「べらぼう」演出・深川貴志が見た“蔦重”横浜流星は「ほれるほどストイック」2025/02/15 14:00
![「べらぼう」演出・深川貴志が見た“蔦重”横浜流星は「ほれるほどストイック」](https://www.tvguide.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/02/nhk_drama_50215_01_01.jpg)
現在放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。今作は、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた蔦屋重三郎の波瀾(はらん)万丈の生涯を描く、笑いと涙と謎に満ちた痛快エンターテインメントドラマだ。横浜流星が演じる“蔦重”こと蔦屋重三郎は、幼くして両親と生き別れ、吉原の引手茶屋(遊郭の案内所のようなところ)の養子となる。吉原の、人のつながりの中で育った蔦重は、とある思いから書籍の編集・出版業を始め、後に“江戸の出版王”へと成り上がっていく。
先週放送の第6回では、蔦重が鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)お抱えの改(あらため)に。吉原細見だけでなく挿絵入りの青本を作ろうとアイデアを考え、ネタ集めに奔走する。そんな中、須原屋(里見浩太朗)から節用集の偽板が出回っていると聞いた蔦重の中に、ある疑念が生じ…。
今回は、第4・6・7回と、タイトルバックの演出を担当している深川貴志ディレクターにインタビュー。演出の核としていることや横浜さんの魅力、タイトルバックの制作についても聞いた。
――今作は大河ドラマで初めて江戸中期を描くそうですが、江戸はどんな時代だと考えていますか?
「町の人たちが生き生きとしているのが、戦国時代や幕末との大きな差だと感じています。ただ、その裏側では、武士たちの給料が上がらないという問題があって。今の世の中と通じるような部分もあるんです。テレビもYouTubeもパソコンも何もない時代に、本や絵を楽しみにしていた町民たちのワクワクをドラマでどう表現するかが課題でもあります」
――演出は複数の方が担当されていますが、皆さんの中の共通認識はありますか?
「主人公はスーパーマンじゃないということです。何でも解決できる特殊能力がある人ではなく、本当に何も持っていない普通の人。そして、蔦重は吉原の暗い、苦しい部分を背負って、『吉原を良くしたい』という思いを根底に持って動いているということです」
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――今作では、吉原の光だけでなく、闇も描いていますよね。
「何事にも二面性があって、闇の部分を描かないと光も見えないでしょうし、逆もまたそうだと思います。闇の部分をきちんと表現することで、光も伝えることができると思います」
――蔦重のキャラクターは、どう考えていますか?
「蔦重は、これまでの大河の主人公の中で一番いろんな人に会っていると思うんです。吉原だけでも1万人ぐらいの人が暮らしているし、平賀源内(安田顕)など市中の人にも会う。今回は、ひょんなことから田沼意次(渡辺謙)とも会うし、ものすごい人数と会っているんです。横浜さんとも話しましたが、これだけの人と会ってやっていけるバイタリティーはすごいですよね。周りのみんなが期待したくなるようなエネルギッシュさ、どんどん自分から仕掛けていく力があるんでしょうね」
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――第6回(2月9日放送)からは、蔦重と長谷川平蔵宣以(中村隼人)の関係性が変わってきています。
「平蔵は別に、蔦重を元気づけようと考えてはいないと思うんです。平蔵として自分の正義で接しているだけで。でも、そんな平蔵から蔦重がエネルギーをもらう描写が6・7回で登場します。未来の関係は分からないですが、今の2人は武士、町民というものを取っ払った対等な関係に見えますよね」
――現場でも横浜さんと中村さんは仲が良いんですよね。
「元々すごく仲が良く、僕が入る前にいっぱい話し合っていて、6回の最後のシーンも最初のリハーサルからいい空気感だったんです。一方で僕の中では、平蔵が真面目な好青年になり過ぎているんじゃないか、平蔵が蔦重を愛し過ぎているんじゃないかと感じて、話し合って少し引いてもらったのを覚えています。中村さんは本当に瞬発力が良くて、いろいろと試してくださるんです。そこに横浜さんが『今のはこういう印象を受けるよ』と応えて、現場で演技をどんどん高め合っていました」
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――改めて、主演を務める横浜さんの魅力を教えてください。
「ほれそうなぐらい取り組み方がストイックです。台本作りには参加していないはずなのに、一緒に作っていたような感覚になるくらい台本を読み込んで背景なども深く考えていて。芝居では、考え過ぎると良くないこともあるのですが、考え過ぎても表現できるのがすごいなと思いますね。すごく考えてきてくれるので、こちらも恥ずかしい仕事はできないと背筋が伸びる思いがします。台本に書かれている細かい行動の背景まで自分の中に落とし込んでお芝居されるので、僕が勉強不足だと一瞬で見抜かれてしまいそうで。毎回本当に勝負している感じがします。あと、横浜さんの“気持ちが伝わってくるような声”が好きで、声にもいつも感動しています」
――横浜さんの方から芝居に対していろいろ提案されることも多いのですか?
「アイデアや自分のやってみたいこと、表現したいことを伝えてくれることはすごく多いですね。平蔵と初めて会った時の見得(え)もアドリブで。ああいうのも含めて仕掛けてくるので、横浜さんが最初に演技する瞬間が楽しみなんです」
――深川さんは、ご自身が演出された第4回の反響はご覧になりましたか?
「今はSNSで感想を直接聞けるのがうれしいです。思ったことをそのまま書いてくださるので、面白くないという感想もありがたいです。僕らは吉原のことをすごく真剣に考えていますが、皆さんも同じように真剣に考えてくださってるんだなと感じます。あと、物語の細かいところまで見てくださる方もいて。例えば、『雛形若菜』は現存しているものは色があせてしまっているので、専門家の監修で美術チームが復元しているんです。そしたら、放送を見て『雛形若菜はこんなに鮮やかだったんだ!』と気付いてくださる方がいらっしゃったり。どこを見ても面白いと言われるものを目指してやるぞと決意しました」
――第4回と言えば、礒田湖龍斎役の鉄拳さんのご出演が話題になっていましたよね! 鉄拳さんとのエピソードがあれば教えてください。
「鉄拳さんはすごく絵の練習をしてくださっていて。本当はもっと描いてもらっているんですけど、泣く泣くカットしている部分もあって謝りたい気持ちもあり…。絵の中の人物に目を入れる作業はとても難しいので、手元はプロに頼むのが普通です。そんな中、鉄拳さんは目も描いてくださっていて。絵をなりわいとしている方で、たくさんの練習を重ねてきたからできたことだと思います。演技も味わいがあるので、またたくさん出てほしいです」
――田安賢丸を演じる寺田心さんとは、大河ドラマ「おんな城主 直虎」(2017年)や、連続テレビ小説「らんまん」(23年)でもご一緒されていると思いますが、成長をご覧になっていかがでしたか?
「『直虎』の頃は肩に乗せたりもしていたんですけど、覚えてないそうです(笑)。体の成長はもちろん感じますし、当時のお芝居はかわいらしかったのが、こんなにも繊細さを表現する俳優さんになったんだなと。ドンと構える木の幹ではなく、風でしなってしまう枝のような若い賢丸を、すごく上手に演じてくれています。賢丸はやっぱり田沼のことが憎いんでしょう。兄が亡くなり心細い中でも立ち向かう葛藤が、芝居の中にしっかり見えてくるなと思って。繊細さを表現できる貴重な俳優さんです」
――深川さんはタイトルバックもご担当されたということで、そのエピソードも教えてください。
「タイトルバックの制作はいろいろな流れがあるのですが、今回は、僕がプロデューサーを『カムカムエヴリバディ』(21年)の時と同じ増田悠希さんに決めて。というのも、蔦重は江戸時代の名プロデューサーなので、『べらぼう』らしくプロデューサーにクリエーターを決めてもらう流れをやってみたいと思いました」
![「べらぼう」演出・深川貴志が見た“蔦重”横浜流星は「ほれるほどストイック」](https://www.tvguide.or.jp/wp/wp-content/uploads/2025/02/nhk_drama_250215_01_05.jpg)
――増田さんとはどんなお話をされたのでしょうか?
「ドラマで見る江戸はすごく遠く感じますが、今でも東京・神田に行くと(江戸時代に作られた)青本を読むことができて。江戸を近く感じられてドキドキするんです。江戸時代が今と地続きであるということをタイトルバックでも感じてもらいたいと思って、コラージュという手法に決まりました。その後、増田さんがクリエーターにTAKCOMさんを提案してくれ、そこからは増田さんとTAKCOMさんが作ってくださいました。めちゃくちゃ取材や勉強をして作っていただいたので、絵を楽しみに生きていた江戸時代の人たちにも見てもらいたいですね」
――ジョン・グラムさんの音楽と合わせる作業は大変でしたか?
「増田さんと構想を練っている段階でデモを頂いたのですが、想像よりも前向きで、突き進んでいくような曲でした。大きな天井や、暗い部分はなく、真っすぐ高みに向かって突き進む主人公のような印象を受けました。映像には、寛政の改革のようなイメージの暗いシーンもありますが、ジョンさんの曲によって弾圧を乗り越えていくように見えます。増田さん、TAKCOMさん、ジョンさんのお力で良いタイトルバック映像ができました」
――ありがとうございました。
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【番組情報】
大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」
NHK総合
日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BSプレミアム4K
日曜 午後0:15~1:00ほか
NHK BS・NHK BSプレミアム4K
日曜 午後6:00~6:45
取材・文/Kizuka(NHK担当)
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