松坂慶子が刑務所に!? “ムショ活”から始まる70歳の青春アドベンチャー！2022/09/16

　松坂慶子さんが“ムショ活”に励む一橋桐子を演じる土曜ドラマ「一橋桐子の犯罪日記」（NHK総合）が10月8日からスタートします！　“ムショ活”とは、刑務所へ入るための活動とのことで、なかなか物騒な話に聞こえます。桐子は一緒に暮らしていた親友が病で亡くなり、孤独死が頭をよぎった時に「世の中に未練はなかった。刑務所に入りたかった」という逮捕者の言葉をテレビで聞いて、ついのすみかを刑務所に定めるのです。

　できるだけ人に迷惑をかけずに捕まる道を模索しながら“ムショ活”を行う桐子を演じる松坂さんから、作品の印象や桐子の人物像について伺いました！

――「一橋桐子の犯罪日記」という相当、刺激的なタイトルですが、作品の印象はいかがですか？

「タイトルから『どんなお話なのかしら、怖い話なのかしら』と思っていたんですが、原作を読むと、とても身近に感じる本当に面白い味わい深いお話でした」

――桐子はどのような人物だと解釈していますか？

「子どもの頃から取りえがなくて何かに夢中になったこともないし、弱い人間だわって思いながら生きている女性。でも、今みたいに便利でもないし、辛抱することもいっぱいあった昭和の人だから、基礎体力はあると思うんです。俳句の教室に通うようになったのも、日本人ならではの四季の移り変わりに敏感で、そういうところに小さな幸せを感じてきた人で、日々の生活をいつくしみながら、自分なりに楽しんで人生70年生きてきた人なんじゃないかと思いながら演じています」

――桐子に共感した部分はありますか？

「私も子どもの頃、うどの大木と言われていまして（笑）。不器用で運動神経もあまりよろしくない子どもだったんです。そう思い込んで大人になったのですが、社交ダンスの番組でダンスを踊ったら、優勝したんですよ。桐子が『自分は不器用で何一つ取りえがない』と思い込むところや、一度スイッチが入ると意外に冒険して頑張っていくところは、自分に似ていて分身みたいに感じています」

――反対に自分と異なる部分や大変だったことはありましたか？

「桐子は刑務所に行くために、ある犯罪に手を出すんですが、お芝居だけど、本当にドキドキして。原作で『もう1回やったら、私死んじゃうかもしれないっていうぐらいドキドキした』とあるんですが、その通りで。それが大変でした。その後もいろんな犯罪を模索するんですけど、撮影の前の晩に怖い夢を見るんですよ。明け方に怖い夢を2回くらい見て、『犯罪に手を染めることは、違うところに（気持ちが）入っていくんだ』と感じたのが、思いがけなかったことでした」

――俳句が趣味の桐子ですが、そのシーンは撮影されましたか？

「すっきりと整頓されたカルチャースクールで、みんなが句を読んでいく句会のシーンを撮影しました。自分の想像や言葉だけでイメージを膨らませていくのがすごく楽しかったです。私は万葉集を読むのが好きなんですが、声に出して万葉集を読んでいくと、1300年前の人のおおらかさや生命力が伝わってくるんです。一方、桐子は雑草に花が咲いたことや季節の移り変わりに気付いて、季節をいつくしみながら俳句を詠む。心豊かないい趣味を持っていていいなと思いました」

――“ムショ活”をしようと決意する桐子の心情についてどう思いますか？

「先日、原作の原田（ひ香）先生が句会のセットにいらしてくださったので伺ってみたんです。すると、実際に犯罪を繰り返して刑務所に行く方はどちらかというと男性が多いそうなんですが、『もし真面目に教育を受けてきた女性がそういうことを考えたらどういうことになるのかしら？』と思ったことが、作品を作るきっかけだったと伺いました。桐子は3年前に初めて宮崎知子（由紀さおり）というお友達ができて。知子と一緒にいた時間はキラキラしていて楽しくて、知子は桐子のいい部分に目を向けて『こんなに素晴らしいところがあるのよ』と教えてくれたんだと思うんです。でも病で急に亡くなって。桐子は元から気弱なところがあるし、『70歳だし、ああいう幸せな日々は二度とこないわ』と絶望してしまうんです。1人考えていると、どんどん寂しく悪いように考えてしまって、清掃のパートと年金で細々と暮らして貯金もないから、孤独死や介護のことなど、心配が尽きなくて心が弱っている時に『刑務所に行けば、私も支えてもらって生きていけるのかもしれない』と光明を見いだした気分になるんですよね。年を重ねて気持ちが弱った時に、ふと考えてもいないようなことを思って行動してしまう気持ちは分かる気がします」

――桐子はアクションとまではいいませんが、さまざまなことを実行していきます。実際に演じてみていかがでしたか？

「台本に付箋を貼っていくと、1話につき43シーンあって『えっ！　43シーンも出演している』とびっくりしました。55年女優をさせていただいていますが、初めてだと思います。出発点は絶望から始まるんですが、でも知子と約束したし、笑顔で生きていかなきゃと奮起して、いろんな人と出会うんです。まだ“ムショ活”を始めたばかりのころに『本気でやらなきゃ』と言ってくれる人が現れて。そうこうしているうちに、憧れの刑務所に頑張って行かなきゃとなっていくこと。これがすごく不思議なんですけれども、両立していくんです。撮影は桐子の70歳にして始まる波瀾（はらん）万丈な日々を一緒に体験している感じです。過去を思い出して泣いていたかと思うと、次のシーンでは、何とか犯罪の仕方を聞き出そうと身を捨てて頑張って。そこから道が開けて思わぬところにたどり着く。桐子を通して、何でも動くことは大事なんだと感じます」

――桐子は“ムショ活”を進めていくうちに、女子高校生の榎本雪菜（長澤樹）や桐子が勤めるパチンコ店の清掃リーダー・久遠樹（岩田剛典）と仲良くなっていきますが、お二人と共演されての印象を教えてください。

「桐子は2人と出会っていろんなことを話したり、行動していくうちに、『私ってダメだわ』と思っていた桐子が、『若い人たちもそれぞれ抱えているものがあるんだ、私だけじゃないんだ』と気が付いて、年相応の自信を取り戻していくようなところもあって。17歳の雪菜からは、本気で自分の夢に向かっていく、本気でやることを教わって、久遠には“ムショ活”のことを質問したり、彼の人生を垣間見て応援する気持ちになっていきます。お二人とも真面目でとってもすてきな俳優さんです。生き生きと魅力的に演じてらっしゃいます！　もちろん3人の息もピッタリなんですよ」

――桐子のコミカルさを出すために心掛けていることはありますか。

「内気で動と静でいうと静だった桐子が、今までしたことがなかったことに、あたふたしたり、あわあわする姿が結果的にコミカルに見えているので、本人は大真面目という感じでやっています（笑）」

――桐子は“ムショ活”という名の“終活”をしていますが、ご自身が“終活”を考えることはありますか？

「私、片付けが好きなので、折に触れ、家のものを片付けているんです。自分のものは片付いているんですが、母のものや、子どもの幼少期のころのものなどを片付けております。理想は俳句みたいな状態。俳句って五・七・五ですっきりしているでしょ。すっきりして本当に片付いている状態だから、いろんなイマジネーションが膨らむ。それが理想なんです。終活というかどうかは分からないけど、自分のいろんなものは少しずつ整理整頓して、どんどん無駄のないスッキリした空間で、楽しいことを思い浮かべながら、ゆったりと暮らしたいために片付けています」

――桐子は70歳で、松坂さんも70歳ということですが、この年齢をどう捉えていらっしゃいますか？

「70歳って古希ですからすごいですよね。でも、今は七掛けってよく言いませんか。子どもの頃に思っていた70歳より、7×7＝49歳くらいの気分で、体が動かなくても気が若いんですよね（笑）。撮影中に70歳という節目を迎えましたが、暑い中ロケをしていてなかなか丈夫なものだと思ったり、あまり変わらないです。50歳、60歳はちょっと感慨にふけるところがあったんですが、70歳になると結構あっけらかんとしていて、『ここから年を取ることはないんじゃない？』って。もう年取っちゃったから怖くないなど、妙にひらけた気分でいます。そうは言っても、いろんなところを70年使ってきているので、若い時のように反射神経などは違うわけですから、自覚して自分を大事にして、転んでもいけませんから準備を早めにして、ゆっくりいろんなことをすることを心掛けています」

――ドラマのテーマの一つに「長い人生をどう生きるか」ということがあると思いますが、ご自身は今後どのように生きていきたいですか？

「意外とヒントって、子どもの時に好きだったものをしてみることだと思うんです。子どもの頃に好きだったことは今でもとても好きだし。私は子どもの頃から声を出して本を読む、朗読することが好きだったんです。今、文化交流的なこととして、泉鏡花の『天守物語』や万葉集の朗読劇を国内外でさせていただくことがありますが、手作りのクラブ活動みたいで楽しいです。もう一つは変化や新しいことに出会うこと、旅が元気のもと。この仕事も、作品ごとに違う方と違う物語で知らなかったものを形にして作っていく旅のように感じています。ほかにも、子どもの頃から変わらないのが、坂道があると、どうしてもその坂の向こうに何があるか見たいんですよ。今は膝も痛くなって歩くのも疲れるんだけど、もうちょっと頑張ったらこの先に何があるか見たいと思って頑張っちゃうんです。うちの父が言うには、おとなしいを飛び越して停止していたっていうくらい、座っていたら座っていたままのおとなしい子どもでしたが、きっかけがあればいろいろ見たいし、しゃべりたいし、なんですよ。ひょんなことから女優になって、静が動になっていますが、演じていていつも、人には表に出ていないものがたくさんあって、いろんなものを持っているんだなと思うから、身近なことからとにかく一歩、玄関を出て外に行くと、いろんなものに出会うので、動いてみるのがいいと思っています」

――最後にドラマの見どころとメッセージをお願いします！

「人生に絶望しながらも、親友に笑って長生きすると約束したからなんとか生きていこうと、不器用で引っ込み思案な桐子が動き出したことで、70歳にして波瀾万丈な日々が始まり、成長していくところを楽しんでいただきたいです。親友の死をきっかけに、悲しい気持ちのどん底から明るい希望のあるところにたどり着ける、70歳にして始まる青春物語です。女優になってから、なるべく夏は日に当たらないように暮らしていましたが、真夏の中、日々ロケもいっぱいして、この何十年間の分、全部当たっているんじゃないかというくらい日焼けしながら撮影しました。それが10代、20代の頃みたいで気持ちがよくて、ずいぶん骨が丈夫になったんじゃないかと思いながら日々過ごしています。私も桐子を演じる中で、一緒に体験しているような気持ちで撮影が進んでいます。きっと楽しんでいただけると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」

――ありがとうございました！