぶりとなる全5公演の単独ライブ「やさしいズ単独ライブ『ネネネネリネネネネ』」を開催予定。11月27日には「やさしいズアフタートークライブ『ノノノノルノノノノ』」も開催。会場チケット発売中。
取材・文・撮影/宮下毬菜
関連記事
- やさしいズが描く、同期との夢「億稼げるライブができるかも」【ロングインタビュー後編】
- ビスケットブラザーズが「キングオブコント」第15代王者に!「1000万円で実家の跡地に公園をつくりたい」
- マユリカ、強い同期に囲まれ「恵まれてる」。「マユリカワールド」が心をつかむ理由【ロングインタビュー前編】
- 上京から6年、「長かった」。男性ブランコが歩んできた道【ロングインタビュー前編】
- 「紙芝居で世界を変える」ピン芸人・ZAZYインタビュー「『R-1』で優勝するのは最低条件」
- 空気階段初の全国ツアーDVD、パッケージをあのおしゃれ芸人が絶賛!?
- EXIT、かが屋、宮下草薙、四千頭身のブレークに「なんで俺らだけ売れねーんだよ!!!」。レインボーが手にした、輝ける場所【ロングインタビュー前編】
- 「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】
- ミルクボーイ、空気階段、オダウエダの優勝に「自分ら、いつやねん」。前代未聞の単独ライブに挑む、ななまがりの原動力【ロングインタビュー前編】
- 「錦鯉さんの優勝は“ありがた迷惑”」!? 38歳と40歳の実力派コンビ・シシガシラ ロングインタビュー【前編】
この記事をシェアする