「地獄の果てまで連れていく」脚本・ナウォンが明かす、韓国と日本ドラマの違いとこだわり2025/01/13 11:45
TBS系では、1月14日からドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」(火曜午後11:56 ※一部地域を除く)がスタート。家族を殺した女に復讐(ふくしゅう)するため、整形して近づく主人公・橘紗智子を佐々木希が、主人公の敵でかれんなモンスター女・花井麗奈を渋谷凪咲が演じる。描かれるのは、自らを破滅に追い込んだ張本人に復讐を誓う命懸けのドラマ。ホラーを超えた女性2人の、愛憎渦巻くスリリングな復讐劇が展開される。
そんな今作で脚本を手がけるのは、異なる文化で脚本を学び、それぞれのドラマ制作現場を経験してきたナウォンさん。韓国と日本のドラマ制作の違い、彼女がオリジナル脚本で描きたかった“人間賛歌”とは何か詳しく聞いた。
その方(俳優)に合う言葉を選び抜きたい
――まず最初に、今作の執筆プロセスを教えてください。
「プロデューサーの天宮沙恵子さんからいただいた企画書に『復讐劇』というテーマが記されており、それをもとに物語を組み立て始めました。最初は漠然としたアイデアだったものが、モンスターのような人物とその復讐者の対決へと具体化していき、天宮さんと相談しながら第1話と第2話の構想を固めました。そのあと、第3話以降の脚本は『自由に書いてください』と任され、プロデューサーの皆さんと練った全体プロットをベースに進めていきました」
――脚本の構成では、どのような工夫をされているのでしょうか。
「今作に限らず、キャラクターシートを作成しています。どの作品でも作る資料で、私は脚本を書く際に必ず作ります。キャラクターシートとは、『この人はこういう人物像』という情報を具体的に伝えるための資料です。たとえば主人公・紗智子の場合、好きな料理や子どもの頃の夢など、彼女の背景や性格を細かく設定していきます。あらためて考えてみると、私は人間が好きなんだと思います。登場人物の詳細を掘り下げながら、キャラクター設定を考えていくと『よっし、始まった』とドキドキするんです」
――実際に演じる俳優陣のイメージは、執筆に役立てられていますか?
「脚本を書き始めて中盤に差しかかった頃に、本作のキャストが決定しました。それからは、キャラクターイメージを役者さんに重ね合わせています。執筆する前に、その方の写真に話しかけてみたり、ですね(笑)。たとえば佐々木さんだったら、一番紗智子に近いと感じる写真を探すんです。あくまでも、私の感覚ですが…。その写真からインスピレーションを受けて『この人は紗智子として、どう話すだろう』と想像しながらセリフを考える。それぞれの特徴や声のトーン一つにも癖があって、動画も参考にしています。やはり、その方に合う言葉を選び抜きたいんです。演じることが難しくなるような話しにくい言葉やフレーズを避けて、キャラクターに合わせた脚本を書きたいし、そんなふうに脚本を作る工程はとても楽しいですね」
感情の揺らぎのラインを繊細に表現することを心がけました
――復讐劇は初めてとのことですが、苦労された点はありますか?
「復讐を計画する紗智子と、モンスターと化した麗奈。その2人の行動原理や感情のラインを描くことは、非常に難しい作業でした。単なる復讐劇としての見せ場を意識するだけでなく、それぞれの感情が劇中の事件に説得力を持ってリンクしていなければ、物語が成立しないと考えたからです。キャラクターの感情と事件の展開が矛盾しないよう、何度も調整を重ねました。『事件はこう発生して、こう展開させていきたい』と思っても、人間の感情をどうリンクさせるか、その点で苦労しました。プロデューサーや犯罪心理の監修者と議論を重ね、『このシーンではどうしたら効果的に人を傷つける描写が成立するか』を徹底的に検討しました。その過程で、自分でも膨大なリサーチを行い、現実の犯罪事例や心理研究からヒントを得て脚本に落とし込みました」
――行動原理や感情のラインには、どのような軸を持たれたのでしょうか?
「それぞれに軸がありますが、『この人にとって、何が一番大切なのか』を基準として考えていきました。紗智子は自分の大切なものを奪った麗奈への復讐が一番の目的。麗奈は、一見感情のないモンスターのように写りますが、彼女の中にも大切なものがあります。物語が進んでいくと、麗奈の内に秘めているものも少しづつ明らかになっていきます。それぞれの大切なものに対して、どのように行動するのか。その主軸を常に意識しました。連続ドラマとしても、第1話ではこういった感情が起こり、それが中盤ではどう展開して、さらに後半でどうなっていく…と、回を重ねることによる感情の揺らぎのラインを繊細に表現することを心がけました」
――凄惨(せいさん)な事件の創作は考えるだけで病んでしまいそうですが…
「感情の振れ幅を緻密に追いかける作業は、想像以上に困難でした。特に異常な心理や行動を持つキャラクターのリサーチでは、『こんな行動は現実にはありえない』と思うたびに、精神的な負担を感じることもありました。脚本を書く際、デスクトップに資料用のフォルダを作るのですが、今回は特に異様なフォルダ名が並びました。『殺し方1』『殺し方2』など、自分でも苦笑してしまうほどでした」
カッコいいセリフを書きたいという気持ちはない
――脚本執筆時に、大切にされていることはありますか?
「脚本を書くことは、人間を理解するための作業なのではないかと考えています。カッコいいセリフを書きたいとか、そういう気持ちはないんです。世の中には本当に多様な人がいますが、私は『この人はこういう人だ』と決めつけるのではなく、その奥深くにある本質を知りたいと思っています。上辺だけではなく、『もっと知りたい』と思って接すると、もしかしたら初めのイメージと違う人間的な一面に出会えるのかもしれないなと。私は人が好きなんです」
――韓国のご出身ですが、日本と韓国のドラマ制作において違いを感じることはありますか?
「韓国では、一度に複数の作品を同時進行することがほとんどありません。私がアシスタントを務めていた時期も、脚本家、監督、役者のすべてが一つの作品に専念するスタイルが基本でした。映画やドラマは、それぞれの現場に全力で集中するのが暗黙の了解とされているんです。韓国の同業の友人に『日本では同じタイミングで複数の作品に参加しているよ』と話すと、『どういうこと?』と驚かれることが多いですね」
――制作スタイルの違いは、クオリティーに影響がありますか?
「どちらにもメリット・デメリットはあると思います。個人的には、一つの作品に専念するのは、丁寧に脚本作りができる、達成感がすごいというメリットがありますが、制作期間中に人間関係や制作環境に疲れた時、逃げ場がないのはつらいかもしれない…と感じます。日本のように、ほかに関わっている作品があれば、気分を変えて仕事ができるメリットもあるのかもしれません。それはそれで作品ごとに執筆スタイルを切り替えないといけないので、結構大変なところもあります」
【プロフィール】
イ・ナウォン
1988年生まれ。韓国出身。父の留学で子供の頃、茨城県で5年間、アメリカ・ポートランドで2年間過ごす。韓国の中央大学演劇学科劇作専攻、韓国放送作家協会教育院を卒業。(脚本家のキム・ジウ氏さんに師事)その後、SBS連続ドラマ「お願い、キャプテン」(2012年)をはじめ、韓国でドラマの脚本アシスタントとして働く。16年、日本に留学。東京藝術大学大学院映像研究科脚本領域に入学し、脚本家の坂元裕二さんに師事。卒業後、日本を拠点に脚本を書いている。
【番組情報】
ドラマストリーム「地獄の果てまで連れていく」
TBS系
1月14日スタート
毎週火曜 午後11:56~深夜0:26(※一部地域を除く)
取材・文/N.E(TBS担当)
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