「ブラック・ダヴ」ベン・ウィショー【今月のSPOTLIGHT】2024/12/21
魅力と役者力がさく裂するチャーミングなキャラクター
「007」シリーズのQ役などで、映画ファンにおなじみのベン・ウィショー。一方、「THE HOUR 裏切りのニュース」「ロンドン・スパイ」「英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件」などなど、面白いドラマには彼の存在あり、といったところで、ドラマ界でも着実に功績を残しているのがウィショーのすごいところだと言える。
そんな彼が出演する新ドラマ「ブラック・ダヴ」もやはり面白い。舞台はイギリスのロンドンで、主人公はキーラ・ナイトレイ演じるヘレン・ウェッブ。国防長官の賢妻であり、幼い子どもたちの優しい母であるヘレンは、実はプロのスパイだ。ヘレンが夫と出会ったのも任務なら、結婚したのも任務。誰もがうらやむ幸せな家庭生活を送る一方、彼女は自分が所属する諜報組織に国家機密を流し続けている。ところが、ヘレンの愛人が殺害されたことで、事態は思わぬ方向へ。ヘレンは旧知の殺し屋・サムと共に事態の真相を突き止めようとするのだが、このサムを演じるのがウィショーだ。
ヘレンがさりげなく不倫していたことからも分かるように、登場人物たちは秘密だらけの問題だらけ。そもそもスパイドラマなので当然と言えば当然だが、ヘレンのパートナーとして活躍するサムも殺し屋である以上、秘密や問題とは切っても切り離せない人生を送っている。“問題を抱えていて、ちょっと厄介だけどチャーミングなキャラクター”と言えば、ウィショーの最も得意とするところ。その点、サムもウィショーの魅力と役者力がさく裂する役であり、物語はヘレンを取り巻くミステリーを追う形で、殺し屋として生きてきた中で時には愛する人との別離も余儀なくされたサムの過去や現在の事情に目を向けていく。
とまあいろいろ大変そうなサムだが、一つ確かなのはヘレンとサムが仕事のパートナーとして最高なこと! お互いの事情を知っている上に息もぴったりのため、心の支えにし合っているのは間違いない。秘密の恋人を亡くしたばかりのヘレンと、愛する男性と離れざるを得なかった過去を持つサムはそれぞれの恋愛の痛みも共有していて、気の置けない友人同士のようでもあり…。そんな2人のユーモラスで、ちょっとシュールな会話に耳を傾けるのも「ブラック・ダヴ」の楽しみ方の一つだ。というより、このドラマが単なるスパイものと一線を画しているのは、ウィショーが魅力的に演じ上げたサムと、彼とヘレンの奇妙ですてきな友情あってこそ。2024年を締めくくる必見ドラマの登場と共に、“ベン・ウィショーのハマり役”がまた一つ増えたのではないかと思う。
【プロフィール】
ベン・ウィショー(Ben Whishaw)
1980年10月14日生まれ。イギリス出身。近年の映画出演作に「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」(2021年)、「ウーマン・トーキング 私たちの選択」(22年)など。18年、ドラマ「英国スキャンダル〜セックスと陰謀のソープ事件」でエミー賞助演男優賞を受賞。「FARGO/ファーゴ:カンザスシティ」(20年)、「産婦人科医アダムの赤裸々日記」(21年)などでも印象を放っている。
文/渡邉ひかる
キーワード
関連リンク
この記事をシェアする