池松壮亮が語る「金田一耕助」との9年、シリーズへの思い、そして俳優としての現在地2025/04/24 15:30

NHK BSのミステリードラマ「シリーズ横溝正史短編集」が、前作から3年ぶりに第4弾「シリーズ横溝正史短編集IV~金田一耕助 悔やむ~」(隔週木曜午後8:30)として帰ってくる。2016年にスタートした横溝正史原作の物語を、ト書きまで忠実に再現しながら、気鋭の演出家たちが独自の映像世界に仕上げるこのシリーズ。今作では「悪魔の降誕祭」「鏡の中の女」「湖泥」という三つの物語を、30分という短編の中に凝縮し、それぞれ異なるアプローチで描き出していく。

主演を務めるのは、これまで9年にわたって金田一耕助を演じてきた俳優・池松壮亮。「ようやく役がなじんできた」と話すその言葉には、作品と向き合ってきた確かな時間と重みがにじむ。実年齢も原作の金田一に近づいてきた今、自らの演技にどのような変化を感じているのか。そして“悔やむ”というテーマをどう受け止めたのか。後編は、「金田一」シリーズへの思い、俳優としての姿勢、独立後の現在地などを聞く。

――シリーズを続けていく中で、どんなところにやりがいを感じていますか?
「最初の頃は『このシリーズを見た』という声が僕のもとに届くことはありませんでした。ですが続けていくうちに『見ました』と声を掛けていただける機会が増えていきて、今ではこのシリーズのファンの方々に支えていただいているという実感があります。新たに参加される出演者の方々からも、古くからこのシリーズに関わるスタッフの方々からも、今作への愛情を感じることができ、それが自分自身の大きな力となっています。業界内での評判も良く、今回も素晴らしいキャストの方々が参加してくださいました。そうした長年続けることでの成長と広がりを実感できるることも、このシリーズのやりがいの一つだと思っています」
――10年近くこの作品に携わる中で、池松さんご自身の俳優人生において本作はどのような位置づけになっていますか?
「最初お話をいただいた時は、こんなに続くものとは全く予想していませんでした。俳優として、これだけ長い時間同じ役を演じるということは当然経験がなく、いまの自分にとって、かけがえのない特別な存在です。人生において、折りに触れて金田一耕助を演じられることは、ほかには代えがたいものがあります。当初26歳でしたが、『こんなに若くてこの役が務まるのだろうか』と不安でした。34歳となった現在、無理なくなじんできた気がしています。最初は役との間に距離を感じていて、そのことを楽しんでいる感覚がありましたが、今はセリフ一つ一つが距離感なくしっくりくるようになってきました。年齢的な問題だけではなく、長年一つの役を演じてこられたことの産物だと思っています。そしてここまで続けられたのは、とても愛情深いプロデューサーをはじめ、素晴らしいスタッフと、各回を担当されてきた監督たちが、遊び心を持って真剣に各作品に取り組まれてきたからこそだと感じます。12作が完成した今、本当に誇りに思いますし、感謝の気持ちでいっぱいです」

――実際、原作の金田一は35~50歳ぐらいの設定ですよね。年齢が近づいてきたことで感じる変化はありますか? 今後も続くとしたら、どんな金田一を見せていきたいですか?
「そうなんです。原作の金田一はようやく僕の年齢が入り始めたくらいなんです。歴代の金田一を演じてこられた諸先輩方を見ても、年齢的にも精神的にも円熟したキャラクターとしてこれまで定着してきました。もし今後も続けられるのであれば、よりたくさんの方に楽しんでいただけるよう、これまでやってきたことを生かしながら、これまでとはまた違った物語へのアプローチや、シリーズの展開も含めて新たなことを目指していきたいです。原作はまだたくさんありますし、自分の年齢や、今の時代感から原作を読み直すと、また違った金田一像が見えてくる。そうしたイメージを具体化していけたら幸せです」
――金田一を演じる上で、9年間ずっと心がけてきたことや、池松さんならではのアプローチはありますか?
「さまざまありますが、当初から大きな軸とになっていたのは、市川崑監督の映画シリーズからの影響です。市川監督は金田一を『戦後の更地に現れた天使』と表現されていて、この言葉はとても象徴的で、ある意味、人間離れした存在としてとらえることができます。僕自身もこれをベースに、戦後から愛され続けてきたこのキャラクターをどう現代に語り継ぐべきかを考えてきました。誰もが名前だけでも触れたことのある、この国が生んだ金田一耕助というキャラクターを、おとぎ話の世界に生きる存在としてではなく、一人の人間に戻すこと。そのことを目指してきました。当然完璧なキャラクターとしての金田一像は崩れ、苦悩や憎悪、人の傷みや死と隣り合わせになっていきます。ですがそのことによって、横溝先生が描いた真の金田一耕助という人物を、現代に登場させられるのではないかと思っています」

――長く演じる中で、金田一というキャラクターをどう“立たせて”いくか、池松さんならではの視点もあったのではないでしょうか?
「どんな悲惨な事件や、残忍な犯罪者に対しても、出来うる限り『ジャッジしないこと』はを心がけてきました。目の前にどれだけ憎むべき対象があろうと、善悪のジャッジをせずにフラットな視点で、問題ではなく現象として事件を捉えること。そうした姿勢を目指してきたつもりです。今回の『湖泥』は例外的に、金田一がこれまでとは違ったやり方で犯人を追い詰めていくお話しなんですが、原作に感じる広く深いまなざしのようなものを目指すために、人をジャッジすることなく、痛みを見つめながら、常にフラットであることを自分が演じる金田一に託してきたように思います」
――ちなみに、池松さんご自身はプライベートで何かルーティンのようなものはありますか?
「『絶対にこれをする』というルーティンはあえて作らないようにしています。決めてしまうとそれが出来なかった時のストレスや、ルーティンそのものに縛られて、そのことに依存してしまう危険があります。この仕事は時間が定まっておらず、作品ごとに異なる集合体での共同作業で、毎回違った役人生に取り組む中で、ルーティンを作ることが難しい職業だとも感じます。ただ、自分なりのルールみたいなものは実は結構あるかもしれません(笑)。答えを絞り出すと、ここ数か月毎朝トマトジュース(塩なし)を飲んでいて、だいぶ習慣化してきました(笑)」

――その自然体のスタンスが、役にもしっかり反映されているように感じます。そうした姿勢は、現場での立ち居振る舞いにもつながっていそうですね。実際、プロデューサーや月城さんからも「池松さんが現場を引っ張っている」との声がありましたが、ご自身ではどう受け止めていますか?
「引っ張っているなんて全然そんなことはないです…本当に。ただ、撮影は多くの人が集まる場所で、一人一人が違えば雰囲気は変わってきます。当然出番の多い主演の態度や、指揮をとる監督の姿勢で現場の雰囲気が大きく変わること、そのことによって一人一人のパフォーマンスが変わってくることはこれまでの経験からも理解しています。このシリーズは、原作にある言葉を一語一句忠実に再現するというポリシーがあって、なので一語間違えたらやり直しなんです。出共演者には短い撮影期間でセリフを間違えちゃいけないというストレスがどうしてもかかってしまいます。それでも皆さんがこの作品作りや、撮影そのものを『楽しかった』と思って帰ってもらえるよう願いながら過ごしています。願うだけで何も特別なことはできないんですよ」
――金田一耕助のような誰もが知るキャラクターから、日常を生きる名もなき人物まで、幅広い役を演じてこられた池松さんですが、それぞれの役に向き合う際の違いについてどう捉えていらっしゃいますか?
「一役一役、それぞれまったく違います。誰もが知るキャラクターである金田一だからこそできることがもありますし、フィクション性があるからこそ目指せる表現や、引き算・足し算があると思っています。どれが難しいか簡単かというようなこともありません。それぞれの役人生に、作品に、素直に真っすぐ向き合うことが必要だと思っています」

――では、俳優として、演じた役に手応えを感じる瞬間はどのような時でしょうか?
「一番は完成した作品を見た時です。もちろん現場でも多少の手応えは得られますが、それはあくまでも素材で、撮影されて編集されて作品という形となったものを観た時はじめて本当の手応えが得られます。現場での理想としては、『自分が良かった』と思うことや、いいとか悪いとか評価することをを極力避けて、なるべく『うまくやろう』ということは考えないようにします。こうしたいという考えのもと何かを目指した時点で、それはどうしても付きまとうものですが、うまくいったと感じるところに自分が最も目指している表現はないのかもしれません」
――そういった境地に至ったのは、キャリアを積んできたからでしょうか? 若い頃は「自分を出したい」という気持ちもあったではないでしょうか?
「年齢によっても違いましたが、ずっとそのこととはせめぎ合ってきた感覚です。自意識を持って演じないと演じられないけれど、僕の場合は、自意識が邪魔することがもたくさんありましたる。また俳優は、ある意味自分を出したいと思っていなければ務まらない局面もあります。そうしたの矛盾と向き合いながら、意識を持ちつつそれを超えていくことを目指してきました。最初から無意識で演じることは無理ですし、フィクションの世界を完全にノンフィクションにすることもできない。でも、その境界を超えていったり、境界を作らないようにしていくことを理想としてきたと思います」
――「境界を越えていく姿勢」は、俳優業だけでなく、働き方にも表れている気がします。独立されてからはご自身でマネジメント業務もされているそうですが、実際にやられてみていかがですか?
「独立して1年半ほどになりますが、だいぶ慣れてきたかなと思っています。今も関わる方々にたくさん助けてもらいながらですが。決してうまくできているとは思えませんが、その煩わしさを一度全て引き受けると決めたんです。そのために独立という選択をしました。これまでと違う大きな責任と引き換えに、大きな自由を得た気がしています。それは俳優としてだけでなく、一人の人間として自分に必要なものだったなと感じています」

――独立したことによって新しい出会いや仕事の幅に変化はありましたか?
「多々あります。一番は『人』でした。共同作業での物作りは本来、人と人とのコミュニケーションから生まれるものです。今こうして対話から、言葉や空気や心が生まれているように。あらゆることが本来はそうあるべきで、そうすれば現代にある様々な問題は改善され、より親密な、心を感じるものになるはずなのに、あらゆるものをシステム化しすぎてしまっています。映画やドラマ作りにしても、手間や面倒や責任はかかっても、一つ一つ向き合い話し合い、自分の言葉で伝え、誰かとの間に何かを生み出していく。そのことで作品に還元できることが少しずつ増えてきたように思います。これまでもやってきたつもりでしたが、何かに守られていたり、誰かを介することで失っていたことがあると身に染みて感じました。煩わしさの中にがとても重要なものがあったことを身をもって感じることができました」
――俳優としても、個人としても、良い選択だったということですね。
「はい、本当に良かったと感じています」
――ここまでたくさんの興味深いお話を伺って、作品への期待もますます高まりました。最後に、新シリーズを楽しみにしている視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。
「この度新たな3作品が出来上がりました。これまで応援してくださった方々には、第4弾をぜひ楽しんでいただきたいですし、これまで見たことなかった方にも、30分の短編集なのでどこからでも入れますので、ぜひ楽しんでいただけたらと思います」

【番組情報】
特集ドラマ「シリーズ横溝正史短編集Ⅳ~金田一耕助 悔やむ~」
NHK BS
4月24日「悪魔の降誕祭」より放送スタート
隔週木曜 午後8:30~8:59
【プレゼント】

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【締め切り】2025年5月22日(水)正午
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取材・文/斉藤和美 撮影/TVガイドWeb編集部
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