井浦新、「個人的には“◯◯犯人説”も皆さんに忘れないでほしいな(笑)」――「最愛」インタビュー2021/12/09
TBS系で放送中の金曜ドラマ「最愛」。本作は、殺人事件の重要参考人となった実業家・真田梨央(吉高由里子)と、梨央の初恋の相手であり事件の真相を追う刑事・宮崎大輝(松下洸平)、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士・加瀬賢一郎(井浦新)の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリーです。
2006年、梨央が青春時代を過ごしていたのどかな田舎町で失踪事件が発生。15年後、時代をけん引する実業家となった梨央の前に事件の関係者が現れたことにより、当時の記憶とともに封印したはずの事件が再び動きだします。本作は、「アンナチュラル」「MIU404」(同系)のプロデューサー・新井順子さんと演出・塚原あゆ子さん、そして「夜行観覧車」「リバース」(同系)で2人と組んだ奥寺佐渡子さんと清水友佳子さんの脚本による完全オリジナルの物語。
今回は、第8話の終わりでまさかの犯人フラグが立った加瀬賢一郎を演じる井浦新さんを直撃。加瀬の役柄や現場でのエピソード、共演者の印象などをお伺いしました。
「加瀬は一番普遍的なキャラクターかもしれません」
――第8話まで加瀬を演じてこられて、加瀬自身の心境や、梨央への思いの変化は感じていますか?
「加瀬に関しては第1話から一貫して常に梨央に優しく寄り添うことを徹底していて、それはずっと変わっていません。おてんばな社長が引き起こしてしまうさまざまなスキャンダルに対しては、大変だなというその時々の心境の変化はありますが…。基本的に加瀬はシンプルなマインドの持ち主だなと感じています」
――井浦さんから見て加瀬はどんな人物かをあらためて教えていただきたいです。
「同じように梨央を守りたいと思っている大輝とは、見事に対極なキャラクターになっていると思います。大輝は誰かを思うことに対して内側から表に出していく人ですが、加瀬は内側にある思いをずっと内側に置いておく人。だからといって、繊細でうぶというわけでもありません。大切なものにかける情熱を、ただひたすら真田ファミリーと梨央に注いでいます。梨央の夢を支えることで、彼女が見ようとしている景色を一緒に見たいと思っている人なのですが、その辺りは演じていてどんどん明確になってきたなと感じています」
――加瀬は、梨央を見守る優しい顔や大輝と対峙(たいじ)する時の厳しい顔など、いろいろな表情を見せてくれていますね。そのギャップを演じていていかがですか?
「そこが演じていて一番楽しい部分です。シンプルなマインドの持ち主であることと、梨央に寄り添うことだけに集中してしまうと、役の輪郭が悪い意味でイメージした通りになりかねないんです。それだとつまらないですよね、と塚原監督とも話していたので、なるべく役の輪郭を広げるようにしていました」
――どのように輪郭を広げていったのでしょうか?
「加瀬はこういう言葉は使わないんじゃないかとか、こういう行動はしないのではないかと思うことを、あえて挑戦するようにしていました。作中で加瀬のプライベートはあまり描かれていませんが、しっかり人間味を出したいと思っていたので。例えば、梨央に対して仕事では敬語だけどプライベートではタメ口で話していて、その切り替えの部分で攻めてみています。塚原監督がしっかり手綱を握ってくださっていて、やりすぎているとちゃんと指摘してくださるので、僕は伸び伸びとギリギリのラインを探らせてもらっています」
――加瀬は弁護士としての知識、交渉力、人脈など、あらゆるものを駆使して梨央と真田家を守る手堅い番犬ですが、普通の人間らしさがあふれているのは、人間味を探りながら演じていらっしゃったからなんですね。
「はい。人間らしさで言えば、もしかしたら加瀬は本作の中で一番普遍的なキャラクターかもしれません。特別な能力を持っているわけでも、後藤信介(及川光博)のように特別個性が強いわけでもないですし、街ゆく人の中に加瀬がいても違和感はないと思います。加瀬の“最愛”の形というのは、実は多くの人たちが持っているものと同じなんじゃないかな。登場人物の中での“最愛”で一番普通かもしれません。残りの2話でテーブルひっくり返すような愛を見せるかもしれないですけどね(笑)」
――視聴者の中では“加瀬キュン”という言葉がはやるほど盛り上がりを見せていますが、その反響をどう受け止めていますか?
「“加瀬キュン”って実は僕が勝手に作った言葉なんです! 初回放送前後に新井プロデューサーがインタビューで『このドラマはジリキュンだよね』って塚原監督と話していたのを読んだのですが、せっかく新井Pが“ジリキュン”っていうワードを出してるのに公式アカウントが全然拾ってなくて(笑)。それなら僕が盛り上げようと思って“ジリキュン”いじりをしていたのですが、だんだん何でもかんでもキュンをつけるようになって。その中で“加瀬キュン”や“大キュン”という言葉が生まれました。そうしたらありがたいことに、視聴者の皆さんが拾ってくださったんです」
――視聴者の力で広がった言葉なんですね。
「そうですね。SNSを通して作品のことが広がっていく様子はすごいなと思いますし、僕も視聴者の皆さんと同じように楽しめている感覚があります。毎話ドラマの映像が台本を超えたものに仕上がってくるので、これはスタッフやキャスト全員が思っていることなんじゃないかな。自分が読んだ大輝のセリフがこうなるのかという発見や、梨央はあのセリフをこういう表情で言うんだ、という驚きが毎回あるんです。それを受けて自分のお芝居も変わってくるので、その化学反応を現場のみんなで楽しんでいます。僕も一視聴者としてのフレッシュな感想をSNSに載せているのですが、物語だけじゃなく、SNSでの場外乱闘(笑)もひっくるめて、作品を楽しんでくださっているのがありがたいと思っています!」
――TBS公式YouTubeの「しゃべくりルーム」で、梨央と朝宮優(高橋文哉)とホームセンターに行った際に、重い荷物を持ってよろけた梨央を助けたのがアドリブだったというのが明かされて、かなり話題になっています。井浦さんの元々の性格が加瀬なんじゃないかという説も出ているのですが、ご自身では加瀬と似ていると思う部分はありますか?
「あ、どうも、地が加瀬の井浦新と申します。以上です!」
――(記者一同爆笑)
「加瀬に関してはお芝居はしていないです。もうね、ドキュメンタリーだと思って見てください(笑)」
吉高由里子&松下洸平との共演を振り返る
――松下さんとは梨央を巡ってぶつかり合う役どころですが、これまで一緒に演じられてきた印象を教えてください。
「洸平くんは本作が初共演です。大輝と加瀬にはそれぞれの梨央の守り方や寄り添い方があって、だからこそぶつかっていく役柄だったので、どう一緒にお芝居できるかを楽しみにしていました。第5話くらいまでは、にらみ合ってバチバチと火花を散らすシーンが毎回あったので、僕から『ここは思い切りバチバチさせていいんですよね!』と前のめりに確認しながら楽しんでいました」
――やはり2人が対峙するシーンは毎回印象深いです。
「初共演というのは1回限りのご縁のものなので、次に機会がある時は本作を経験した上での共演になるじゃないですか。ありがたいことに本作でお互いの芝居の手の内が読めない中で対峙するシーンをいただけたので、大輝と加瀬のシーンは大切に楽しみたいと強く思っていました。洸平くんもそれにしっかり答えてくれましたね」
――松下さんのお芝居で独特だと感じた部分はありますか?
「洸平くんと僕の台本の読み方が全然違うのが面白かったです。僕は、台本を呼んで、洸平くんはきっとこうしゃべるだろうなとたくさんイメージを張り巡らせて、そこからどうやってお芝居しようかを考えるんですけど、洸平くんは僕のイメージに当てはまらないものを必ず本番に落とし込んでくるんです。洸平くんの体の中にあるリズムが独特なので、加瀬のリズムがいい意味で狂わされるのかなと。個人的には本番に相手との反射で行うお芝居が一番楽しいと感じるので、とてもやりがいがありました」
――あの対峙は本番にだけ生まれる、新鮮なお二人のお芝居なんですね。
「はい。2人でバチバチするようなお芝居は、本来なら慣れてくると予定調和になりやすいものだと思うのですが、洸平くんのおかげで大輝と加瀬の空気感はいまだにフレッシュなままでいられています」
――吉高さんの印象はいかがでしょう?
「新井Pも、さまざまなスタッフも、吉高さんのことを天才って呼んでいるかと思います。でも、僕は吉高さんは不器用だと思いますし、不器用だからこそ努力を惜しまない人だと思っています。その努力で積んできたキャリアを生かしたとしても、根が不器用だから、実は何でもかんでもうまくこなせるタイプではないんじゃないかな。彼女は天才という言葉でくくれる人ではないと思うのですが、形容する言葉がないから皆さん天才と呼んでいるんだと思います」
――井浦さんから見て吉高さんらしいお芝居とはどんなものでしょうか?
「彼女は力でお芝居するタイプではなくて、現場に流れている空気感や、彼女の中に流れているリズムを最大限に生かすことに長けている人だと思っています。お芝居が自然に見えるのは、そう見えるようにお芝居をしているのではなくて、どんな時でも肩の力を抜いて、役と本人を同化させることができるタイプの女優さんだからだと思います。それって誰でもできることではないですし、天才だからできるわけでもないと僕は思っています」
――それは、今までの共演経験からそう感じるものなのでしょうか?
「そうかもしれません。実は、吉高さんがまだ10代で僕が30代の頃に一度共演しているんです。その頃、未熟者同士だった2人が年月を経て、まだまだ未熟者だねってお互いに感じ取れている瞬間があって。それが少し気恥ずかしい時もありますが、その気恥ずかしさと出会ってから十数年たっているリアルな関係性を、梨央と加瀬に当てはめることができています。だからこそ自然に見つめていられるし、芝居のスイッチを入れた状態でも、力を抜いた状態でも向き合っていられるのかなと思います」
――梨央と加瀬を演じるにはぴったりなお二人だったんですね!
「そうですね。僕にとって吉高さんは稀有(けう)な存在だと思います。本作でそれぞれの役柄や関係性をどこまで作り上げられるかは楽しみです。芝居上のみで関係性を作っていくことは簡単ですが、お互いのリアルな関係性や、背景を織り交ぜながら役柄を作り上げることはなかなかできることではありません。そういうことをできる相手でありがたいなと思いましたし、吉高さんへの尊敬の念が大きく膨れ上がりました。久々にご一緒して、彼女が“吉高由里子”として背負ってきたものを感じることが多くて、それが敬意というものにつながっています。本当は撮影が終わってからこれをサッと言い残して格好よく帰ろうと思ってたんですけど、言っちゃいました!(笑)」
――では、物語の終盤に向けて見どころをお願いします。
「第8話の終わりで、加瀬に犯人フラグが立てられてしまいました。とはいえ、まだ第9話と第10話が残っています。加瀬の疑惑と同時に真田梓社長(薬師丸ひろ子)にも容疑がかかっていますし、大輝の後輩である藤井隼人(岡山天音)も自ら犯人に立候補しているような面構えで登場しています。そんな中で、個人的には“大ちゃん犯人説”も皆さんに忘れないでほしいな。ああいう不器用でみんなのことをキュンとさせている人が、実は一番悪いやつなんじゃないかなって僕は思っています(笑)。そして、本作の一番の醍醐味(だいごみ)は、犯人探しを凌駕(りょうが)してくるそれぞれのヒューマンドラマ。大切なものを抱えているすべての人たちの“最愛”のぶつかり合いが、一番の見どころです。第8話まで積み重ねてきたそれぞれの“最愛”の大きさが、残りの2話でさらなる加速をして、予想外の展開を見せるはず。犯人探しはもちろん、登場人物たちの“最愛”の物語をぜひ楽しんでください!」
【プロフィール】
井浦新(いうら あらた)
1974年9月15日生まれ。東京都出身。99年公開の映画「ワンダフルライフ」で映画デビュー。その後、ドラマ「チェイス~国税査察官~」(NHK総合)、「リッチマン、プアウーマン」(フジテレビ系)、「アンナチュラル」(TBS系)、「あのときキスしておけば」(テレビ朝日系)、映画「蛇にピアス」「ソラニン」「朝が来る」などに出演。現在、映画「恋する寄生虫」が公開中のほか、映画「麻希のいる世界」の公開が控えている。
【番組情報】
「最愛」
TBS系
金曜 午後10:00〜10:54
TBS担当 A・M
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