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「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】2022/05/19

「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】

 “自分たちが面白いと思うものをとことん突き詰め、悩み、もがいて、4分間を組み立てる”。一夜にして人生が変わる、日本一の漫才師を決める大会「M-1グランプリ」。

 この戦いに挑戦し続けてきたお笑いコンビ・アイロンヘッドは、2008年結成。「出場資格は15年以内」の「M-1」に出場できるのは、残り2回となった。コントや歌ネタを強みとし、「歌ネタ王決定戦」では4回決勝に進出した実績を持つアイロンヘッドだが、残り2回の「M-1」に向けて「本気で漫才に挑む」という。

 5月21日には、初の“漫才”単独ライブ「メイク・アップ」を開催。ファンの熱さに感謝しながら新たな決意を誓う、ナポリさん、辻井亮平さんのお二人に、今の心境を聞いた。

「青春があと2回で終わっちゃう」

「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】

――お二人が得意とするコントや歌ネタを封印した、漫才のみの単独ライブ「メイク・アップ」を開催されますね。残り2回のチャンスとなった「M-1グランプリ」に向けての試みとのことですが、「M-1」に対して決意を新たにする、何かきっかけがあったのですか?

辻井 「『M-1』は芸歴制限が15年なので、“あと2回しか出れない”という現実に直面した時に、『この2年は漫才に力入れて頑張ってみよう』って話し合ったんです。もちろん『キングオブコント』も頑張りたいと思ってるんですけど、こっちは芸歴制限がないので、ジジイになっても出続けたらいいやん、って。そんな話し合いがあって、漫才だけの単独ライブをすることに決めました」

ナポリ 「余命あと2年です」

辻井 「余命て!(笑)」

ナポリ 「NSCを卒業してからずっと出場してる、そんな青春があと2回で終わっちゃうっていう。はかないですよね。それが終わってしまった時に『あー、やっぱもうちょっと漫才頑張ってたらよかったな』って後悔するんは嫌やなと思ったんです」

辻井 「『M-1』は毎年出てきましたんで」

ナポリ 「皆勤賞です」

――お二人は年間30~40本の新ネタを作っているとのことですが、漫才、コント、歌ネタなど、割合としてはそれぞれどのくらいの数になるのでしょうか?

辻井 「全部コントと歌ネタですね。漫才はゼロです。漫才だけの新ネタを下ろすということはほぼないですね。漫才をやる時は、コントを漫才に変換できるネタでずっと勝負してきたんです」

――では、最後に漫才のネタを作ったのは……?

辻井 「ははははは! いつやったかな~」

ナポリ 「(遠い目で)あれはいつでしょうねぇ……」

辻井 「最後に作ったんっていつなんやろ!? ホンマに思いつかへん」

ナポリ 「あれは……いつでしょうねぇ………」

辻井 「ないんちゃうか? マジで」

――これまでの「M-1」では、どういうネタを披露していたのですか?

辻井 「元々あったコントです」

ナポリ 「コントとして作ったネタを、『ほなやってみよか』って漫才としてやってみる感じで」

――ということは、今回開催する漫才だけの単独ライブは、すごく大変な試みということですか……?

ナポリ 「大変な試みです!!!!!」

辻井 「マジで、ちょっと四苦八苦してますね。ははは!!(笑)」

――何本くらい披露される予定ですか?

ナポリ 「5本ですね。すべて新作で」

辻井 「なかなか難しいですね、これが(笑)。特に、賞レースの仕様にするというのがすごく難しいなと思います。普段から漫才やってるやつには普通にやっても勝たれへんやろなとも思うんですけど、新しいシステム作るのも簡単なことじゃないなって。やってみないと分かんないですけどね」

ナポリ 「でもその分、新しい挑戦なんで、楽しくはできてますよ」

「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】

――「メイク・アップ」というタイトルに込めた思いを教えてください。

辻井 「今まで、2人で衣装をそろえたことがないんです。残り2回の『M-1』に向けて、クラウドファンディングで新衣装を作るための資金を募らせていただいて。ありがたいことにお客さまからたくさん支援していただいたので、初めて2人でカッチリと衣装をそろえたライブになるんです。そんな理由から『メイク・アップ』というタイトルにしました」

――そんなクラウドファンディングは、支援総額81万3000円、達成率は203%。サポーターは255人という見事な結果となりました。

ナポリ 「ありがたいですね……」

辻井 「ありがたいです。本当に。『こんなに応援してもらえてるんや!』って、すごくびっくりしました」

ナポリ 「ファンの皆さんには感謝しかないです。目標金額が達成してからも、『アイロンヘッドを応援したい』って支援してくださる方がいるんです。アイロンヘッドのバックには250人以上のファンがいますから!!」

辻井 「なんやその言い方(笑)」

ナポリ 「コロナ禍ということもあって、直接見に行けないという方もいらっしゃるんですけど、今は配信も充実してますから。『行けないけどファンです!』という声も増えてきて、ありがたいですね」

――お二人のファン層としては、どのような方が多いですか?

辻井 「女性の方が多いですね。劇場には同い年とか、ちょっと下の方が来てくれることが多いかな? 女子高生とかはあんま見掛けへんな」

ナポリ 「そうですね。アイロンヘッドは女子高生には圧倒的に弱いです」

辻井 「すぐ昔のことで例えたりしてしまうんで(笑)。歌ネタやったら知ってるって言ってくれるんですけど、やれコント、漫才、トークとかになると、女子高生はすっからかんですね(笑)」

ナポリ 「(にっこりと)淑女の方々が足を運んでくださっています」

「俺らが舞台出たらお客さんに下向かれてました」

「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】

――2016年4月に東京進出。丸6年がたちますが、上京してからのことを振り返って、いかがですか?

辻井 「最初はホンマに仕事がなくて」

ナポリ 「うん。しんどかったですねー………」

辻井 「ははは!(笑)」

ナポリ 「つらかったですよ……。東京来て、1、2年くらいはずっとつらかったですね……」

辻井 「(ぼそっと)そうやなー………」

――それはどういうつらさですか……?

ナポリ 「もう、想像を絶すると思います」

辻井 「(笑)」

ナポリ 「もうね、やっぱり大阪から来たってだけでハードルが高くなるんか、ずっとアウェー感がありましたね。ずっとウケてなかったんです」

辻井 「東京来て最初の頃、俺らが舞台出たらお客さんに下向かれてましたから。お客さん投票のバトルなんで、その頃はだいぶ苦労しましたね。それから3年くらいたって、やっと劇場メンバー入りした頃、出待ちの時に直接言われたことがあって。『最初は本当に気に入らなかったです。大阪から来た人に、この東京の劇場が汚されると思って、見ることもできませんでした。すみませんでした』って謝りに来てくれた人がいたんですよ。それくらいやっぱね、東京で自分が応援してる芸人の中に、大阪からいきなり入ってくるというのは、受け入れられない方もいるんやろなって。最初のアウェー感はそういうことやろなって、その時分かりましたね」

――アイロンヘッドさんと同じ頃に、大阪から東京に進出する方は少なかったのでしょうか。

辻井 「いたんですけど、そこを食らう芸人と食らわん芸人がいましたね。理由は分かんないですけど(笑)。僕らは食らう側でしたね。インディアンスはすぐ受け入れられて、とんとん拍子で上がっていきましたよ(笑)」

――辻井さんは、インディアンスの田渕(章裕)さんとルームシェアをされていたとお聞きしました。

辻井 「してました! インディアンスが上がった時は、『よかったな!』『スゲーな、田渕!!』って。その代わり彼らは大阪時代にだいぶ苦労したんで、東京来てよかったなって思います。あるんですよね、地域によってどこが合ってるかとか」

――東京進出前、大阪で活動している時は「東京でやれる」という手応えがあったのですか?

辻井 「なんだかんだ、いけんちゃうかなって思ってました」

ナポリ 「はい。でも、そこまで全国区のテレビ番組で爆ハネするとかもなく。ふわ~っときましたね」

辻井 「うん、思ったより難しかったですね。これはあかんと思って、毎日とりあえず楽屋おって。東京の芸人と仲良くなってノリ作らなあかんな、とか。『ずっと楽屋おるやん!』ってイジられるくらい楽屋いました。先輩、後輩、同期、もうみんなと話すようにして、『ここと仲良くなったらコーナーの時、連携取れるな』『こことここが仲いいんやったら、お客さんもそういうふうに見てくれたりするな』とか、いろいろ考えてました。それくらいやらんとマズいなと思って、そこから変えていったんです」

 インタビュー後編では、「キングオブコント」での苦い記憶や、先輩からのうれしい言葉についてお話していただいた模様を。さらに辻井さんも初めて聞いたという、ナポリさんの「あるテレビ番組」への愛が爆発!?(後編はこちら:https://www.tvguide.or.jp/feature/feature-1540770/

「お客さんに下向かれてました」。アイロンヘッドがつかんだ日常と新たな決意【ロングインタビュー前編】

【プロフィール】

アイロンヘッド
ナポリ(1985年1月10日生まれ、大阪府摂津市出身)と、辻井亮平(1985年2月1日生まれ、兵庫県神戸市出身)が京都産業大学の学生寮「追分寮」で出会い、大学卒業後、ともに大阪NSC30期生として入学。2008年、コンビ結成。14年、「平成26年度 NHK新人お笑い大賞」優勝。「歌ネタ王決定戦」では、決勝に4回進出した実績を持つ。16年より、活動拠点を大阪から東京に。21年4月より、ヨシモト∞ホールの看板芸人「ムゲンダイレギュラー」として活躍中。22年5月21日、東京・北沢タウンホールにて、初の漫才単独ライブ「アイロンヘッド新衣装お披露目漫才公演『メイク・アップ』」を開催予定。会場チケット、配信チケットともに発売中。

取材・文・撮影/宮下毬菜



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