「Mr.&Mrs.スミス」ドナルド・グローヴァー【今月のSPOTLIGHT】2024/11/22 12:00
マルチな才能を発揮するクリエーターが名作のドラマ版を手掛ける
2024年に配信された新ドラマの中でも、群を抜いて面白い作品といえば「Mr.&Mrs.スミス」。「Mr.&Mrs.スミス」なるタイトルを聞くとブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが共演した映画が思い浮かぶところだが、こちらはそのドラマ版。ただし、ざっくりした設定以外は別物で、作り手も出演者も異なっている。
そんなドラマ「Mr.&Mrs.スミス」の始まりは、ある男女が謎の組織にそれぞれ採用されるところから。男(ドナルド・グローヴァー)は海軍を除隊したばかりで、職に就けるなら多少の危険は構わない様子。一方、女(マヤ・アースキン)はもともとCIA志望で、諜報の世界に前向きな姿勢を見せている。面接を突破し、晴れて新米スパイとなった2人は夫婦として数々の任務をこなすことに。よくある氏名、ジョン&ジェーン・スミスを名乗り、一つ屋根の下で過ごすことになる。
ここで注目したいのはスミス夫妻の夫・ジョンを演じるグローヴァーなのだが、彼はクリエーターとして本作を立ち上げた人物だ。製作総指揮のほか、監督(シーズン最終話)、脚本も手掛け、シリーズの顔を担っている。そんな彼のクリエーター手腕は名作「アトランタ」でも発揮されていて、エミー賞などの各ドラマ賞を席巻。また、アーティストのチャイルディッシュ・ガンビーノとしても人気で、マルチな才人ぶりを各方面で見せつけている。
とはいえ、映画の「Mr.&Mrs.スミス」はブラッドとアンジェリーナが互いに輝きを放ち合っていた頃の1作。そのドラマ版となると、才人・グローヴァーにもなかなかハードルが高いのでは…と思わされたが、やってくれました。
まず、面白いのは作品の語り口。見ず知らずの他人同士だったジョンとジェーンが突然夫婦となり、危険な任務をこなす中で急速に互いを知っていく過程が思いの外、ロマンチックに、セクシーに、ユーモアとシニカルな味わいもたたえながら描かれていく。その様子はさながらマッチングアプリで出会った男女のようで(実際、謎の組織は2人の相性を考慮してコンビを組ませたらしい)、物語が進むにつれて夫婦げんかや浮気心の形で浮上してくる“カップルとしてのほころび”にもヒリヒリさせられっぱなし。そもそも、ちょっとどうかと思うキャラクターを魅力的に見せるのはグローヴァーの得意とするところで、決して完璧ではないジョンがいとおしく見えてくるし、ジェーンとの関係の行方にドキドキさせられる。ちなみに、アクションシーンもふんだんではないが、やる時はやる系できちんとカッコいい。
俳優としても売れっ子のグローヴァーだけに、ちょっと忙しそうなのが気になるところだが、ラストはシーズン2を予感させる展開。ジョンとジェーンの物語をもっともっと見たい!という人も多いはずだ。
【プロフィール】
ドナルド・グローヴァー(Donald Glover)
1983年9月25日生まれ。米・カリフォルニア州出身。「30 ROCK/サーティー・ロック」(2006〜13年)に脚本家として参加した後、「コミ・カレ!!」(09〜14年)のトロイ・バーンズ役で人気を獲得。映画出演作に「オデッセイ」(15年)、「ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー」(18年)など。声優として参加した「ライオン・キング:ムファサ」(24年)が12月20日に日本公開される。
文/渡邉ひかる
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