神谷浩史がストーリーテラーの朗読劇「VOICEアクト『僕の種がない』」は声優VS俳優の火花散る新感覚コンテンツ2022/09/03
声優×俳優──。2021年9月に発売され話題を呼んだ鈴木おさむの小説「僕の種がない」(幻冬舎)を、次世代を担う若手声優&俳優が読み上げる新ジャンルの朗読コンテンツ「VOICEアクト『僕の種がない』」(BSフジ)が佳境を迎えている。
250ページを超える1冊を、1話・30分、全20話(ダイジェスト回を除くと全19話)で放送。声と表情だけで展開されていく本作で登場人物を演じるのは、青二プロダクション所属の若手声優(天希かのん、川島零士、佐藤悠雅、高橋雛子)と、劇団扉座に所属する若手俳優(大川亜耶、白金翔太、砂田桃子、三浦修平)、総勢8人の精鋭たちだ。
「30分×20話という大ボリュームですから、めちゃくちゃ大変でした(笑)。ありがたくも主役をやらせていただいたので、チェックの量もものすごかったです」(川島)、「全3回で収録したので“駆け抜けたな”という感じですね。もっと稽古を積んで表現して臨めたらよかったな、もっとできたな、との悔しい思いもあります」(三浦)。主人公のドキュメンタリーディレクター・真宮勝吾を演じた川島、がんで余命半年を宣告された芸人・入鹿一太役の三浦は、約3カ月間、3回に分けて行われた怒濤(どとう)の収録を、そう振り返った。
物語は、勝吾が一太に、自分が死ぬまでの軌跡を追ってほしいと依頼されるところから始まる。芸人として、あくまで「面白さ」にこだわり続ける一太。これに対して勝吾は「ここからなんとか子どもを作りませんか?」と提案する。一太夫婦には、子どもがいなかったのだ。しかし、一太は、実は無精子症だった…。
登場人物のセリフ以外のパート(地の文)を担当するストーリーテラーは、人気声優の神谷浩史。男性から見た「不妊」というヘビーかつセンシティブなテーマの土台となるストーリー進行を、陰で支える。
「鈴木おさむさんが書かれた小説を声優と俳優が朗読して、それを連続ものとしてテレビで見せる。新しい形の朗読劇で重要な役回りをやらせていただくということで、最初は意気込んだのですが、5話分の台本が送られてきて、それが100ページくらいあったのかな? 事務所のコピー機がいつまでも紙を吐き出し続けているんですよ(笑)。またページをめくると(地の文の)文章量が尋常じゃないくらい多い。お引き受けするんじゃなかったな、と思いました(笑)」(神谷)。
冗談を交えて語る神谷だが、30年近いキャリアを誇るベテラン声優からしても、この前代未聞の試みは、かつてない難題だったそうだ。
「そもそも小説は声を出して読むことを想定して書かれていませんから、文語体で書かれているものを音にするという作業は、考えていた以上に難解でしたね。アクセントやイントネーション…日本語はちょっとしたニュアンスで意味合いが変わってきますし、助詞(~が、~を、~に)が連なってくると聞く側は混乱するので、普段(アニメや実写で声をあてる作業)より気を配る部分が多かったです。特に、現代のアクセントは平坦になっていますから、これまで染みついた感覚を正すところから始めました」(神谷)。
かと言って、アナウンサーのようにアクセントやイントネーションを正確に発音すればいいというものでもない。台本を手にステージ上を動き回りながら朗読するリーディングライブなど、さまざまな形式の朗読劇に出演してきた神谷はこう続ける。
「淡々と読めばいいわけではない。ストーリーテラーとして感情的になるのも違う。冷静に起こっていることをお伝えしながらも、熱を帯びたシーンでは気持ちを込めて読み上げなければいけない。全く新しいアプローチに最初は戸惑いましたし、試行錯誤しました」(神谷)。
かくして収録本番。2019年1月に放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK総合)では、他者の期待に応えられているのか、常に自問する神谷の姿が映し出されたが、今回もその流儀は貫かれた。
「台本を前に一晩中考えて、文字というシンプルな情報をいかにして皆さんの頭の中で理想的な“像”として結びつけられるかに注力しました。あとは時間も限られていたので気持ちを切り替えて、30年近く声優をやらせてもらってきて訪れたこの新しいチャレンジを楽しんでやることを心掛けましたね。僕を選んでくれたからには、何か心に残る作品にしたいと」(神谷)。
達者な演じ手が見る者の想像力をかき立てる。狂言や落語と同じく、いわゆる「見立て」を楽しむ朗読劇。加えて、声優と俳優が声と表情だけで登場人物を演じ分け、その熱演で新たに小説に命を吹き込んでいくさまは、映像作品とはまた違ったリアリティーが感じられる。
「舞台上には何もなくても、自分の中でイメージを補完する。エンターテインメントを楽しむ上で一番大事なものは想像力だと僕は思っているんですね。情報を付加すればするほどリアルになる、立体的になるエンタメがCG映像だとすれば、その対極にあるのが朗読劇。今回は音響や画像など必要最低限の情報を提示していますが、引き算を重ねた中で、“声”で皆さんにお伝えできるものがあったのだとすれば、こんなにうれしいことはないです」(神谷)。
そんな大先輩・神谷に背中を押されたのか、若い声優・俳優たちが回を追うごとに躍動する。声優と俳優という、似て非なる仕事で日々切磋琢磨(せっさたくま)する中、今回の経験はお互いに刺激になったようだ。
「声優組は台本が(顔に)近すぎてお話が入って来づらいと感じたので、2回目の収録からは台本が映らない高さでやってみたり、カメラを意識しました」(川島)、「舞台俳優さんたちは台本をほぼ覚えているので、正面を見ている時間が圧倒的に長い。刺激になりました」(高橋)、「お芝居のテンポ感、ニュアンスなどに、リアリティーを一番大事にして演じられていることを感じました」(佐藤)、「表情に気を付ける、聞こえのいい言い方を意識し過ぎない、というところは、いつもの声優の仕事とは違った点ですね」(天希)。
「声の演じ分けが全然違う。声優さんは、そうした技術が卓越しているな、と感じました」(三浦)、「声優の皆さんは、自分よりもすごく年上の役や別の役をやる時に、声色ももちろんですが、お芝居自体もガラッと変えていて本当にすごいなと」(砂田)、「一音一音に発する音や、発声の違いを感じました。“大切にする言葉”がちょっと違って、気付かされることが多かったです」(白金)、「声優さんはマイクを使って声を出す仕事なので、マイクを使う技術の差がやはりすごい。勉強させていただきました」(大川)。
「声優のセリフはわざとらしく聞こえることもあるかと思いますが、声だけで勝負する声優が長けているところは、日本語をちゃんと伝えられること。非常に印象的な響きとしてセリフが残ることだと、あらためて思いました。逆に、肉体すべてを使って表現する。写真のようにイメージを残す俳優さんのすごさも目の当たりにして、僕も勉強になりましたね」(神谷)。
単に朗読をする声優・俳優たちの演技を見せるだけでなく、それぞれのシーンをイメージさせる画像や動画を挟み込むことで、視聴者の作品への理解を深めていき、新しい感動体験を生み出していく「VOICEアクト」。声優×俳優──。もとい、声優VS俳優。その道のプロ同士による火花散る新感覚の朗読劇をぜひ。
【番組情報】
「VOICEアクト『僕の種がない』」
BSフジ
土曜 深夜0:30~1:00
取材・文/橋本達典
関連記事
この記事をシェアする