町あかりのプレイリスト~テレビのうた~◆その16:「あなたのメロディー」から誕生した名曲5選2023/09/16
日本のテレビ放送開始から70年。ドラマ主題歌やCMソングなど、テレビによって国民に周知された楽曲は無数にあります。「町あかりのプレイリスト」は、平成3年生まれのシンガー・ソングライターの町あかりが、昭和から令和までテレビを通して愛された楽曲について独自の目線で語る連載です。
NHKで放送された「あなたのメロディー」という音楽番組を知っていますか? 1963~85年まで放送されたコンテスト形式の長寿番組で、視聴者が作詞・作曲した作品を公募するという画期的なプロジェクトでした。上位に入賞した曲についてはほとんどがレコード化されたり、後に「みんなのうた」や「おかあさんといっしょ」で放送され、人気曲となりました。そんな面白い番組があったなんて知りませんでした!
第16回では「『あなたのメロディー』から誕生した名曲5選」と題して、番組がきっかけで生まれた名曲の中からお気に入りのものをチョイス。創意あふれる、個性豊かな楽曲を集めてプレイリストを作ってみました。
1曲目は、コスミック・インベンション「コンピューターおばあちゃん」(81年)。作詞・作曲は伊藤良一さん。後に児童合唱団の酒井司優子さんが歌唱したバージョンが「みんなのうた」で放送され、そちらは坂本龍一さんによる編曲。サウンドも凝っていて聴き応えがありますが、個人的にはコスミック・インベンションのバージョンの方がのほほんとしたキュートなテクノ・サウンドで私の好みです。コンピューターのように知識豊富でパワフルなおばあちゃんの姿が、孫の目線から愛情たっぷりに描かれています。明治生まれにして宇宙旅行の夢を持つおばあちゃんの知的好奇心の高さに敬服! 韻の踏み方も小気味よく、また「イエイ、イエイ」などのワードから漂うまったり感がかわいらしく、おばあちゃんが孫と一緒に「ウォウ、ウォウ」と歌い踊っている姿が目に浮かびます。
次は、北島三郎「与作」(78年)。番組内では作曲家の弦哲也さんが歌い、年間最優秀作品に選ばれました。後に競作として数人の歌手によるシングルが発表され、北島さんのバージョンが最もヒット。作詞・作曲をした七澤公典さんは、当時ジャズギタリストの夢を諦めアメリカから帰国したばかりで、渡米の反動として日本の原風景を描いた本曲が生まれたのだそうです。「まさに『日本昔ばなし』のような物語だなぁ」と思っていましたが、これが78年に誕生しヒットしたというのは面白いですね! 自然とともにつつましく生きる「与作」の姿は、近代化が進んだ今だからこそ心打たれます。説教めいたことは何一つ書かれていないのに「自分の生き方ってこれでいいのかな」という思いが巡る…。人生を見つめる機会を与えてくれるような不思議なパワーを持っています。
3曲目は、石川ひとみ「パープルミステリー」(83年)。松任谷正隆さんによる編曲で、クールでありながらボサノバのリズムに秘められた情熱を感じます。石川さんの憂いを帯びた歌声が、愛に悩む女性を描いた本曲の世界にぴったり。サビで急に音が上がったりと高難易度の楽曲で、石川さんの高い歌唱力がさえわたります。当時、テレビ番組では黒いドレスを着てシックな雰囲気で歌っていたようで、オトナなムード満点の楽曲。しかし、作詞・作曲した川越進さんは当時高校生だったそうです! こうした思いもよらぬ才能が発掘されるのが「あなたのメロディー」の面白さだったのでしょう。
4曲目は、ペギー葉山「算数チャチャチャ」(73年)。山口和義さんによる作詞・作曲で、「みんなのうた」でも放送され話題に。タイトルには「算数」とありますが、中学・高校で習う「数学」の問題をチャチャのリズムにのせて淡々と解く歌詞がユニークで、ちびっ子からの人気も高かったそうです。「算数や数学は怖くないんだ」と心理的ハードルを下げるのに一役買ったことでしょう。ペギー葉山さんの優しく豊かな歌声に「チャチャチャ♪」という合いの手が楽しく、数学アレルギーがある大人でもリラックスして聴けます。むしろ内容が全然頭に入ってこないので(笑)、余計なことを考えたくない時に聴くリフレッシュ・ソングにも最適。ところで、どうしてチャチャのリズムにしたのでしょうかね。「こんな問題、チャチャッと解けちゃうぜ!」ってこと?
最後は、トワ・エ・モア「空よ」(70年)。難波寛臣さんによる作詞・作曲で、トワ・エ・モアはこの曲によって「第21回NHK紅白歌合戦」への初出場を果たしました。まさに大きな空が目に浮かぶような、爽やかで壮大なメロディーが印象的。明るい曲調とは裏腹に、過去の恋人の行方を案ずる、ちょっぴり切ない歌詞が胸に染み入ります。夢を抱いていた幼い日を振り返ると同時に、故郷の自然豊かな風景が思い出されるという歌詞の構成も美しい! 生きていれば、必ず出会いと別れを経験します。時代を超えて誰もがわが身に置き換えて味わうことのできる名曲です。
いかがだったでしょうか? 今回のプレイリスト(Spotify)はこちらから!
https://open.spotify.com/playlist/60jWWudkXyTE2arDdPW3HV?si=94d54a6951ad4fee
今は誰でもオリジナルの曲を作ってネット上で公開したり、配信リリースも簡単にできる時代です。そんな今があるのは「あなたのメロディー」のおかげとも言えるのかも。番組では回を追うごとに応募曲が増え、最終的には約3万5000曲もの膨大な楽曲が集まったそうです。「聴くだけのもの」から「作って楽しむもの」へ、音楽の楽しみ方を広げてくれた存在だったのでしょう。クリエーティブなひと時は、生活を豊かにしてくれます。番組放送当時の人々の日常から生まれたユニークな楽曲たちを聴いて、すてきな初秋を過ごしましょう!
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町あかり
シンガー・ソングライター。2010年から活動を始め、作詞・作曲、編曲、執筆、イラストや衣装制作まで自身で行う。19年には、ビクターエンタテインメントからメジャー5thアルバム「あかりおねえさんのニコニコ♡へんなうた」をリリース。20年10月に、日本コロムビアから初のカバーアルバム「それゆけ!電撃流行歌」を発売。ほか、アーティストへの楽曲提供も行う。映画「男はつらいよ」と昭和歌謡曲、そして文鳥を愛する。最新アルバム「総天然色痛快音楽」が好評発売中。
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