町あかりのプレイリスト~テレビのうた~◆その15:情熱の「火曜サスペンス劇場」主題歌5選2023/08/12
日本のテレビ放送開始から70年。ドラマ主題歌やCMソングなど、テレビによって国民に周知された楽曲は無数にあります。「町あかりのプレイリスト」は、昭和から令和までテレビを通して愛された楽曲について、平成3年生まれのシンガー・ソングライターの町あかりが、独自の目線で語る連載です。
ところで「火曜サスペンス劇場」を知っていますか? 1981年から2005年まで、日本テレビ系列で毎週火曜夜に放送されていた2時間ドラマ枠で、特に90年代には高い視聴率を記録し続け、多くの「火サス」ファンを魅了したそうです。また、その主題歌が名曲ぞろい! 例えば、最初の主題歌である岩崎宏美さんの「聖母たちのララバイ」は当初レコード化される予定はなかったものの視聴者からの反響によって発売され、大ヒットしました(知りませんでした!)。
そこで、連載第15回では「情熱の『火曜サスペンス劇場』主題歌5選」と題して珠玉の名曲をチョイス。暑い夏にクールダウンしながらも熱い気持ちが込み上げるような、情熱的なプレイリストを作ってみました。
1曲目は、岩崎宏美「夜のてのひら」(86年)。宏美さんが担当する「火サス」主題歌としては5作目で、作詞は来生えつこさん、作曲は筒美京平さんが担当。クリスタルなサウンドとは裏腹に、重たいほどの愛情あふれる情熱的な歌詞が印象的です。愛し合うことは幸せなものなのに、どこか不安げで相手のことを信じられない不安定な心理が描かれています。宏美さんの歌声って重厚感があって、こういう耐え忍ぶような女性を演じさせたら日本一だと私は思っています! ひんやりとした風が吹き抜けるようなアレンジもクールで、熱帯夜に聴きたくなる1曲です。
次は、柏原芳恵「化石の森」(89年)。作詞は荒木とよひささん、作曲はこちらも筒美さんによる作品で、時期としてはちょうど平成に変わったばかりの頃です。愛と人生に迷う人の心情を、森の中でさまよう様子に例えた歌詞。霧深く暗い森の中を歩き、悲しく絶望を抱えながらも、人のぬくもりを探している表現にかすかな希望を感じます。間奏部分のピアノが特に印象的で、まるで涙を流しながら激しく踊っているような、情熱的なのに悲しい音色に胸を打たれます。ただ暗いだけではない、生き続けるための悲しみが描かれているように感じます。
3曲目は、真璃子「あなたの海になりたい」(91年)。80年代後期にアイドルとしてバラエティー番組でも活躍された真璃子さんの16枚目のシングルとしてリリースされ、作詞・作曲はウクレレ奏者としても活躍する山口岩男さんによるもの。海を見つめながら思いつめ、絶望の淵にただずんでいるような闇を感じる本曲。暗い雰囲気ではありますが、波のように激しく揺れるストリングスの音色が激情的で美しく、ハッとさせられます。海の中に沈んでいくような感覚が味わえて、それがなぜか心地よくも感じられる不思議な曲。悲しみに浸りたい人に優しく寄り添ってくれる1曲です。
4曲目は、杉山清貴「風のLONELY WAY」(88年)。「火サス」の第6代エンディングテーマで、作詞は田口俊さん、作曲は杉山さんによる作品。3作連続 でオリコンチャート1位を獲得した、「火サス」ファンだけでなく多くの人の心に残るヒット曲です。シリアスなサスペンスドラマを見た後に、清涼感と安心感を与えてくれるような爽やかなミディアム・バラード。どんなに後悔するような過去があったとしても、その経験がこれからの自分を支えてくれるはずだとすべてを肯定し、励ましてくれるような楽曲です。杉山さんの伸びやかなハイトーンボイスを聴いていると、体感温度と湿度がグッと下がるような、爽やかな気持ちになれますね。夏の浜辺で聴けば開放的な気分になれるはず。
最後は、髙橋真梨子「ごめんね…」(96年)。「火サス」の15代目主題歌に起用され、作曲は水島康宏さん、作詞は髙橋さんが担当。現在もカラオケでよく歌われるなど、長年にわたって愛されているヒット曲です。ポジティブさを感じるような明るいメロディーですが、そこには愛する人を傷つけた後悔にさいなまれる物語が描かれています。恋愛に限らず、失って初めて気が付くことは誰しもありますよね。人生に後悔はつきものだと、特に経験豊富な大人世代に刺さるメッセージが詰まっているような気がします。また、髙橋さんの歌声も天下一品。美しいけど気取っていなくて、だから誰もが自己投影して感情移入できるのだという、そんな魅力にもあらためて気付かされました。
いかがだったでしょうか? 今回のプレイリスト(Spotify)はこちらから!
https://open.spotify.com/playlist/4JEJeVuKlyYgv7LRMMI0wX?si=548c5d9df86e4ab1
誰もが感じたことのあるような悲しみが描かれた楽曲が多く、そこにはただ絶望するだけではなく「よりよく生きたい」という希望がとけ込んでいるように感じます。サスペンスを通して描かれる奥深い人間模様が視聴者の心をつかみ、また、その作品の魅力に呼応して名曲ぞろいの主題歌たちが誕生したのでしょう。
ドラマは現在も配信サービスで見ることができ、BS日テレやCS放送などでも再放送されています。涼しい部屋の中で久しぶりに「火サス」作品に触れてドキドキしながら、情熱的な主題歌たちを味わってみてはいかがでしょうか。
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町あかり
シンガー・ソングライター。2010年から活動を始め、作詞・作曲、編曲、執筆、イラストや衣装制作まで自身で行う。19年には、ビクターエンタテインメントからメジャー5thアルバム「あかりおねえさんのニコニコ♡へんなうた」をリリース。20年10月に、日本コロムビアから初のカバーアルバム「それゆけ!電撃流行歌」を発売。ほか、アーティストへの楽曲提供も行う。映画「男はつらいよ」と昭和歌謡曲、そして文鳥を愛する。最新アルバム「総天然色痛快音楽」が好評発売中。
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