白洲迅、ターニングポイントは「決まって“しまった”」デビュー作。「『テニスの王子様』があるから、僕は今ここにいる」 「向田理髪店」インタビュー2022/10/13
寂れた地方都市にある理髪店の親子の葛藤を軸に、過疎化や少子高齢化、介護といった深刻な問題に直面しながらも、変わりゆく故郷で懸命に生きていく人たちを描いた映画「向田理髪店」。原作は「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」などで知られる直木賞作家・奥田英朗さんによる同名小説。炭鉱で栄えた町「筑沢町」で理髪店を営む主人公を、本作が映画初主演となる高橋克実さんが演じています。
高橋さん演じる向田康彦の一人息子で、一度は東京で働いていたものの、突然帰郷し「会社を辞めたから店を継ぐ」と宣言する向田和昌を演じるのは、白洲迅さん。主演を務めたドラマ「個人差あります」(フジテレビ系)や人気シリーズ「刑事7人」(テレビ朝日系)の放送も記憶に新しく、近年出演作が途切れなく続く白洲さんですが、本作は昨年の12月に福岡県大牟田市で撮影されたとのこと。
“出戻り”する若者が好奇のまなざしを向けられるような描写もありますが、白洲さんはそんな和昌を「すごく行動力のある人」と捉えます。映画のことから、ご自身のことまで、さまざまなお話をお聞きしました。
向田家に、自分の家族を重ねて
――福岡県大牟田市を中心としたロケで撮影された本作。印象に残っていることはありますか?
「大牟田市の地元の方々の全面協力で撮影をさせていただきました。エキストラでたくさんの方が出てくださったり、さまざまな場所を貸してくださったり。おうちも貸していただいたんですよ。あとはお昼ご飯に豚汁やもつ鍋なんかを作ってくださって。ほかにも“だご汁”というだんごの入った郷土料理もおいしかったし、あとは有明海に面しているので、のりが有名で。そののりを巻いたおにぎりを振る舞ってもらったり…。たくさんおいしい思いをしました(笑)」
――寒い日々だったかと思いますが、大牟田市の皆さんの温かさを感じながらの撮影だったのですね。
「みんなで和気あいあいと楽しんでいましたね。個人的には、ラーメン屋さんにもたくさん行きました」
――白洲さん、ラーメンが大好きなんですよね?
「はい(笑)。でも同じ福岡といっても、博多ラーメンとはまた違うんですよ。九州ラーメンなんだけど、んー、なんて言うんだろう、博多よりはちょっと麺が太くて。大牟田ラーメンというのがあって、そのラーメンをたくさん楽しみましたね」
――ラーメン屋さん巡りはお一人で?
「1人でしか行ってないですね(笑)」
――大牟田市での生活を満喫されたようですね(笑)。白洲さんが演じる和昌は、東京で働いていたところから突然地元に戻ってくるという役どころです。白洲さんご自身は、出身は青森なのでしょうか…?
「あの、Wikipediaって、出生地が載るんですよ(笑)。両親が青森出身で、僕はいわゆる里帰り出産だったので、生まれた病院は確かに青森なんですけども、育ちは完全に東京なんです。東京の八王子市なので、少し田舎っぽい部分はある町かもしれません」
――和昌の心境や、筑沢町に流れる空気感など、ご自身と重なる部分はありますか?
「筑沢町は過疎化が進んで、若者も少なく、閉塞感がある町として描かれているんですよね。僕自身は東京で育ったんですけど、両親の実家は青森なので、似たような環境なのかなと。子どもの頃、夏休みは毎年じいちゃんとばあちゃんのところに行っていたんですよ。夏休みの丸1カ月くらい行っていたので、筑沢町の田舎の風景には懐かしさを感じました。あとは、実際に僕の両親が田舎から東京に出てきているという立場なので、“田舎に親を残して上京する”という感覚は、自分としてもそんなに遠いものじゃない気がしていました」
――向田家の父・康彦(高橋)、母・恭子(富田靖子)と、白洲さんのご両親には共通する点はありましたか?
「向田家のそれぞれのキャラクターは、僕の家族と重なる部分が結構ありますね。父親はすごく厳しくて、高橋さん演じる親父みたいな感じでした。言葉数もそんなに多くなかったですし。一方で母親は、まさに富田さん演じる優しい母ちゃんで。親父には負けないパワフルさのある母親だったので、台本を読む時も、演じる時も、自分の家族を重ねていました」
地元に戻る和昌の人物像「僕からしたら、すごく勇気が必要なこと」
――「東京で働いていた中、突然帰郷する」という和昌ですが、映画の中で、和昌の背景についてはあまり語られていませんよね。
「そうなんですよね。この作品においては、そこはそんなに深く描かれていないんです。東京で何の仕事をしていたのか、どういう理由でその仕事を辞めたのか…という部分などは、監督と話し合ったり、僕なりに彼のバックボーンを考えたりしたんですけど、そのあたりは見てくださった皆さんに委ねたいなと思っています。その方が、自分自身と重ねることができる人が増えるんじゃないかなと」
――白洲さんは、和昌をどういう人物だと捉えていますか?
「“東京での仕事を辞めて田舎に帰ってきてしまった”と聞くと弱い人物に思えるかもしれないのですが、本質的にはすごくバイタリティーのある男だと僕は思っていて。もちろん、東京から“逃げてきた”部分は大いにあると思います。でもそれだけじゃなくて、田舎に帰ってきて、床屋を継ぎたい、その隣にカフェを併設したい、というしっかりとした意志を持っているんですよね。親を心配する思いも持っている。まず僕からしたら、そもそも元々やっている仕事を辞めることにすごく勇気が必要ですし、こんな一筋縄ではいかない親父がいるのに帰ってくる勇気もすごいなって」
――和昌は一人息子ですしね。
「帰ってくるだけでも僕からすればすごい勇気なのに、さらにその床屋にカフェを併設しようとしているわけで。いろんな反対意見もあったと思うんですけど、住民の集まる会で声を大にして主張もするし。そういう意味では、実際彼が深く考えているかどうかは分からないし、若さ故っていう部分もあるかもしれないけど、やりたいことに飛び込んでいける、すごく行動力のある人なんだなって思うんですよね。そこは僕自身とは違うなと。環境を変えることって、全然できないです」
「『テニスの王子様』があるから、僕は今ここにいる」
――先ほど、自ら環境を変えるということができないというお話がありましたが、ご自身の活動の中で転機になったと思うことはありますか?
「ターニングポイントはいくつかあるんですけど、まずはこの業界に入った時。人生のターニングポイントになるんですけど、『ジュノンボーイ(ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト)』ですね。BEST30に残って、最初は本当に訳が分からないままで。全くやる気がなかったんですけど、事務所から声を掛けていただいて、事務所に入って。そしてこれがもう一つのターニングポイントになるのですが、お仕事をいただくために、初めてオーディションを受けた時。それが『ミュージカル・テニスの王子様 2ndシーズン』だったんですけど、当時の僕からしたら、いきなり決まってしまい…(苦笑)」
――「全くやる気がなかった」「いきなり決まって“しまった”」など、ネガティブな言葉も思い切りよく話してくださるんですね。当時、相当戸惑っていたことが伝わってきます…(笑)。
「でも、その時『テニスの王子様』が決まったから、僕は今ここにいる。間違いなくそう思います」
――いきなり大役をいただいたからこそ、やりがいを見いだせた?
「大役というか、もう逃げられない状況を作られてしまったんですよね。長い期間続く作品だったので、それで徐々に面白みや、やりがいを見つけることができて、その仕事が今日まで続けられている。ただ、僕の場合『やりたい』というところから始まってはいないので…。一歩踏み出したという点では、さっき言った“バイタリティー”に通ずるのかもしれないですけど、和昌はたぶんやりたくてやっているので、やっぱり行動力も、勇気もあるなと思います」
――和昌は、最後にはまた大きな決断をしますしね。
「そうなんですよ! なんか、和昌を見てると若いなって。僕はあんなに次々とやりたいことも見つけられないですし…。年齢設定的にはそんなに変わらないはずなんですけど、なんか若いなって思いましたね」
――そんな白洲さんが、目標にする方や理想って、今抱いてたりするのでしょうか。
「そういうものが本当になくてですね…。誰が目標とかもあまり考えたことがないし、そもそもあまり目標を持って人生を生きていないんです。なんとなく考えているちっちゃい目標はあるので、それを消化しながら生きてはいるんですけど、夢なんてものは持ってなくて。目の前のことを一生懸命、誠実にやっていくだけだなっていうのは、昔からずっと変わってない価値観ですね」
出演作が絶え間なく、さらに「刑事7人」「個人差あります」と同クールに2本のドラマでメインキャストとして出演するなど、常に“役”を演じる日々を過ごす白洲さんですが、取材ではその自然体な身のこなしに驚かされます。インタビューの中で言葉にする一見ネガティブなワードも、そこにじめっとした要素はなく、当時抱いた正直な思い、そして“自分”を理解し、向き合っているからこそ、カラッと笑いながら話せるのだろうなと。最後の「誠実に」という言葉で、少し声のボリュームが大きくなった白洲さんが印象的でした。
読者の皆さまへのサインにはコメントも書いてくださったのですが、「リコカツ」(2021年/TBS系)出演時に取材させていただいた際も「リコカツ見てね」だったような…と思い出し、そのことをお伝えすると「いつも思いは同じということです(笑)」とにっこり。変わりゆく故郷の中で、和昌が選んだ道とは? 和昌が育った町に流れる時間を、ぜひ映画館でお楽しみください。
【プロフィール】
白洲迅(しらす じん)
1992年11月1日生まれ。東京都出身。A型。2011年、舞台「ミュージカル・テニスの王子様 2ndシーズン」でデビュー。主な出演作は、映画「リバーズ・エッジ」「劇場版 ドルメンX」「BACK STREET GIRLS -ゴクドルズ-」「葬式の名人」「HiGH&LOW THE WORST」「Life 線上の僕ら」「10万分の1」、NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」、ドラマ「愛してたって、秘密はある。」(日本テレビ系)、「僕はまだ君を愛さないことができる」(フジテレビほか)、「僕らは恋がヘタすぎる」(ABCテレビほか)、「インフルエンス」(WOWOW)、「私の夫は冷凍庫に眠っている」(テレビ東京系)、「リコカツ」(TBS系)、「どうせもう逃げられない」(MBSほか)、「鹿楓堂よついろ日和」「刑事7人」シリーズ(ともにテレビ朝日系)、「個人差あります」(フジテレビ系)など。
【作品情報】
「向田理髪店」
10月7日(金)より、福岡+熊本先行公開
10月14日(金)より、東京・新宿ピカデリーほか全国公開
原作:奥田英朗「向田理髪店」(光文社文庫刊)
脚本・監督:森岡利行
出演:高橋克実、白洲迅、板尾創路、近藤芳正
矢吹奈子(HKT48)、本宮泰風/筧美和子/根岸季衣
富田靖子 ほか
主題歌:「全然 変わらない」HKT48(Mercury/EMI Records)
製作プロダクション・宣伝・配給:キャンター
特別協賛:三友通商株式会社
撮影協力:大牟田市、大牟田観光協会、大牟田商工会議所、大牟田商工会議所青年部
製作:映画「向田理髪店」製作委員会
©2022 映画「向田理髪店」製作委員会
【プレゼント】
サイン入り生写真を2名様にプレゼント!
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https://twitter.com/TVGweb/status/1580469860244471809
【締切】2022年11月9日(水)正午
【注意事項】
※ご当選者さまの住所、転居先不明・長期不在などにより賞品をお届けできない場合には、当選を無効とさせていただきます。
※当選で獲得された権利・賞品を第三者へ譲渡、または換金することはできません。
※賞品をオークションに出品する等の転売行為は禁止致します。また転売を目的としたご応募もご遠慮ください。これらの行為(転売を試みる行為を含みます)が発覚した場合、当選を取り消させていただくことがございます。賞品の転売により何らかのトラブルが発生した場合、当社は一切その責任を負いませんので、予めご了承ください。
※抽選、抽選結果に関するお問い合わせにはお答えできませんので予めご了承ください。
取材・文/宮下毬菜 撮影/尾崎篤志
ヘア&メーク/茂手山貴子 スタイリング/持田洋輔
衣装協力/イロコイ、ブラン ワイエム、リーガルシューアンドカンパニー
シャツ¥29,700/ブラン ワイエム(ティーニー ランチ 03-6812-9341) パンツ¥35,200/イロコイ(イロコイ 03-3791-5033) 靴¥50,600/リーガルシューアンドカンパニー(リーガルシューアンドカンパニー 03-5459-3135)
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