「M-1」「紅白」「笑ってはいけない」… 視聴データで見えてくる人気番組の本当の実力2020/01/24
今回は東芝レグザの視聴データを使って、年末年始の人気番組の視聴動向を分析してみようと思う。「ライブ率(リアルタイム視聴)」、「再生率(タイムシフト視聴)」、「延べ再生率(複数回再生をすべてカウントした値)」、「総合接触率(ライブ視聴とタイムシフト視聴の合算)」の四つの指標で、世帯視聴率だけでは分からない各番組の視聴状況を浮き彫りにしていこう(ここでのライブ率はレグザのデータ集計によるもので、ビデオリサーチの世帯視聴率とは異なる)。
まずは、いつも注目を集める大みそかの「第70回NHK紅白歌合戦」の視聴動向を。
ライブ率、再生率とも、全時間帯にわたって激しく上下を繰り返していて、細かくチャンネルを変えたり、飛ばし見をするユーザーが多いことをうかがわせる。中盤でひときわ大きなピークを作っているのは、欅坂46が「不協和音」を歌ったシーンである。2017年の「紅白」でも同じ曲をパフォーマンスして、歌唱後メンバーが過呼吸で倒れるということがあったので、今回どんなリベンジを見せるのかという注目が高かったのだろう。歌手別接触率でも全歌手中3位であった。
そんな欅坂46を抜いたのは紅白それぞれのトリを務めたMISIAと嵐。特に大トリとなった嵐の歌唱シーンは全時間帯中のトップの接触率だった。ほかに目立った動きを見せているのが、午後10時台前半の星野源、Perfume、RADWIMPS、菅田将暉と、11時台の氷川きよし。氷川は、ライブ率だけなら、嵐、MISIAに次ぐ第3位。ハードなイメージで「限界突破サバイバー」などを披露。新たな魅力を見せた。そのほか嵐と米津玄師のコラボ曲「カイト」なども高いポイントを示したが、特別ゲストとして注目された竹内まりや、ビートたけしの歌唱シーンでは、大きな接触率アップは見られなかった。
また、再生率と延べ再生率を比べてみると、おおむね同じように推移する中で、延べ再生率だけが跳ね上がっているところが何カ所かある。同じシーンを繰り返し見ている特定ユーザーが多いということで、いわば隠れた人気曲ということになる。欅坂46や菅田あたりの伸びも顕著だが、番組スタート直後に大きくポイントを上げているのがFoorinの「パプリカ」である。レコード大賞も受賞したまさに2019年を代表する1曲。そのほか、7時台後半の「Disney Cinema Medley 2019」、8時台のLiSA、King Gnu、TWICEあたりが人気を集めていることが分かる。
続いて、今回の結果を前年18年の「紅白」のデータと比較してみる。
視聴率低下が指摘された19年の「紅白」だが、再生率で見ると全体の流れはほとんど変わらない。ただ18年には、DA PUMP、米津玄師、ラストのサザンオールスターズなど、いくつか大きな山がある。これらはライブ率でも着実にポイントを稼いでいる。逆に言えば、今の「紅白」には、こうした目立った山場が不可欠だということだろう。それと19年は、8時55分のニュースでライブ率が下がりすぎなのが目立つ。
続いて、こちらも大みそか恒例の「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日スペシャル 絶対に笑ってはいけない青春ハイスクール24 時!」(日本テレビ)を見てみよう。
今年も大変レベルが高く、総合接触率は「紅白」に十分匹敵している。時間帯によってはもはや「紅白」を超えているといってもいいだろう。その要因はライブ率の上昇である。「紅白」が始まってからの時間帯で(再生率はあまり変わらないのだが)、ライブ率が前年より2~3%上がっている。「紅白」とは対照的に、今年の「笑ってはいけない」は山場が豊富だったことがいい影響を与えている。細かく見ていくと、最大接触率は「紅白」スタート前のバス車内シーン。草彅剛&小峠英二(バイきんぐ)の「全裸監督」ネタと、チョコレートプラネット&神木隆之介の覆面男ネタが驚異の接触率28%。今回「紅白」の接触率は一度も28%を超えていないのに対して、今年の「笑ってはいけない」のパワーのすごさが分かる。
続いて19年「M-1グランプリ2019」(テレビ朝日)が久しぶりに12月後半の放送となったので、年末年始のネタ番組を併せて比較検証してみた。選んだのは、「M-1グランプリ」のほか、大みそか深夜の「ぐるナイ!おもしろ荘 若手にチャンスを頂戴今年も誰か売れてSP」(日本テレビ)と元日夜の「笑いの王者が大集結!ドリーム東西ネタ合戦」(TBS)である。
まずは「M-1グランプリ」。ライブ率が比較的緩やかに推移していて、CMの間ですらあまり数字が落ちていないのはさすがだが、何といっても「延べ再生率」のダイナミックな変化が衝撃的である。8時40分過ぎの極端に屹立(きつりつ)したグラフは、「M-1グランプリ」史上最高得点を記録したミルクボーイの「コーンフレーク」ネタである。グラフを見ると、どのネタも繰り返し再生されていることが分かるが(特にかまいたちとぺこぱ)、ミルクボーイの伸び方は圧倒的である。決勝の3ネタも(ミルクボーイの「最中」ネタを筆頭に)どれもポイントが高いが、最初のネタのポイントにはかなわない。何度繰り返して見ても面白い。ミルクボーイの勢いとともに、「M-1グランプリ」という番組のパワーを思い知らされる。それに比べると「おもしろ荘」と「ドリーム東西ネタ合戦」にはネタによるライブ率や再生率の差はあまり感じられない。強いて言えば「ドリーム東西ネタ合戦」で、チョコプラやサンドウィッチマンがよく見られているというくらいだろうか。(どちらもネタのレベルがまんべんなく高く、番組としては面白かったのだけれども)。
レグザのデータならではの、世帯視聴率だけでは分からない番組の視聴状況の一端を感じていただけただろうか。年末年始は、毎年恒例の人気番組が多いので、過去データと比較することで視聴傾向の変化をより感じられるだろう。今年はイベントも多く、テレビが面白くなりそうな年。さまざまなテレビの魅力を伝えていくので、よろしくお願いいたします。
Text=武内朗
提供:東芝映像ソリューション株式会社
武内朗(たけうちあきら)
TVアナリスト。東京ニュース通信社にて「TVガイド」「TV Bros.」編集長ほかを歴任。現在、株式会社ニュース企画代表。好きな言葉は博覧強記。3大フェイバリットコンテンツは、ビートルズ・ナイアガラ・魔法少女まどか☆マギカ。
この記事をシェアする