Feature 特集

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】2022/09/09

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】

 TBS系で放送中のドラマ「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」。「カフェで充電していたら訴えられた!」「コンビニでお釣りを多く受け取ったら訴えられた!」 など、一見ささいに思えるが、どんな小さなトラブルでもその裏に存在する誰かの“大切な暮らし”。そんなトラブルに向き合うのは、4回司法試験に落ちた崖っぷち東大卒のパラリーガル・石田硝子、通称・石子(有村架純)と、司法試験に1回で合格した高卒の弁護士・羽根岡佳男、通称・羽男(中村倫也)。正反対のようでどこか似た者同士の2人が、さまざまなトラブルに挑む中で自らのコンプレックスに向き合い、成長していく姿をオリジナル脚本でコミカルに描きます。

 今回は最終回を目前に、本作を手掛ける新井順子プロデューサーのインタビューを前・後編に分けてお届け! 最終回に向けての見どころや振り返りを楽しむ豆知識、さらには新井プロデューサーが考える前半戦のベストシーンについて語っていただきました。 

――物語も大詰めになってきましたが、最終回やこれまでの振り返りを楽しむために、まだ出ていない裏設定があれば教えてください。 

「石子に関しては、両親の話を含めほとんど作中で紹介できていますが、羽男には出せなかった設定がいくつかあります。第2話で少しだけ言っていた、海外の大学に入学して中退したという設定は、どのぐらい覚えてもらえているでしょうか。アメリカに10年弱住んでいた過去があるので、本当は英語がしゃべれる役なんですけど、そういうシーンが出せずで…。外国人の彼女がいたっていう設定もあったのですが、中村さんから『いつ出るの?』って聞かれて、『ストーリーのバランス的に出せそうにない…』って答えました(笑)」 

――大庭蒼生(赤楚衛二)はいかがでしょう? 

「大庭には、超裏設定で今までの恋愛遍歴をまとめてあります。どれだけ恋愛に疎いかっていう設定を企画書の人物表に書いたんですが、大庭の感じを見てもらったらなんとなく伝わってるのではないでしょうか。一見モテそうなんだけど、関わってみると『あ〜不器用だね』ってなる(笑)。役づくりのために作ったキャラクターシートには、何歳で誰と付き合ったかを細かく書いてあります」 

――不器用すぎて恋愛経験はゼロなのかと思ってました…! 

「今まで付き合った人数は3人で、全部相手から振られている設定(笑)。実は、石子は4人目の彼女なんです(と、楽しそうにほほ笑む)」 

――(一同ニヤつく)。 

「そういえば、おいでやす小田さんが演じる塩崎啓介が、元貴金属メーカーのサラリーマンだったっていう設定もあります。作中には全く出せてないですけど、実は会社勤めをしていた時があるんですよ。今度発売される番組公式本に、人物設定を詳しく載せてますのでチェックしてもらえるとより楽しんでもらえるかと!」 

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】

「実は、石子って呼ばれている人が私の周りにいて…」

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】

――前作の「最愛」では、キャラクターの名前を姓名判断しているとおっしゃっていましたが、もしかして今回も…? 

「しましたよ〜! 全員姓名判断して、意外と時間がかかりました(笑)。石田硝子はすぐに決められたんですが、羽男の名前は悩みましたね。石子と同じように略して呼ばせたくて、名前が“羽”で始まって、“男”で終わる名前で考えて、最終的に羽根岡佳男に落ち着きました」 

――先に石子というあだ名が決まっていて、後から役名が決まったんですか? 

「そうなんです。石子って呼ばれている子の話にしようと決めていて、そこに身近な事件を扱う弁護士モノの面白さを掛け合わせてみようということになったので。実は、石子って呼ばれている人が私の周りにいるんです」 

――えっ!  

「すごく頭が固い人で、いつも『石子め〜!』って冗談を言っています(笑)。本人を直接そう呼んだことはないのですが、作中ではみんなが呼び合うあだ名にしてみました」 

遊び心が詰まった冒頭の劇シーンに制作部は…?

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】

――冒頭の劇シーンは新しい試みかと思います。あのシーンを作った意図や、見せ方のこだわりがあれば教えていただければと思います。 

「冒頭のシーンでは、今回の話の題材は何かを寸劇で面白く説明したくて入れました。撮影は10分、放送も数秒で終わるシーンなのですが、撮影場所や映像へのこだわりがあって、照明を作るのに1時間ぐらいかかっているんです。制作部さんは冒頭シーンのロケ場所が一番大変だと言ってました(笑)。衣装も第1話では普通の服着てるんですけど、段々とコスプレ風に遊びが加わっています」 

――説明シーンを入れるきっかけは何だったのでしょうか? 

「制作上の“第1話あるある”なんですけど、出会いやキャラクターの説明があったりして、なかなか本題に入れないんです。冒頭から弁護士モノであることや、登場人物が訴えられる話なのだと早く見せようと試行錯誤した結果、あのワンシーンを入れることになりました」 

――では、監督たちが頭を悩ませているシーンはありますか? 

「石子と羽男がカットバックしてしゃべる“二人羽織”と呼ばれる撮影手法があるのですが、そのシーンには塚原あゆ子監督も山本剛義監督も悩んでいますね。先週はこういうふうに撮っていたから、似ないようにしなきゃ…みたいな」 

――あのシーンは二人羽織って言うんですね!  

「そうなんです。第6話では、史上最高に長い6ページ分のセリフがあって、そのシーンを二人羽織編集用に撮影したので、有村さんも中村さんも同じセリフ量を覚えないといけなかったんです。しかも、ワンカットでズームしていく撮影方法なので、本当に大変。2人には頭が上がりません」 

“ファスト映画”がテーマの第4話は、ドラマ制作の思いが詰まった回に

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】

――これまでの放送を振り返って塚原監督が手掛けた回で印象に残っているのはどこでしょうか? 

「塚原監督が担当している回だと、第4話が印象に残っています。趣里さん演じる目が見えない堂前絵実が防犯カメラを探すストーリーだったのですが、見つけた防犯カメラの映像が法廷で流れても、防犯カメラの映像は音がないから絵実自身は内容が分からないんです。そこで、石子が絵実の手を握って言葉で伝えるのですが、『そこに主題歌のこのフレーズを絶対に当てたいんだ!』と、こだわって塚原監督が何度も編集していました」 

――あの法廷シーンにはものすごく引き込まれました。 

「キャストの皆さんからも『まさかあの裁判があんなに感動するとは思わなかった!』という感想をかなりもらいました。台本を読んだ印象、現場でお芝居した印象、完パケを見た印象がすべて違っていたようです。防犯カメラと眼鏡をリンクさせて撮る演出もあって、私にとっても印象的な回になりました」 

――趣里さんも、妹・一奈を演じた生見愛瑠さんも素晴らしいお芝居を見せてくれていましたよね。 

「生見さんには、何度も粘ってお芝居してもらいました。塚原監督がキャラクターを作り上げるために、ヘアメークさんに『髪はボサボサに!』とか『アイライン取ってください!』って言ったりして。そしたら、『もともとアイライン引いてません!』って返ってきて、生見さんのビジュアルが良すぎて、『どうやってもかわいさを隠せません!』みたいなやりとりもありました(笑)」 

「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】
「視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響がありました」 ――「石子と羽男」プロデューサーインタビュー【前編】

――あの荒んだ風貌を作り出すのにそんな苦労があったとは(笑)。では、山本監督が手掛けた回で印象に残っているのは 

「山本監督担当回でいえば、すごく反響があった第3話のファスト映画の回。放送後に好きなシーンの画像とか動画をSNSにアップしている方々もいると思うのですが、SNSの分析班から『著作権違法がテーマの第3話以降、ツイートが少なくなりました』って報告があって。放送によって視聴者の皆さんの行動が変わるくらい大きな影響があった回ですね」 

――SNSを使うすべての人が考えさせられるテーマだったと思います。悩んだ点はありますか? 

「被告の大学生を許すかどうかで悩みました。実は許すパターンも考えていたのですが、監督の“ファスト映画は許してはいけない”という強い思いもあり、許さない終わり方になりました。脚本の西田征史さんも監督をされる方なので、余韻まで考えて作った作品を早回しで見られるのは悲しいと思っていたようで、結果的にドラマ制作に携わるみんなの思いが詰まった回になりました。ファスト映画自体を知らなかった人にも知っていただいて、反響は大きく、余韻も深かったと思います」 

――最後の許さないという決断は、本当に反響がありましたよね。 

「もし許すパターンで終わっていたら『そんなばかな!』って思われていたのでしょうか。皆さんどう思いますか?」 

 身近な事件を扱っている作品だからこそ、一視聴者として考えさせられるテーマばかり。後編では、新井プロデューサーが印象に残っているキャストの表情や、本作を通して伝えたいことをお届けします。 

【プロフィール】  

新井順子(あらい じゅんこ)  
TBSスパークル所属。ドラマプロデューサーとして活躍。主な担当作に「最愛」「着飾る恋には理由があって」「MIU404」「わたし、定時で帰ります。」「中学聖日記」「アンナチュラル」「リバース」「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」「Nのために」「夜行観覧車」などがある。 

【番組情報】 

「石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー」 
TBS系 
金曜 午後10:00〜10:54 

取材・文/TBS担当 A・M



この記事をシェアする


Copyright © TV Guide. All rights reserved.