上田慎一郎監督と秋山ゆずきが語る「リモ止め」&映画への思い2020/05/27
世界でも注目を集めている、完全リモートで制作された短編映画「カメラを止めるな!リモート大作戦!」(通称「リモ止め」)。監督の上田慎一郎と出演者の秋山ゆずきに、本作や映画への思いを直撃!
── 「リモ止め」が、配信開始から約半月で35万回再生を超えるなど話題沸騰中ですが、構想のきっかけを教えてください。
上田 「新型コロナウイルスに関するつらいニュースばかり流れ、2月後半あたりから自分も気持ちが落ちていって…。周りにも仕事がなくなった人が多く、何か自分にできることはないかと頭を巡らせていたんです。そうした中、SNS上でエンターテインメントのコンテンツを届ける方々が現れ、自分もやっぱり明るいエンターテインメント作品を作るしかない、と決意しました。完全リモートで映画を撮ろうと思いついた翌日には、題材も決めていました。カメラが回せない状態だからこそ、『カメラを止めるな!』という言葉が響くだろうし、リモート映像を作ろうとする人たちの話を完全リモートで作ることで、ドキュメンタリーの要素が混ざった作品にできると思ったんです」
── 上田監督からオファーを受けた際、秋山さんはどんなお気持ちでしたか?
秋山 「ニュースを見ると悲しくなるのでテレビやSNSから遠ざかっていたのですが、そんな時にお話を頂き、心がパッと明るくなりました。新しい挑戦をまたみんなでできるという希望が生まれて『楽しそう、やります!』と即答しましたね。“この状況で作品を作るとは、さすが上田さん!”って思いました」
── 制作の過程で大変だったことはたくさんありましたか?
上田 「ビデオ会議ツールの会話画面、キャストの自撮り、SNSで集めた映像の合成という三つの要素で構成し、いずれも誰とも会わずに作ったのですが、現場でコミュニケーションを取って撮る作品とは完全に別種目でした」
秋山 「上田さんがキャスト全員の役を演じて、お手本動画を送ってくれたんです。マネして撮るだけでも大変で、短いカットに5、6時間掛けました。自分でカメラを回して、音も気にして、いろいろ自分の中でこだわりが増えちゃって…。それこそ女優を始めて以来最多となる20テークくらい撮りました(笑)」
上田 「現場なら、自分でNGだと思っていても監督からOKが出る時があるからね」
秋山 「はい、自分が自分に一番厳しかったです(笑)。でも、演じるだけでなく、機材を使って映像を撮る仕事も実は好きなことに新たに気付きました。今回は、みんなの個性を上田さんの力でまとめてくれましたね。中には上田さんの見本映像とはまったく違うものを送っている人もいました。例えば、細井(学)さんはオリジナリティーにあふれていて、画面上でずっと酔っぱらって寝ていたりして(笑)。そういう部分も面白かったです」
上田 「今回は、劇場映画やドラマのクオリティーを求めてはいなかったし、リモートでうまくいかない映像も含めての面白さを考えていました。ゆずきちゃんと市原(洋)がそれぞれの自宅で撮った映像を、編集でつなげて同じ場所に居るかのように見せている場面では、初めてハンディーカムを持って映画を作った中学生の時に感じたような、映画作りにおける原初的な喜びを思い出しましたね」
── クランクアップ後は、皆さんで何か話をされましたか?
上田 「撮影後、そのままリモート打ち上げをしました。僕は途中で抜けてしまいましたが…」
秋山 「結局、3時くらいまでやっていましたよ!」
上田 「実際は会っていないという感覚がなく、楽しめたので良かったです」
── 秋山さんは、斎藤工さん発案のテレワークを舞台にした映画企画「TOKYO TELEWORK FILM」の一環である、齊藤工監督作「コ◯ナPLY+-ANCE」でも主演を務められていますよね。
秋山 「『コ◯ナPLY+-ANCE』は、松本ゆずき役を演じた映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』(2020年)をコロナ禍に置き換えてアップデートした作品で、彼女がリモートで取材を受ける話です。言葉にすごく気を付けなければならないこのご時世の“あるある”がふんだんに盛り込まれていて、フランクに楽しく見られつつ、見終えた後、“これは笑いごとじゃなかったのかも”とゾッとするような作品になっています。『リモ止め』もこの作品も、リモートでの制作映画だからこその魅力が詰まっています」
── では、改めて「リモ止め」の見どころを教えてください。
秋山 「やっぱり関わった全員がまったく会わずに撮影した作品であること。それから、SNSでこちょこちょとくすぐっている映像やダンスの映像を募集した参加型の作品なので、“みんなで作った”という思いが強い作品ですね」
上田 「この作品はコロナウイルスの渦中にリモート撮影で作られ、渦中に公開され、渦中で見てもらうことが重要な作品だと思っています」
── ラストシーンでの、真魚さん演じる真央の涙も心に響きました。
上田 「最初の3テークは、割にカラッとした感じでした。その後、『“コロナウイルスが収束した後にあれもやりたい、これもやりたい”というようなセリフを書いていた時、なぜか泣けて来たんだよ』という話をしたら、4テーク目のあの演技になって…。芝居だけではない、真魚自身の中にたまっていたものがあふれ出したのかもしれない、二度と撮れない“リアル”が写り込んだシーンになりました」
── あのシーンから“映画を撮りたい、守りたい”という願いを感じました。「リモ止め」は、小規模映画館を守るための“ミニシアター・エイド基金”でリターン特典映像を見られる施策も行いましたよね。
上田 「みんなでミニシアターを救おうという活動を通し、今までコンタクトを取ったことのなかった監督たちとも一つの大きな目的に向かって団結しています。僕らは映画館の再開後、多くの人が足を運びたくなるような映画を作るしかないのですが、それまで映画の火を絶やさないよう、何ができるか日々考えたいと思います」
秋山 「私も“歩みを止めてはいけない”と心から感じています。SNSを通しての発信も含め、今できることに一つ一つ前向きに取り組もうと思います」
【最近の家での過ごし方は?】
秋山 「最近、植物を育て始めたんですよ! お花はもちろんですが、これからペパーミントやパクチーも育てようかな、と思っています。ちょうど昨日、真魚と監督の奥さまの(ふくだ)みゆきさんとZoomでリモートランチをしたばかりなんですが…」
上田 「あ、そういえば言ってたような気がする(笑)!」
秋山 「その時に、『ゆずゆず(秋山)は植物やら育ててばかりで、母性があり過ぎじゃない?』と言われました(笑)」
上田 「僕は、人に会わないこと以外はあまり変わりなく、ひたすらプロットや脚本を書く仕事をしています。面白い作品を作り出すことのみに注力している感じですね」
【プロフィール】
上田慎一郎(うえだ しんいちろう)
1984年4月7日、京都生まれ。牡羊座。A型。映画監督。自身初の劇場用長編映画「カメラを止めるな!」(2018年)が興収31億円を超える大ヒット。その後も、映画「イソップの思うツボ」「スペシャルアクターズ」(ともに19年)など数々の話題作を手掛けている。
秋山ゆずき(あきやま ゆずき)
1993年4月14日、埼玉生まれ。牡羊座。A型。上田監督と3度目のタッグとなった映画「カメラを止めるな!」で広く注目を集める。今年、映画「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」で主演を務め、そのアップデート新作となる「コ◯ナPLY+-ANCE」が5月29日に配信開始予定。
【作品情報】
「カメラを止めるな!リモート大作戦!」
YouTube 配信中
大ヒット映画「カメラを止めるな!」の監督である上田と秋山らキャストが再結集し、全編リモートで完成させた約27分の短編映画。自宅待機中の映像ディレクター・日暮(濱津隆之)がリモートでの再現ドラマの制作を急きょ依頼され…。「One Cut of the Dead Mission:Remote」の英題で、英語字幕版も世界配信中。5月15日まで行われた「ミニシアター・エイド基金」の支援者が、リターン特典として本作の特典映像を視聴できる施策も実施。
短編映画「カメラを止めるな!リモート大作戦!」
https://youtu.be/HTk2wqBxVfY
取材・文/折田千鶴子
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