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「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】2020/09/25

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】

 9月27日放送のバラエティー特番「平気なの!?って聞くTV」(MBS/TBS)。「スマートフォンの画面がバキバキに割れているのに、半年も放置して平気なの!?」「キッチンに便器がある家、平気なの!?」など、日常生活の中で「それって平気なの?」とツッコみたくなる素朴な疑問を調べ尽くす番組です。

 「プレバト!!」や「林先生の初耳学」を立ち上げ、本番組で演出・プロデューサーを務める毎日放送の水野雅之さんと、「チコちゃんに叱られる!」(NHK総合)を手掛けており、今回“ブレーン”という形で参加した小松純也さんの対談後編では、さらにお二人のテレビ作りに迫ります! ここ数年で「やられた!」と感じた番組とは…?

「放送人グランプリ」企画賞を受賞した「プレバト!!」「チコちゃん」

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】

――一般社団法人 放送人の会による「放送人グランプリ」において、2019年には小松さんが手掛ける「チコちゃんに叱られる!」が、20年には水野さんが手掛ける「プレバト!!」が、ともに企画賞を受賞されましたね。お互いが手掛ける番組について、どのような印象をお持ちですか?

水野 「僕自身、受賞を聞いた時はあまりピンと来てなかったんですけど、数人が『放送人グランプリ』が名誉ある賞であることを説明してくれる時、『チコちゃん』に並んだんだよ、という言い回しだったんです。その時にあらためて『チコちゃん』の社会現象の大きさを実感しました。『比較の尺度になってる番組ってスゲェ!』って(笑)」

小松 「恐縮です(笑)。『プレバト!!』ってすごい番組ですよ。本当に見ちゃいますもん(笑)。『プレバト!!』が入り口になって、いろんなことを始める若い人がたくさんいるんじゃないかなって思います。やってみたくなりますもんね。僕ですらそうなんだから、若い子ならもっとそうなんじゃないかなって」

水野 「僕らスタッフは最初から、尖ったことをやっているという自負はあったんです。俳句を扱うにしても、五・七・五をテレビ的な穴埋めじゃなくて、芸能人の皆さんにすべて頑張ってもらうストロングスタイルですし。でも、狭いジャンルの番組だったのに、徐々に多くの方に見ていただけるところまで育つと、今度は“安定感のある番組”というイメージが定着しちゃって。だから、表彰とかとは無縁だと思っていました」

――お二人は身近なところから要素をすくって、自分自身が肌で感じた面白さを番組に落とし込むというところが番組を作るうえでの共通点なのではないかと感じました。好奇心を絶やさないために意識していること、逆に意識していないことがあればお聞きしたいです。

水野 「答えになっているか分からないけど、僕の頭は、パソコンでいうとずっとスリープモードみたいな感じです。オフの時も電源は切っていなくて、引っかかるものがあった瞬間『これは企画になるかな?』と脳みそが動くような。本屋さんに行く時もネタ探しをしようとするオンのモードじゃなくて、目の前に入ってきたものをひとまず浴びておくというか。狙いにいくものって、その時点であんまり引っかかってない気がするんですよ。自分が興味のないことでも、それに興味を持っている人のところに参加してみるとか、原宿のど真ん中でパンケーキを食べてみたり、わざわざ行列に並んでみたり。インプットする、という感覚はあまりないですね」

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!?

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】

――「プレバト!!」では俳句をはじめ、水彩画、生け花、スプレーアートとさまざまな才能査定が行われていますが、興味のなかったものはありますか?

水野 「まず俳句ですよね(笑)」

小松 「ははは(笑)」

水野 「今でこそ、夏井(いつき)先生に俳句を提出するくらい勉強していますけど、企画した時は1mmも興味がなかった。さらに言えば、スタッフ全員1mmも興味がなかった(笑)。定着し始めても、『頑張ってくれてる若いスタッフたちも本当はきっと、どバラエティーのロケとか見るとうらやましいだろうな…』と思っていたくらいです(笑)。『好きなことで番組やってていいよね』と言われることもあるんですけど、そもそも俳句が好きで始めたわけではない。ただ、僕自身が『何を言っているか分からない』と言われるのがすごく嫌いなので、人から『何を言っているか分からない』って言われたら嫌だろうな~というところから企画を始めたんです。言葉の表現力を査定するジャンルとして、短歌とか交通安全のキャッチコピーとか、いろんなリサーチをしていく中で夏井先生を見つけて、『この人に辛辣(しんらつ)に言ってもらうのが一番面白くなるだろうな』と思って俳句を選びました」

小松 「僕は刺激を求めて街をさまよったことも昔はありましたけど、最近は情報量が多すぎて、スマホを見ているだけであっという間に時間が過ぎますよね。だから、変わるものを追いかけ続けても成果につながらないなって思います。そんな中で、じゃあ『変わらないものはなんだろう』って考え方をするようになってきました。それはつまり普通に暮らすということ。人間として普通に生きる中で感じることを、かみ締めながら暮らすというか。テレビとか配信とか、デバイスが変わると『違うものを作らなきゃ』と考えがちですけど、結局“人が楽しむもの”ということは変わらない。面白いかどうか、です」

水野 「人間が面白いと思うことって、昔とあまり変わらなかったりしますよね。だから今『8時だョ!全員集合』(TBS系)とか見ると、視聴者の感情の揺さぶり方とか、ライブ感とか、すごく勉強になります。忘れていることがいっぱいある」

小松 「流行を追いかけるより、自分がどう感じるかが一番正確なセンサーになりますよね。正確にするために、ものすごく“普通”にしていないとダメだとも思う。パンケーキ屋さんに僕も並ぶし、なんならパンケーキ好きになりました(笑)。はやりものが好きになっちゃうくらいにならないといけないなと思いますよ。一時期クリエーター気取りだったこともあるんですけど、それよりももっと自分に正直に生きて、家族で話したり友達とつまらない話をしている時にどんなことを感じているかとか、そうやって“生きるということ”をしっかりかみ締める方が、いざものを作ろうってお題が出た時に、正しい答えがバシッと出せる感覚があります」

「笑う犬の生活」は「ジャパン大爆笑」というタイトルになるかもしれなかった

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】

――番組のタイトルを付ける時の“マイルール”はありますか?

水野 「今回は特番なので、分かりやすくしないと、と思いながら付けました。『チコちゃんに叱られる!』はすごいですよね。本来『この番組は見てくれたら時間を無駄にはさせませんよ』ということが伝わるようなタイトルを付けそうなのに、企画書の段階にないような部分がタイトルになっているからすごいなと思いました」

小松 「内容を伝えようとすると『漫然と生きてたら気付かないことに気付くTV』とかになるんですけど、そんなタイトルつまらないじゃないですか。じゃあ『ボーっと生きてんじゃねーよ!』をタイトルにするのか?という考えも浮かぶけど、タイトルを番組の中で叫んでるのも寒いな、と。『笑う犬の生活』も全然決まらなくて、当時プロデューサーの吉田正樹さんが『このまま決まらなかったら“ジャパン大爆笑”にする!』とおっしゃって(笑)。『それだけは嫌だ!』となって、ひねり出したんです。チャールズ・チャップリンの『犬の生活』という映画からアイデアを出して、犬をモチーフにしたら番組のパッケージができるんじゃないかとか、いろんな総合的な理由から『笑う犬の生活』に決まったんですよね」

水野 「(過去に小松さんが手掛けた)『トリビアの泉』(フジテレビ系)もすごいタイトルですよね。今の時代には、思い付いても採用されないと思います。誰かが必ず『トリビアって何?』『なんで泉?』って言いますからね」

小松 「訳分からないタイトルですよね(笑)。『トリビアの泉』は、深夜番組から始まってゴールデンにステップアップしていくというストーリーがあったから自然にできたのかな。そもそも、抽象的なタイトルを付けた番組は数字が取れると思ってない(笑)。『数字を取るぞ!』って頑張った時は、違うタイトルを付けていることが多いですね。でも結果、その方が数字が取れないこともあるし…。難しい…」

「『チコちゃん』が影響してるだろ」と林先生から図星を突かれ…

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】

――意欲的にテレビ作りに取り組み続けているお二人が、ここ数年で「やられた!」「悔しい!」と感じた番組はありますか?

水野 「初めて言うんですけど、『チコちゃん』に『やられた!』と思った話があるんです。小松さんにも言ったことない話です(笑)」

小松 「えっ?(笑)」

水野 「2015年に『初耳学』を立ち上げたんですけど、その後『チコちゃん』が始まってどんどんブームになるのを見て、雑学番組=『チコちゃん』という風潮が強くなっていると感じたんです。しかも、ちょうど『初耳学』の方がマンネリも含めて過渡期に来ているなと感じていた頃でして…。そんな考えも一因となって立ち上げた企画が『アンミカ先生が教えるパリコレ学』だったんですけど、林(修)先生から言われた言葉が“この方針転換は『チコちゃん』が影響してるだろ”。その時は『全然関係ないですよ!』って返したんですけどね(笑)。今では『初耳学』も絶景系のロケものにシフトしていてそれも定着し始めているので、この裏話も時効かなと思って吐露しちゃいました(笑)」

小松 「ドキドキしますね、それは…(笑)。僕はすごく月並みな答えになるのですが、『ポツンと一軒家』(テレビ朝日系)。『クソ!!』と思いましたもん。『俺もずっとあれにときめいていたのに!』『Google Earthばかり見て楽しく過ごしていたのに!』って。番組にしようとしなかった自分を恥じたというか、自分がときめいていたにもかかわらず、ほかの人に番組にされるとイライラしますね(笑)。あとは、この前フジテレビでやっていた『ただ今、コント中。』。知り合いから話を聞いていて、『このご時世にコント番組なんてよくやるね』なんて話してたんですけど、今どきコント番組がタイムテーブルに載るなんて、とちょっと思ったりして。僕はそういう“逆張り”をしたいタチなんですけど、自分がやってない逆張りをされたり、人がまだテレビでやってなくて自分がワクワクしていることをされると、カチンときますね(笑)」

「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】
「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】
「プレバト!!」生みの親は「俳句に全く興味がない」!? 水野雅之×小松純也P対談【後編】

 「プレバト!!」や「林先生の初耳学」の裏話から、他局の「カチンとくる」番組まで、テレビにまつわるエピソードをたくさん聞かせてくださった水野さんと小松さん。この対談を読んだ後に見る「プレバト!!」や「林先生の初耳学」、「チコちゃんに叱られる!」、さらに「ポツンと一軒家」は、これまでとは少し違った見方で楽しむことができるかもしれません。本気でテレビ作りに取り組み、バラエティーの最前線を走ってきたお二人が届ける「平気なの!?って聞くTV」は9月27日放送です。「平気なの?」と聞いてしまいたくなるような人たちが見ている視点は、実は全く想像しないところを向いているかも…? 「暮らしのダイバーシティバラエティー」をお楽しみください!

【プロフィール】

水野雅之(みずの まさゆき)
2000年、毎日放送入社。「プレバト!!」の総合演出。「林先生の初耳学」「教えてもらう前と後」の企画、演出、プロデューサーとして、ゴールデン・プライム帯における現在の毎日放送制作の全番組を手掛ける。

小松純也(こまつ じゅんや)
1990年、フジテレビジョン入社。「ダウンタウンのごっつええ感じ」「笑う犬の生活」「SMAP×SMAP」などを制作。15年から共同テレビジョンに出向し、現在はプロデューサーとして「人生最高レストラン」(TBS系)、「チコちゃんに叱られる!」(NHK)などを担当。19年3月末にフジテレビジョンを退社し、フリーのプロデューサーとして活躍中。

【番組情報】

「平気なの!?って聞くTV」
TBS系 
9月27日 午後2:00~3:24

「プレバト!!」
TBS系 
木曜 午後7:00~8:00

「チコちゃんに叱られる!」
NHK総合 
金曜 午後7:57~8:42

取材・文/宮下毬菜



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