「べらぼう」“白眉毛”こと松平武元を演じた石坂浩二が眉毛の秘話を明かす!!2025/04/13

現在、NHK総合ほかにて放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
本日放送された第15回では、蔦重(横浜)は吉原で独立して、自分の店『耕書堂』を構えた。一方、徳川家治(眞島秀和)の嫡男・家基(奥智哉)が、鷹(たか)狩りの最中に突然倒れてしまう。松平武元(石坂浩二)と田沼意次(渡辺謙)は共に家基が亡くなった経緯を調べ始めた矢先、武元も亡くなってしまう。
今回は、“白眉毛”こと松平武元を演じた石坂さんにインタビュー。大河ドラマ出演への思いや、白眉毛の裏話を聞いた。
――オファーを受けた時の率直なお気持ちを教えてください。
「『べらぼう』は、大河ドラマとして初めて描く時代なので、面白そうだなと思っていたら、僕は幕府の方でちょっとがっかりしました(笑)。絵を描くのが得意なので、絵師の役が来るかなと期待していたので。松平武元と、聞いた時は誰だか分かりませんでしたが、いろいろな話を聞いたり、本を読んだりして分かったのは、3代の将軍に仕えた人物で、西の丸と呼ばれる次のお世継ぎになる人に仕える老中だということ。徳川の長く続いてきた保守的な政策で町民たちの力が強くなってきた時代の中でも、彼は“保守”の親分だったのかなと」
――“保守の親分”ですか…。
「彼はお世継ぎや代々のことをかなり真剣に考えていた人だと思うんです。家基の成長には涙を流さんばかり喜んだし、死んだ時はかなりのショックを受けたでしょう。そして、家基が死んだ時に、自分も巻き込まれて抹消されるかもしれないと感じたと思います。私の解釈では、武元は毒を盛られて死んだのだと思いますが、殺されたという自覚があったと思います」

――14年ぶりの大河ドラマの撮影ということで、変わったと感じたところはありますか?
「大河は白黒の時から出演しているので、だいぶ変わりましたよね。昔のVTR編集は、テープの色が変わっている(シーンが変わっている)ところに合わせてカミソリで切るんです。で、それに合わせて、音声を斜めに切って。私も見せてもらってまねをしたことがありますが、それが編集の腕だったんです。今は、パソコンで簡単につながるように変わって。逆に言うと、ワンカットずつ撮るので、それはそれで大変ですが。照明も、最初の日本製のカラーカメラは、緑色に映ってしまうので、黄色味のない明かりを当てたりと照明さんも大変そうでしたし、照明が当たると煮えくり返りそうなぐらい熱かったのですが今はLEDですからね。今は、現場と映像で大きな差がないなと感じました」
――武元と言えば、眉毛が非常に特徴的ですが、あの眉毛が出来上がった経緯を教えてください。
「森下佳子さんの台本に『あの白眉毛が…』と陰で言われているシーンがあったので、そう言われるぐらいのものをつけないといけないなと。チーフ演出の大原拓さんが、『大胆にやった方がいいです!』と言うので、かつら屋さんにお願いをして作っていただいて。でも、実際に着けてみたら、眉毛が邪魔で前が見えないんです。少しずつ切って、左右差もつけたりして、あの形が完成しました。左を向く芝居の時には左側がさえぎられて見えていなかったので、すごく不安でしたよ。でも、眉毛を記念に持って帰ろうかと思ったぐらい気に入っています」
――実際の映像に映ったご自身の姿を見て、どう感じましたか?
「ちょっと大げさなんじゃないかと、反省しましたが、周りの反応がいいのでまあいいか…と。徳川家に3代にわたって仕えた、“こてこての徳川”というのを表現したかったんです。“徳川家康が作った方程式が正しい”、それを継承していくのが自分の仕事だと考えていたと思うんです。貨幣本位の経済を提案する新鋭の意次と相対する役ということで、今風にジェスチャーをしない、あまり動かないことを意識して、古い人物に見えるように芝居していました」
――眉毛に関して、印象に残っているシーンはありますか?
「第6回で意次と対峙(たいじ)するシーンで『1本取られた!』というセリフとかけて、それまで全然触らなかった眉毛の中からピッと1本抜いたんですよ。現場で面白いと言われたのに放送ではアップはカットされていて、眉毛を1本損しました(笑)」

――意次演じる渡辺さんと久しぶりに共演されることを楽しみにしていらっしゃったそうですが、いかがでしたか?
「謙さんは、声の使い方が微妙に変化してお上手なんです。『坂の上の雲』(2009年/NHK)のナレーションを聞くと分かると思うのですが、後ろに優しさがにじみ出ているような声なんですよ。それをうまくコントロールして“悪く”表現しているのが面白くてずっと聞いていました」
――謙さんと撮影の合間にはどんな話をしていたのですか?
「ほとんど阪神タイガースの話しかしていません(笑)。謙さんは熱心な阪神ファンで。昨年は、甲子園球場100年記念のイベントで司会をしていたのを見て驚きました。私もすごく阪神のファンで。別当薫選手が慶應義塾大学の先輩なのですが、学徒出陣から生還されて野球をやっていて、格好いいなと思ってみているうちにはまって、それからずっと阪神を応援しているんです」

――石坂さんにとって、大河ドラマはどういう存在ですか?
「菊田一夫先生と舞台をやっていた時に、帝国劇場の楽屋にNHKの方がいらして大河ドラマの話をいただいて。それを、菊田先生に言ったら、『大河ドラマは大変なんだよ。1年もやれるかね?』と散々おどされて…。本当に大変だったので、“大変なもの”だという感覚はあります。でも、長い年月を演じるので、『そういう芝居は年を取った時に取っておいた方がいい』、『目線の高さが少しずつ変わった方がいい』など、いろいろなことを教わりました。長い期間大河の現場で過ごすので、留学したみたいな気持ちになりますね」
――大河ドラマでは3度も主演を務められた石坂さんですが、今後演じてみたい役はありますか?
「やっぱり歴史上の人物ですね。NHK総合のバラエティー『歴史探偵』をはじめ、いろいろなところで歴史上の人物の見直しが起こっていて。歴史では、前に栄えた人のことを、後の人が『本当は悪い人だった』と書くに決まっているんです。前の人を褒める人はあまりないんです。今回は、謎に包まれていて、今まであまり取り上げられてこなかった武元を演じられたことがうれしかったですし、やりがいを感じました。今後も、まだあまり描かれていない人にスポットをあてるような役を演じたいです」

――ありがとうございました。
【プロフィール】
石坂浩二(いしざか こうじ)
1941年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学在学中にドラマ「七人の刑事」(TBS系/64年)でデビュー、劇団四季に入団。市川崑監督の映画「犬神家の一族」(64年〜)では金田一耕助役を務め話題となる。NHKの大河ドラマでは、「天と地と」(1969年)「元禄太平記」(75年)「草燃える」(79年)で主演を務めた。作家や司会者としても多方面で活躍。
【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
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