新井順子Pが語る作品へのこだわり“考えながら、想像しながら見てほしい”──「最愛」ロングインタビュー2021/10/21
TBS系で放送中の金曜ドラマ「最愛」。本作は、殺人事件の重要参考人となった実業家・真田梨央(吉高由里子)と、梨央の初恋の相手であり事件の真相を追う刑事・宮崎大輝(松下洸平)、そして、あらゆる手段で梨央を守ろうとする弁護士・加瀬賢一郎(井浦新)の3人を中心に展開するサスペンスラブストーリーです。
2006年、梨央が青春時代を過ごしていたのどかな田舎町で失踪事件が発生。15年後、時代をけん引する実業家となった梨央の前に事件の関係者が現れたことにより、当時の記憶とともに封印したはずの事件が再び動きだします。「アンナチュラル」「MIU404」(同系)のプロデューサー・新井順子さんと演出・塚原あゆ子さん、そして「夜行観覧車」「リバース」(同系)で2人と組んだ奥寺佐渡子さんと清水友佳子さんの脚本による完全オリジナルの物語です。
今回は、プロデュースを務める新井さんを直撃。見どころのほか、新井さんならではのこだわりや推しシーンについてたっぷり語っていただきました。
「皆さんの想像をかき立てられるように作っています」
――先週から放送が開始され、第1話から重要な人物が…という謎だらけの衝撃展開になっていますが、全体的なストーリーで意識されたことはありますか?
「第1話の展開が早いとよく言われますが、私自身はじっくり描いた感覚があって、過去のシーンが長過ぎるかなって思ったくらいなんです。でも過去の事件をしっかり作り込まないと、刑事と重要参考人という禁断の愛が描けないんじゃないかなって思ったので」
――“刑事と重要参考人の禁断の愛”という設定は、どのような着想から生まれたのでしょうか。
「同窓会とかで初恋だった人に再会することって大人の皆さんにはよくある話だと思います。その時に再会した2人が刑事と重要参考人の関係だったら嫌だな、ラブストーリー的にはどうなるんだろうなって思ったところからスタートしました」
――過去と現在で15年という月日が流れていますが、そこへのこだわりはありますか?
「刑事と重要参考人の再会を作りだすためには学生時代が必要不可欠だなと思って、(現代の年齢設定的にも)15年くらいたたせた方がいいかなと考えました。昔の事件と今の事件が交差していく難しい作品にもチャレンジしてみたかったという思いもあります。以前、湊かなえさんの小説『Nのために』をドラマ化した時の構成と少し似ている部分はあるかもしれませんが、そこにもう少しサスペンス要素を盛り込んで、なぜ殺人や失踪が起きたのかを推理しがいのあるストーリーを作ろうと思いました」
――新井さんにとっては久々のサスペンス作品ですよね。
「そうなんです。『夜行観覧車』や『リバース』のスタッフで、またサスペンス作品を作ってみたいと思っていました。今度は原作なしで、同じ脚本家さんとオリジナルストーリーに挑戦したいなと」
――制作の上で特にこだわっていることはありますか?
「相関図を見ていただけると分かると思うのですが、ものすごくややこしい作品なんです。もしかしたらスタッフも全登場人物の過去は理解しきれていないかもしれない(笑)」
――確かにややこしいですね…。
「なんでもかんでも作中で説明するのはやめようという意識を持って台本を作っているので、相関図を見ずに第1話を見た人は、井浦さんの役がどういう役なのか分からなかった人もいるかもしれません。親切でたくさん説明を入れる作品もあって、それも良いのですが、今回は考えながら、想像しながら見てほしいなと。だからなるべく説明は省いて、皆さんの想像をかき立てられるように作っています」
――新井さんの作品は復習したくなるのですが、理由はそこにあるのかもしれません…! 他にこだわっている点はありますか?
「主人公の名前にもこだわりました。企画書上では違う名前だったのですが、紙の上で良いと思った名前が、実際に声に出してみると思っていたのと違ったので思い切って変えました」
――ちなみに役の名前は普段どうやって決めているんですか?
「姓名判断をしまくります(笑)。役名を決めてから、漢字の組み合わせを考えてその運勢を調べるんです。私が調べている方法では、総運とか健康運とかいろいろな運勢が出てくるのですが、その中でも総運が“大大吉”になる名前を選ぶようにしています。いくつか見つけた良い画数の漢字の組み合わせから、私のお気に入りをピックアップして脚本家さんに送り、他のスタッフも交えて決めています。毎回名付け親になっている気分です」
吉高由里子、松下洸平、井浦新の今作での魅力とは?
――今回主演を吉高さんにお願いした理由をあらためてお伺いしたいです。
「吉高さんが主演の『わたし、定時で帰ります。』(同系)の撮影をしていた時に、彼女がサスペンスをやったら面白いだろうなと漠然と考えていたんです。本作の企画を考える段階でそれを思い出して、オファーする前から吉高さん主演をイメージしていました」
――吉高さんが先日のインタビューで、「新井さんに『新たな一面を引き出したい』と言われた」とおっしゃっていました。本作でのお芝居を見て、吉高さんの新たな一面は見られましたでしょうか?
「たくさん見ることができています。随所に“天才なのか?”っていうシーンがありますよ。第1話で血だらけの服を燃やすシーンがあったと思いますが、そこは特に感動しました。何がすごいって、実は吉高さん『よーい、はい!』の直前まで爆笑してたんです(笑)。それなのにカメラが回った途端に涙がポロって。泣こうとする準備段階すらなく涙がボロボロ流れるので、どうしたらそんなお芝居ができるんだろうって思いながら拝見していました」
――スイッチの入り方がえげつないですね…。
「そうなんです。眉毛のお芝居にも驚かされましたね。ある言葉に反応するシーンがあるのですが、そこで眉毛がピクっと動くんです。おそらく無意識でやられているんだと思います。そういう細かな表情があらためて素晴らしいなと思いました」
――ちなみに、松下さんも大輝役のオファーをされた時に吉高さんと同じことを言われたとおっしゃっていました…(笑)。
「言いました(笑)。松下さんはこれまで好青年な役を演じている印象が強かったのですが、本作では武骨で荒っぽく見える役を演じてもらうのもいいなと思って。高校時代は好意をしっかり伝えるけど、どちらかと言えば恋に奥手なタイプ。現代シーンではそんな柔らかい一面に無骨さを加えて演じていただくようお願いしました」
――確かに高校時代と現代の大輝では、顔つきや醸し出している雰囲気が全然違いました。
「さらに言うと、松下さんはスポーツが苦手とのことだったのですが、大学時代では陸上部の設定にしてしまいました。かなり走り込んでくださって、青山学院大学にも通って陸上競技部の原普監督の特訓も受けてくださったんです。陸上のシーンは丸3日かけての撮影で、走りっぱなしでかなりハードだったと思うんですけど、フォームも崩れることがなく本物の陸上選手のようでした」
――「ぐるぐるナインティナイン」や「1億3000万人のSHOWチャンネル」(共に日本テレビ系)などでボールに翻弄(ほんろう)されている姿とは別人でした…(笑)。
「ですよね(笑)。あとは、松下さんの照れるお芝居が私のイチオシです。第1話で、車の中で梨央の父・朝宮達雄を演じる光石研さんに、梨央との関係について言及されるシーンがあるのですが、そのシーンの松下さんが“娘の婿にしたいナンバーワンの顔”をしてくれたんです。それが本当に最高でした! 台本で読むとサラっとしたシーンなのですが、映像で見ると生々しくて、お二人の仲の良さも相まってリアルな日常っぽいシーンになりました」
――井浦さんは「アンナチュラル」以来の新井さんの作品への出演ですね。当時演じていた中堂系とはかなり印象が違って驚きました。
「『アンナチュラル』の時は偏屈な役だったので、本作では癒やし系の役柄を演じてもらおうかなって思ったんです。仕事はビシッとやるけど、梨央の前では心を許している感じも絶妙に演じ分けてもらっています」
――第1話で梨央のことを気遣っている様子に早くもキュンとしてしまいました…。
「加瀬さんが登場するとやっぱり癒やされますよね。大人の魅力が出ていて、女性スタッフにも人気です。大輝派と加瀬派どっちが多いかな? 第1話では出番が少なかったですが、徐々に梨央のことをどう思っているのか気になるシーンも出てくる予定です。火曜ドラマみたいに分かりやすいキュンではないですが、“大人のキュン”は打ち合わせでアイデアを出し合いながら本編に入れ込んでいます」
「企画書を書いている時に『SAKURAドロップス』をめちゃくちゃ聞いていたので、もう(主題歌は)宇多田さんしかいないと思って(笑)」
――本作の主題歌を宇多田ヒカルさんが務めることも大きな話題になりました。楽曲を初めて聞いた時の感想を教えていただきたいです。
「初めて聞いた時は、サウンド感が一歩先を行っていて、『さすが宇多田ヒカル!』ってあえて呼び捨てにしたくなってしまうくらい感動しました。一方で、曲をかけるタイミングが難しい曲だとも思います。どこでかけ始めるか塚原監督がかなり悩んでいたんですけど、第1話は梨央と大輝の恋模様のシーンからかけて、それがハマったなと。曲の力もあり、いわゆるラブストーリーとは違う印象を残せたのではないでしょうか」
――「君に夢中」というタイトルを聞いた時の印象はいかがでしたか?
「まずは、日本語タイトルなんだという驚きがありました。英語っぽいタイトルがくるのかなと勝手に予想していたので。『君に夢中〜』(と、ご自身で口ずさみながら)というのは冒頭の歌詞で、その後の歌詞もとても独特です。吉高さんと梨央のことを想像して歌詞を書いてくださったようなのですが、宇多田さんから見たらそういう印象なのか! と新しい視点を感じる歌詞でした」
――主題歌発表の際には、「夢がかなった」という発言もありましたね。
「そうなんです。しつこくオファーをしていたので…。今回は特に早い段階からオファーしていました。絶対やってほしかったですし、企画書を書いている時に『SAKURAドロップス』をめちゃくちゃ聞いていたので、もう宇多田さんしかいないと思って(笑)。吉高さんにオファーする時も、『主題歌は宇多田をイメージしています』と伝えた気がします。OKはもらってないのに、想像だけ先に行っていました。学生時代からライブにも行っていましたし、音楽番組にも観覧しに行ったりするくらい好きだったので、本当に念願でした」
――“ガチ勢”というやつですね!
「はい(笑)。吉高さんも宇多田さんのことを神って呼んでいるくらい好きなので、決まった時は2人で喜びを分かち合いました」
“やりたいこと”を真っすぐに追求して出来上がる至極のエンターテインメント
――個人的に「着飾る恋には理由があって」(同系)で取材させていただいた時にお伺いした、“冷蔵庫キス”での演出のこだわりがとても印象に残っています(笑)。
「(笑)」
――今作ではキュンではなくサスペンス要素になるかと思いますが、新井さんがこだわられたシーンや、どのようなテーマで演出を作られているのかを教えていただきたいです。
「第1話で言うと、ロケ先の白川郷を奇麗な世界観で撮影することを目標にして臨みました。あとはストーリー自体がダークなので、光の具合や衣装の色が暗くなりすぎないように気をつけています。第1話だとあまり見えなかったかもしれないのですが、少し変わった演出もしているんです…(とニヤリ)」
――変わった演出…。
「第2話でしっかり出てくると思いますが、流れている血が変な色をしているシーンがあるんです。奇麗な白川郷の世界に相反するかたちで、異様な世界を表現したのですが、私もみんなも正直どうなるんだろうって思いながら撮っていました。あとは、ある部屋を丸ごと飾り変えて撮る試みもありました。本作では、塚原監督がそういう新しい挑戦をしていて、新鮮な分、みんな大混乱しています(笑)。皆さんの目にどう映るか楽しみです」
――塚原監督の新しい挑戦、とても楽しみです! 井浦さんが先日のインタビューで、『新井さんは見せたいものが明確』とおっしゃっていたのですが、本作で特に“見せたい”“描きたい”と思っていることはありますか?
「あえて一言で表すなら“生っぽさ”。セリフって本来書いてある順に言ってもらうものなので、俳優さんは間違えると『あ、順番間違えた!』って言うことが多いんです。でも、それは間違えたのではなくて、役として会話の流れでこっちを先に言った方がいいなという感覚になるからそうなるんですよね。塚原監督も、『つい出てしまったセリフだからこそ、リアルな感情になっているはずだからそのままで良い。やりたいことは順番通りにセリフを言うことじゃなくて、関係性を出すことだから」と、おっしゃっていることが多いです。
――俳優さんのその時の感情を大切にされているんですね。
「はい。あとは、作中で描けない空白の時間をどう表現するかをよく話し合っています。“梨央と大輝が出会ってから恋仲になるまでの2年”や、“15年間支えて続けてもらった加瀬との関係性”とか。この2人は長年一緒だから座る時はこのくらい距離が近いのである、ってみんなで理論立てながら、細かいところで関係性を演出しています」
――本作でも新井さんのこだわりを随所に見られる予感がして、ますます楽しみです。
「あ! 私のもう一つのこだわり思い出しました。ちょっとこっち来て!(と、隣で取材を仕切っていた男性スタッフに半袖Tシャツの袖を肩まで上げてもらいながら)、松下さんに、いつかTシャツを腕まくりしてほしい!と注文しました(笑)。そんなシーンが出てくるのかこないのか、ぜひお楽しみに」
――すごく細かい…。
「毎回『細かいなぁ〜』って言われながらも、思いついたらめげずにお願いしています。『今のお箸の置き方いい!』とかも言ったりして。だから井浦さんにやりたいことが明確って言われたのかな?(笑)」
――作中で新井さんの理想を実現しているんですね!
「基本、私が携わるドラマは私がやりたいことをただ入れ込むだけなんですよ、実は…(笑)。今回は私が箱根駅伝が好きなので、駅伝のシーンが撮りたいという理由で陸上部の設定を盛り込みました。あとは白川郷に行きたくて…。陸上部を白川郷で撮影したい。以上2点は必ずやりたかったんです」
――お話してくださっている新井さんが本当に楽しそうなので、視聴者の受けを狙うだけではなく、純粋に作りたいものを作る尊さが伝わってきます。
「そうですね。私はスタッフの皆さんに助けてもらいながら、自分がやりたいようにやらせていただいています。『なんで陸上なのよ〜! こんなに撮影大変なのに〜』と言われても、設定や進行上で無理がなければ『絶対盛り上がりますから!』って押し通しちゃいます(笑)。ちなみに皆さんは現時点で誰が犯人だと思いますか?」
――(苦笑いしながら首をかしげる記者一同)
「さすがに第1話だけじゃ分かんないですよね!(笑)。皆さん、ぜひ考察してみてください!」
――大きな宿題…。頑張って考察したいと思います! 本日は貴重なお話をありがとうございました。
「ありがとうございました!」
【プロフィール】
新井順子(あらい じゅんこ)
2008年からドラマプロデューサーとして活躍。これまで「中学聖日記」「アンナチュラル」「MIU404」「着飾る恋には理由があって」などを担当。現在は、金曜ドラマ「最愛」のプロデューサーを務めている。
【番組情報】
「最愛」
TBS系
金曜 午後10:00〜10:54
TBS担当 A・M
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