小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」一挙放送決定! 制作統括が語るリアルな描写の裏側2024/12/25
2024年9月よりNHK BSにて全10回で放送された連続ドラマ「団地のふたり」。幼なじみのノエチこと太田野枝(小泉今日子)と、なっちゃんこと桜井奈津子(小林聡美)は、離れていた時期はあるものの、生まれ育った“昭和な団地”で暮らしている。55歳独身の2人が織り成す日常は、幅広い年代の視聴者の共感を呼び、「ギャラクシー賞 2024年10月度月間賞」を受賞。「もう一度見たい」の声に押され、12月28~30日には一挙放送されることが決定した。
そこで、これまで「パパはニュースキャスター」(1987年/TBS系)や「パパとなっちゃん」(91年/TBS系)など、多くの名作ドラマを世に送り出してきた制作統括の八木康夫さんに、本作の企画意図、世間の反響に思うこと、制作エピソードなどを聞いた。
――「団地のふたり」は「ギャラクシー賞10月度月間賞」を受賞したことでも話題になりました。
「賞というものは、テーマ性が前面に出ていたり、現在話題になっている題材を用いた作品でないと頂けないという印象がありましたので、すごくうれしかったです。本作は普通の人々の日常を描くいわゆるホームドラマなので、賞には縁がないと思っていました」
――親の介護問題や老朽化した団地の取り壊し騒動など、社会問題が盛り込まれていた部分も共感を呼んだのだと思います。
「団地の歴史(第8回で放送)は最初から描こうと思っていたエピソードでした。意図してテーマ性を持たせたのはその回だけでしたね。台本作りの際、かなり綿密に団地の取材をしていたので、結果的に“社会の縮図”という見え方になったんだと思います。ご覧になった皆さんが物語から何かを受け取っていただいたのだとしたらとてもうれしいですね。とはいえ、本作はあくまでエンターテインメントとしてのホームドラマなので、テーマ性を持たせたとしても説教臭くならないようにはしました」
――小泉今日子さん、小林聡美さんを迎えてホームドラマを制作しようと思った経緯をお聞かせください。
「去年の春頃でしたが、書店で『団地のふたり』の原作を見つけたんです。“団地”というタイトルと装丁のかわいらしさにひかれて手に取ってパラパラと読んでみたら、小泉さんと小林さんの姿が自然に浮かんだんです。僕らは職業柄、どうしても純粋に物語を読めない部分があって(笑)。小泉さんとは『パパとなっちゃん』で、小林さんとも何本かご一緒させていただいている縁があるので、ご本人に原作をお送りしたところ、『企画書に自分の名前を(キャスト名として)入れていいですよ』というお返事をいただいて。それで、『こういうドラマを作りたい』とNHKさんに提案させてもらいました」
――華やかな存在感の小泉さんを、団地に住む“普通の50代女性”に据えるという発想が少し驚きでした。小泉さんの反応はいかがでしたか?
「最初、小泉さんには『八木さん、この役は無理です』と言われたんです。僕も、今でもアイドルの彼女にホームドラマでのリアルな役は難しいのかなと思って。でも、そういう意味合いではなくて、『私、再来年還暦の学年なので。50歳の役はできないですよ』という理由だったんです。原作のノエチとなっちゃんは50歳だったので、小泉さんは、『男の人には分からないだろうけど、女性の50と60は全然違うから演じきれない』と思われたそうです。でも、僕からすると、小泉さんも小林さんも50歳の設定で全然いけると思ったので…。折衷案でドラマの役柄は55歳という設定で落ち着きました。それにしても小泉さんは潔い方ですよ。女性の場合、どうしてもご自分の年齢を曖昧にしたくなりますが、彼女は自分自身を隠さないんです」
――お二人にノエチとなっちゃんを演じてもらってよかったと思った瞬間はありましたか?
「ご覧になった皆さんはアドリブが多いのではと感じるそうですが、実は、ほぼ台本通りなんです。それがアドリブに見えるのは、小泉さんと小林さんだからこそ醸し出す空気感があってこそなんだろうなと思います」
──日常のさりげないエピソードから親の介護問題、老朽化した団地の建て替え問題など、さまざまな出来事が描かれていますが、どのように組み立てられたのでしょうか。
「原作にあるエピソードは第1回と第7回のみで、ほかはオリジナルで描きました。先ほど、かなり綿密な取材をしたと言いましたが、まず、団地にはどんな方が住われているのだろうということを知りたかった。たとえば、今は世間的にはLGBTに対する理解が進んでいますが、民間のアパートやマンションでは入居がほぼ断られるという現実があるんです。でも、公営が多い団地にはそういった制約がありません。そういう事実に基づいて、ムロツヨシさん演じる森山というキャラクターが生まれています。ほかにも、取材に基づいてキャラクター造形をして人物配置をしました。その上でゲスト出演者を決めていました」
──ノエチたちが住む団地は、外観は実際の団地を使われたそうですが、それも取材の成果でしょうか。
「かなりいろいろな団地を廻ってロケ先を決めました。通常は美術さんがロケ先に装飾をするんですが、今回は、外観に関してはそのまま使わせていただいています。団地の外に植えてある花は、実際に住民の方が育てているものなんですよ。撮影のためにこちらで何かを足すことはしていないので、リアリティーがあったのだと思います」
──団地内の部屋のセットに関しては、小泉さんが「インテリアは八木さんがとてもこだわっていた」とおっしゃっていましたが、どのあたりにこだわりが?
「僕は、テレビドラマは美術さんの力に負うところがとても大きいと考えています。今回でいえば、部屋は団地サイズの実寸で作っています。通常は、撮りやすいように大きめに作ったりするんですが。衣装も同じです。通常、主役クラスには専属のスタイリストさんがついて、とてもすてきな衣装を選んでくれるんですが…『普通の生活で着る服じゃないな』と思ってしまうこともありますよね。今回はそうならないよう、誰でも購入できるような服を、古着のお店などを利用して集めていただきました。とはいえ、リアル過ぎると画のトーンが地味になってしまうので、由紀さおりさんが演じた佐久間絢子の衣装には少し派手な色味とデザインを取り入れています。衣装さんの遊びごころでちょっと若作りをしていただいて、無理のない形でバランスを取るようにしました」
──また、共感という部分では、毎回使われる楽曲のセレクトがノエチやなっちゃん世代にとってはドンズバだったかと思います。
「最終回の『二人紅白』以外は、脚本家の吉田紀子さんが曲を選んだ上で脚本を書いてくださいました。『二人紅白』は小泉さんと小林さんのセレクト。何曲か歌うので、歌いやすい曲を選んでくださいとお願いして、カンペがなくても歌えるなじみのある曲を選んでもらいました。お二人が歌っている姿を見て、カラオケなんかでよく歌ってる曲なんだろうなって思いました。普通、なかなか、アラジンの『完全無欠のロックンローラー』(1981年)を選ばないですよね(笑)。ちなみに、歌っている時の衣装や振り付けも小泉さんと小林さんが考えています」
──とても楽しそうに歌って踊っている姿が印象的でした。
「放送した尺は編集でまとめたもので、実は、撮影では1曲をフルで歌っているんです。歌い終わったお二人はバテバテでしたけど(笑)」
──フルサイズの歌唱もぜひ見てみたいです(笑)。また、なっちゃんが作る素朴でおいしそうな家庭料理も本作を見る楽しみの一つでした。
「豪華なメニューではなく、彼女たちの生活の中で出てくる料理がコンセプトでした。『かもめ食堂』(2006年)の料理も手がけたフードコーディネーターの飯島奈美さんに、ノエチとなっちゃんの経済状況や生活を踏まえて考えていただきました」
──いろいろな考察、要素があって「団地のふたり」の世界観が成り立っていることが分かりましたが、八木さんが特に印象深いと感じた場面やセリフはありますか。
「『大学を卒業してから55歳になるまで33年。平均寿命を迎えるまでにそれと同じ長さの時間がある』とノエチが言うんですね。これ、すごくいいセリフだと思うんです。50代後半になって人生の終わりが見えてきたと考えるのではなく、今までと同じ時間があると捉えることができるポジティブなセリフだなと感じました。そして、シリアスな話題が出てきても、見ていて暗くならないのは出演者の力がとても大きかった。小泉さん、小林さんはもちろん、ノエチの両親役の橋爪功さんや丘みつ子さん、由紀さおりさん、名取裕子さんらの演技は本当に素晴らしかったですね」
――続編の構想は……。
「一度出ていった住人たちが団地に帰ってくる最終回だったので、皆さん、続編があるのではないかと期待されているようですね。そういった声に応えるのも作り手の責任なのかなとは思いますが、今のところ予定はありません。実を言うと、今回のようなホームドラマは台本作りが大変なんですよ(笑)。第1回は、網戸の張り替えだけで1時間を持たせていますから。それはそれで楽しい作業ではありますが、脚本家のご苦労は計り知れません。吉田さんに『続編の要望がネットに出ていますね』と話したら、『あと10本ですか!』と絶句されました(笑)。ただ、昔は、テレビドラマといえばホームドラマがほとんどでしたから。そういった意味では、今の世の中にももっとホームドラマがあってもいいのかなとは考えています」
【番組情報】
プレミアムドラマ「団地のふたり」
NHK BS
12月28日 午前9:30~午後1:35 第1~5回
12月29日 午前9:30~午後11:57 第6~8回
12月30日 午前10:30~午後0:10 第9・10回
取材・文/TVガイドWeb編集部
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