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高橋英樹が語る、2時間ドラマの魅力……「時代とともに変わる男性像を役柄に反映したい」2021/12/11

高橋英樹が語る、2時間ドラマの魅力……「時代とともに変わる男性像を役柄に反映したい」

 2時間ドラマを代表する長寿シリーズ「西村京太郎トラベルミステリー」(テレビ朝日系)で十津川警部役を演じている高橋英樹さん。多くの代表作を持ち2時間ドラマに欠かせない高橋さんは、同時に映画俳優として、テレビ時代劇のヒーローとしても輝き、バラエティーでも活躍するまれな存在だ。

 そんな奇跡のスター・高橋英樹さんに、2時間ドラマの魅力を存分に語ってもらった。

――高橋さんにとって、2時間ドラマはどのような存在でしたか?

「実は、僕は2時間ドラマへの出演はだいぶ遅いんです。その前はずっと時代劇で、『桃太郎侍』『遠山の金さん』が毎週オンエアだから、物理的な余裕も出演オファーもなかった。でも、毎週1時間もの、正味45分くらいのばかりやっている側からすると、2時間ドラマはうらやましいなと思っていました。というのも、1時間では尺が短くて起承転結が『起』『承』『結』になっちゃう。『転』が入らない。それが2時間なら濃密に表現できる」

――2時間ドラマでの最初のターニングポイントは、やはり土曜ワイドの「杉崎船長」シリーズでしょうか。第1作は1988年3月5日の「津軽海峡おんな殺人行」ですね。

「ちょうど青函連絡船が引退するタイミングで話題作りもバッチリでね。監督は私の初めての主演映画『激流に生きる男』の野村孝さん。内容も事件の謎解きにとどまらず、人生を航路に例えて夫婦や親子の関係を考えさせるいいストーリーで、結果も高視聴率。ただ、陸と違って海の上は大変でした。撮影で一番難しいのは赤ちゃんと動物と船って言われてね。津軽海峡は流れが速いから、撮影のため船のエンジンを止めていると、少しの間にどんどん岸が近づいて来たり、近くにいたはずの船がはるかかなたに行ってしまったりする。船長のいるブリッジは一番眺めのいい場所だから、窓外の風景が違いすぎると編集で画が不自然になるんです。甲板に鳥が行き交うシーンではあらかじめ魚を撒いて鳥を集めておいたり、雨のシーンでは函館の消防署にお願いして5時間くらい放水してもらったり。今では考えられないくらい、船舶関係や地元の皆さんに協力してもらって、映画と同じくらい日数をかけました」

――そして、おなじみ、2時間ドラマ最長不倒記録の「トラベルミステリー」。

「船長に就任して以降、刑事でも検事でも、あまり東京にいない役柄ばかりだね。プロデューサーの塙ちゃん(塙淳一)に『たまには山手線でやらないか』と言ったけどダメだって。しかも、田舎に行ったら行ったで、やたらと歩き回る」

――それは、三橋達也さんから引き継いだ十津川警部役を、もっとアクティブなキャラクターに変えようとご自身が意識なさったんですか?

「いや、それはスタッフ側の思惑でね。愛川欽也さんとコンビになる前に、いかりや長介さんと組んで3本くらい十津川警部をやったんです。その時も私があちこち捜査に行かされる脚本でした。検事役でも本当は机の上の書類だけを読んで送検するか決めればいいのに、現場に出掛けては証拠品を集めたり死体を検証したり。とにかく部屋の中でおとなしくしていない。出演シーンは、ほぼ屋外ロケだなぁ。まぁ僕はいろんな地方を訪ねるのが大好きだし、役者として出た以上はしんどくても頑張るけど、『太陽にほえろ!』の石原裕次郎さんや『Gメン’75』の丹波哲郎さんみたいに、部屋から部下に行けと指令して、戻って来たらご苦労さんと言うだけのボス役が俺には来ねぇのか、とちょっと思ったこともある(笑)」

――最新作のトラベルミステリーは72本目、土曜ワイドの作品としては朝日放送時代から通算すれば75本、高橋さんの出演も39本目になります。

「長いよねぇ。監督の村川透さんは、僕が日活に入った当時はまだ助監督で、カチンコを打っていました。そこからかれこれ60年のお付き合い。あのオッさんも元気だよね。最新作は北海道の札沼線が廃止になるので、そこが舞台になったんだけど、撮影時期は新型コロナウイルスがはやる直前で何とか間に合いました」

高橋英樹が語る、2時間ドラマの魅力……「時代とともに変わる男性像を役柄に反映したい」

――高橋さん主演の2時間ドラマは長寿シリーズが多いですが、自身の演じる主人公の性格を方向づける(=キャラクターを育てる)際に、意識されていることはありますか?

「時代とともに犯人像も変わってきますから、犯人に接する人間としてはどの部分を強調すべきか考えます。ヒーローのあり方も時代に合わせて同一シリーズの中でも変化していくもので、昭和の時代の作品のように、あまりにも突出した正義感は現実的じゃなくなっている。例えば、かつて検察官は笑わないイメージだったのを、近松検事シリーズ(テレビ東京「捜査検事 近松茂道」)では普通の人のように演じています。捜査への厳しい姿勢は変わらないけれど、冒頭やラストでのコミカルなやりとりを増やしている。時代が変われば一般の男性像だって変わるでしょう。僕らの子ども時代は、父親が食卓に着くまで飯が食えなかった。ほんの数十年前のことですよ。情報化社会では、それを分かって役柄に反映しないと、今どき風じゃない。それに主人公は、オンとオフの振り幅が大きいほど格好よく見えるものです」

――これからの2時間ドラマについて、ご意見や抱負があれば。

「このところ2時間ドラマが減っているのはもったいないね。新人の登竜門でもあるし。2時間ドラマで俳優が育てられているって面もあるので、今のように連ドラばかりだと、若い役者が育つ場所がなくなってしまう。連ドラは大手のプロダクションじゃないとキャスティングに入れない現実もあるしね。あと悪役をできる人が少なくなったね。昔は見るからに『このオッサン、悪(ワル)に違いない』って面構えの人がいたよね。塙ちゃんのお父さん(山形勲)とか。今は芸能事務所も二枚目志向ばかりで、それが演劇界を小さくしているんじゃないかな。私が今、一番やってみたいのも悪役。海外だとロバート・デ・ニーロなんかは悪をやるじゃないですか。人は悪をいかに押し隠して正義の中で暮らしているのか。善かと思ったら時おり悪がふっと表面に出てくるような役をやってみたい。政界のボスとかね。私、モデルになるような人を何人も知っていますから(笑)。だれか悪役の台本を持って来るプロデューサーがいると面白いんだけどね」

※本稿は、大野茂「2時間ドラマ 40年の軌跡 増補版」(東京ニュース通信社)の一部を再編集したものです。

【プロフィール】

高橋英樹(たかはし ひでき)
1944年2月10日千葉県生まれ。1961年映画デビュー。テレビでは時代劇に多数出演し地位を確立。2時間ドラマでも多くの代表作を持つ。現在はバラエティー番組などでも幅広く活躍。フリーアナウンサーの高橋真麻は長女。

【番組情報】

高橋英樹が語る、2時間ドラマの魅力……「時代とともに変わる男性像を役柄に反映したい」

月曜プレミア8「再雇用警察官3」
テレビ東京系
12月13日 午後8:00~9:54

出演/高橋英樹 本仮屋ユイカ 林泰文 石黒賢ほか

【書籍情報】

「2時間ドラマ 40年の軌跡 増補版」

高橋英樹が語る、2時間ドラマの魅力……「時代とともに変わる男性像を役柄に反映したい」

1977年にスタートした「土曜ワイド劇場」から、2時間ドラマの伝説は始まった! テレビ映画としてのスタート、スピルバーグとの意外な関係、人気シリーズの誕生、火曜サスペンス劇場のスタート&2時間ドラマの戦国時代、時代を映す鏡・長いサブタイトル、そして2時間ドラマの未来…詳細なデータと、制作に関わった主要人の証言に基づく「2時間ドラマ」の歴史のすべてがここにある。2時間ドラマを愛する、すべての人におくります。今回の増補版では、出演者データやスタッフデータ(主演、助演、監督、音楽、脚本、テレビ局別ヒストリー)など、データ部分を大増強! これまでになかった「2時間ドラマ」本の超決定版です。
著者:大野茂

● 発売⽇:2021年12⽉22⽇ ※⼀部、発売⽇が異なる地域がございます
● 定 価:1,980円
● 発 ⾏:東京ニュース通信社
● 発 売:講談社

全国の書店、ネット書店(honto<https://honto.jp/netstore/pd-book_31305881.html>ほか)にてご予約いただけます。

撮影/為広麻里 協力/(株)キャッチネットワーク



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