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「アンチヒーロー」完勝のかげでテレ朝が大躍進!? 2024年春ドラマを大検証!2024/07/30

BRAND NEW TV WORLD!!/日曜劇場「アンチヒーロー」制作発表会見より主演の長谷川博己ら出演キャストの面々

 今回は、4月クールの連続ドラマをデータで振り返る恒例の検証企画。関東134万台を超えるレグザ視聴データをもとに、TVガイドWebで毎週公開している「地上波録画視聴ランキング」の結果を集計、発表していく。この春、最も支持された連続ドラマは果たしてどのドラマだったのか?

ドラマの放送回ランキングが珍しい結果に!?

 まずは、この4月クールに放送された連続ドラマを放送回ごとに集計した「放送回ランキング」のベスト30を見ていこう。ポイントは1位を100とした場合の割合である(以下同)。

BRAND NEW TV WORLD!!/2024年春ドラ放送回ランキング ベスト30

 このレグザデータによる連続ドラマの検証企画、早いもので今年で7年目に入る。それだけ長い間ドラマの視聴状況を見続けてきたわけだが、今回のランキングはその長い歴史の中でも前代未聞の、非常に珍しい結果となった。「放送回ランキングベスト30」にテレビ朝日のドラマが最も多くランクインしているのである。

 とはいえ、ベスト10はTBSの日曜劇場「アンチヒーロー」全10話が独占して貫録を示した。長谷川博己が犯罪者をも無罪にするダークな弁護士に扮(ふん)して…という触れ込みだったが、終わってみれば、自らの正義感に従い、仲間とともに過去の冤罪(えんざい)事件の真相を解き明かすというストレートなヒューマンドラマであった。ラストのカタルシスが心地よい。個性的な配役の妙も手伝い、世帯視聴率でも録画視聴でも安定した強さを見せた。4月クールの“ハケン”を握るドラマを一つあげるとしたらこれだろう。

 問題はそのあとだ。11位が石原さとみ主演「Destiny」の最終回、12位に木村拓哉主演「Believe-君にかける橋-」の最終回と続き、そのまま20位までを両ドラマが独占するという圧巻のテレビ朝日祭り。21位以下にも4本をランクインさせ、ベスト30のランクイン数ではTBSの12本を抑えて局別本数で見事テレビ朝日がトップに立った(ちなみに3位はフジテレビの3本、4位が日本テレビの1本である)。

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 これまでもテレビ朝日は「相棒」や「ドクターX」など多くの人気ドラマを持ち、特に世帯視聴率ではコンスタントに好成績を残していたのだが、こと録画視聴のランキングとなるとなかなか上位に食い込めず、他局の後塵を拝してきただけに、今クールの快進撃はまさに歴史に残る快挙と言っていい。

BRAND NEW TV WORLD!!/「Destiny」オンラインファンミーティングより石原さとみ&亀梨和也

平均録画視聴ランキングにも“初”の動きが

 ここで「平均録画視聴ランキングベスト20」を見ていただこう。4月クールの連続ドラマを録画視聴ポイントの全話平均の高い順に集計したランキングである。

BRAND NEW TV WORLD!!/2024年春ドラ平均録画視聴ランキング ベスト20

 「アンチヒーロー」のトップに続いて、2位に「Destiny」、3位に「Believe-君にかける橋-」。テレビ朝日作品が平均値ランキング上位にランクインすること自体かなり珍しいが、ベスト3に2作同時にランクインするというのは、このドラマ検証を始めて以降初めてのことである。しかもどちらもオリジナル脚本ドラマというところに価値がある。

 近年のテレビ朝日ドラマの「平均録画視聴ランキング」のベスト3入りというと、2023年7月クールの「ハヤブサ消防団」と22年1月クールの「六本木クラス」があるが、「ハヤブサ消防団」は池井戸潤の原作で、「六本木クラス」は韓国ドラマのリメークだった。ただでさえヒット作にシリーズものが多いテレビ朝日にとって、今回オリジナル脚本によるドラマがこれだけ支持されたというのは大きいと思う。今後の“テレ朝ドラマ”の傾向に影響が出てくるかもしれない。

 ちなみに今クールのトップ3、「アンチヒーロー」「Destiny」「Believe-君にかける橋-」の3作は奇しくも「主人公が過去の事件の黒幕を追い、ラストで真相が明らかになる」という同じ構造を持っていた。しかも主人公の役割が、「アンチヒーロー」は弁護士、「Destiny」は検事、「Believe」は容疑者と、示し合わせたみたいにそれぞれ異なっていて興味深かった(全部が同じ世界線で起こっていたら面白かっただろうなぁ)。

BRAND NEW TV WORLD!!/「Believe-君にかける橋-」キャスト登壇イベントに登場した主演の木村拓哉&竹内涼真

最終回継続率ランキングで“満足度”を探る

 続いて「最終回継続率ランキング」のベスト20を見てみよう。「最終回継続率」とは最終回のポイントを初回ポイントで割った数値。最終回継続率が高い(=初回に比べて最終回のポイントが高い)ということは作品内容に対する満足度が高い傾向があるのでは、という仮説に基づいた検証である。

BRAND NEW TV WORLD!!/2024年春ドラ最終回継続率ランキング ベスト20

 最終回継続率が100%を超えている(=最終回の録画視聴ポイントが初回より高い)ドラマが全部で9本と、比較的数が多い。1位は日本テレビの深夜ドラマ「肝臓を奪われた妻」。この「ドラマDEEP」枠はこのところ常に最終回継続率が高く、一度見始めた視聴者を離さない。ドロドロの人間模様を描いた復讐劇路線が定着してきたようだ。2位は、NHK火曜10時の「ドラマ10」枠で放送された「燕は戻ってこない」。力作、話題作の多い「ドラマ10」枠だが、このドラマも代理出産をテーマにした桐野夏生の原作を長田育恵が脚色した意欲作で、石橋静河稲垣吾郎内田有紀黒木瞳と揃えた実力派キャストも注目を集めた。

BRAND NEW TV WORLD!!/「燕は戻ってこない」試写会会見より石橋静河、稲垣吾郎、内田有紀

 そして3位から9位の7作品は、すべて「平均録画視聴ランキング」でもベスト10入りしている。「平均録画視聴ランキング」で上位に入る作品の大半が継続率で100%を超えてくるというケースは実はとても珍しい。今クールドラマの大きな特徴と言っていいと思う。

初回放送と最終回の放送から作品を掘り下げる

 さらに深掘りするために、初回と最終回の録画視聴ポイントのベスト10を調べてみた。

BRAND NEW TV WORLD!!/2024年春ドラ初回放送&最終回ベスト10 比較

 トップの「アンチヒーロー」は変わらないものの、2位以降の順位が初回と最終回では大きく異なる。「Believe-君にかける橋-」は初回9位から3位へと上昇、「アンメット ある脳外科医の日記」は、ベスト10圏外からのスタートで最終回では5位まで順位を上げた。最終回継続率で上位に食い込むのもうなずけるアップ率で、両作品への視聴者の満足度の高さが分かる。

BRAND NEW TV WORLD!!/「アンメット ある脳外科医の日記」制作発表会見よりキャスト登場

 実は今クールでは世帯視聴率でも同様の傾向が見られていた。世帯視聴率の高かったドラマ10作品のうち、最終回が自己最高視聴率となったドラマが過半数の5作品あったのである。近年は初回の視聴率がベストとなるケースが多かったので、これは興味深い動きである。

 むろん大きな流れの中で、録画視聴も、ライブ視聴も、数字自体は減少傾向にある。視聴方法は多様化し、配信でドラマを見るのが当たり前という層も増えている。かつてのような社会全体でのドラマへの熱狂は戻ってこないかもしれないが、それでも面白いドラマは確実に支持されるし、見てよかったなという満足を与えることが、ドラマの未来につながっていくことはおそらく間違いがない。希望の兆しが見える検証結果だったと言えると思う。

 今年の夏はパリオリンピックの開催もあり、テレビが大きく注目されることだろう。ワクワクする暑い夏を期待したい。

文/武内朗
提供/TVS REGZA株式会社



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