堺雅人「頭と体のバランスの悪さがとても面白かったし、演じる上での楽しみどころでした」――「ダマせない男」インタビュー2022/03/26
堺雅人さん主演のスペシャルドラマ「ダマせない男」が、3月26日に日本テレビ系で放送されます。“絶対にだませない詐欺師”が10億円の詐欺計画に奔走するコメディーです。
堺さんが演じるのは、“超”が付くお人よしの会社員・絹咲正。正は婚活パーティーで浅香澪(門脇麦)に出会いますが、彼女は実は大手ゼネコン会社社長・貴島源一郎(生瀬勝久)の支配下にある詐欺師で、貴島は、リゾート会社社長の大森詩子(広末涼子)から10億円を奪うことができなければ殺すと正と澪に告げます。うそがつけない正にはとても引き受けられる話ではありませんが、正のあまりの人の良さから詐欺計画は思いもよらない展開へと進んでいきます。
そんな“優しすぎる詐欺師”を演じる堺さんに、作品の魅力を伺いました。
――出演が決まって台本を読んだ時に、どんな印象を持たれましたか?
「台本をいただく時に、水野(格)監督が『最近の若い人はいい人が多い。人をだまさないし、押しのけないし、いじわるじゃないし、傷つけない。そういうテーマで考えている台本です』ということをおっしゃっていたんです。優しくなった若い人を追体験じゃないですけど、『どんなものなのかなあ』と身を持って体験できたら面白いなと思いながら、台本を読んだり考えたりしながら、実際に演技をしてみました」
――演技の中で体験して感じたことをお聞かせください。
「若い人がどうだというのは全く分からないけど、絹咲正に限定すると、人を傷つけないというのは自分を押し殺した人ということで、その人の主語が何かが見えないというか。それは一見良さそうに見えるけど、すごく怖いなって。いてもいなくても一緒だし…というのも思ったんですけど、絹咲はそれにプラスして体の反応があって、そのバランスがありがたかったですね。頭では自分を殺そうと思っているんだけど、体が言うことを聞かなくて、あっちの方向に行ったりこっちの方向に行ったりというのがある人なんです。そのバランスの悪さがとても面白かったし、役を演じていく上で楽しみどころになりました」
――頭と体のバランスの悪さが面白いという絹咲正を演じるにあたって、意識したことはどんな部分ですか?
「台本にはセリフがあるので、頭で考えられた文が主なんですね。“ドキッとする”とか“ふわふわして”とか、そういうのはあまりト書きに書かれていないんです。それで、ついつい頭でばかり考えてしまいがちなんですけど、今回絹咲正と一緒に、僕自身がないがしろにしていた体の声みたいなものをあらためて体験することができて。それは俳優としても、とても楽しい作業だったんです。2年前に演じた役(TBS系『半沢直樹』の半沢直樹)とかは、自分のペースでどんどん進んでいくような人で、頭と体でいったら頭で進んでいく人だったんですけど、今回は体からいろんな言葉を出しているような感じで。やってみるまでは分からなかったんですけど、そういう楽しさはありました」
――体がいろんな言葉を出すということですが、特にどんな部分が印象的でしたか?
「結婚詐欺のシーンがあったので、恋愛の部分を体験することになったんです。ドラマの中で、恋愛って大事なテーマの一つじゃないですか? これまで、お芝居の中で恋をするというのがあまりなかったのですが、今回はそういうシーンがあって、とても楽しかったんですね。今回共演した周りの女優さんたちは、そういう意味では百戦錬磨の方々ばかりなので、先輩たちに教えてもらいながら(笑)。門脇さんも広末さんも(小山紗枝役の)村川(絵梨)さんも、その辺は豊かなので、彼女たちとお芝居をしていて『あっ、こんなに気持ちが動くんだ?』というのを教えていただいたので、感謝しています」
――役作りの上で、監督とはどんなお話をされましたか?
「監督からは『そこの間、短く』とか『もっと大きな声で』とか、細かく言っていただきました。その中で僕が提案したのは、すねを蹴り飛ばすというのが立ち位置的に難しかったので、『かんちょうにしたらどうですか?』って。かんちょうは僕が考えました(笑)」
――情報解禁の際に「絹咲正は変なやつだけど、演じてみて面白い」というコメントを出されていましたが、変なキャラクターを演じる面白さについてお聞かせください。
「頭と体が違うことを考えているというのが変だなと思ったんです。頭ではなるべく自分を出さないようにしようと思っているけど、体の方はついつい動いたり生き生きとしてしまうというギャップが面白いなと思ったので、“変なやつ”という表現をしたんです。やってみると、ドキドキした感じとか、息が上がる感じとか、胸を下から持ち上げられた感じとか、そういった体の声というのが非常に面白かったですね」
――それはご自身と違うキャラクターということで面白いのでしょうか?
「僕と違うから面白いというわけじゃなくて…むしろ似ているのかな? 今までは、自分の体がどんな状態だったかはあまり気にしてなかったんですよね。今回はあらためてそれを楽しんだ気がするなあ。今までより体がもっとふわふわした状態だったので、それが新鮮でした」
――元々詐欺師なのではなく、だんだんと詐欺師になっていく役を演じている中で発見したことは何かありますか?
「うそをついていく中で、一生懸命うそをついたらそこにちょっと真実が混ざっていくというは、今回の物語でもそうですし、僕たちのやっている俳優という仕事も似たようなところがあるんじゃないかなと思いました。自分じゃない人間を演じる時に、心を込めて演じて一生懸命セリフを言うことで、そこに真実やうそでないものが混ざるというは、今回思ったことですね」
――コメディー作品ということで難しい部分などはありましたか?
「僕は自分のコメディー才能のなさに自信を持っているので(笑)、全く考えずにやりました。演出の水野監督がうまく導いてくださっていると思いましたね」
―― コメディーの要素として掛け合いが重要になってくると思いますが、ほかのキャストとのチーム感について教えてください。
「共演者が素晴らしい方ばかりだったので、安心していろんなことを試せたというか。感染予防をしながらの撮影なので非常にやりにくいんです。テストでもマスクをして行うので、監督も表情が分からないし、僕らもそれが分からないし。あとは、控室でのちょっとしたおしゃべりが大事だったりする時もあるんですけど、それができなくなっているので…。でも、マスクで表情が隠れていても、『こういうことなんだろうなあ』とお互いに読み合えるようなキャリアの方ばかりでしたね」
――その中でも門脇さんと一緒のシーンが多かったと思いますが、どんな方でしたか?
「門脇さんには勝手に親近感を覚えていて。例えば方向音痴なところとか、人ごととは思えない共通点があって。初めてご一緒するんですけど、そうは思えない波長の良さがあって。『門脇さんは僕だ!』と思う瞬間が何度かあったので(笑)、とても親近感が湧きました。たぶん、役者のタイプとしても似ているんですよね。どの現場でもすっとそこにいることを目指されている方で、作品によって印象が全然違うじゃないですか? 僕もそういう俳優になりたいなと思っているので、勝手に同士愛を感じている人です」
――同士愛を感じている方との共演はやりやすいですか?
「テンポが似ていたなあ。人って腕を組む時に、普通は反対にすると気持ち悪くなるんですよね。でも、門脇さんは気持ち悪くならないんですよ。だから、どうとでも合わせられるんです。天才ですよ! 役や生活環境によってご自身を変えていっているんですよ。“門脇麦みたいな役者”になりたいですね(笑)」
――タイトルにちなんで、堺さんご自身は「〇〇できない男」に当てはまるのは何でしょうか?
「僕は、足し算とか引き算とか計算が苦手なので、『計算できない男』ですね」
――それで失敗してしまったことはありますか?
「中学の時に生徒会で会計をやってしまって、学校の予算を間違えてしまって生徒会が紛糾してしまって…。それ以来、『お金の扱いには関わらないようにしよう』と固く誓いました(笑)」
――逆に「これはできる!」ということも教えてください。
「計算以外なら、どれもそこそこでき…いや、そうでもないなあ。俳優のお仕事を、これからもどうぞよろしくお願いします!(笑)」
――それでは、最後に見どころを含めて視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。
「うそがつけない人が一生懸命うそをつくことで、周りの人を巻き込んで騒動が起きていくお話です。コメディーでお子さまから気軽に見られる作品になっていますので、どうぞご家族で気軽に楽しく見ていただけたら幸いです」
――ありがとうございました!
ひょんなことから詐欺師になってしまったお人よし会社員が、10億円をせしめる計画の中でどんな活躍(?)を見せるのか…そして、その計画は成功するのか? どんな展開が待ち受けているのか楽しみです。また、頭と体のバランスが悪いというキャラクターを、堺さんがどう見せてくれるのかも見逃せないですね!
【プロフィール】
堺雅人(さかい まさと)
1973年10月14日生まれ。宮崎県出身。O型。大学生時代に劇団東京オレンジで活動を開始。以来、舞台やドラマ、映画など数多くの作品に出演し、受賞歴多数。近年の出演作は映画「DESTINY 鎌倉ものがたり」(2017年)、ドラマ「半沢直樹」(TBS系)など。
【番組情報】
スペシャルドラマ「ダマせない男」
日本テレビ系
3月26日 午後9:00~10:54
取材・文/K・T(日本テレビ担当) 撮影/蓮尾美智子 衣装協力/Y-3 、 GMT
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