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【傑作選】映画評論家・町山智浩に聞く“ニュースの拾い方”のポイントとは?2022/09/15

【傑作選】映画評論家・町山智浩に聞く“ニュースの拾い方”のポイントとは?

 私たちが正しく判断するために、今、何をどう知るべきか。その極意を学ぶ連載「私のNEWSの拾い方」。月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS」で掲載中の人気連載が、TVガイドwebにも登場。今回は、本誌では2020年からスタートし、30回以上にわたる連載から「傑作選」として過去のインタビューを公開。BS朝日「町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association with CNN」に出演中の、町山智浩氏のインタビューをお届け!

POINT 1◆いろんなメディアを読み込んでいる人のフィルターを通す

――今、私たちはどんなニュースの拾い方をするべきですか?

「基本は、複数のニュースソースを比べてみることです。僕は職業上、多くのニュースを読む必要があるので、主にNYタイムズとワシントンポスト、CNNの三つから情報を得ています。でも日本の読者がどうニュースを読むべきなのかは、答えるのが非常に難しい。なぜか。アメリカには、メディアの内部にファクトチェッカーがいるんです。ニュースが報道された後で、リアルタイムでどんどんファクトチェックが行われ、『何時何分にこのニュースのこの部分を修正しました』という追記がされていく。CNNでも、NBCでも、NYタイムズでもそうです。どんどん修正し続けるから、アメリカのメディアは信頼できる。

 一方、日本のメディアはそれを全くやっていないんです。たとえば政治家がテレビで討論会をすると、アメリカでは番組が終わった瞬間から一斉にファクトチェックが始まる。日本はそれをやらないから、間違った内容をそのまま垂れ流して“言ったもん勝ち”の世界になっている。本来は『こんな発言がありました。でも事実はこうでした』それがあって初めて報道なんです。でも日本は『こういう発言がありました』で終わり。ファクトチェック機能のない日本のメディアは信用できないと思っています。

 最近の日本ではバラエティー番組でも政治についてのトークがありますよね。そこで事実と異なる内容で相手を論破しても、バラエティーのスタッフは知識を持っていないから、その真偽が分からない。結果、それをそのまま放送してしまう。報道枠ではない政治番組というのは、非常に危険だと思っています。ファクトチェックは個人のレベルでも可能ではありますが、それにはかなりの取捨選択能力がないと難しい。だからいろんなメディアを読み込んでいる、信頼できる人のフィルターを通すべきだと思います。僕のおすすめはプチ鹿島くんとダースレイダーのネット番組『#ヒルカラナンデス』です」

POINT 2◆SNSが偏りを極大化していくことを自覚しておく

――アメリカの二極化、分断にはどんな背景があるのでしょう?

「今のアメリカ(※取材は21年12月)で分断されているのは『ワクチンの義務化』と『マスクの義務化』です。本来はマスクするしないなんて公共衛生の問題ですよね。ところが今はマスクをしないのが『愛国者』で、マスクをするのが『社会主義者』という“マスクのイデオロギー化”が起こっている。ワクチンもそれと同じ流れになっていて、政治と無関係のものまで政治的に二極化していくという状況が進んでいます。

 アメリカの二極化は、共和党の内部で右派が力を持ち始めて中道がいなくなり、その構図が党の外部にまで拡大したというのが発端の一つですが、それとは別にSNSによる分断も進んでいます。これは僕の番組(「町山智浩のアメリカの今を知るTV With CNN #142」)でも取り上げたのですが、SNSは人間を二極化するようにプログラミングされているんです。たとえば『トランプの“今回の選挙は不正選挙だ!”という陰謀論って実際どうなんだろう?』と思って動画をクリックしたら、SNSのプログラムが『この人は不正選挙はあったという情報を知りたいんだな』と判断して、どんどんそういう動画を優先して表示するようになる。で、それをクリックしたら最後、ますますその動画ばかりが表示されるようになるわけです。それは本来、その人の消費傾向を調べて、興味ある広告を表示するようにするシステムだった。でも、それが政治においても作動してしまった…。今、日本でもアメリカでも大きな分断を起こす原因になっています。最近の二極化は、そういう複合的な要素が絡まって起こっているものだと思います」

取材・文/前田隆弘

【番組情報】

町山智浩のアメリカの今を知るTV In Association with CNN
BS朝日 
木曜 午後10:30~10:54

【傑作選】映画評論家・町山智浩に聞く“ニュースの拾い方”のポイントとは?

カリフォルニア在住の映画評論家・町山智浩氏が、最新の映画や音楽などのカルチャーを交え、アメリカの社会問題をひも解くエンターテインメント。アメリカの24時間ニュース専門チャンネル・CNNのリポートもフル活用し、ポートランド在住の女優・藤谷文子と共にアメリカ社会の“今”を伝える。9月15日の放送は「アメリカでは環境問題はビジネスチャンス!?『地球のあしたを考えよう』ウィーク」。

【プロフィール】

町山智浩(まちやま ともひろ)
1962年生まれ。米・カリフォルニア州在住の映画評論家。映画評論の著作に「映画の見方がわかる本」「映画には『動機』がある」、アメリカについてのエッセー集に「アメリカ人の4人に1人はトランプが大統領だと信じている」などがある。

【「見つけよう!私のNEWSの拾い方」とは?】

【傑作選】映画評論家・町山智浩に聞く“ニュースの拾い方”のポイントとは?

「情報があふれる今、私たちは日々どのようにニュースと接していけばいいのか?」を各分野の識者に聞く、「スカパー!TVガイドBS+CS」掲載の連載。コロナ禍の2020年4月号からスタートし、これまでに、武田砂鉄、上出遼平、モーリー・ロバートソン、富永京子、久保田智子、鴻上尚史、プチ鹿島、町山智浩(敬称略)など、さまざまなジャンルで活躍する面々に「ニュースの拾い方」の方法や心構えをインタビュー。当記事に関しては月刊誌「スカパー!TVガイドBS+CS 2022年1月号」に掲載。



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