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「不法就労」という言葉から、どんな仕事を連想しますか?「東京クルド」日向史有監督に聞く“イメージでニュースを捉える危うさ”2023/05/31

「不法就労」という言葉から、どんな仕事を連想しますか?「東京クルド」日向史有監督に聞く“イメージでニュースを捉える危うさ”

 私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか――その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載を、TVガイドWebでも展開中。今回は、6月20日に日本映画専門チャンネルで放送されるドキュメンタリー「東京クルド」監督の日向史有監督にインタビュー。入管法のニュースが多く報道されている今こそ、放送と併せてぜひ読んでほしい! そんなインタビューとなった。

POINT ◆イメージで捉えてしまいそうな社会問題については、その統計や背景まで調べてみる

――入管をめぐる問題が日々報道されていますが、日本において難民、難民申請者はどんな理解をされていると思いますか?

「今取り沙汰されている入管の問題については、入管の職員個人が悪いというよりは、入管法というシステムの問題だと考えています。僕が監督した映画『東京クルド』に出てくる人たちは『難民認定申請者』『非正規滞在者』という二つの側面を持っています。今『非正規滞在者』という言い方をしましたが、一般的には『不法滞在者』と言われていますよね。言葉が与えるイメージというのは想像以上で、この『不法滞在者』という言葉が、圧倒的な負のイメージを与えていると考えています。

 20年度の政府統計に、退去強制手続きを取った外国人で、不法就労の事実があった人の内訳が載っています。不法就労と聞くと『闇の商売』のような怖いイメージを持ちがちですが、その1位は農業なんです。2位は建設業で、3位が工場労働。つまり圧倒的に労働力が足りていない今の日本で、彼らが労働力の一端を担っている側面がある。入管のニュースはたびたび報じられていますが、こういう実態はあまり知られておらず、『不法滞在』『不法就労』の言葉のイメージだけが先行している。『外国人に入ってきてほしくない』という国民感情は『出入国管理及び難民認定法』という法律名にも表れています。欧米だと移民法なのに、日本だと『外国人を管理する』という意図が名称に入っている。日本人の外国人に対する『共生ではなく管理する』という意識を象徴した名称だと思います。

 実態がほとんど知られていないのは、そもそも難民申請する外国人への興味がないからなのでしょうが、でもコンビニエンスストアの商品を工場で作っているのが、実は彼らだったりもするわけです。可視化されていないだけで、私たちの生活に欠かすことのできない存在でもある。

 僕自身はどんな外国人でも受け入れるべきとは思っていません。ちゃんとルールに基づいて入ってくるべきだと思っています。ただ、前提となる事実を知らないと、怖いイメージばかりが先行して、『難民や不法滞在者に日本が乗っ取られてしまうんじゃないか』という妄想が肥大化して、差別意識につながってしまう恐れがある。だから特に外国人をめぐる問題については、表に出てくるニュースだけでなく、背景や統計とセットで関心を持つべきだと思います」

――監督は日々、どんなニュースの拾い方をしていますか?

「新聞を1紙読んでいます。その対極にあるようなメディアをTwitterで登録して、例えば入管法の問題が、それぞれでどんな取り上げ方をされているかを見比べたりしています。ベースはあくまでも紙の新聞で、1面と社説を読んで、あとはパラパラと読みます。ネットニュースだと自分の好きな記事しか読まなくなりますが、紙だとパラパラめくりながら、思わぬニュースが目に留まることがあるので。

 気になる記事はスクラップします。記事の大小はあまり関係ありません。『長年続いていた銭湯が廃業した』みたいな小さい記事でも、自分の中で何か引っかかるものがあればスクラップします。記事単位で切り抜くと面倒なので、その面ごと切り裂いて、折って貼り付けます。後で読み返す時間はなかなか取れないのですが、でもスクラップすること自体に意味があると思っていて。以前、村上春樹さんが『社会の空気が変われば身体の組成も変わってくる』みたいな話をされていました。人間は呼吸をしているから、社会の空気で自分も変わってくると。その意味でいうと、僕のスクラップはその時々で何を吸い込もうとしたか、どんな記事に感情が引っかかったかの記録です。それを繰り返すことで、自分の撮りたいテーマの輪郭が浮かび上がってくるのだと思います」

取材・文/前田隆弘

【プロフィール】

日向史有(ひゅうが ふみあり) 
1980年、東京都生まれ。2006年に「ドキュメンタリージャパン」入社。映画「東京クルド」は韓国・全州国際映画祭特別審査員賞、ドイツ・ニッポンコネクション ドックス賞などを受賞。

【番組情報】

「不法就労」という言葉から、どんな仕事を連想しますか?「東京クルド」日向史有監督に聞く“イメージでニュースを捉える危うさ”

「東京クルド」 
日本映画専門チャンネル 
6月20日 午前7:35~9:25 
いま本当に見てほしい、すごいドキュメンタリーだけを厳選して放送する日本映画専門チャンネルの「このドキュメンタリーがすごい!」。
6月は「東京クルド」が登場。故郷での迫害を逃れ、日本で難民申請を続ける2人のクルド人青年の日常を追う。

Ⓒ2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】

「不法就労」という言葉から、どんな仕事を連想しますか?「東京クルド」日向史有監督に聞く“イメージでニュースを捉える危うさ”

「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊「スカパー!TVガイドBS+CS 2023年6月号」に掲載。



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