「アメトーーク!」「水曜日のダウンタウン」の突出と、フジテレビの存在感。録画視聴データによるバラエティー分析2020-20212021/09/29
今回は、久しぶりにバラエティー番組の視聴動向を分析してみたい。TVガイドwebで毎週発表している「録画視聴ランキング」(関東約72万台超のレグザの視聴データを集計)の数値を基に、過去1年間(2020年7月~2021年6月)に放送されたすべてのバラエティー番組をランキング化するという企画である。コロナ禍のこの1年、ユーザーに最も録画視聴されたバラエティー番組はなんだったのか?
まずは、1年間に放送されたすべてのバラエティー番組の放送回別ランキング。最も多く録画視聴された番組の上位ベスト30である。
トップはおなじみ「ガキの使い!大晦日年越しSP絶対に笑ってはいけない大貧民Go Toラスベガス」(日本テレビ)。「NHK紅白歌合戦」が世帯視聴率の年間トップに君臨しているのと呼応して、「絶対に笑ってはいけない」シリーズがここ数年、録画視聴ランキングのバラエティー年間トップに定着している。多くの人々にとってこの番組はもはや録画視聴で見るのが当たり前という感覚だろう。残念ながら、今年は放送されないことが決定したが、来年はどうだろうか?
そして2位以下は、圧巻の「アメトーーク!」(テレビ朝日)一色。そして唯一ランキングに食い込んで対抗しているのが「水曜日のダウンタウン」(TBS)である(30位台以降になると今度は「水曜日のダウンタウン」だらけになる)。上位ベスト100番組中、なんと93番組を「アメトーーク!」と「水曜日のダウンタウン」が占めている。両番組のすさまじいばかりのパワーが一目で分かるランキングであるが、逆にそれ以外のことが一切分からないので、とりあえず「アメトーーク!」と「水曜日のダウンタウン」の2番組を抜いてみることにした。両番組を抜いた全放送回ランキングが以下である。
このランキングで7位に入っている20年8月30日の「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ)が、元の「全放送回ランキング」では第100位である。いやはや。
気を取り直してランキングを見てみよう。レギュラー番組では「世界の果てまでイッテQ!」と「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)の好調ぶりが目立つが、特定の放送回が上位に入っているケースも散見できる。まずは、2位に入った今年4月23日の「マツコ&有吉 かりそめ天国 2時間SP」(テレビ朝日)。「怒り新党 一夜限りの再結党」と題して有吉弘行との結婚を発表した夏目三久が出演し、大きな支持を集めた。元の全放送回ランキングでも第8位にランクインする大きな注目度だった。2人の出会いの番組でもあったので恩返しの意味でもいい出演だったし、みんなが見たいシーンを見せてくれたという点で、今年のベストプログラムの一つだったと言っていいと思う。そして8位には昨年11月の「しゃべくり007」(日本テレビ)がランクイン。NiziUの初バラエティー出演ということで一気に話題を集めた。
ということで、今度は各レギュラー番組の平均録画視聴ポイントの年間ランキング(2020年7月~21年6月)を見てみよう。毎回録画して欠かさず見たいというファンが多い、いわば最も愛されているバラエティー番組のベスト30である。
予想通り「アメトーーク!」と「水曜日のダウンタウン」が3位以下を大きく引き離している。現在最も濃いファンの多い2大バラエティー番組だと言っていいだろう。そして3位が深夜枠で健闘している「月曜から夜ふかし」(日本テレビ)、4位「世界の果てまでイッテQ!」、5位「ロンドンハーツ」の3番組が、それぞれ0.1%差という超僅差で並んだ。3番組ともここ数年録画視聴ランキングで上位を占めている長寿番組である。そして6位以下には「有吉の壁」(日本テレビ)、「人志松本の酒のツマミになる話」(フジテレビ)、「テレビ千鳥」(テレビ朝日)、「突然ですが占ってもいいですか?」(フジテレビ)と、20年以降にゴールデンでのレギュラーが始まったニューパワー組が集まっている。局も番組のタイプもまちまちなのが面白い。ベスト30の放送局別のランクイン数を数えてみると、日本テレビとフジテレビが各9本、テレビ朝日が5本、TBSとテレビ東京が各3本、NHK総合が1本となっている。
ここで今から3年前、2018年に調査した2017年7月~2018年6月までのバラエティー番組における、平均録画視聴ポイント年間ランキングベスト30を見てみよう。
すでに終了してしまった番組も多いが、それでも上位陣の顔ぶれはあまり変わっていない。3年前も現在もランクインしている番組は18本。放送局別に見ると日本テレビの番組が、ランクイン9本中・7本が3年前にもランクインしていて、地力の強さを感じさせる。そして今回新たにランクインした番組は全部で12本。これを放送局別にカウントすると、一番多いのがフジテレビの5本。日本テレビ、テレビ朝日、テレビ東京が各2本で、TBSが1本であった。
それではレギュラー番組ではない単発のバラエティー番組の動向はどうか。レギュラー番組の枠拡大や特番を除いた、純粋な単発バラエティー番組のみで集計してみた。その年間ベスト30がこちらである。
上位30番組中、フジテレビが半数の15本を占めるというとても偏った結果となった。日本テレビの「木曜スペシャル」、フジテレビの「火曜ワイドスペシャル」など、かつては各局に単発バラエティー名物枠が存在していたが、今では数が少なくなった。比較的その香りを残しているのがフジテレビの「土曜プレミアム」枠であり、そのことが如実にランキング結果に表れたと言える。
そして松本人志の登場率の高さがスゴい。上位3番組を含む全体の約3分の1の番組に出演。それもただの出演ではなく、そのほとんどが根っこのところで松本の世界観によって成立している番組なのである。一方で、「クレイジージャーニーSP」では、新たなMCの形にも挑戦している。もともと日本のテレビバラエティーは、その時代時代で一部の出演者の比重が高まる傾向にあるが、ここまで一個人への依存度が大きいというのも特異なことだと思う。
広い目で見るとバラエティー番組の傾向に大きな変化はない。しかし、世帯視聴率で好調なテレビ朝日の「ザワつく!金曜日」 「ポツンと一軒家」が録画視聴ではほとんど見られていないことや、ここ1、2年の間に始まった新しい番組がそれなりに録画視聴されていることには、バラエティーの新たな可能性の萌芽があると思う。加えて、その際やはりフジテレビの存在感について触れないわけにはいかないだろう。強みをキープしながら常に代謝を繰り返す日本テレビの王者の戦略や、テレビ朝日、テレビ東京の野心的で実際的な攻め方とは別の視点とスケールがフジテレビにはある。「まっちゃんねる」や「新しいカギ」のような番組はやはりフジテレビからしか出てこない気がするのだ。
バラエティー番組は最もコロナの影響を受けたジャンルかもしれない。定番の手法を封じられて、各番組はいよいよ小手先ではない対応を迫られている。状況の変化を常に味方につけて進化してきたバラエティーが、ここから新たな鉱脈を見つけることができるか。変化は数に支えられるという部分もあるので、まずは各局の積極的なチャレンジに期待したい。
文/武内朗
提供/TVS REGZA株式会社
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