「100カメ」が「鎌倉殿の13人」のロケに潜入! ハプニングに見舞われた撮影で制作陣が見たものとは?2022/06/12
放送のたびにインターネット上をにぎわせている大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK総合ほか)。その舞台裏がどうなっているのか、気になっている方も多いのではないでしょうか? その思いに応えるべく、100台の固定カメラを設置して、さまざまな人々の生態を観察する「100カメ」(NHK総合)が、6月14日の放送で、「鎌倉殿の13人」の第23回(6月12日放送)で登場した巻き狩りの大規模ロケの舞台裏をのぞき見します!
巻き狩りとは、大人数で狩り場を囲い込み、獣を中に追い詰めて弓で射取る狩猟法で、「鎌倉殿の13人」では、源頼朝(大泉洋)が嫡男・万寿(金子大地)をお披露目するために、御家人を集めて富士の裾野で行いました。その際、曾我兄弟(田邊和也、田中俊介)があだ討ちを計画していたことから、北条義時(小栗旬)が阻止すべく奔走していましたよね。
“富士の巻き狩り”は見応えのある壮大なシーンになっていましたが、その裏には実にたくさんの大事件が起こっていたようで…。大規模ロケの舞台裏に密着し、「100カメ」を制作した大木莉衣ディレクターと桜井和紀プロデューサーから、制作の経緯や番組の見どころを聞いてきました! 途中で「鎌倉殿の13人」の清水拓哉チーフプロデューサーも参加し、ドラマ制作サイドの思いも明かしてくれましたよ!
――「鎌倉殿の13人」に密着することになったきっかけや経緯を教えてください!
桜井 「『100カメ』を定時番組として始めるにあたって、NHKの中をのぞき見たいという思いがありました。見たい現場がいくつかありましたが、みんなが知っている番組はなんだろうと考えた時に、大河ドラマじゃないかと。ちょっとハードルが高そうでしたが、ダメ元でチーフプロデューサーの清水さんに相談したところ、3月の末に巻き狩りのオープンロケがあるとご提案いただいて、ぜひそこで撮らせてくださいということになりました」
――実際に撮影されて、いかがでしたか?
大木 「私自身はドラマの仕事をしたことがないので、どう作られているのかも初めて知ったんです。台本にイノシシと書かれていたらイノシシを撮らなくてはいけないことなど、作品の世界観を実現するためにたくさんの労力がかかっていて、アクション一つにしても、それがどこの場所で何時なのか、俳優さんはどういう動きをするのかを緻密に練らないと作れないことが驚きでした。中でも、演出の方が考えた世界観を各分野のプロたちが集まって実現していくことの大変さが印象に残っています」
――この番組は100台の固定カメラで人々を観察するところが魅力ですが、今回はどんなところに設置されたのでしょうか?
大木 「ドラマの本番の現場だけではなく、準備段階にも仕掛けました。助監督の居室というスタッフルームみたいな場所や、スタッフが一堂に会してロケを話し合う技術打ち合わせなど、ロケを行うまでの過程を追う感じで撮影したんです。固定カメラは屋内だと置きやすいのですが、ロケ現場は野原だったので、どこに置いたら全貌が見えるのか、そして全貌を見せつつも、一人一人の動きが捉えられて、最前線が見える場所がどこなのかを考えながら固定することに一番苦労しました。また今回に関しては、ドラマ自体の撮影もあるので、カメラが移り込まないように、カットごとにカメラの角度を変えざるを得なかったんですが、基本的には固定で、どのタイミングでカメラを移動するかを考えることが難しかったです」
――どこにカメラを置くのかということが、この番組のディレクターさんの一番の役割ということでしょうか?
桜井 「全部大切なので、どれが一番とは言えませんが、撮影によってはまさしく、事前の取材からカメラの置き場所を決めていくことが非常に重要です。もう一つは、撮影素材を全部見ないと何が映っているのか分からないので、目を皿にして、どんな音が入っているのかを聞いて、そこから30分にまとめていきます。どちらも甲乙つけ難い大変な作業です」
――ロケ中にまさかの雪が降って大変そうでしたね。
大木 「天気が雨か曇りになることまでは分かっていたんですが、富士山の麓ということで雪に変わってしまって、めちゃくちゃ寒くて…。機材が濡れないようにカメラに傘を差しながら撮っていたのですが、雨や雪で濡れて大丈夫なのかという不安がありました。今までの『100カメ』の中ではかなり難しい状況の中でやっていて、カメラマンも今回は総勢8人体制だったのですが、ドラマの現場の皆さんの方が大変なのが分かっていたので、私たちは邪魔にはならないように撮ることがとても難しかったです」
桜井 「実は私もお手伝いでロケ現場に行きまして。雨からやがて雪に変わるというとんでもない天気だったんです。寒くなることは分かっていたので、しっかり防寒対策をしていたんですが、キャストの皆さんは当然薄着。足元も草履でとても寒そうでしたが、主演の小栗旬さんをはじめ、皆さん寒さをおくびにも出さず現場でたたずんでいらっしゃるのを見て、僕らとは違う意味でプロフェッショナルなんだなと感じました」
――さらにセットも倒れて…。予想外の出来事だったと思うんですが、見ていてどうでしたか?
大木 「最初にドラマの撮影を続けられるのかなと心配したんですが、次に『100カメ』のカメラで撮れているかなと思って(笑)。置いてある場所が良かったのか、倒れる瞬間が映っていました。『100カメ』のディレクターとして映っていてほしいという気持ちと、現場に一緒にいる者としては、撮影がうまくいってほしい気持ちのはざまで揺れていました」
――カメラの置き場所が悪かったら撮れていなかったかもしれないということなんですね。
大木 「そうです。撮れていなかった可能性はありました。風が強かったので、なびいている旗が映るように狙っていたら、セットが倒れたんです」
――大河ドラマファンに見てほしいポイントを三つ挙げるとしたらどこでしょうか?
大木 「まずは“イノシシ”です。脚本には“イノシシなどを狩る”としか書かれていないんです。準備過程も取材していたのですが、助監督のナオキさんがロケの現場と違う場所でイノシシを撮るので、どういう角度で撮ったら違和感がないようにつながるかを考えて挑んでいて。現場でイノシシを追い掛ける姿を見て、『同じ会社でこういう仕事をしている人がいるのか』と。これまでドラマの撮影を見る機会がなかったので、世に存在しないものを生み出していくのは本当に大変だなと。同じディレクターとして尊敬の念も込めて印象に残っています」
大木 「もう一つは、今回、助監督や演出の方をメインに紹介したのですが、それ以外の方たちもたくさん映っていて…。お弁当や泊まる宿を発注したり、現場でテントを張る仕事をやっている方などもちょっとずつ映るようにしています。いろんな人が現場にいることが分かるように、ちょっとだけ入れているので、そういうところも楽しんでいただきたいです」
大木 「あと1点はエキストラです。彼らの支度などはあまり見ることはないかなと。実際にドラマで見る時は、エキストラの一部だけ映ると思うんですが、カツラなどを100個以上用意して。地元の方もエキストラで参加してくださったんですが、そういった方たちをどう早く着替えさせるのか。そして後ろの方に映っているエキストラにも細かい演技指導をしていて、一つ一つこだわっていることを感じていただければいいなと思っています」
――ちなみに、イノシシを撮影しているシーンでは、複数あるうちの1台のカメラが動いていましたが、あれも固定カメラなのでしょうか?
大木 「イノシシを撮影するクルーの方たちが来る前に、現場に固定カメラを仕掛けて撮っています。ただ、イノシシを撮影しているところは、イノシシを追うドラマのカメラマンが持っていたカメラの上に『100カメ』の固定カメラを設置しているので、固定ではあるけれど、カメラマンの動きに合わせて動いています」
――なるほど。カメラの上に固定カメラが付いているんですね! また、カメラは富士の裾野に100台置いたんでしょうか? 撮影の総時間についても教えてください。
桜井 「スタッフルームやエキストラの皆さんが準備するところ、ロケ現場など、全部合わせて100台となります。今回の撮影の総時間は約1000時間でしたが、別の取材の時には1800時間ぐらいまでになることもありますね」
――1000時間! …ということは、1000時間見たということでしょうか?
大木 「人が映っていない時間などは早送りするんですが、主要な動きが行われているであろうものは、基本的には全部見ました」
――1000時間も見るというのは、ちょっと想像がつかないです!
桜井 「同じ場所を撮っている2台のカメラがあったら、その映像を同時に映して時間を省略する部分もあります。でも、ずっと見なければいけない部分もあったりして、1000時間を見るのに1000時間はかかっていませんが、1000時間分は見ました(笑)」
大木 「どんな映像が撮れたかを見るラッシュという作業がいつもより多かったのですが、私が大河ドラマのファンで、皆さんの動きややっていらっしゃることが非常に興味深くて。本当にすてきな方がたくさんいたので、内容を見ることに関しては結構楽しんでいました」
――では、1000時間見ていかがでしたか?
大木 「現場の状況は知っているのですが、皆さんが何を話していて、何が行われていたのかは、編集室に入ってみないと分からないので、見逃すことが一番怖くて。せっかくいい場面が映っていたのに、それが生かせなかったら…というのがディレクターとしては一番気になるところなので、それを見逃さないように頑張って見ました。ドキュメンタリーは、現場で何が起こったのかがある程度分かっていて、それを元に構成しながらロケを進めていくことが多いんですが、今回は撮影が完全に終わった段階で編集に本腰を入れていくので、何が起こるかは分からない怖さがありました。行ったら撮れるというものでもなく、ドラマの撮影が終わったら、あの道が帰り道になるから、そこにカメラを置こうとか、事前取材をどれだけできるかがすごく重要で。現場をどう見るかという力が養われる番組でもある気がしています」
――1000時間を30分に編集するということは、泣く泣くカットしたエピソードもあるんでしょうか?
大木 「結構たくさんあります(笑)。動物担当以外に馬担当という方がいるなど、本当にいろんな方がいることや、作品の世界観を作り出す美術の方たちが行っている美術会議も撮らせていただいて、歴史的な用語が飛び交う面白い現場で、すごく興味深かったんですが、少ししか紹介できなくて…。取材した身としては、どこが一番とかはなく、それぞれの方がプロフェッショナルで情熱をささげられているので、全体的にもっとたくさん紹介したい気持ちがあり、断腸の思いでした」
――「100カメ」を見てから、もう1回ドラマを見直したくなりますね。あらためて番組自体の面白さの再発見はありましたか?
大木 「初めて『100カメ』でディレクターを務めたんですが、これまで担当したドキュメンタリーと違うなと思ったのは、一番最後に助監督と演出の方が話しながら帰って行くシーン。普通に人がカメラを回して追っていたら、多分撮れなくて、あの場所に固定カメラを置いたことによって、ポロっと話してくれる、カメラをあまり意識していない状態で出てくる言葉っていうのが、グッとくるっていうか、印象深いものがありました。大変さや、誰かへの感謝が漏れる瞬間を捉えられるのが面白いです」
桜井 「演出の吉田(照幸)さんがメロンパン好きであることなどは、通常ドキュメンタリーのメーキングを作っている時は取り上げませんが、撮影して映り込んでしまったものから再構成するという面白さで、みんなも気付かなかった人柄やその人のキャラクターが浮き彫りになる部分は番組の魅力ですね」
――ここで、「鎌倉殿の13人」の清水さんにも伺いたいのですが、密着された側の気持ちを教えてください!
清水 「最初に相談された時は、スタジオでしばらく収録している期間だったんです。基本的にはノーミスでトラブルなく、スムーズに現場が回るようにやっているので、ものすごく面白いところは多分撮れないですよ、と話したんです。だけど、密着してくださるのはうれしいなと思って。それに僕らの仕事を客観的に見てみたいという思いもあったので考えたところ、今度ロケがあるなと。しかもエキストラの人数も多く、動物も来る結構大掛かりなロケで。ロケだったら、スタジオに比べれば想定外の事態が起こりやすいので、ロケならいいかとやってみたんですが、大木さんの驚異の引きの強さでトラブルが多発して(笑)。僕らでもなかなか経験しないレベルの出来事で、どうやってドラマを撮りきろうかって頭を抱えちゃうような事態。雨は想定していても、15cmも雪が積もったと聞いたので、本当にそれはすごい引きの良さで、『100カメ』的にはホクホクで帰ってきたようなんですが、僕らとしては非常にヒヤヒヤでした(笑)。僕自身はこのロケ現場に行っていないんですが、スタッフが必死になって、なんとか成立させようとしていて。“富士の巻き狩り”や“曾我兄弟のあだ討ち”は、非常に有名なエピソードなので、みんながよく頑張って無事に撮ってきてくれたなと。プロデューサーという仕事は見えない部分が多いので、こういうふうに頑張っているんだというのを見て、感動して胸が熱くなりました」
桜井 「スタッフの皆さんの仕事でのトラブルは全然なくて、あくまで天気のトラブルで皆さんがどんどん追い詰められていくという。清水さんがおっしゃった通り、最初雪になった時は、正直ちょっと興奮しましたが(笑)。ただ、大河ドラマの本編が成立しないと、われわれの番組も成立しないので、同じようにドキドキしておりました」
――最後にあらためて番組の見どころをお願いします!
桜井 「NHKの看板番組である大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に『100カメ』が潜入しました。本当になかなかない貴重な機会でした。外のロケに100台のカメラで密着するという、今までにない試みでいろいろと試行錯誤して、面白く仕上がったと思います」
大木 「ドラマの中で出てくる映像の裏にどんな動きがあって、撮るためにどんな苦労をしているのかを知れて楽しかったので、視聴者の方にもそういった点を感じていただけたらなと思っています」
――ありがとうございました!
【番組情報】
「100カメ」
NHK総合
火曜 午後11:00~11:29
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム・NHK BS4K
日曜 午後6:00~6:45
NHK担当/K・H
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