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土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」2025/03/01

土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」

 3月1日・8日に、NHK総合にて前後編で放送される土曜ドラマ「水平線のうた」。本作は、岸善幸監督が宮城県石巻市と女川町を舞台に、“音楽を通していとしい人の思いをつなごうとする”主人公たちの姿を描くヒューマンドラマだ。

 前編では、妻の早苗(松下奈緒)と娘を東日本大震災で亡くしたタクシー運転手の大林賢次(阿部寛)が、ある夜、タクシーに乗せた女子高生・りら(白鳥玉季)が生前妻と娘が歌っていた懐かしい曲をハミングしていることに驚く。そして、りらに連れられて向かった大船渡で曲に隠されていたメッセージを知った賢次は、早苗の恩師・菊池先生(加藤登紀子)やかつての音楽仲間を尋ね、この曲を再び復活させようと…。

 今回は、そんな本作でチェロを弾いている青年・及川皇を演じた中川翼さんにインタビュー。チェロの練習や、宮城県での撮影エピソードについて聞いた。

――まず、ドラマの話をいただいた時の感想を教えてください。

「2022年公開の映画『耳をすませば』で天沢聖司(松坂桃李)の中学生時代を演じた時にチェロに触れていたので、『またチェロと再会できる!』という喜びがありました。そして、どこまで弾くことができるのか自分自身に期待して、ワクワクしていました。それと同時に、今回は王子と呼ばれる役だったので、キラキラした感じが出せるのかという不安は少しありました(笑)」

土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」

――台本を読んだ時はどう感じましたか?

「11年の震災当時は僕が5歳の時で。自分の中では過去が薄くなってしまっていると感じる瞬間があり、あらためて向き合っていかないといけないなと思いました」

――東日本大震災の記憶はありますか。

「当時は神奈川県に住んでいたので、そこまで大きな地震ではなかったんです。漠然とですが、部屋の中のコップなどが床に散らばって、外に逃げた記憶があります」

――今回の宮城県での撮影のエピソードも教えてください

「撮影も宿泊先もずっと石巻市で、同時期にドラマ『モンスター』(フジテレビ系=関西テレビ制作/24年)にも出させていただいたので、東京と石巻を行ったり来たりしていました。時間はあまりなかったのですが、撮影が休みの日には、仙台へ観光に行くなど息抜きもできました」

土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」

――石巻に行ってみて、どんな印象を受けましたか。

「駅の周辺に滞在していたのですが、震災から時間がたっているのもあって町が奇麗だと感じました。あと、東京と比べて、明かりが消えるのが早いので、実家にいるような安心感があって、過ごしやすかったです」

――震災の爪跡を感じる瞬間はありましたか?

「海沿いを車で移動していた時に、津波の被害を受けた小学校を見ました。そして、お墓が全部海の方向を向いて建てられていて…。言葉で聞くよりも、実際に震災の痕跡を見ると震災に対する受け止め方が変わって、心がぎゅっとなりました」

――今回、音楽大学に通っている及川を演じる上で、どれぐらいチェロを練習されたのでしょうか。

「約2カ月です。最初の1カ月半は弓の動かし方や指を押さえる場所などの基礎を練習して、残りの2週間で、今回のメインの楽曲である『水平線のうた』と、一人で海の方を見ながら弾いていた『コル・ニドライ』の練習をしました」

――基礎から丁寧に練習されたんですね。そして、今回は手元の映像もすべて中川さんが演奏されているんですよね?

「(映画『耳をすませば』で演奏した)4年前は音を出さずに演じたのですが、今回は音だけプロの方に大学生っぽく演奏してもらったのを使用して、映像では僕が弾いています。実際に音を出すとなると、弦を押さえる時の強さも意識しないといけないので、指にタコができたりして大変でした。でも、練習開始を音楽大学の先生に見ていただいた時に、座り方やチェロの抱え方はほとんど指摘されることなくできました!」

――体が覚えていたんですね!

「そうですね。あと、移動も大変でした。監督から『チェロと友達になって』と言われていたので、普段からチェロを背負って移動していたのですが、頭1個分くらい上にも高さがあって、普段よりも上も意識しないといけなくて。大切なものなので、扱い方に非常に神経を使いました」

土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」

――見た目の役作りについてもお話聞かせてください。髪を明るくしたのは、「モンスター」で演じた城野尊の役作りもあったのでしょうか?

「同時期にお話をいただいていたんです。その時に、及川は東京の音楽大学に通っていて東京に住んでいる年月が長いので、都会に染まっている感じが出るといいよねと。そしたら、たまたま『モンスター』の城野も明るい髪がいいよねという話になって…偶然なんです」

――王子様のようで本当にお似合いでした。ご自身ではどう思っていましたか?

「自分でも似合うなと思いましたし、気持ちが明るくなりました。周りからも『似合っている』と言ってもらうことが多かったです。でも、手入れが大変でした。及川を演じる時はヘアアイロンを通してもらってサラサラの銀髪だったのですが、家では癖でモジャモジャで…。ケアは大変だったのですが、その大変さを超えるくらい、気持ちの作り方の面では変化がありました」

――及川は、髪色は明るいですがイップスを抱えている青年ですよね。

「その表現は本当に難しくて。実際にイップスになってしまったら、人前で弾くのも怖いだろうし、それ以上の言葉にできない恐怖に包まれるんだろうなって。チェロを弾くことだけでなく、人前でしゃべることも怖くなって、日常生活でも暗くなってしまったり、心を閉ざし気味になってしまったりするのかなと考えながら演じていました」

――主演の阿部さんとはどんな話をされましたか?

「初めてお会いした時が『モンスター』の第1話放送直前で。阿部さんが日曜劇場『DCU』(TBS系/22年)で、(『モンスター』主演の)趣里さんと共演されていたので『趣里さんによろしく』という会話をしました。その後、阿部さんが放送を見てくださったようで、次の現場では『グレーな部分が描かれているのが新鮮だったね』と感想をいただいて…。趣里さんにも『阿部さんと会ってきました』と伝えることができて、阿部さんとは初めてお会いしたはずなのにどこかでつながっていたような気がしました。人とのつながりを感じることができてすごくうれしかったです」

土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」

――最後に、後編の見どころを教えてください。

「及川も悩みを抱えている人間だということが、見てくださっている方に伝わっていたらうれしいです。及川も含めてみんなが最後に向けてどう変わっていくのか。“人の変化”に注目してほしいです」

――ありがとうございました。

【プロフィール】
中川翼(なかがわ つばさ)
2005年12月6日生まれ。神奈川県出身。主な出演作は映画「僕だけがいない街」(16年)、「耳をすませば」(22年)、「スパイスより愛を込めて。」(23年)など。近年では、ドラマ「お迎え渋谷くん」「モンスター」(いずれもフジテレビ系=関西テレビ制作/24年)などに出演。

土曜ドラマ「水平線のうた」チェロの王子を演じる中川翼「人の変化に注目してほしい」

【番組情報】
土曜ドラマ「水平線のうた」
後編 3月8日
NHK総合 午後10:00~10:50
NHK BSプレミアム4K 午前9:25~10:15
※放送後1週間、NHKプラスで視聴可能(前編も配信あり)
【出演】
阿部寛 白鳥玉季 中川翼 キタキマユ 山中崇
宇野祥平 松岡依都美 山本浩司 菅原大吉 前原滉/
松下奈緒 加藤登紀子ほか

取材・文/Kizuka



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