生田斗真演じる殺し屋が豪快に復讐に身を投じる「Demon City 鬼ゴロシ」【映画レビュー】2025/02/27
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河部真道氏のバイオレンスコミックを原作に、幸せな家庭生活を壊された男の壮絶な復讐(ふくしゅう)劇が展開するNetflix映画「Demon City 鬼ゴロシ」。本作の配信開始(2月27日)を前に、都内・Netflixオフィスで最速マスコミ試写が行われた。
「Demon City 鬼ゴロシ」の舞台は、鬼の伝説が伝わる地方都市の新条市。殺し屋の坂田周平(生田斗真)は新条市を拠点に、裏社会の案件を粛々(しゅくしゅく)とこなしていた。そんな坂田には愛する妻と幼い娘がおり、真っ当な人生を望む彼は稼業から足を洗うことを決意。しかし、最後の依頼を完遂した日の晩、坂田一家は般若の面をつけた男とその手下たちに襲われる。妻と娘を失い、自身も深い傷を負った坂田は、体を動かすことも言葉を発することもできない身に。それから12年。回復の兆しを見せ始めた坂田が、殺し屋の本能を再び覚醒させる。
殺し屋だった坂田の仕事ぶりが映し出される冒頭から、劇中にはバイオレンスの香りが充満。ターゲットを着実に仕留めていく坂田の日常が、血みどろの映像の中でテンポよく示されていく。映画「脳男」(2013年)や「土竜の唄」シリーズ(14・16・21年)、ドラマ「ウロボロス〜この愛こそ、正義。」(TBS系)や「警部補ダイマジン」(テレビ朝日系)など、これまでの作品でもアクションスキルの高さを見せてきた生田だけに、プロの殺し屋らしいファイトシーンは迫力たっぷりだ。
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だが、それらは文字通り序盤に過ぎず、坂田の死闘はこの後から熾烈(しれつ)を極めていく。謎の男たちに襲われ、愛する者との幸せな生活を一瞬で粉々に打ち砕かれたばかりか、事件の犯人にも仕立て上げられてしまった坂田は人生のどん底に。それどころか、意識すらおぼつかない状態にある。さすがに再起不能かと思われるところだが、それでは復讐劇が始まらない。初長編映画「メランコリック」(19年)で高い評価を受けた田中征爾氏が監督と脚本を手掛け、坂田の復活と復讐の始まりを独特のタッチで描写。凄惨(せいさん)なストーリーの端々からちょっとずつもれるユーモアがこの作品の持ち味でもあるようで、「そんなバカな」とツッコみたくなるファンタジーが復讐を望む坂田の真摯(しんし)な思いと程よくミックスしていく。
約2時間でノンストップのストーリーが繰り広げられる中、やはり最大の見どころは坂田の豪快な復讐っぷりだろう。気迫を最大の武器に戦う坂田のバトルはまさに「考えるな。感じろ」の世界で、激しい銃撃戦からマサカリを使っての接近ファイトまで、自身のレーダーで敵と見なした者を次々と排除していく殺戮(さつりく)マシンのようでもある。それでいて決して強すぎず、むしろハラハラさせられるのが坂田という人。少し前は身動きすらできなかったのだから当然といえば当然だが、攻撃をよけきれないことも多々あるし、ダメージをしっかりと受けて体から血が盛大に噴き出たりもする。一連のアクションを演出したのは、Netflix映画「シティーハンター」(24年)のアクション監督・谷本峰氏。「今際の国のアリス」(Netflix)の下村勇二氏もアクションコンサルタントとして携わっている。
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また、そんな坂田と対峙(たいじ)していく“敵”の顔触れも気になるところだろう。劇中には、都市開発に尽力しているかに見えて、実は裏社会とつながりを持つ市長・春原龍(尾上松也)をはじめ、うさん臭い面々が次々と登場。ベテラン刑事でありながら不審な動きを見せる新条警察署捜査一課課長の篠塚孝太郎(高嶋政伸)、新条市を牛耳る犯罪組織のメンバーにして、坂田に思いもよらない衝撃をもたらすことになるセキュリティー会社の社長・伏勘太(東出昌大)なども、狂気的な顔を見せながら坂田に刃を向けてくる。そもそも、この舞台となる地方都市・新条市自体が非常にクレージーで、「こんな街は嫌だ」と誰もが思うはず。市長は強引な都市計画を派手に進め、薬物ビジネスから人身売買までありとあらゆる犯罪が横行。通りの治安も悪く、鬼の伝説が不穏な空気を加速させる。
とはいえ、バイオレンスづくしの作品世界の中にも人間の心は存在しており、復讐心に突き動かされて不可能を可能にする坂田の戦いは非常にエモーショナルでもある。最初から最後まで言葉をほぼ発することなく、夜の病院で、怪しげな工場で、敵のアジトで次から次へと敵の命を奪っていく姿はサバイバルアクション映画の主人公として申し分ないが、やがて物語は愛する妻子を奪われた男の絶望に寄り添うものに。実は12年前の襲撃を生き延び、敵の手に落ちていた愛娘・りょう(當真あみ)の存在が復讐劇をツイストさせていく。全てを失ったはずの父は、一度は手離した娘を取り戻すことができるのか。幼い日に悲劇を経験した娘の目に、復讐の鬼として現れた父の姿はどう映るのか。父と娘の物語と化した復讐劇の果てに待ち受けるものを、ぜひ目撃してほしい。
文/渡邉ひかる
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