夏帆が「星とレモンの部屋」で原田美枝子と念願の共演! 「すてきなセリフがたくさんある作品」2021/03/18
次世代の脚本家を育てるため、NHKと放送作家協会の共催で開催しているコンクール「創作テレビドラマ大賞」。第44回の大賞を受賞した佃良太さんの「星とレモンの部屋」が夏帆さん主演でドラマ化され、3月19日にNHK総合で放送されます。
突然ですが、皆さんは「8050問題」をご存じでしょうか。「80」代の親が「50」代の子どもの生活を支えるという問題です。その背景は子どものひきこもり。1980年代から90年代は、若者のひきこもりが問題とされていましたが、現在は長期高齢化して、社会的に孤立した親子が社会問題となっています。
本作はそんな「8050問題」が題材。老いた両親が亡くなった後、子どもたちが親の遺体と暮らしていたという数多の痛ましい事件をベースに、チャットで知り合ったひきこもりの里中いち子(夏帆)と矢木涼(宮沢氷魚)の身に起きたある1日が描かれます。
今回は、主人公・いち子を演じた夏帆さんに、作品の見どころや、演じていて感じたことなどをお伺いしました。
――衝撃的な作品だと思いますが、オファーを受けた時のお気持ちをお聞かせください。
「確かに衝撃的な作品ですが、台本を読んだ時に、セリフがとても心に残りました。決して説明的ではないのに、登場人物の心情がきちんと伝わってきて“なんてすてきなセリフを書かれる方なんだろう、演じてみたい”と思ったのが率直な感想です」
――実際に演じてみて、いかがでしたか?
「18年間誰とも接せずに、心を閉ざし続けながら暮らすということは一体どういうことなんだろうと…。想像を超えるというか、自分に置き換えて演じるのは難しかったです。でもセリフが本当にすてきで、言葉を発するだけで気持ちが乗ってきて、無理をせずに演じることができました」
――特に難しかったと感じた部分を教えてください。
「例えば、しゃべり方一つにとっても、どういうふうに演じたらいいのか分からなくて、手探りの状態でした。ただ撮影に入る前、監督とお話する時間をたくさん作っていただいたり、実際に当事者の方とお会いして、お話を伺ったり、リハーサルの時間を組んでいただいたりしたので、いろんなパターンを試しながら、いち子の声のトーンや話すスピードを探っていきました。撮影日数は少なかったのですが、そういう時間をいただけたのが、とてもありがたかったです。今回の現場で、衣装やメーク、部屋の飾り付けなど、私一人ではなく、みんなでいち子というキャラクターを作っていった感覚を強く感じたので、演じていて心強かったですし、とてもいい現場でした」
――印象的なシーンやセリフはありますか?
「たくさんありますが、『ひきこもりって家の中にこもることじゃなくて、自分の心の中にこもってしまう』というセリフがすごくいいなと思いました。このことに、いち子が気付いたのも大きな成長ですし、たった数時間の話ですが、この数時間がいち子の人生において大きな出来事だったと思うんですよね。ほかにも、お母さんとの会話で『32にもなって、人が怖い…』や『32にもなって、誰とも話すことができない…』というセリフもすごく切なくて…。いち子の心情を思うと、どれもすてきなセリフばかりで、一つを挙げるのが難しいくらいです」
――追い詰められているシーンが多いと思いますが、演じている時は、どのようなお気持ちでしたか?
「撮影に入るのが久しぶりだったこともあり、私自身も追い詰められているような気持ちでした。中盤から重いシーンが続いたこともあり、現場への緊張もあって全然寝られなくて…。自分の気持ちに余裕がなくて、ご飯もろくに喉を通らなかったので、私もいち子と同じように追い詰められていたなと思います」
――涼を演じた宮沢氷魚さん、いち子の母・初美を演じた原田美枝子さんとのお芝居はいかがでしたか?
「お二人とも初めて共演させていただきました。宮沢さんとは、最後まで目と目を合わせたお芝居をしていないんですね。だから不思議な感じがしました。いち子と涼はチャットで会話をしているので、初めてお芝居をしたのは、撮影に入る前のナレーション録りでした。涼はいち子と違って攻撃的な面もありますが、宮沢さんはとても繊細で透明感のある声をされているので、攻撃的な中にも苦しさや素直になれない思いが声ににじみ出ていて、とてもすてきだなと思いました。原田さんは、私がずっとご一緒できたらいいなと思っていた方です。特に『愛を乞う人』は衝撃を受けたので印象に残っています。役や作品に対する原田さんの覚悟みたいなものが画面越しに伝わってきたのを覚えていて、いつかご一緒できたらいいなと思っていたので、念願がかないました。とてもすてきな方でした。すごく優しい目をされていて、原田さんの顔を見るだけで自然と涙が出てきて、全て包み込まれるような…。お芝居の中で、そういう感覚になれて、すてきな時間を過ごさせていただきました」
――本作では、レモンの香りがキーポイントになってくると思います。夏帆さんにとって思い出深い香りはありますでしょうか?
「子どもみたいですが、ベビーパウダーの香りが好きです。柔軟剤やボディーソープなど、ベビーパウダーの香りを探してしまいます。昔、祖母の家で、たぶんお風呂上がりにベビーパウダーをつけられていた記憶があって、童心に帰るような…。その香りを嗅ぐと、気持ちが落ち着きます」
――最後に、作品を通して伝えたいことを教えてください。
「どういうふうに感じていただけるのかというのは、受け取る方の自由だと思います。私がこういうふうに見てくださいと言ってしまうのは、作品の幅を狭めてしまうような気がして、なかなか言葉にしづらいのですが…。ひきこもりの当事者の方は一体どういう人たちなんだろうと思った時に、罪を犯してしまう人や、ものすごく怠惰な生活をしている人、働かずに家にいて親のすねをかじっている人などのイメージを持っている方が、もしかしたらいらっしゃるかもしれません。実際に、いち子を演じるにあたって、ひきこもりについて調べて、当事者の方とお会いして、お話を伺っていく過程の中で、ひきこもっている方々は、ものすごく繊細で優しい人たちだと感じました。もちろん人それぞれ違うと思いますが…。人と接する中で、自分を守るためや、相手の出方、自分が相手にどれだけの影響を与えてしまうんだろうということに対して、少し鈍感にならないとコミュニケーションが取れないこともあると思います。でも当事者の方々は、そうではなくて、一つ一つの事柄に対してすごく繊細に接する方たちだなと感じたので、そういった面もきちんと表現したいと思いました」
――ありがとうございました。
あらすじ
ひきこもり歴18年のいち子(夏帆)は、同じ境遇の涼(宮沢)とチャットでつながっています。ある朝、いち子の母・初美(原田)が持病で倒れてしまいパニック状態に。必死に119番通報をしますが、助けを求めることができないまま、初美は亡くなってしまいます。チャットで涼にSOSを求めると「遺体を浴室に運んで、鼻と口にティッシュを詰めてください」と不思議なほど冷静な返信が。実は涼にも秘密があり…。
【番組情報】
第44回創作テレビドラマ大賞「星とレモンの部屋」
NHK総合
3月19日 午後10:00~10:45
NHK担当 M・I
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